血晶杖の狂信者VS激風の魔導師
マリアティアスと別れ、散り散りで戦う事にしたアリセス達。
そんな中アリセスが相手をしているのは、先ほどマリアティアスの作り出した防御魔法根源の守護盾と相殺した魔法を放った風の属性魔導師ジルータだ。
しかしながら数分前に女神の神眼に放った魔呪法により状況は一転してしまった。
最初に戦っていた時は、アリセスの攻撃が届かない高さからの一方的な攻撃を仕掛けてきたのにも関わらずに、今はアリセスと白兵戦をしている。
無論たまに距離をとって中距離から攻撃することはあるが・・・それでもアリセスの攻撃が届く距離まで接近することも数多くある。
何故このようなことになっているのかというと・・・
単純な話、遠距離からの攻撃ではアリセスの体力を消耗させることは出来ても、倒すまでには至らないからだ。
残念なことにジルータは遠距離からの魔法が得意ではない。
遠距離からの魔法はその放つ距離に比例して威力が弱く、そして消費魔力が増大する。
当然魔法にも有効射程範囲は存在するが、その魔法が放つことが出来る最大距離と零距離では威力がかなり差がある。
零距離で放つことで家屋を破壊することが出来る魔法でも、最大距離で放てば人を吹き飛ばす程度の威力になってしまう。
そんなこともあってジルータは接近して戦う事を選択したのだ。
まぁ・・・これも女神の神眼の放った魔呪法の影響なのだが。
『接近戦の風の属性魔導師ですか・・・ヘルメスとは全くタイプが違いますが、中々の実力ですね!』
ジルータの攻撃をかわしているアリセスが反撃して攻撃を繰り出す。
しかし・・・その攻撃を風の属性魔法で作り出した盾によって防いでくれてしまった。
だが、これもアリセスの計算の内である。
アリセスの持っている武器の名前は四戦の血晶杖。
摂取した鉄分に応じてその形状を瞬時に変化させることが出来る武器だ。
形状は杖、槍、大斧に大鎌の四種類なのだが・・・マリアティアスが竜王国から戻ってからこの武器は強化されている。
その一つは杖、アリセスのお気に入りの形状の一つだ。
通常時、戦わない時は常にこの形状にしていて、用途としては打撃が主な攻撃方法なのだがマリアティアスによって強化された杖の打撃は・・・
『ぐっ・・・がぁぁあ?』
ジルータの盾を貫通する。
無論杖事態が盾を貫通してジルータを叩いた訳ではない。
盾に当たった衝撃がジルータの身体を貫いたのだ。
盾という物は攻撃を防ぐ物であるのは言うまでもないが・・・しかしながら防げる大きさには限度があり、、そしてその衝撃を全て防げる訳ではない。
『くそっ!』
『外した・・・そのまま串刺しにされていれば楽に死ねたのに』
杖の形状を一瞬にして槍へと形状させ攻撃を繰り出したアリセスであったが、その攻撃はかわされてしまった。
衝撃で動けないのを想定していたのだが想定とは違ったようだ。
『な、なめるなぁぁぁぁ!お、俺は最強・・・最強の魔導師なんだよ!』
激昂し、先ほどとは口調が変わってしまったジルータ。
激昂してしまったことによって、周囲に斬り刻む風の刃を出現させ放つ。
しかしながら狙いが定まっていないようで、アリセスがいる場所とはまるで違う方向にも攻撃してしまっている始末だ。
(激昂すると性格が変わるのですね・・・それにしても)
飛んで来る攻撃を防ぎながら激昂しているジルータを睨み、殺意を現すアリセス。
それはジルータの発した言葉に問題がある。
『最強の魔導師』・・・それはアリセスに対してマリアティアスしかいなく、それ以外の存在など到底容認など出来ないのだ。
まぁ・・・マリアティアスよりも強者らしき人物。女神セラフティアスも存在しているがあれは別次元の・・・魔力とは違った力を使っていると感じだったからだ。
『最強の魔導師はマリアティアス様以外ありえないのですよね・・・』
声を張り上げ、ジルータに聞こえるように言うアリセス。
その言葉が耳に入ったのかジルータは魔法を発動するのを止め、今度はジルータがアリセスを睨む。
『女・・・この俺様が最強の魔導師ではないと?』
『えぇそうです』
当然。それ以外ありえないという口調でジルータに言い放つアリセス。
しかしながらその言葉は火に油を注ぐ行為であり・・・ジルータの怒りは限界まで達してしまった。
『世間を知らない愚者が・・・』
『それは貴方ですよ。貴方程度の力で最強を名乗るなどおこがましい・・・』
『女だからと言って容赦などはしない・・・従順になるまで一生なぶってやる』
