中央浮遊都市戦・第三幕
空に浮かぶ超巨大な魔法陣・・・それは女神セラフティアスが作り上げた物なのだが、まだ未完成。
現在進行形で作ってはいるが、まだ完成には程遠い魔法陣だ。
何故セラフティアスがこの超巨大な魔法陣を出現させたのかと言うと・・・この超巨大な魔法陣は最終手段。
竜人との戦いが劣勢となってしまい、この黄金世界の優夢都にセラフティアスだけでは抑えきれない数の竜人が押し寄せた時に発動できるように準備している最中なのだ。
いくらセラフティアスだとしても、これ程まで巨大な魔法陣を一瞬にして作り上げるのは不可能。
もう少し規模を縮小すれば可能だが、それでも瞬時に莫大な量の魔力が消費してしまうのはいくらセラフティアスだとしても避けたいのだ。
それにこの超巨大な魔法陣はゆっくりと描いているので、セラフティアスとしては魔力をあまり消費してはいない。
準備しなくても戦えるのであれば問題はないが・・・何事にも準備していた方が効率は良いはずだ。
何も準備していない状態から拳銃で狙って撃つよりも、しっかりと狙いを定め、最高のタイミングで撃った方がより確実に倒すことができると言える。
『思いの外焦っている様子はありませんね・・・』
セラフティアスは魔法を使ってバルエラ竜王国の様子を伺っていたのだが・・・超巨大な魔法陣を作り出したのにも関わらずに、思いの外焦っている様子がない竜人達を見て不思議そうなセラフティアス。
セラフティアスの目論み通りなのであれば、竜人の統率が乱れてもよいはずなのだ・・・それが見られないのは何故なのか?
『どうしますかセラフティアスさま・・・我々は動いた方がよろしいのでしょうか?』
セラフティアスの横に控える天使が心配そうに話しかける。
この天使以外にもセラフティアスの周りにはまだ幼い天使達が一緒に待機している。
セラフティアスの周りにいる天使達は全員戦闘能力が皆無な天使達であり、まだ魔法の扱い方もなっていない天使達だ。
今黄金世界の優夢都いる天使達は、はっきり言ってあまり強い天使達はいない。
大天使に至っては一人もいなく、戦士でいえば間合いの取り方も知らない天使達ができることは、女神セラフティアスに知らせる程度。
セラフティアス率いる天軍本陣は四教天使に任せ、バルエラ竜王国に攻め込んでいる最中。
本陣の数名を戻すことも可能だが・・・そんなことはセラフティアスはしない。
何故ならセラフティアス自身で全て対処することができるからだ。
この黄金世界の優夢都にいる間セラフティアスは天使達の身体に憑依し、魔法を使うことができる。
まぁ・・・憑依できるからと言っても複数に同時憑依することは不可能なので、どうしても侵入してきた竜人への対処は時間がかかってしまう。
なので戦闘能力があまり無い天使達でも役目は残っており、予想通りにことが進まなくても残りの天使達が戦うことはなのだとセラフティアスは周りの天使達に伝える。
『そ、そうなのですか』
『つまり私達もお役に立てるということなのですね』
『えぇ、そうです。戦うだけが全てではないのですよ』
セラフティアスに微笑まれ思わず顔を赤らめる天使達。
まだ幼く、端から見れば親子ほど歳が離れているような感じで、その光景は一枚の絵画のように美しい。
予想通りにことが進まないのは仕方ないことだと割り切るセラフティアス。
刻一刻と戦場は変化していくが・・・まだセラフティアスは動こうとはしなかった。
『おや・・・あれは?』
『どうしたのですかセラフティアスさま?』
『少し待ってください・・・』
そう言いながらセラフティアスは自身の人知を越えた力の一部・・・女神の神眼を発動する。
するとセラフティアスの見ている景色が一瞬にして変化し、周囲の光景がバルエラ竜王国へと変化する。
女神の神眼を力の一部である視界共有。
それにより黄金世界の優夢都にいるセラフティアスの視界は、バルエラ竜王国に攻め込んでいる一人の天使の視界と同じとなったのだ。
『こ、この力は!?』
突如として自らの視界がセラフティアスとリンクしたことに驚く天使。
それもそのはずだ。
いきなり自らが扱いことができない力を付与されたのだ、驚かない方がおかしいとも言える。
更にその付与された力の正体は自らの主である女神セラフティアス。
通常であれば謁見することも出来ないセラフティアスに、その力の一部を付与させられ興奮気味の天使。
そんな天使をセラフティアスは落ち着かせ、何故女神の神眼を発動したのかを説明する。
『な、なるほど・・・』
