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美剣伝  作者: もんじろう
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2

 そんな無法丸の心中には全く思い至らないのか、鬼庭がにこにこと笑って続けた。


「我らの仲間となってもらいたい」


「仲間?」


 無法丸が顔をしかめる。


「左様」と鬼庭。


「貴殿が手を合わせていた墓。『大剣豪』美剣に斬られた女のものであろう?」


 微笑む鬼庭の細い眼が、きらりと輝く。


「貴殿も美剣家に恨みがあるはず」


「………」


「我らは美剣家に連なる者どもを皆殺しにする所存(しょぞん)。ぜひ、貴殿にも力を貸してもらいたい。これは柊姫様のご意向である」


 無法丸が大きなため息をついた。


「確かに」


 口を開く。


「縫は美剣に斬られた。だが、奴はもう死んでる。俺がこの手で斬った」


 鬼庭が頷く。


「それも姫様より聞き及んでいる。しかし、未だ美剣一族はのうのうと生き残っておるぞ。将軍家、鳳忠久(おおとりただひさ)亡き後、家臣同士の勢力争いを制しつつある新田定秀(にったさだひで)のお抱え剣術指南役に、まんまと収まったとか」


 無法丸は首を傾げた。


 そもそも何ものにも縛られず、旅から旅を繰り返す流浪の気性。


 大名同士の覇権争いになど、全く興味は無い。


 無法丸が気になったのは、相手の物言いの違和感であった。


 鬼庭は今、自らの主筋(しゅすじ)である柊姫なる者から将軍家の跡目争いの事情を「聞いた」と言った。


 用人(ようにん)と思われる侍が、仮にも姫という立場の女人から、世の動きを教えられるとは、妙ではないか?


 本来ならば臣下である鬼庭たちが柊姫に伝えるべき事柄では?


 美剣家が鳳家から新田家に鞍替えした話も人伝(ひとづて)のように鬼庭は言う。


 そこに何とはない奇妙さを覚えた。


 そして、もうひとつ。


 無法丸が鬼庭を警戒する理由がある。


 それはにこにことして、一見、無害なこの男の身体から発散され、周りに漂う邪気のようなもの。


 長い旅の間に、いわゆる「魔」と呼ばれるものに無法丸は何度か遭っている。


 それら異様で特殊な力を持った者たちと似た気配が、鬼庭の周囲で渦巻いているのが分かるのだ。


「柊姫様のお力で美剣家と因縁のある貴殿を見つけた。それでこうして、声をかけておる。美剣本人を倒した素晴らしき腕前で、残りの美剣一族を根絶やしにする助力を願えぬか?」


 やはり、と無法丸は思った。


 話が怪しい方へと向かいだした。





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