天軍降臨
女神セラフティアスが作り出したと言われている結界が破壊されてしまってから数ヶ月後・・・
人間達は恐怖に支配された生活を送っていた。
結界が破壊されたということは、今まで人間の国に侵入することが出来なかった者達が攻めて来るという事に他ならない。
獰猛な猛獣や、外来の昆虫もさることながら、一部の亜人が攻めて来たのだ。
少数ながらも、人間にとって亜人とは未知の力を持った者達であり、戦闘は避けて通ることはできない。
友好的な種族がいないわけでもないのだが・・・人間達からすれば亜人は人外の見た目をした化け物なのだ。
人間という種族は、自らとかけ離れた見た目をした者達を忌み嫌う習性がある。
自らの常識こそが全てであり、その常識よりもずれた存在は畏怖の対象・・・例え友好的であっても口からはみ出る牙に鋭利な爪、硬い鱗や体毛、 容易に人間を殺すことができるのであれば尚更だ。
まぁ、そう言うのであれば魔導師等も畏怖の対象になるかも知れないが・・・
しかしながら、残念なことに友好的な亜人は現れることは今のところ出て来ていない。
もしかすれば今後出てくるのかも知れないが・・・それは儚い望みと言える。
何故なら亜人にとって人間はただの餌でしかないのだから。
しかし、現れたのが亜人だけなのであれば何とか対処できたのかも知れないが・・・現実は非常。
亜人以外にも世界全てを怨む存在である、疫病の狂天使が襲い掛かって来たのだ。
無論疫病の狂天使は世界全てを怨む存在であるが故に、人間以外にも亜人にも襲い掛かっているが・・・それでも人間は弱者であり、容易に殺されてしまうような存在だ。
更に世界が秩序無き無法の世界となってしまったのであれば、悪意ある人間もまた現れるのも必然だと言える。
人間にも善悪というものはあり・・・そして大抵の人間は善意により悪意を抑えることができる存在だ。
しかしながらそれは秩序があるからであり・・・状況が変化してしまえば当然善意を悪意が上回ってしまう場合もある。
しかもその悪事を咎める者がいないのであれば尚更だ。
明確な悪意を用いて悪事を行う者。不意に突発的な衝動によって悪事を行う者。状況的に仕方なく悪事を行ってしまう者など理由は人それぞれだが、国家という枠組みが破壊されてしまったのであれば法が意味を成していない世界の出来上がりだ。
そんな数ヶ月で世界が目まぐるしく変化して行くなかでも救いというものは存在する。
穢れなき純粋な魂だけだが・・・
何時しか人間達の間では奇妙な噂が流れるようになっていた。
この絶望に支配された世界から逃れることができるのは純粋なる魂だけであり・・・その魂は赤き果実を食すことによって天へと召され、苦しみから解放されるっと。
何の突拍子もない噂かも知れないが、それにすがる者がいるのも事実であり・・・現に彼らは旅をしていた。
『今日は此処に止まろう!』
子供達のリーダーらしき人物が声をかける。
すると全員が彼の指示に従い、歩みを止めて彼の見つけた横穴へと入って行った。
『エクアリーゼ兄さん。水汲みに行って来るよ』
『おいバーズ、少しやす・・・行っちまった』
『エクアリーゼ兄さん。僕達もバーズ兄さんの手伝いをしてきます』
『ま、待てお前達少し休んで・・・行っちまいやがった』
『行かせてやれよ・・・彼奴らも役に立ちたいんだよ』
『そう言うお前も休めよ・・・見張りなら俺がやっとくからさ』
『お前はリーダーなんだろ?だったらお前が先に休め、みんなを率いる奴が倒れたら誰がみんなを導くんだ』
『別に俺はそんな器じゃねぇよ。まぁ・・・お前の言う通り先に休ませてもらうよ』
エクアリーゼと言われているのは、この中では一番年齢が上の男の子だ。
