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「おのれ、美剣っ!!」
後藤が吼えた。
刀を構え、美剣と蜜柑に向かって突進する。
その両眼には激しい怒りの炎が燃えていた。
「ここで遭えたは僥倖!!」と後藤。
「七年前の恨み、この後藤主税が晴らしてくれる!!」
一方の美剣は空中より出現した大刀を左手で掴み、左腰で構えた。
猛烈な勢いで接近する後藤をにらみつける。
美剣の右手が、すさまじい速さで鞘から太刀を抜き放った。
「大剣豪斬りっ!!」
斬っ!!
激烈な剣撃は、鬼の形相の後藤の身体を横に両断した。
刀身より発生した衝撃波は後藤の後方の木々を斬り飛ばし、消えていく。
二つになった後藤の身体が地に落ちる。
久しぶりに見た祖父の斬撃に燐子は戦慄を覚えた。
「みっちゃん、やり過ぎじゃよ」
奇妙斎が呆れる。
「あれは!?」
後藤の死体を油断なく見つめていた陽炎が声を上げた。
一同が後藤を見る。
後藤の死体は、いつの間にか真っ黒な煙に包まれ見えなくなっていた。
黒煙が塊となって上昇する。
地面には古びた骸骨が現れた。
胴体部で両断されている。
一同が驚くうちに、黒煙は骨の上でぐるぐると渦巻いた。
その中心に、ぐにゃぐにゃと歪む人の顔。
後藤の顔だ。
「おのれ、おのれ!!」
黒煙の中の顔が、わめいた。
「またしても美剣に敗れるとは! 忌忌しい!!」
後藤の叫びは憎悪に満ち満ちている。
「許さんぞ!!」
未だ蜜柑と重なり合う半透明の美剣に向かって吼えた。
「これは」
奇妙斎が口を開く。
「魔物というやつではないか?」
蜜柑と春馬、陽炎と奇妙斎はかつて「鬼道信虎」という怪物と戦っている。
そのときの信虎の気配と全く同じではないが、何割かの類似が後藤から感じられた。
陽炎が懐から首飾りのような物を左手に取り出した。
信虎には効果があった魔祓いの道具である。
美剣に身体を両断されても死なないなら、通常の方法では殺せないということになる。
「口惜しいが柊姫様の元へと戻り、同胞と共に三度目の勝負を挑む!! そのときは必ずお前を倒す!!」
後藤が再び叫ぶ。
「もちろん、お前の一族も皆殺しにするから覚悟せよ!! 八神家の恨みを思い知らせてやる!!」
そう言った後藤の顔は黒煙ごと上昇し、あっという間に彼方へと飛び去った。
残された一同に静寂が訪れる。
「まったく」
奇妙斎が言った。
「何でこう、厄介事ばかり起こるのかのう?」
奏の手配してくれた馬に乗り、食事と最低限の休息以外は一日中、駆けに駆けた美剣隼人は魔剣鍛治の住む山の麓まで、やって来た。