蠢く虐刀VS獣ずる牙刀
魔機国アルケメティアにある地下実験場にて戦闘を始めようとしていたヘル達であったが・・・三体三の戦闘ではなく一対一の対決となってしまっていた。
これはヘル達が望んだことであり、ディライ達もまたその要望に応じたからなったことだ。
魔機国の地下には実験場の他に複数の地下施設が存在しており、ヘルはネスクと共に地下に存在する貯水槽に来ている。
この地下貯水槽は非常時に水を蓄える施設となっており、普段は水が無く空となっている。
広さは先ほどの地下実験場よりも広く、そして周囲を見渡すと数多くの支柱が見られる。
その中央にヘルは一人、ポツンと佇んでいて・・・相手のネスクが何処にいるのか見当たらない。
『・・・さて、この大きな場所に来るなりあいつは何処に行ったのかな?』
地下貯水槽に入ると直ぐに姿を消したネスク。
いったい何処に行ったのか探しているヘルは、自然と中央付近にまで来てしまったのだ。
ヘルが周囲を探していると不意に何処からか何かがぶつかる音が響き渡る。
『この音って・・・』
ぶつかる音が聞こえて・・・けたたましい音と共に何かが破壊される音が聞こえてくる。
そして破壊された音聞こえた瞬間、激しい轟音と共に濁流が流れ込んでくる。
『水!?なんで!?』
この地下の施設が何かわかっていなかったヘルは突如として流れ込んできた水に驚き、濁流から逃げるように近くの柱を登るヘル。
異形の右腕・・・虐刀を使い、柱にめり込ませるようにして態勢を維持していると、何者かが近づいてくる気配を感じとりヘルはその方向に振り向く。
するとそこには周囲の柱を使ってヘルの元に近づいてきているネスクがそこにはいた。
異形の両腕・・・牙刀を使って柱に噛みつくようにして態勢を維持し、もう片方の腕を使って次の柱に噛みつき、器用に動いている。
両腕の牙刀は伸縮自在なようであり、離れている柱も余裕で噛みついている。
『あの移動方法・・・かなり慣れてる』
こちらに近づいてきているネスクの様子を観察しているヘルが、その動きかたからネスクがその方法で移動慣れしていると瞬時に見抜く。
誰だって何時もと違う移動方法を初めて実践したのであれば、ぎこちない動きとなってしまうのが普通だ。
例えば馬に最初に乗ろうとしても初めての人であれば姿勢を維持するのに苦労したり、馬が思うように動いてくれないこともある。
風の属性魔導師が初めて空を飛ぶときだって体重移動や、姿勢制御、周囲の風の状況により上手く飛べないのが普通だ。
しかしネスクにはそのような感じが感じられない。
それはつまり、この両腕の牙刀を使って三次元の移動方法に慣れている証拠だ。
そんな向かってくるネスクに対してヘルは両足に力を込め・・・空中で迎え撃つべく跳躍する。
『へぇ・・・やるじゃん』
空中で激突したヘルとネスクだが、ヘルの攻撃をネスクが両腕とは別の牙刀で防ぎ、そして自由となっているもう片方の牙刀で噛み付こうとしていた。
その攻撃をネスクの身体を踏み台にして上空へと回避し、マリアティアスから貰っていた単刀をネスクに向かって投げつける。
しかし・・・死角からの攻撃を本能的に反射して回避するネスク。
そして再びネスクは周囲にある柱を使い、空中で逃げ場を失ったヘルに向かって攻撃を仕掛ける。
その攻撃をまともとに受けてしまったヘルは水へと落ちてしまった。
(・・・全身を噛み砕くはずだったのに、あのヘルって言う奴、私の攻撃が当たった瞬間自らの左腕を犠牲にして下に落ちるなんて)
全身を噛み砕くはずであったヘルが自らの左腕を犠牲にして、水の中へと逃げて行ったことに驚きを隠しきれないネスク。
何故なら明らかにヘルの左腕はネスクによって噛み砕かれ、少なくとも左手という物は無くなってしまったからだ。
自身が噛み付かれると判断したとしても、咄嗟の判断で左腕を差し出すことの出来る人間はそうそういないように、ネスクもまた自身の左腕を咄嗟に犠牲に出来るとは出来ないと思っているからだ。
(あの状況でも最適に判断して動ける・・・流石に人智越えた力を持っている者は違うのかなぁ)
何処か遠く、そして何かを哀れむように瞳を閉じるネスク。
それは自身とヘルを重ねたからなのか・・・
『敵でなかったら友達になれたのかな?』
誰にも聞こえないように小さく呟くネスク。
その瞳は酷く悲しそうであり、残念そうであった。
しかし・・・そんなネスクの心情とは裏腹な出来事が起こってしまう。
突如として何かが破壊される音が地下に響き渡る。
それも一度や二度ではなく複数聞こえ、その音が聞こえた方を振り向くとそこにはボロボロに破壊された柱がそこにはあった。
(なんだこれは!?あの巨大な柱が折れ・・・まさか?)