しかしながら一番上と言っても年齢としは十四や十五位で、先ほど水汲みに行ったバーズと言われている男の子と対して変わらない。
というのも彼らは二人は双子であり、瓜二つの見た目をしている。
端から見ればどちらがどちらなのか判断できないかも知れないが・・・二人の性格が異なっているので区別できなくもない。
まぁ・・・瓜二つの見た目をしているので、よく間違えられるのは仕方ないことなのだが。
彼らは元々は小さな村の出身だったのだが・・・今その村は廃墟同然となってしまっている。
何とか大人達が二人を逃がしてくれたのは良かったが・・・行く宛も無い旅路は苦難の連続。
彼ら二人は初めて親元を離れ、旅というものをしたのだから更に苦難であったのだが・・・奇妙なことに二人旅はいつの間にか四人旅に、そして六人、八人と増えていき・・・今は十一人になっている。
ある者は頼る者を失い村にいられなくなった者。またある者は奴隷として売られそうになった者。またある者はエクアリーゼと同じように村を焼かれた者など、理由は様々だが全員不幸な運命に合いそしてエクアリーゼ達と出会った。
自らも家や肉親を失い、生きていくのに必死なエクアリーゼとバーズであったが、それでも二人は彼らを助けた。
そうしなければならなかったのか?彼らを見捨て二人だけで行く道もあったはずなのだが・・・エクアリーゼとバーズの二人は見捨てるという選択をすることは無く・・・今に至る。
『お疲れバーズ・・・エクアリーゼの兄貴は奥で休んでるぜ』
『ライエスも休んだら?』
『・・・いや、もう少しだけ見張りを続けるよ。後を付けている者がいるかも知れないしな』
『わかったよ。じゃ僕達は休んでるよ』
水を汲みに行っていたバーズが戻り、縦穴の中へと入ってゆく。
一回の水汲みで十一人全員の飲み水を確保できるわけではないので、もう二、三度行く必然はあるが・・・それでも全員が一度口にするだけの量はある。
子供だけで生活・・・旅をするのは勿論苦難の連続だが、それでもエクアリーゼ達はお互いを励まし合い、互いに助け合って今まで生きてきた。
何故彼らの中に大人がいないのかと言うと・・・それはエクアリーゼ達全員が大人を信用していないからだ。
子供だけで生きていくのは苦難の連続だということはエクアリーゼもバーズも理解している。
しかしながら身内を失ったことによって周囲の見る目が変わり・・・大人が如何にして自分達の利益しか考えていないのかを知ってしまったのだ。
己の私利私欲の為に他の者を犠牲にするような大人を信用しろという方が無理というものであり・・・現にそのことに嫌気が差したエクアリーゼ達は純粋な、お互いに助け合うことができる者のみがこの場に集まっている。
今は誰も仲間を裏切り、大人に売るような事をしている者はいないが・・・もしこの中で大人に味方するような者が現れれば、最悪の場合追放させられることになっている。
『気のせいか?今なにか動いた気が・・・』
外で見張りをしていたライエスが、見ている方向にある茂みが動いたことに気がつき武器を構える。
手に持っているのは短刀であり、リーチは長くないがそれは仕方のないことなのだ。
子供と大人では持てる武器という物が違うのは言うまでもないが、そもそも武器その物があまり手に入らなくなってしまっているのだ。
武器が限られている中で武器の所持が認められているのは五名、エクアリーゼを筆頭にバーズ、ライエス。
そして今子供達の世話をしているルイファンとキュウの二名だ。
『どうしたのライエス兄さん?』
『レモンか・・・なんかあの茂みが動いた気がして』
『エクアリーゼ兄さん達に連絡してこようか?』
ライエスが武器を構えているのを目撃したレモンが近寄って来たのだ。
