少年、兄と逃げる。
こんだけ流暢に喋れる二歳児って凄いですよね。
ネーミングセンス?有るわけないじゃないですか。
文句があるなら、良い名前教えて下さい!
夏の日差しが窓から降り注ぐ。
「暑い……」
こうも暑いと読書に集中出来ない。それは兄、ロン兄さんも同じだった。
「アルの言う通りたしかに暑いなぁ、でもこの中でもルルは……」
ロン兄さんが窓から外を覗いたので、僕もロン兄さんに頼んで外の景色を見せてもらう。
そこには、雄大な景色があった。少し先には山があり、草原があり、湖があった。
下を見ると、木剣で素振りをしている一人の少女がいた。
すると、目があった。少女は素振りをやめると、家の中に入ってきた。
「ど、どうしよロン兄さん!?ルル姉さんが入ってきたってことは……」
二人して同じ想像をして、顔を青くした。
こんな暑い中なぜ素振りなどしなければならないのか。
「よし!アル、隠れるぞ!」
ロン兄さんの言葉にすぐさま頷いて、ロン兄さんの後に続く。
ロン兄さんは兄弟の中で一番年上だが、優しい性格からかルル姉さんの剣術の練習の誘いは断れない。
向かった先は厨房だった。そこには一人の男性と二人の女性がいた。
料理長のサブレとメイドのガーナとココだ。
サブレは親しみやすく、頼りになる料理長だ。
ガーナは出来る女性のような見た目で、ポニーテールでスタイルが良い。
ココはガーナの妹だが、スタイルは……察してくれ。
「あれ?ロン様にアル坊ちゃんじゃないですか、どうかしたんですか?」
サブレが僕を坊ちゃん呼びの理由は、歩けるようになった頃、良くここに来てサブレに遊んでもらったからだ。
サブレが聞いてきて僕が答える。
「ルル姉さんに追われてるんだ」
その一言で納得した三人は俺たちに隠れ場所を提供してくれた。
「この場所なら大丈夫だと思いますよ」
ガーナが教えてくれた場所は食材や調味料が入っている場所だった。
「ガーナありがとう」
ロン兄さんがお礼を言って中に入っていく。僕もお礼を言って中に入っていく。
すると悪魔の声が聞こえてきた。
「ここにアルとロンが来てないかしら?」
何という勘の良さ、これがルル姉さんだ……
サブレが嘘をつかないけどバレないようにいう。貴族に嘘をつくのは後が大変だからね。
「あぁ、ロン様とアル坊ちゃんなら少し前にここに来ましたよ。ルル様がくるちょっと前にここ(厨房)を出て行きましたけど」
おぉ!上手いぞサブレ!名前も美味そうだし!厨房を出て保存庫に言ったということを、限りなくわかりにくく言った!
「そう……どこに行ったかわかる?」
うっ!答えにくい質問を……どうするサブレ!?
「ココは分かるか?」
なんとここでココに丸投げ!なんという悪党だ、サブレ!
「えっ!?わ、わたしですか!?え、えーっと……」
ココは嘘をつくのが下手なのでバレてしまうだろう。
だが、ここにはもう一つ出入り口がある。
そこを使い今のうちにここから逃げる!
「ココ?どこにいるの?」
笑顔でココに聞く。ルルの容姿なら惚れてしまいそうな笑顔も、時と場合によっては何より恐ろしい表情と変わる。
「は、はい!保存庫だと思います!」
「思います?」
「保存庫です!」
ココ……くっ!仕方ない、するとアクシデントが起こった。
「ど、どうしたのロン兄さん?」
小声でドアの前で立ち止まってるロン兄さんに聞く。
「アル……この扉が開かないんだ……もうこれまでだ」
な、なんだって!?この間にも恐怖の足跡は近づいて来ている。
もうダメだ……
「アル、ロン探したわ。一緒に湖に泳ぎに行きましょう」
「「へ?」」
「い、嫌だった?」
悲しそうな表情で、こちらに聞いてくる。
「い、いや!そんな事ないよ!水浴び楽しみだね、ねっ?ロン兄さん?」
「うん、そうだね。じゃあ準備したら行こうか」
僕たちの心配は杞憂に終わっ「水浴び終わったら素振りしようね」てなかった……
僕たちは肩を落としながら水浴びの準備をエミリとガーナとココに頼んだ。
水浴びは冷たくて気持ちよかった。その後の素振りは地獄だったけれど……
次は絶対逃げ延びてやる!
「アル、素振り追加ね」
……逃げきれる日は来るのだろうか。