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(紫雲?)
片ひざ立ちで刀を構え、後藤と新たに現れし六人の様子を窺っていた燐子が、その名に思い当たる。
(確かお祖父様と交流のあった方の中に、紫雲先生の名が)
祖父や父から紫雲の名を聞いた覚えはあったが、実物を見るのはこれが初めてである。
「では、奇妙斎先生」
美しい娘が言い直した。
そして、すっと前に歩を進める。
これには両脇の二人の侍と隣の少年が顔色を変え、老人に姫と呼ばれた娘を止めようとする素振りを見せた。
「蜜柑さん!!」と少年が娘の名を呼ぶ。
「春馬、ボクは大丈夫」
蜜柑が答えた。
護衛の侍二人を目配せで制し、奇妙斎の横に並ぶ。
春馬と呼ばれた少年は護衛たちとは違い、蜜柑に続いて前に出てきた。
春馬からは、どんなことがあろうとも蜜柑の側を離れない強い意思が感じられる。
「ここはボクに」と蜜柑。
「そうか」
奇妙斎の顔が、ぱっと明るくなる。
「では幽霊に任せるとするかな」
奇妙斎の言葉に蜜柑が頷く。
「陽炎」
蜜柑が忍びの女の名を呼んだ。
「はっ」
陽炎が後藤から眼は離さず返事した。
「ボクが相手します。皆、退がって」
陽炎が蜜柑の側まで退く。
蜜柑の意思表明に燐子は驚いた。
「相手をする」とは、どういう意味か?
後藤と戦うというのか?
まさか、と燐子は思う。
この突如、現れた美しい少女からは全く武芸の心得は感じられない。
まだ、女忍び陽炎か、老剣豪紫雲と思われる老人が戦いを買って出るなら話は分かる。
何故、蜜柑なのか?
意味が分からなかった。
蜜柑の身体に異変が現れた。
その双眸が光り輝き、蜜柑の頭上で白い煙が渦巻き始める。
「「あ!?」」
予期せぬ新手の出現に油断なく相手の動きを窺っていた後藤と、燐子が同時に驚きの声を上げる。
蜜柑の頭上の煙が、堂々たる体躯の老人の姿に変わっていくのに気づいたからだ。
しかも、その人物は後藤と燐子の両名が共に知る者であった。
「まさか!?」
後藤の驚愕を浮かべた顔が、怒りで紅潮していく。
「お祖父様!!」
燐子が叫ぶ。
そう、それはすでに死んだはずの「大剣豪」美剣の姿であった。
「そなたの名は?」
蜜柑が訊いた。
「ふ」
煙の「大剣豪」が口元を緩める。
「もう知っておろうが」と美剣。
蜜柑の口元も同じように笑った。
「では『大剣豪』美剣!!」
「おうとも!!」
「いざ!」
「いざ!」
「「魂繋ぎ!!」」
煙の美剣が半透明となって蜜柑と重なる。