レモンはライエスと同じ時期に合流した女の子であり、年齢としては十歳前後なのだが・・・年齢のわりにはしっかりとしており、細かいことに気を使えている。
なのでライエスの行動にも気がついたのであろう。
『うーん・・・レモン少しこの場で待って』
『いいけど・・・見に行くつもりなの?』
『何かあったら大声で叫ぶからさ』
『で、でも・・・も、もしかしたら・・・こ、殺されるかもしれないんだよ』
『そうかもしれないけど、何かあったら駄目だろ』
そう言い終えるとライエスはレモンを置いて茂みへと向かって行くのであった。
『此処だと思うんだけどなぁ・・・』
先ほど動いた茂みへとたどり着いたライエス。
武器を構え、何時でも反撃できる体勢で進んで行くと・・・そこには何かが居たような形跡があった。
『これは・・・獣だけど何か判断できないなぁ?』
地面に付いている足跡から推測するに、獣だと判断したライエス。
しかしながらまだ動物の知識が無いからか、その動物がどんな姿をしているのか判断することはできなかった。
辛うじて四足歩行の動物だということは判断できただけであった。
『うーん。なんだかよくわからないなぁ?でも熊じゃなかったからから大丈夫かな』
熊などの獰猛な動物ではないと判断したライエスは茂みから戻ってくる。
ライエスが無事に帰ってくるのが見えたレモンは安堵しながら、先ほど汲みに行っていた水をライエスに差し出す。
『何かの動物は居たらしいけど、それが何の動物なのかまではわからなかった・・・今は大丈夫かも知れないけど夜中は気をつけた方がいいな』
レモンから差し出された水を飲みながら縦穴へと入って行くライエス。
それについて行くようにレモンもまた縦穴へと入って行くと・・・そこには休憩中のエクアリーゼ達と目が合う。
手を上げてエクアリーゼに合図を送り、それに答えるようにエクアリーゼもライエス達に合いに行く。
『どうしたライエス?何かあったのか?』
『茂みに動物が居たような形跡がある。こちらの事を見ていたのかはわからないけど俺が見に行っ時には既にいなかった』
『種類は?』
『さぁな?四足歩行ってのはわかったけどそれ以外は特にわからなかったぜ』
『了解・・・夜は警戒する必要があるな』
そう言いながらエクアリーゼ達は縦穴へ戻って行き・・・何事もなく夜を迎えようとしていた。
小さい子供達は既に眠りについている者いて、今起きているのはエクアリーゼとバーズ、そしてキュウが起きている。
『キュウお前は寝ないのか?』
キュウと言われている女の子は今、子供達の為に羽織る物を作っている最中だ。
道中で見つけたまだ着られる服を使っており、元々得意だった裁縫をしている。
キュウの夢は一流の裁縫師になることであったが・・・今その夢が叶うことは永遠になくなってしまった。
世界が混沌に支配され、国家という枠組みが無くなり、法が意味を成さない世界と成り果てしまったのだけら。
『もう少し・・・切りのいいところまでやらせてください』
『あぁ、後少しだけだぞ』
『あまり夜更かしはしないでくださいね』
他愛もない会話をしているエクアリーゼ達。
そのままキュウは切りのいいところで裁縫を止め、寝てしまってしまった。
起きているのが二人だけになってしまったエクアリーゼとバーズ。
するとお互いに顔を見合せると・・・同時にため息を溢す。
『やっと二人っきりになれたね兄さん』
『そうだね・・・バーズ』
『お疲れ様。疲れたでしょ?』
『まぁな・・・やっぱりこの口調は変に気を使ってるからか疲れるぜ』
そう言いながらエクアリーゼは離れているバーズの近くに座る。
同じような顔立ちで、瓜二つの見た目をしている二人が近くで座っているのであれば街であれば注目の的なのであろうが・・・今は違う。
仲間の子供達は夢の中であり、今は二人っきりなのだ。
