13
「俺流」
低い姿勢のまま、酒井に向かって突進する。
「山嵐っ!!」
ひとまずの危機を回避したと考えていた酒井の眼前に、一匹の剣獣が肉薄した。
隼人の身体が跳ね上がる。
酒井に向かって縦に一回転した。
その回転の勢いを加えた左右の二刀が、酒井の頭上から振り下ろされる。
戦いの中でひとつの攻防をしのぎ、そこで一息をついた者と、それを流れの一部と認識し次の攻撃へと繋ぎきった者の差が、はっきりとそこに顕現した。
「ちぃーーーっ!!」
それでも襲い来る二刀に対して、半ば条件反射的に己の刀を振り上げた酒井の動きは、さすがと言えたかもしれぬ。
隼人の双撃が横一文字となった敵の刀身を強かに打った。
酒井の刀は攻撃を受け止めた。
が。
次の瞬間。
二刀の当たった箇所が、甲高い音を立てて折れ飛んだ。
「ぐわーーーっ!!」
遮る物の無くなった双撃は、酒井の右肩と左肩をそれぞれ断ち割った。
邪気を纏った黒剣士は、どす黒い血液を撒き散らしながら、仰向けに倒れた。
「俺の勝ちだぜ!!」
誇らしげに隼人が吼える。
確かに隼人の完全なる勝利であった。
縁側に立つ奏が喜び勇んで、隼人に駆け寄ろうと庭に下りる。
と。
その顔が、さっと青ざめた。
「美剣さん!!」
奏の視線は地面に倒れた酒井に向けられている。
残りの一同が「何事か?」と、そちらに視線をやると。
酒井の死体から真っ黒な煙が、しゅうしゅうと立ち昇っていた。
驚き、ざわめく魔祓い師たち。
その黒煙からは明らかに「魔」の気配が感じられる。
隼人は口を真一文字に引き結び、じっと煙の動きを見つめた。
以前、「鬼道信虎」なる男と立ち合った際、敵がこのような黒煙と化した覚えがある。
しかし今、酒井の身体より立ち昇る煙は、そのときのものとは違うように思えた。
邪悪という大きな括りでは同類だが、種類や系統が異なるのではないか?
隼人は何とはなく、そう感じた。
煙の塊が全て浮き上がると地面に古びた人骨が現れた。
両肩の骨が断ち割られている。
黒煙の方は骸骨の上で、ぐるぐると渦を巻いた。
その中心に。
死んだ酒井の顔が出現した。
「おのれ…美剣隼人…」
口惜しげに酒井がうめく。