『下品な男・・・まぁ、男というものは全員下品ですけどね』
『・・・今謝るのならその綺麗な身体を傷つけずに済むぞ』
『ゲス野郎に謝る理由など毛頭ありません・・・それに、貴方からはどうせ謝っても許してはくれないのでしょ?』
アリセスの問いに対してゲスな笑みを浮かべて高笑いするジルータ。
どうやらアリセスを許すつもりはないようだ。
『許すわけないだろ!』
アリセスに怒鳴ったジルータは両腕に嵌め込まれている風の魔導石を発動させ、その両腕に風の刀が出現する。
薄緑色の眼に見える風の刀は分厚く、それは大剣と同等の大きさなのだが・・・それを何の抵抗もなく操るジルータ。
どうやら重さはあまり感じていないようだ。
『ぶった斬ってやる・・・風刀・斬刻!』
『まぁ怖い・・・』
アリセスもまた四戦の血晶杖を槍へと変え構える。
数秒互いに睨みあった後に動き出したのはアリセスであり、飛んでいるかのように一瞬にして間合いに入り攻撃を仕掛ける。
『速い・・・だが!』
攻撃を繰り出されたジルータだが、先ほど冷静さを失って周囲を斬り刻んだ時は違う。
的確にアリセスの槍を風刀・斬刻で受け流そうと態勢に入るが・・・そう上手くはいかなかった。
受け流そうとした瞬間にアリセスは四戦の血晶杖を槍から大鎌へと変化させ、攻撃方法を突きから大鎌を使っての下段からの突き上げに変える。
突如として攻撃の方向が変わってしまった事によって、攻撃を受け流そうとしていたジルータは上手く受け流す事が出来ずに斬られてしまった。
『形状が槍から大鎌に・・・』
『喋っている暇はないですよ!』
ジルータが驚いている事も気にせず、更に追撃を開始するアリセス。
負傷してしまったジルータは分が悪いと即座に判断し、そして・・・決断する。
今は引くべきでは無く攻めるべきだと。
『風刀・夜叉斬鋏!』
ジルータが更に魔法を唱え、左腕の風刀・斬刻が変化する。
その形状は鋏・・・
刀よりも更に切断する事に特化した物へと風刀が形状変化したのだ。
刀で斬るのであればどうしても一点の方向から斬らなければならないが・・・鋏は違う。
鋏は上下に刃が付いており、挟み込むことによって物を切断する事で出来る道具だ。
上下から挟み込むことによって、刀の一点から力を加えた斬り方よりも更に鋭利に物を切断することが出来る・・・
そしてジルータは鎌で斬られながらも変形した風刀・夜叉斬鋏でアリセスの大鎌を挟み込む。
『ごほっ・・・もう既に遅いわ!貴様の武器をへし折ってやる』
大鎌に斬られたことによって血を吐き出すジルータ。
だがしかしその眼には闘志と憎悪に燃えており、苦痛や恐怖という感情は一切感じられない。
『貴様!』
怒鳴るアリセスでが、聞く耳を一切持っていないジルータは更に魔力と力を加え・・・
そして大鎌に皹が入る。
それを目撃したアリセスは慌てて大鎌の形状を杖へと戻し、そしてジルータへと蹴りを入れ吹き飛ばす。
大鎌を破壊する事に集中していたが為にアリセスの蹴りをもろに、なんのガードも避ける動作もせずに直撃してしまったが為に吹き飛ばされ周囲の家屋へと激突してしまった。
その衝撃により家屋の壁に穴が空く・・・
とても女性の繰り出す蹴りの威力ではなく、そして大の男でも出来るかどうか怪しい程の威力だ。
何故ただの人間であるアリセスがこのような、人間離れした力を持っているのかというと・・・これもマリアティアスの影響なのだ。
アリセスはあの面々の中で一番マリアティアスに仕えている期間が長く、そしてマリアティアスの事を一番理解していると自負している。
無論あの面々がマリアティアスの為であればどんなことでもするように、アリセスもまたマリアティアスの為であればどんなことでもする。
マリアティアスはそんなアリセスに答えるように力を授けた・・・人間を超越しうる力を。
アリセスの力は未だに最高という段階までにはたどり着いていない。
だがしかし・・・度重なる訓練と多種多様な薬物の投与。
所謂肉体改造、ドーピングという物によって今のアリセスの戦闘技術は保たれている。
しかしマリアティアスの治癒の能力によりリスクという物は存在していない。
鍛えれば鍛えるだけ、学習すれば学習するだけアリセスはその命朽ち果てるまで進化することが出来るのだ。
これはアリセス以外にありえなく他の面々、魔導六刀、マリアティアスでさえも不可能なことだ。
生まれ持っての・・・神から授けられた天運なのか?