『そう、なので少し危険なのですが偵察を頼めますか?』
『もちろんです!この私でもセラフティアスさまのお役に立てるのでしたら利用してください!』
セラフティアスに偵察を命じられた天使はその翼を広げ、目的の・・・竜人を探す為に動き出す。
風の属性魔法を付与し、危険な竜人のまだ残っている区画に侵入していく天使。
セラフティアスの指示通りに動いていると・・・前方から此方に近づいてくる竜人が視界に入ってくる。
『セラフティアスさまあれが?』
『えぇ、そうです・・・大丈夫です。言われた通りに一瞬ですれ違ってください』
『わかっています』
『そして、すれ違ったら即効で離脱してくださいね』
そうセラフティアスに言われて頷く天使。
女神の神眼の力を使えば、一瞬であってもすれ違った竜人の特徴を捉えることができる。
一瞬、ほんの一瞬でも見ることができればそれでいいのだ。
そして天使は速度を上げ・・・すれ違う天使と竜人。
すれ違うと同時に方向を変え、急浮上する天使。
それに対して竜人もまた追いかけることはしなく、天使を素通りして更に突き進んで行ってしまった。
『今のは?』
すれ違った竜人・・・融解する惨刀は疑問に思っていた。
攻撃することもなく、何をすることもなくすれ違った天使。
追いかけて倒しても良かったのだが、思いの外天使のスピードは速く、全速力のオロでも追いつけるかどうかという速さ。
しかもオロと反対方向に行ったとなれば、オロは急停止して追いかけなければならないのだが・・・そうなればほぼ確実にすれ違った天使を見失ってしまう可能がある。
エアや、ウェルニル、ウォルニルであればもしかしたら追いつけるかもしれないが・・・
なのでオロはすれ違った天使を、巨城を守っている竜人に任せより多くの天使達を狩る為に動くのであった。
『セ、セラフティアスさま・・・い、今ので大丈夫だったのですか?』
全速力で移動したことによって肩で息をしている天使。
体力の他にも、魔力を急速に大量に失ったことによって疲れてしまったのだ。
今は体力を回復したいところなのだが・・・それよりもこの天使はセラフティアスからの答えを待つ。
何故なら答えによってはセラフティアスに直接褒めてもらえるからだ。
憧れている人物・・・それも全てが完璧なセラフティアスから褒められたのであれば天使にとって最上の喜びともいえる。
『問題ありません・・・素晴らしい働きでしたよ』
『ほ、本当ですか?』
『えぇ、貴方のお陰で状況がよく理解できました』
『ありがとうございますセラフティアスさま!』
目の前にセラフティアスが居ないのにも関わらずに思わず頭を下げる天使。
するとほどなくして、セラフティアスの女神の神眼が解除され天使は解放される。
『セラフティアスさまに褒めてもらう為だといえ、少々無理し過ぎたかな・・・』
ゆっくりと戦場と離れた区画へと降りることに成功した天使は、そのまま人気の無い廃屋で横になる・・・
『少し休もう・・・』
呟くと同時に瞳を閉じた天使はそのまま眠りにつくのであった。
バルエラ竜王国中央浮遊都市・マリアティアス&ルーシャ
マリアティアスの感知魔法で周囲にいる竜人を避けながら進んでいるマリアティアスとルーシャ。
暴れている天使達のお陰で思いの外竜人と会うことはなかった。
そんなマリアティアスとルーシャなのだが・・・
『ルーシャ少し待ってください・・・』
『どうしたのマリアティアス?何か問題でも?』
『問題は無いのですが・・・これは?』
そう良い終えるよりも速くマリアティアスは感知魔法の感度を更に上げる。
するとまだ遠くなのだが、確実にマリアティアス達に近づいて来ている者がいた。
しかしながらそれは竜人ではなく、天使であるとマリアティアスは感知する。
隊列から乱れた、取り残されたのなら自陣に戻ろうとするのが普通なのだが、何故かその天使は一直線にマリアティアスの元に向かってくる。
偶然なのか?それとも何かしらの手段でマリアティアスのことを感知したのかは不明だが、確実に向かってくる天使に違和感を覚えたマリアティアスは、ルーシャにその事を説明すると戦闘準備に入る。
不要かもしれないが・・・それでも最悪の事態は考える必要があるからだ。
『何故で・・・この感じは!?』
向かってくる天使に違和感を感じていたマリアティアスであったが、その天使が近づくにつれて別の違和感も感じとる。
その違和感の正体とは・・・天使とは別の存在。
巧妙に隠してはいるが、マリアティアスにはわかる・・・その天使から感じられる気配はセラフティアスだと。
