月夜
数時間前は、この月が霞むくらい、賑やかで明るい場所にいた。
最近は、誕生日とか気にしたことがなかった。今夜のパーティーも、仲間が企画してくれた。可愛い女の子もたくさんいた。
酒飲んで、踊って、、、まあ、今夜はほどほどにした。
24歳。だから何なんだよ。中身はただのガキじゃねーかよ。
俺が待っていた、彼女は来なかった。
冷静に考えたら、来るわけない。
彼女には、好きな男がいる。
キッチンの窓から見える月は、いつも何も言わず俺を見つめる。
不意にドアが開く音がした。
兄貴だ。
うす暗くて表情はよく見えない。
兄貴は俺に何も聞かない。多分、俺がこの場所にいる時の気持ちを、よくわかってる。さすがだ。
パタン。
冷蔵庫が閉まる音がした。兄貴が部屋に戻ろうとする。
「綺麗な夜だなぁ。」
そう言って少しして、兄貴は部屋に戻った。
兄貴の言葉が、そっと俺の背中を押した気がした。
手ぶらが一番走りやすい。ポケットに携帯と小銭入れを突っ込んで、落ちないようにチャックを閉めた。
履きなれた靴で、家を飛び出した。
格好つけたいけど、つけるなら、勢いの方だ。
誕生日にフラれるのも、ある意味悪くない。
今夜なら言える気がした。
走る俺を、月が優しく見つめていた。