それとも避けることも、変えることもできない宿命なのか?
それはアリセスでさえわかっていない。
しかしながらただの一つ・・・アリセスはこの力を授かり、そして自覚してからはマリアティアスの為に使うと心に決めている。
例えそれが世界を滅ぼす結果になろうとも・・・
『な、なんという・・・なんという威力だ・・・』
アリセスの蹴りを喰らい瓦礫から出てくるジルータ。
その表情は苦痛で歪んでしまっているが、笑みを浮かべている。
『だ、だが・・・最早その武器は使い物にならないだろう。これでリーチの差が出たな』
呼吸を整えながらジルータは再び風刀・斬刻を発動する。
『確かに・・・これでは戦えませんね』
皹の入っている四戦の血晶杖を見つめるアリセスだが・・・その表情には悲しみも、怒りも感じられない。
その理由は至って単純。
皹など無意味なのだ。
『これで戦えるようになりました・・・さぁ!続きをしましょう?』
みるみる内に四戦の血晶杖が修復して行き、皹がなくなってしまった。
それはまさに時間が巻き戻ったかのように・・・
その証拠にアリセスは四戦の血晶杖を大鎌へと変形させ、ジルータに見せびらかすように宙に円を描く。
『・・・元に戻って』
『えぇ、元に戻りましたよ。完全に』
驚きの表情のまま固まってしまったジルータ。
そんなジルータの一瞬の隙をつき槍へと変化させ攻撃を仕掛けるアリセス。
今度は直撃。
ジルータの左肩を抉り・・・見るも無残な姿へと変貌してしまう。
『がぁぁぁぁぁぁ・・・ぎ、ぎぃぃぃざぁぁぁぁまぁぁぁあぁぁぁ!?』
身体を貫く激痛によって叫び声を上げてしまうジルータ。
痛みの元を絶とうとアリセスに攻撃を仕掛けるが、その時既にアリセスはジルータの間合いから離脱してしまっていた。
『想像通り下品な悲鳴ですこと・・・』
激痛に悶えるジルータに、実験動物を観察でもするかのような冷たい視線を向けるアリセス。
今のジルータは隙だらけ・・・ではないが、アリセスであれば容易に仕留めることができる。
しかしアリセスは仕留めない。
マリアティアスに仇なす者。
しかも自らを最強の魔導師と名乗る輩には、その言葉を口にした相応の報いを受けさせなければならないと考えているからだ。
『さて次は・・・』
アリセスは未だに激痛で悶えるジルータに対して狙いを定め・・・今度は杖による打撃攻撃を喰らわす。
『・・・あら?少し狙いがずれてしまいましたね』
杖による打撃攻撃はアリセスの狙いであった腹部を外れ、胸の部位に当たってしまった。
胸部に強力な打撃が加えられたことによって数秒息が止まってしまったジルータ。
そのまま気を失ってしまえばどれ程楽であったのか・・・どれ程幸せであったのか?