『・・・あの天使がどうかしたの?』
目視できるまで近づいたことによって、ルーシャもまた此方に近づいてくる天使を視界に捉える。
何故天使が此方に近づいてくるのか理解出来ていないルーシャだが・・・何時でも攻撃できるようにしている。
(ルーシャは感じていない。しかしあれは確実にセラフティアスさまの・・・)
『少し待っていてもらえますか?』
『いいけど・・・』
納得がいかなるルーシャだが、マリアティアスはお構い無しにルーシャの元を離れ、此方に近づいてくる天使に向かって行き・・・合流することに成功する。
『セラフティアスさまでよろしいのですよね?』
『えぇ、もちろんです』
マリアティアスが確認すると天使は微笑み、自らをセラフティアスと認めた。
何故黄金世界の優夢都にいるはずのセラフティアスが、何故此処にいるのか問いたいのだが・・・マリアティアスは天使を眼が女神の神眼と同じであることに気がつく。
いつの間に、この天使に女神の神眼を発動したのかは不明だが、目の前にいる天使は姿形は変わってしまっているがセラフティアスだと核心する。
『どうなされたのですか?何か問題が!?』
『そうですね・・・少し私の天使達では対処が難しいのが現れました。なので貴女方で対処してください』
『数で押しきれないのですか?』
『押しきれるかもしれませんが・・・この中央浮遊都市で大勢失ってしまえばいずれ戦況が傾いてしまうので』
『私達の相手は竜王オール・ディストピア・バルフロン・マリッジだと思っていたのですが?』
『確かにそうです。貴女方の相手は竜王オール・ディストピア・バルフロン・マリッジであり、その討伐です。しかしながら今現れたのはその竜王の懐刀・・・』
『なに!?あの侍女竜達が!?』
オールのお気に入りであり、そして特別な存在の六体の竜人。
常にオールと共に行動し、マリアティアスがオールの元にいた時もいっしょにいた侍女竜達・・・それはつまりオールが動き出したということなのだが、そうではなかったようだ。
オールの姿は依然として見つかっていない。
しかしながらオールの懐刀である侍女竜達は動き出した・・・しかも六体全員が同時に。
そのことを聞いたマリアティアスは目の前のセラフティアスが何を言いたいのかを理解した。
天使達では勝てない・・・勝てたとしても被害が甚大になってしまっては意味がない。
であれば別の手段・・・対等に戦うことができる者に相手をしてもらえればいいだけなのだ。
『あのオールの懐刀である侍女竜全員を此方で相手にしろと・・・』
『えぇ、そうです。貴女方であれば倒すことができるはずですので』
『確かに合理的ですね・・・しかし見つけることができますか?』
『大丈夫でしょう・・・貴方の魔法であれば』
目の前の天使・・・セラフティアスが微笑む。
しかしその微笑みはマリアティアスにとって嫌な微笑みであった。
確かにマリアティアスの魔法であれば、アリセス達と侍女竜達を会わせるようにすることも可能だ・・・しかしながら今となっては中央浮遊都市の何処に要るのかが不明な状態。
つまり中央浮遊都市全土を探す必要があるということだ。
マリアティアスであれば可能だが、流石に中央浮遊都市全土を探るとなれば竜法秘伝・竜融血装をしなければならない。
竜導六刀の面々を倒せるのはアリセス達だけ・・・
マリアティアスは竜導六刀の面々と個別に戦ったことがないので、その実力はわからないが・・・それでも竜王オール・ディストピア・バルフロン・マリッジが六体を懐刀としているのは実力も他の竜人より強者だと考えた方が妥当なはずだ。
四方を統べる竜人である、ルーシャ達と比べるれば劣るかもしれないが・・・今はなってはその情報も正しいとは限らない。
何故なら懐刀である竜導六刀の面々が個別に動いている・・・それはつまり単体でも戦えることができるということの現れだ。
でなければオールの次に強いと言われていたルーシャが裏切り、敵として現れる可能性がある状態なのにも関わらずに出てくるはずがないのだから。
マリアティアスとルーシャであれば確実に倒せる・・・しかしながらオールという強敵を前にして魔力、竜力を消費してしまった状態では確実に倒せないのはマリアティアスも理解している。
つまり竜導六刀の面々を止めることができる可能性があるのは、強化されたアリセス達だけ。
セラフティアスに逆らうことの出来なかったマリアティアスはルーシャの元に戻り、状況を説明するのであった。
