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「二度も美剣一族に殺されるとは」
「二度…?」
酒井の言葉に隼人の片眉が、ぴくりと動いた。
「こうなったからには仕方ない。魂は柊姫様の元へと戻り、他の者がお前を斬るのを楽しみにするとしよう」
言い終わると酒井の顔を浮かべた黒煙は、さらに上空へと舞い上がり、あっという間に隼人たちの視界から消え去った。
隼人は二刀を鞘に納めた。
魔祓い師たちは上を向いたまま、まだぽかんとしている。
奏が隼人の横にやって来た。
「あれは魔物です」と奏。
「ああ」
隼人が頷く。
「身体は死んだようですが、まだ生きています。完全に殺すには魔祓いの道具が必要ですが…ここには美剣さんの使える魔祓いの剣を造れる者は居ません。おそらく、この周辺にも…」
隼人の隻眼が、ぎらっと光った。
ただ己の身ひとつを持って、謎の八神勢と戦うのみ。
そう腹を括ったのだが。
「ですが」
奏が続ける。
「魔剣鍛治なら一人、心当たりがあります」
「魔剣鍛治だって?」
「そうです」
奏は頷いた。
「魔祓いとは、また違う系統の技術です。魔剣鍛治は特殊な魔力を持った刀を打ちます。その種類と効果は千差万別。私たち魔祓い師は悪行を成す魔を滅するのが目的のため、魔剣鍛治とはとりあえずはお互いの存在を認め、敵対はしない形となっています」
「………」
「私の知るその魔剣鍛治なら、先ほどの魔を完全に滅せる刀を打てると思います。必ず美剣さんの戦いの助けになるはず」
隼人は両腕を組み、考えを巡らせた。
美剣一族に恨みを持ち皆殺しにせんと企む八神家は、隼人にとっては謎めいた存在。
まずはその先鋒たる酒井源九郎を倒しはしたが、魔の力を持つ彼奴の魂はまだ生きているとみえる。
魂となった魔物が何を成しうるかは皆目、見当もつかないが、柊姫なる人物の所へ戻った酒井が再び美剣家に牙を剥くのではないか?
自分を襲ってくる分には、どうせ武者修行の身、全身全霊でこれを迎え討つだけだが。
心配なのは敵の標的が隼人のみではないことだ。
美剣一族、すなわち隼人以外の二人。
隼人の父、美剣家当主の美剣宗章、そして二歳下の妹、美剣燐子。
これを八神家が狙うのではないかというおそれだ。
一刻も早く二人の元へと駆けつけたい想いと、超常の魔力を持つ敵にとどめを刺せる刀を手に入れるべき考えの間で、隼人の心は揺れた。
「奏さん、その魔剣鍛治はどこに?」
奏の説明によれば、ここから東へ徒歩で五日ほどの場所である。
隼人が目指す美剣道場と全くの逆方向というわけではない。
とにかく大急ぎで魔剣鍛治を訪ね魔剣を手に入れ、その足で美剣道場へ向かう。
まずはそれが最善の策と心を定めた。