そう他者であれば願うが・・・女神の神眼によってかけられた魔呪法がそれを許してはくれなかった。
激痛に耐え、軋む身体を動かし、憎悪の瞳でアリセス見る。
理性も、知性も、感情も、心も魔呪法により支配され、その命朽ち果てるまでジルータは攻撃を続けようとする。
抗うことのできない力に支配されジルータは再度立ち上がり魔法を発動させる。
『風魔装・・・激風戦鬼!』
渾身の・・・ジルータが発動出来る最大最強の武装魔法・激風戦羅。
風の魔力を集結させ纏う、ただシンプルな魔法なのだが・・・今のジルータでは制御できなかった。
暴走の始まりだ。
普通の、健全な状態のジルータであれば制御できる力だが今は違う。
アリセスによって傷つけられ、女神の神眼によって理性が外されたジルータ。
正しい判断ができなかったジルータは自らの放った魔法に呑まれ・・・そして鬼へと変化する。
『竜人とも違うようですが・・・貴方はいったい何者です?』
アリセスの目の前で人ではない者へと変わったジルータ。
全身を包み込んでいる風の魔力の影響なのか全身が濃い緑色に変化し、ところどころに黒い帯が出現する。
両腕両足が肥大化し腕は元々の三倍以上、足は二倍程に変化する。
しかしながら筋肉のような物ではなく、その肥大化した物は魔力だと理解できる。
そして額から飛び出す角・・・この角もまた魔力でできている。
何故角ができたのかは不明だが・・・
『ぎぃぃぃぃぃぃヴぁぁぁぁぁぁ』
世界を怨む咆哮と共にアリセス目掛けて一直線に攻撃を仕掛けるジルータ。
その行動に理性はない。
本能の赴くままに全てを破壊するであろうジルータだが・・・その身体は既に限界であった。
攻撃しようと駆け出した瞬時、足が縺れ転倒してしまったのだ。
そんなジルータを哀れな眼で見るアリセス。
それもそのはずだ。
自らの放った魔法によって自爆するなど愚の骨頂。
それが誰かの為になるのであれば、その攻撃で倒れてしまっても相手を倒すことができれば御の字であろうが・・・ジルータは違った。
誰かを守ることもできず、アリセスを倒すこともできない。
このままでは犬死に確定だ。
『ぐぅぅぅぅ・・・』
必死に力を振り絞り立ち上がろうとするが・・・やはりどれ程強化しても中身は人間。
許容範囲を越えた力を扱うことはできず再び倒れ込む。
自らの身体に風の魔力を身に纏ってもそれを動かす筋肉、神経、心臓や脳はまだ無事だが、その他の臓器が既に限界に達してしまっているのだ。
(あれはこのまま朽ち果てるのでしょうか?)
動かない手足を一生懸命に動かそうとしているジルータ。
徐々にではあるがアリセスとの距離は縮まってきている。
無論アリセスが数歩、歩けばその縮まった距離は無意味になるが。
『面倒ですね。ただ暴れるだけであれば問題はありませんが・・・マリアティアス様の障害になりそうですので排除しますよ』
そう言いながらアリセスは四戦の血晶杖を大斧へと変化させ、周囲にある建物を破壊する。
そして破壊した瓦礫をジルータへと投げつけるアリセス。
瓦礫の大きさは一軒家の屋根ほど大きさであり、到底女性が一人で持てるような物ではない。
しかしながらアリセスは顔色一つ変えてはおらず、汗一つ流れていない。
『うーん・・・あの鎧を直接触ることは避けた方がよいようですね』
アリセスによって投げつけられた瓦礫が直撃したジルータ。
瓦礫はジルータに直撃すると触れた瞬間・・・何か硬質な物と当たったかのような音が響き渡り、瓦礫が砕ける。
しかしながらアリセスが投げた衝撃その物は無効化できなかったようで、ジルータが大きく吹き飛ぶ。
『少々美しくはないですが・・・』
そう言いながらアリセスはジルータに向かって更に瓦礫を投げつける。
しかしながら今度は吹き飛ばすように投げるのではなく、上から降ってくるようにして。
『圧殺といきましょうか・・・まぁ、この周辺が更地になっても問題ないですね』
そう言いながらアリセスは周囲にある家屋や、施設を目についた物から破壊していく。
そして瓦礫となった物から次々へとジルータに投げつけ、その様子はまさに異様な光景。
それも美しい美女・・・聖職者の衣服を着ているから尚更だ。
『・・・流石に死にましたかね?』
アリセスの投げつけた瓦礫が山のようになっている。
最初はジルータに当たると砕けていた瓦礫だが、次第に砕けなくなり、皹だけが入り・・・そして今では瓦礫と瓦礫がぶつかる音が響き渡る。
それはつまりジルータが死んでしまったということになる。
魔法を維持することができない程に魔力を消費すれば必然的にその魔法がなくなるのと同じように、ジルータの魔力は既に無い。
最後の最後までアリセスを倒そう奮闘するが・・・それを虚しく打ち砕く瓦礫の山。
こうして自らを最強の魔導師と豪語した哀れな魔導師は、この世から去ってしまった。
『さて他の人の援護にでも行きましょう・・・いや、せっかく自由に行動できるのですから少し羽目を外してもいいですよね?』
ジルータを倒し終えたアリセスは周囲を散策する。
都市国、王国、帝国の首都を訪れたことがあるアリセスだが、鎖国的な立ち位置を取っている魔法国には一度も来たことが無い。
そもそも魔法国に行く者は、だいたいが商人、そして魔導師の二択に分類される。
まぁ、稀に貴族の中でも魔法に興味のある者などは行ったりするが・・・基本的に魔力を持たない人間が来るような国ではないのだ。
そんな魔法国・・・今は魔機国へと変わってしまった国を歩いているアリセスだが、あることに気がつく。
そのあることとは・・・
『魔導師以外の姿が見られない・・・子供もいない?』
子供がいないのだ。
確かに今魔機国は戦争をしているようなものであり、子供が元気よく走り回っているということはありえないが・・・それでも子供がいないのはどういうことなのか。
安全である地下、もしくは頑丈な建物に逃げ込んでいるのか?