『へぇ・・・あの侍女竜がねぇ』
その言葉を聞き何かを思うルーシャ。
ルーシャとしては竜導六刀・・・オロ達と戦いたい気持ちもあるようだが、マリアティアスの言う通り竜法秘伝・竜融血装を発動させ一つになる。
(ルーシャ・・・申し訳ございませんが協力してくださいね)
(わかってるよ)
ルーシャと融合したマリアティアスは魔力と竜力を混ぜ・・・『誰が為に風は吹くのか』を発動させる。
その魔法により中央浮遊都市にそよ風が発生し、中央浮遊都市に存在する天使や竜人を感知する。
『見つけた!』
誰が為に風は吹くのかによって竜導六刀の面々を感知することに成功したマリアティアス。
即座思念を含んだ魔力をアリセス達に向けて飛ばす。
『これは!?』
『マリアさま?』
『声が直接・・・』
マリアティアスの思念・・・伝言を受け取ったアリセス達。
あのマリアティアスでも滅多に使わない方法での伝達で戸惑うアリセス達であったが・・・マリアティアスを信じ、それぞれ行動を開始する。
『セラフティアスさま後は任せましたよ』
『任せてください・・・』
そう言い終えるとセラフティアスは女神の神眼を解除する。
女神の神眼を解除され、自由となった天使が倒れそうになるが、マリアティアスが見事に受け止め・・・マリアティアスもまたルーシャと離れる。
『上手く言ったの?』
『えぇ、アリセス達には伝えたので問題はないはずです。後はセラフティアスさまが合流させてくれるはずですよ・・・』
『なるほど・・・それにしても不思議な力だね』
ルーシャは気を失ってしまった天使を不思議そうに見つめる。
これまでも常識を逸脱した力を目の当たりにしてきたルーシャであるが、それでもセラフティアスの持っている力は更にその上だと言いきれるほどに不思議な力なのだ。
何故と以前にマリアティアスに問いかけたことがあるが・・・マリアティアスでもその答えはわからない。
そもそも力の根本が、セラフティアスとルーシャ達では違う。
ルーシャや天使達が竜力、魔力なのに対して、セラフティアスの力の本質は神力・・・
信仰心そのものが力となっているようなのだが・・・扱える者はセラフティアスしかしないのでマリアティアスやルーシャにとっては未知の力となっている。
そんな未知の力から解放された天使なのだが・・・今のところ目覚める気配がない。
『目覚めないね・・・』
『そうですね。とりあえず隠れましょうか』
そう言い終えるとマリアティアスとルーシャは物陰に隠れるのであった。
マリアティアスから伝令が来たアリセス達は、セラフティアスが女神の神眼によって操っている天使達と合流することに成功する。
『その眼・・・女神の神眼!』
『えぇ、そうです。これは私の力の一部・・・女神の神眼です。これにより貴女方をあの侍女竜達の元に案内して差し上げますよ』
『感謝します・・・』
女神の神眼の能力を知っているアリセスが驚いたような仕草をするが・・・天使、セラフティアスは気にしている様子はない。
どうやら、そんなことよりも竜導六刀の面々を倒すことが重要なようだ。
この天使が扱うことができる魔法の属性は風。
風の属性魔法を操り、マリアティアスほど広範囲ではないが周囲に潜む竜人を感知する為にセラフティアスによって選らばれた。
一様大まかな位置はマリアティアスの誰が為に風は吹くのかによって感知しているので、出鱈目に魔力を消費しているわけではなく、アリセスは天使、セラフティアスに案内され戦場を移動して行く。
『あれは?』
『彼処ですね。天使達が足止めしていますので』
天使達と戦っている竜導六刀の内の一振り・・・凍てつく鋏刀が視界に入る。
(あれがオールの侍女竜・・・確かにマリアティアスさまの言った通り天使達では相手にならないですね)
時間稼ぎのように一定の感覚で離れて戦っている天使達なのだが・・・天使達の攻撃はまるで当たっていない。
それほどまでに凍てつく鋏刀との実力はかけ離れいるようだ。
『私が引き受ける!』
天使達に、そして凍てつく鋏刀に聞こえるように叫んだアリセスはそのまま攻撃を繰り出す。
『お前は・・・』
『初めまして・・・私はマリアティアスさまと志を共にする者・アリセスとディライと申します』
『少しは歯ごたえがあるのかな?』
『そうですね・・・貴女方と対等に渡り合えるのは私達しかいないと言われましたので』
『・・・貴女方!?』
『えぇ、そうです・・・私達の他にも既に出会っているかもしれませんよ』
アリセス達と竜導六刀との戦いが幕を開けるのであった。