瓜二つの見た目をしているからなのか、村では奇妙な目で見られることもしばしばあり・・・その事が原因で街など人が集まるところには一緒に行ったことなどはなかった。
そして今でも自分達を見る目は変わらないということは理解している。
たとえそれが仲間であったとしてもそれは変わらなかったのだ。
『・・・また今日も見つけることが出来なかったね』
『そうだな・・・苦しみから解放してくれる魅力な真っ赤な果実。本当にあるのかなぁ?』
『噂には尾ひれが付き物だからね』
『それを言ってくれるなよ・・・』
『ねぇ、兄さん。もし果実を見つけたら・・・』
『あぁ・・・その時は一緒に食べるぞ。だけど最後だからな』
『相変わらずお人好しだね・・・時々僕はあの子達が嫌いだよ』
『バーズ・・・そんなっ』
エクアリーゼとバーズが話をしていると、急に呻くような声が聞こえてくる。
何事かと思って振り向いたエクアリーゼとバーズなのだが・・・その声の正体が寝言だとわかった。
縦穴という寝るのには相応しくない場所だからか、それとも旅で疲れたからなのかはわからないが、とりあえず問題ないとわかるとエクアリーゼとバーズも眠りにつく。
エクアリーゼとバーズが眠りにつくてから数時間後・・・エクアリーゼ達のいる縦穴に近づている影が三つ。
木陰に隠れていたが、月明かりに照されその姿が露になる。
それは二足歩行の虎のような姿をした亜人・・・虎人だ。
本来このような場所にいるような亜人ではないのだが・・・餌を求めて来たのであろう。
そしてその三体の他にも山猫が数匹が虎人と一緒にいる。
『やっと寝静まったようだな』
『まったく・・・ガキが夜更かしなんてしやがって』
『だがこれでやっとありつけるなぁ』
不適な笑みを浮かべる虎人に同調するように笑う虎人。
笑みと同時にその口からは涎が溢れ、瞳には殺意の色が見えてしまっている。
『教えてくれたお前達にもちゃんとやるからな』
虎人の言っている事を理解しているのか頷く数匹の山猫。
どうやらこの山猫がエクアリーゼ達がいる縦穴のことを教えたようだ。
どのようにして意思疎通をしているのかは不明だが、この山猫達は虎人達の言う事を理解しているのであろう。
でなければ虎人に喰われてしまうはずだ。
まぁ・・・同じようにように似ているので食べないのかもしれないが。
『さぁ・・・狩り時間だ!』
眠りについたエクアリーゼ達を狩る為に動き始めた虎人。
寝込みを襲うのではなく、その身体能力を生かした奇襲だ。
屈強な肉体と強靭な足腰から生み出される瞬発力を生かし、一気にエクアリーゼ達のいる縦穴付近へとたどり着いた虎人であったが・・・その奇襲は無意味なものになってしまった。
一体の虎人がエクアリーゼ達の仕掛けた罠に引っ掛かってしまったのだ。
その罠は鳴子と言われている物だ。
それをエクアリーゼ達は糸と鈴で作り、それを縦穴周辺に張り巡らせることによって近づいてくる生き物を感知する役割を果たしている。
山猫のような小さな動物であれば引っ掛からないが、虎人のような大柄な亜人であれば引っ掛かってしまったのだ。
それにより飛び起きるように起きたエクアリーゼ達は、直ちに戦う為の準備に入る。
事前に準備していたバリケードを入り口に、そして武器を所持している五名はそれぞれ武器を構える。
遠距離武器である弓矢等は持っていない為に接近戦になってしまうことは仕方なかったが、それでも不意打ちに対抗できるのは大きいはずだ。
『てめぇなにやってんだよ!』
『くそがぁぁぁ!あのガキ共やりやがったな』
『落ち着けよ・・・別に逃げられたわけじゃないんだろ』
『・・・確かにそうだな』
『ガキの浅知恵だろうよ・・・』
鳴子に引っ掛かってしまったことによってエクアリーゼ達に接近していたことがバレてしまった虎人。
