表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美剣伝  作者: もんじろう
19/90

19

 兄と比べれば、さらに細身。


 しかし剣術で鍛えられた肢体は伸びやかで溌剌(はつらつ)


 美しく長い黒髪を頭の後ろでまとめている。


 門弟たちに向けた真剣で鋭い眼差しは、やはり兄妹と言うべきか、肉食獣の如き気迫を放つ。


 ただ、容姿は美剣家の男たちよりも母方の血を引き継ぎ、どちらかと言えばかわいらしい。


 その魅力に惹かれ、迂闊(うかつ)にも手を出した者たちは、燐子のすさまじい眼光と激しい気性に、こてんぱんに打ちのめされるのだ。


 宗章は新田家の城中に出向いているため、今、道場の(あるじ)はこの燐子であった。


 門弟たちを見つめる燐子の視線が突如、道場の入口に向けられた。


 妙な気配を感じたのだ。


 男が立っている。


 二十代前半か。


 さほど上背(うわぜい)はないが、がっしりと鍛えられた肉体が着物越しに見てとれる。


 日焼けした肌が尚さら、精悍さを増す。


 野太い眉の下、大きな双眸がぎらぎらと光った。


 浪人には見えない。


 最初、燐子はどこか他家の侍が、父を訪ねてきたのかと思ったが。


 来訪者の上半身が、すでに(たすき)がけされていると気づくと、顔をしかめた。


「そこまで!!」


 燐子が門弟たちに呼びかけた。


 激しい打ち合いの音が止まり、道場が静まり返る。


 ここでようやく、門弟たちも入口の侍に気づいた。


「たのもう!!」


 侍が大声を出す。


「美剣燐子はどこだ!?」


「そちらは何者か!?」


 すぐさま燐子が返した。


 油断なく侍を凝視(ぎょうし)する。


 道場破りのようではあるが、どうもおかしい。


 侍の漂わせる何やら異質な空気に、全身の肌がぴりぴりとなる。


「俺は八神家の後藤主税(ごとうちから)


 後藤の両眼が燐子を食い入るが如く見つめる。


 道場内に居る女は燐子のみ。


 訪ね人の目星は付いたか。


「お前が美剣燐子であろうが」


 そう言って後藤が道場に土足で上がった。


 一斉に門弟たちが色めき立つ。


 しかし名指しされた当人の燐子の頭には、後藤の言葉が引っかかっている。


(八神家…)


 七年前の八神家討伐を思い出した。


 まだ若年であった燐子は八神城攻めには参加出来ず、おおよその顛末(てんまつ)を帰還した祖父より聞き及んだのみ。


(あの八神家か? しかし八神家は…確か尼となった柊姫様以外は皆、斬首となったはず)


 燐子が思案するうちに、後藤はずかずかと道場の中央まで入ってきた。


 後藤のあまりの堂々とした侵入に呆気に取られていた門弟たちが、これは一大事と外敵を取り囲む。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