表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美剣伝  作者: もんじろう
11/90

11

「何の用だ?」と隼人。


「ふふふ」


 酒井が笑った。


 しかし、その眼は微塵も笑っていない。


「俺の殺気で分かっているだろう? もちろん、お前を斬る」


「俺を? 斬る?」


「ああ」


「何故だ? 理由を言え」


「我ら八神家が、お前たち美剣家に恨みがあるからに決まっておろうが」


 隼人が首を傾げる。


「美剣家に…恨み?」


「おう」


 酒井が何かを思い出したような表情を浮かべた。


「あの時、すでにお前は美剣家を破門されておったのか。それで知らぬのだな。美剣家によって我ら八神家が冤罪(えんざい)にもかかわらず滅ぼされたのを」


 隼人がさらに首を傾げた。


 美剣家と八神家の間で何かあったようだが、隼人はそれを全く知らぬ。


「ふ。まあ良い。とにかく我らは美剣家に深い恨みがある。美剣一族を根絶やしにせねば気が済まぬほどのな。お前が破門されていようとも関係ない。美剣の血を引く者は例外なく殺す」


「なるほど」


 あっさりと隼人が頷いた。


「俺とお前の尋常な一騎討ちの勝負だな?」


 隼人のあっけらかんとした様子に、酒井の邪気がやや揺らいだ。


「お、おう」


「みんな!!」


 隼人が魔祓い師たちに呼びかける。


「聞いた通り、これは俺とこいつの果たし合い! 手出し無用だ!!」


 酒井の剣気に気圧(けお)されていた魔祓い師たちは、爽やかに言い放った隼人の言葉に皆、頷いた。


 ただ一人、奏だけが不服そうに唇を噛みしめる。


「よし、やろうぜ!!」


 隼人が再び酒井とにらみ合う。


 酒井の邪気が勢いを取り戻し、隼人の全身に絡みついてくる。


 同時にすさまじい殺気も、ぴしぴしと音を立てて少年剣士の頬を打った。


 そのあまりの禍々しさに、周りの魔祓い師たちは息を飲んだ。


 もし、先ほど怒りに任せて酒井に襲いかかっていたならば。


 あっという間に全員が斬殺されていたに違いない。


 魔祓い師たちの背筋は一瞬で凍りついた。


 しかし、その酒井の殺気を一身に受けたる当の本人、美剣隼人を見よ。


 隼人の顔は。


 笑っている。


 楽しくて楽しくて仕方ないという風に笑っているのだ。


 これは八神家の怪人、酒井には恐ろしく生意気に映った。


「ぬうう」


 憤怒に満ちた形相でもって腰の長刀を抜き、八相(はっそう)に構える。


 そのまま、じりじりと隼人との間合いを詰め始めた。


 隼人は笑みを浮かべ、微動だにしない。


 ただ、左右の刀の柄に置かれた両手は、今はそれをしっかりと握りしめている。


(な…何だ…)


 前進する酒井は動揺に顔をひきつらせた。


 剣の腕前には相当の自信がある。


 ましてや今の自分は常人とは違い「魔」の力も合わせ持っているのだ。


 いくら「大剣豪」美剣の孫とはいえ、六年も前に美剣流を破門された、言ってみればただの浪人ではないか。


 何を恐れることあらんや。


 早々にこれを斬り伏せて柊姫様の元へ馳せ帰り、残り二人の美剣一族も血祭りに上げねばならない。


 それなのに。


 それなのに何だ、この異常な剣気は!?


 近づけば近づくほど、暴風の如き隼人の闘気が身体に叩きつけてくる。


 もう少しでお互いに刀が届く間合いに入るというのに、足がまるで鉛のように重い。


 酒井の顔が歪む。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