バレてしまったことによって動きを止めていたが、再びエクアリーゼ達を狩る為に動き出した。
『動き出した!』
『数は?』
『三体・・・だけど人間じゃない』
バーズの人間じゃないという発言によって一斉に青ざめる子供達。
それもそのはずだ。
エクアリーゼ達と一緒に行動している子供達の中には亜人に村を襲われた子もいるのだから。
『ど、どうしまっ・・・』
思わず声を上げてしまったルイファンだが、この先を言ってはいけないと自ら口を閉ざす。
この状況で不安を煽るようは発言はするべきではないと判断したからだ。
『・・・バーズみんなを頼む』
『兄さんまさか!?』
『おい、冗談だろ・・・』
『何分稼げるかわからないし、何体引き付けれるかはわからないけどな・・・』
『待て、エクアリーゼ考え直せ。そんな危険な賭けをする必要はないはずだ』
『時間が無いんだ・・・俺は行くぞ』
『おい!まてエクアリー・・・』
ライエスの言うことも無視して出てしまったエクアリーゼ。
するとそんなエクアリーゼに追随するようにバーズもまた出ていってしまった。
出ていってしまった二人を止めることが出来なかったライエスに後悔の色が浮かび上がる。
囮となった二人は確実に死ぬ。
その間に仲間達は逃げることができるかもしれないし、逃げ切れないかもしれない。
だが、断然この状況で戦いよりも生き残れる確率は上がるはずだ。
仲間であり、そしてリーダーであるエクアリーゼとバーズを犠牲にしてだが・・・
(くそ・・・他に方法はなかったのか?エクアリーゼ達を犠牲にしなくても良かったんじゃないのか)
エクアリーゼ達を犠牲にしてしまったことによって、罪悪感に支配されそうになってしまうライエスだが迷いは一瞬・・・直ぐ様に子供達を連れ出して逃げるようにルイファン達に促す。
動揺してしまっていたルイファン達であったが、ライエスの説得とそしてもう既に時間がないと理解してからは素早く、スムーズに子供達を誘導して縦穴から出て行く。
子供達の中には今にも泣き出しそうになっている子もいたが、小さいながらも大人以上に苦悩を味わってきたことが不幸中の幸いだったのであろう・・・
『俺は一番最後に付いて行く・・・』
そう言いながらライエスはその手に小瓶を持つ。
ライエスが手にした小瓶の中身は、食用には向いていない激辛の野菜等を配合して作った特性の薬であり、人間は勿論、嗅覚を頼りに襲い掛かってくる亜人や動物にも有効な薬だ。
弱点としては風向きによって変わってしまうのが難点だが・・・それでも相手を怯ませるのには効果的はなはずだ。
現に、今エクアリーゼ達に襲い掛かろうとしている亜人・虎人は嗅覚も人間以上に発達している。
『エクアリーゼ兄さん!』
『なっ!?バーズ何で・・・』
『兄さん・・・僕も戦うよ』
『お前・・・ありがとう』
『お礼なんていらないよ・・・だって僕達は兄弟じゃないか』
バーズの一言にエクアリーゼの瞳から涙が溢れ落ちる。
エクアリーゼとバーズが縦穴から出て数分後、そのことに気がついた虎人もまた動き出していた。
三体いる内の一体がエクアリーゼとバーズに向かって襲い掛かって来たのだ。
『兄さん!』
『来たか・・・』
エクアリーゼよりも先に虎人の接近に気がついたバーズが声をあげて警戒する。
しかしながら虎人の動きが鈍ることはなく、狙いをエクアリーゼに合わせて攻撃を仕掛ける。
エクアリーゼの二倍以上の体格をほこる虎人の攻撃はまさに一撃必殺・・・当たれば即死の攻撃が襲い掛かる。
『死にやがれガキがぁぁぁ!』
雄叫びをあげて攻撃して来た亜人であったが・・・その攻撃がエクアリーゼに当たることはなかった。
だが・・・当たらなかったエクアリーゼの顔には悲しみ、怒りが浮かび上がる。
