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美剣伝  作者: もんじろう
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 八神家の面々の双眸は憤怒の炎で、激しく燃え上がった。


「美剣よ!!」


 真紅郎が叫んだ。


此度(こたび)の謀反の噂は我らを滅せんとする輩の陰謀なり!! 殿には将軍家に対して叛意(はんい)など微塵もござらん!! 今一度、どうか今一度、ご詮議(せんぎ)いただきたい!! 必ず冤罪であると明らかになりましょうぞ!!」


 真紅郎の必死の叫びが終わるや否や、美剣の大怒号が辺りの者たちの鼓膜を突き破らんばかりに鳴り響いた。


「黙れ、この逆賊めがっ!!」


 兜と面当ての隙間より覗く美剣の両眼が強烈な輝きを放った。


「この期に及んで寝言をほざきおって!! もはや将軍家の命は下っておる!! 黙って沙汰を受け入れよ!! 己らの成すべきはこのような騒ぎではなく、主君を説得し素直に腹を切らせることであろうが!!」


 これには真紅郎たちが、殺気をさらに膨らませ怒りを(あらわ)にした。


 全員が刀を構える。


「美剣、許すまじ!!」


 真紅郎が吼えた。


「皆、頑張れーっ!!」


 このとき、城門の斜め上方に位置する天守閣の隠し窓を開け、声を限りに呼びかけた少女が居た。


 城主、八神盛政の娘、十二歳の柊姫である。


 自分たち主家を守るため、死地に於いて尋常ならざる奮闘を続ける家来たちに胸を熱くし、鉄砲で撃たれるやもしれぬ身の危険さえ(かえり)みず、必死の応援を送った声がこれであった。


 真紅郎たちは美しき姫を見やり、皆こくりと頷いた。


 戦いで疲れた身体が再び力を取り戻していく。


「大剣豪」美剣、何するものぞ!!


 これを見事、討ち破り、烏合の衆となった敵の雑兵どもを蹴散らし活路を開き、此度の騒ぎは何者かの陰謀であり冤罪なのだと将軍家に証明してみせようぞ!!


 城門前の守り手全員の心がひとつとなって、激しく(たかぶ)った。


 この様子を見つめる美剣の双眸が、ぎらりと光る。


「刀吉っ!!」


 大声で呼ばわった。


「ほーい、美剣様!!」


 太さも長さも通常の三倍はあろうかという立派な大刀を両手で抱えた小柄な男、刀吉がその場の緊迫感とは、まるでそぐわぬ間の抜けた調子で返事し、美剣の左側にひざまずいた。


 うやうやしく大刀を差し上げる。


 美剣の左手が、がしっと太刀を掴んだ。


 鞘に納まった大刀を左腰の辺りに持ち、右手で柄を握る。


「己らの叛心、わしが根こそぎ刈り取ってくれるわ!! この太刀を抜く刹那が、あの世へ旅立つ時と覚悟せよ!!」


 両眼をかっと見開き、美剣が怒鳴った。



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