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美剣伝  作者: もんじろう
20/90

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 後藤の左腰の二本差しには当然、気づいているが、そんなことで臆する男たちではない。


 ましてや、相手は道場主の一人娘に迫ろうとしているのだ。


 いきなり狼藉(ろうぜき)でも働かれては、宗章に合わせる顔がない。


「待てい!!」


 門弟で一番年長の者が怒鳴った。


「燐子様に何用か!?」


 後藤が、ようやく足を止めた。


 面倒そうに門弟たちを見回す。


「七年前」


 後藤が口を開いた。


「美剣によって滅ぼされた八神家の意趣返しに来た。美剣燐子を斬る」


 後藤のしれっとした口調に門弟たちは一瞬、唖然となった。


 しかしすぐに後藤の言葉を理解し、全員が顔を怒りで真っ赤に染める。


 一気に殺気立ち、木刀を後藤に向けた。


「ふ」


 後藤が薄く笑う。


「何だ、邪魔するつもりか? 美剣に(くみ)する者には容赦はせぬぞ」


 後藤の右手が腰の長刀にかかった。


 瞬間。


 恐ろしいほどの殺気とおぞましい邪気が、後藤の身体から発散された。


 後藤を囲んだ門弟たちは木刀を構えたまま、二種類の気に絡みつかれ、金縛りの如く動けなくなった。


 これを見た燐子は上座に飾られていた長刀へと跳び、がしっと掴んだ。


 そして「やめろ!!」と後藤に叫ぶ。


 しかし、もう遅かった。


 後藤の右手は熟練の動きで長刀を抜き打ち、自らを中心に大きな弧を描く。


 白刃の閃きの後、周りに居た全ての門弟は斬られ、道場の床板にばたばたと倒れた。


 全員、急所を一瞬にして斬られている。


 燐子の顔が悲しみに曇った。


 自分がもっと早く後藤の敵意に気づいていたら、これほどの犠牲者は出なかった。


 取り返しのつかぬ、しくじりだ。


 刀を掴んだときの片ひざ立ちの状態で、鞘を抜いた。


 両手で構えた刀の切っ先を後藤に向ける。


「これで邪魔者は居なくなったな」と後藤。


 門弟たちを動けなくした邪気が、今度は燐子に絡みつく。


 燐子の全身から、にわかに冷や汗が吹き出た。


 燐子とて美剣の血を引く者。


 己の剣技に自負はあった。


 若年にも関わらず、その技量は祖父には敵わずとも、父の宗章はとっくに越えている。


 尋常で純粋な剣の勝負であれば、門弟を瞬く間に斬った後藤の腕前にも、けして遅れを取るものではない。


 しかし。


(何だ、この邪気は…)


 剣気とはまた別の妖気のようなものが、燐子を押し潰さんとしてくる。


 説明し難い恐怖が、燐子の身体を鉛入りの如く重くした。


 後藤が余裕の浮かぶ顔で近づいてくる。


 後藤の構えは正眼(せいがん)


 お互いの刀が届く間合いまで、あと数歩。


(いけない!!)


 燐子の顎から汗が滴り落ちた。


(このままでは斬られる!)







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