そして私は勇者となった
正直、転生することになるとは思いもしなかった
私は魔王で、そして665人の勇者を退け、軍門に降し、打ち倒してきた
あの日、あの時、666番目の勇者の言葉を聞いたその時から、私はいずれこの魔術を行使するのではないのかと、そんな気がしていた
今はそう思う、ーーー
薄暗い紫炎の中で私は再び問いかけた、
魔王「666番目の勇者よ、さて君はどうする?」
私の眼前に立つそれは、この世のものとは思えない笑顔を浮かべ私にその言葉を、剣とともに突き立てた
勇者「半分じゃ足りないな、全部だ」
驚いた…まさかこれ程図々しい勇者がいるとはな
脳裏に過ったその言葉を聞いて少しだけ血が沸き立つ
魔王「それでは、剣を交えようか?それとも魔法での闘争を望むか?」
右手に剣を、左手には魔法を
こうして選ばせなければどうにもまともに闘いすら望めない
さて返答はいかに…
魔王「…ッ?!」
一瞬だった
理解した時、横になった私の腹には剣が突き立てられていた
今までどんな勇者にも取られることはなかった不覚
この勇者が油断出来ない相手だと、即座に悟った
しかし、甘い
身体の再生など容易な事だ
不老不死、それこそが私に与えられた唯一の力
それ故に剣も魔法もこの私が魔王となるまでに幾度となく繰り返し鍛えてきた力
たかだか数年生きてきただけの若造に超えられるものでは無い
突き立てられた剣を抜くと同時に、身体の傷は完治した
さて、勇者はどんな反応をするだろうか?
やはり、怯えて逃げるか?
それとも、この身体の特性を見て尚私に愚かに挑むか?
魔王「…笑っているのか?」
笑っていた、可笑しくなったのか?
いや、しかし、あの表情はまるで、
まるで、楽しんでいる…?
魔王「楽しいのか?勇者よ」
問いかけた、知りたかったのだ
その笑顔の意味を
笑顔のまま駆け出し、こちらへ向かってくる勇者は叫ぶように口にした
勇者「楽しいかだと?楽しいさ!お前は他の雑魚とは違うと確信出来た!俺の剣を受けて尚死なぬ身体を持つ化け物だ!」
お互いに剣を重ねた、
響き渡る甲高い音が、うねりを上げていた
勇者「わかるか!?魔王よ!」
勇者「俺は強い!そして強すぎた!だからこそ、この世で最も強き者と言われたお前を殺しに来たんだ!」
絶えず笑顔と剣を私に向けて勇者は私に言った
勇者「そして俺はこの満たされぬ心を満たす!世界で1番強き者となり、お前が支配する世界を奪い、美しきものを侍らせ、好きなことを好き時に出来る!そんな存在になるんだ!」
魔王「それが望みか?虚しいな、勇者よ」
ふと口にした私の本音を聞いた勇者の顔は凍りつき、その表情の奥にある闇に私も一瞬凍りついた
勇者「虚しいだと?」
勇者「悪いが、闘いはここまでだ、貴様は不愉快だ、ここで朽ちろ」
剣が激しく打ち合い、お互いに1歩引いた
そして勇者の剣は輝きに満ちた
それが私を屠り得るものだと、恐怖は私に語りかけた
勇者「受けよ、そして朽ちるがいい魔王、俺を侮辱した貴様にはもう価値はない」
勇者「光の剣」
眩い光に目を奪われ、光熱を帯びたその剣が先程完治した箇所に一点に突き刺さる
勇者の言葉通り身体が光に飲み込まれ朽ちていくのをこの目で見た
魔王「そうか、貴様は私よりも遥かに強かったのだな」
魔王「いや、憎いね、久々日が滾る」
死ねない、いや死なない
不老不死を得たのその日から味わったこの満たされぬ感覚に生が宿る
魔王「また会おう、勇者よ」
魔王「せいぜいそこの椅子でふんぞり返っていろ」
魔王「必ず貴様を殺しに生くぞ」
朽ちていく身体を目にしながら、最後の魔力を行使した
魔王「死々転生…」
ーー200年後、城からは遠く離れた田舎の村で、その少年は薄く微笑む
どうやら上手くいったようだ、私の不老不死の特性を転用した転生魔法だったが、今までに使ったことは無かったからな
成功して何よりだ、
そうだな…今日からは勇者か…ならば、もう魔王とは名乗るまい
勇者「さて、魔王、これから私は貴様を殺す旅に出る」
勇者「また会う日までそこにいろ」