しかしながら周囲の家屋や施設を見ても子供の使うような物が見当たらない。
この区画には子供がいないだけなのか・・・それとももっと別の理由からなのかは今はわからないが、周囲を散策していたアリセスは病院へとたどり着いた。
女神の神眼によって支配されているとしても、医療機関は健在なようだ。
『病院・・・手がかりがあるかもしれませんね』
病院へと入って行くアリセスだが・・・違和感に気がつく。
その違和感とは全くもって人の気配が感じられないのだ。
普通の病院であれば受付や、看護師、医者がいるはずなのだが・・・この病院に至っては患者すら存在していない。
『人がいない・・・いや、これは避難したのでしょうか?』
病院内を散策しているアリセスが目にしたのは放置され、散乱している医療器具にカルテなど慌ただしく逃げた痕跡がみられる。
そしてアリセスは病室、診察室、治療室と見て回り・・・地下へと通じる道へとたどり着いた。
『鍵がかかっていますね・・・それに、結構分厚い』
地下と地上を繋げる階段を降り、分厚い扉の前にたどり着いたアリセス。
その扉を躊躇なく大斧で斬り倒し、中へと侵入していく。
薄暗い通路を抜けた先には更に扉があり、やはり施錠されている。
普通の攻撃では破壊できない分厚い扉に、施錠された二枚の扉。
つまりそれはこの先にあるのは・・・魔機国を全て支配した女神の神眼でさえも公にはできない物があるということになる。
そしてアリセスはその扉を破壊し中へ侵入して行く。
『・・・人の気配。しかしこれは?』
扉の向こうは薄暗くなっており周囲を見渡すと、なにやら複数の人の気配が感じられる。
人の気配を感じ取った瞬間に臨戦態勢に入ったアリセスであったが・・・周囲から感じられる人影から殺意や、敵意が感じられない。
『薄暗いですね・・・何か灯りのような物は』
灯りを探しているアリセスなのだが、運良く壁に取り付けられているスイッチを発見することができ、それを押す。
すると魔法の灯りが周囲を照らし、薄暗かった部屋が明るくなる。
そしてアリセスが目にしたのは・・・
『裸の女性・・・それにこのお腹は』
アリセスが目にしたのはガラス越しの女性達であり、その腹部は妊娠したように膨らんでいる者達であった。
中には臨月を迎えているであろう大きさの女性から、まだ膨らんでいない女性。
まちまちではあるが、全員全て身動きが取れないようにガッシリと固定されている。
その光景は異様であり、異常。
女性達は虚ろな目をしている者もいれば、眠っているように瞳を閉じている者もいる。
そんな女性達を見てアリセスは理解するこの地下施設がどんな施設なのかを・・・
この地下施設いわば子供を産むための施設・・・それも非人道的であり、その過程に愛など存在していない。
魔導師・・・生まれながらにして魔力を持って産まれてくる子供の割合は全体で約三割。
これは一般人、魔力を持たない人間と魔力を持たない人間同士の結婚によって産まれてくる確率であり、魔導師同士の結婚であれば産まれる確率も少しは高くなる。
しかしながら絶対でない。故にこのような施設が存在する。
つまり数を多く産むことによって魔導師の割合を高めるのが女神の神眼の目的だ。
女神の神眼の目的は世界の支配。
そのためには戦力の増強が必然的に必要なのだ。
生まれながらにして優秀な人材であれば更に英才教育をすればより強力な、魔導師になるのは言うまでもない。
ゆくゆくは今のジルータやウルガンよりも強力な魔導師が産まれてくるのは必然・・・更に言えばマリアティアスにも匹敵する強者が産まれてくる可能性だってある。
そんな施設を目の当たりにしたアリセスの心情はというと・・・
『望まぬ妊娠・・・しかもこの施設だけでこの人数となると、この国全体で考えれば相当な数ですね。これだけの人数が一斉に眼を覚ますとどうなるのでしょうねぇ』
不適な笑みを浮かべるだけであった・・・