その理由は・・・
『バーズ!?』
エクアリーゼの目の前で虎人の攻撃を喰らってしまったバーズ。
攻撃が直接したと同時にボールのように吹き飛んでしまった。
本来エクアリーゼが喰らうはずであった攻撃を、咄嗟にエクアリーゼを突き飛ばしたことによってバーズが喰らってしまったのだ。
そして更に悲劇は続く・・・
『きやぁぁぁぁぁ!』
エクアリーゼ達とは違う方向・・・ライエス達が逃げた方向から悲鳴が聞こえて来たのだ。
それも複数・・・
確実に誰か襲われてしまったようだ。
『おや?あの声がの数から察するにどうやらあっちの方が獲物は多かったようだな』
ニヤニヤと笑う虎人。
その笑みは自身が圧倒的に優位という地位にいるからであり、絶対にこの状況では負けることがないと自負しているからだ。
『そんな・・・』
失望の色に染まってしまったエクアリーゼ。
そんなエクアリーゼに対してゆっくりと近づいてゆく虎人。
逃げる気力も無くなってしまったエクアリーゼなのだが・・・逃げるようとはしなかった。
逃げる事ができなかったわけではないが、無意味だと悟ったのだ。
自分達は此処で終わる。
ならば最後はみんなで一緒に行こうと思ったからだ。
(この世界に救いなんてなかったのか・・・女神様どうか俺たちの魂を救済してください)
逃げる気力を失ってしまっているエクアリーゼの前に立ち、そして腕を掴み無理矢理立たせる虎人。
エクアリーゼの瞳には虎人の特徴である牙が見えてしまっている。
明らかに自分はこれから殺される。
そう確信したエクアリーゼは嘗て人間を救ってくれた女神セラフティアスに祈りを捧げる。
純粋無垢なる願いを・・・
『じゃあな人間・・・』
大口を開き、エクアリーゼに噛み付こうとした虎人であったが、その動きはまるで時でも止まったかのように動きを止める。
何故突如として虎人が動きを止めたのかと言うと・・・それはこの世の物とは思えないものを目の当たりにしてしまったからだ。
『なんだ・・・あれは!?』
虎人の目線の先にいたのはこの世界にはいるはずのない種族。
人と似てはいるが、明らかに違う背中から生えている純白の翼に、頭部に輝く光の輪。
御伽にでも出てくるような天使が出現したのだ。
しかも一人や二人では無い。
光輝く魔法陣から合計で十名の天使が降臨してきたのだ。
『なんだあい・・・』
天使の降臨を目の当たりにしてしまった虎人であったが・・・彼は呆気にとられてしまったが故に気がつくのが遅れてしまった。
そして気がついた時には時すでに遅く・・・天使が作り出した魔法の弓矢によって射抜かれてしまっていたのだ。
虎人が射抜かれてしまったことによって、エクアリーゼを掴んでいた腕が緩み、地面に落ちる・・・筈であった。
地面に落ちる筈であったエクアリーゼなのだが、その体は地面に落下することなくゆっくりと降りて行っている。
何がどうなっているのか理解できていないエクアリーゼであったが・・・唐突に自らを呼ぶ声に反応して振り返る。
すると其処には天使に手助けされながらも、ゆっくりと起き上がろうとしているバーズがいる。
その事を目撃したエクアリーゼは一目散にバーズの元に駆け寄り、そして抱き締める。
バーズから伝わってくる温もりを感じ取り、バーズが生きていると確認したエクアリーゼの瞳から大量の涙が溢れ落ちる。
『貴方の祈りは女神へと届きました・・・さぁ仲間達もその内来るでしょう。そして集まったら帰りましょうか?』
『か、かえる・・・ど、どこ・・に?』
泣き噦りながらも天使の言った事が気になる様子のエクアリーゼ。
そんなエクアリーゼに対して天使は優しく微笑み、そして答える。
『永遠なる理想郷・・・黄金世界の優夢都に帰る』っと。