無惨にも破壊されてしまった柱を見て、直ぐ様に誰がこんなことをしたのか思いつくネスク。
その考えは当たっており、周囲の柱に目をやると・・・そこには今にも柱を破壊しようとしているヘルがそこにはいた。
(頭が回るタイプだとは思ってなかったですけど・・・人は見かけによらないようですね!)
次々破壊しているヘルであったが、ネスクが近づいてくる気配を感じ取りヘルは水中から顔を出して確認する。
(思った以上に柱は壊せたかな・・・これであいつの機動力も少しは落ちたでしょう)
水中にいるヘルに対して見かけるや否や攻撃を仕掛けるネスク。
しかし今回は先ほどとは違い片方だけを柱に噛み付かせ、残りの三本での攻撃だ。
『その判断は過ちだ!』
ヘルは周囲にある瓦礫を使い、迫りくる三本の牙刀に向かって投げつける。
しかしながら魔導六刀の一振りであるネスクの牙刀が瓦礫程度で破壊される事はなく、噛み砕きその勢いのままヘルを噛み砕こうと攻撃を仕掛けるが・・・その攻撃の間を縫うようにしてナイフが投擲される。
瓦礫が視界を遮るようにして飛んで来てしまったがゆえに、反応が遅れたネスクは肩にナイフが刺さってしまう。
『ぐっ!?』
思わず痛みによって攻撃の手を緩めてしまったネスク。
その瞬間を見逃さなかったヘルは再び水中へと身を潜める。
(何故・・・噛み砕いたはずの左手が無事なの?)
ネスクは肩に刺さったナイフを引き抜き、周囲にヘルがいるのかを確認するが・・・姿は確認出来ないとわかるとまだ壊れていない柱に移動して柱を背にする。
これは自らの視界の死角である後方からの攻撃を受けないためだ。
(いや・・・そんなはずはない。私はあいつの左手を噛み砕いた。確かに噛み砕いた!)
柱を背にネスクは何故ヘルが、ナイフを投擲出来たのか考える。
ネスクは確かにヘルの左手を噛み砕き、左手はナイフなど到底持つことの出来ないほどの傷を負わせたはずなのだ。
しかしながらヘルはネスクの向かってナイフを投擲してきた。
右腕の虐刀で瓦礫を飛ばし、そしてナイフなど持てないはずの左手でナイフを投擲してきたという事実は変わりなくネスクの肩に走る痛みがその証拠だ。
『・・・まさか再生したの?・・・あの傷を?』
『そうだよ』
ネスクの独り言に答える声が聞こえ・・・そして声のした方向に振り向いた瞬間、ネスクに痛みが走る。
目の前にはヘルがおり、噛み砕いたはずの左手でナイフを持ってネスクの首もとに突き立てていた。
ネスクの身体を縫い付けるようにして柱に押し付けているのはヘルの右腕の虐刀であり、鉤爪のように柱に突き刺さっている・・・というよりは握っていると言った方が正しいが。
『その左手は!?』
『治ってるよ・・・まぁ、噛み砕かれたから痛かったけどね』
『あの傷を数分で・・・それがお前の力か!』
『違うよ・・・ヘルの刀としての能力はね』
ヘルはその異形の右腕に力を込める。
すると・・・
『いっ!?ぎやぁぁぁぁぁ!?』
『なっ!?もうふた・・・』
叫び声と共に暴れ回るネスク。
身動きを封じていたはずのヘルであったが、予想外の攻撃により思わず吹き飛ばされてしまった。
ヘルを吹き飛ばしてからもまだ暴れ続けるネスク。
それは痛みから逃れるようにしてのたうち回っている。
(痛いなぁ・・・それにしても、あの牙みたいなのまさか四本じゃなくて六本だったなんて)
吹き飛ばされ、水面に浮かんでいるヘルが見たのは四本の牙刀ではなく更に二本、六本の牙刀を持っているネスクであった。
そしてのたうち回っている間にネスクの被っていたフードが脱げてしまい、その姿が露になってしまう。
『・・・あの違和感はこれだったんだ』
フードが脱げてしまったネスク。
その姿は目を覆いたくなるような悲惨な姿をしていた・・・
人間に必ずあるはずである四肢がネスクには存在せず、腕の第二関節、両方の太股からしたも存在していない。
しかしながらその存在していない部分をよく見てみると縫われたような後があるのがわかる。
立つことが出来ない身体を背中から生える六本の牙刀によって身体支えていたようだ。
『あの傷・・・かなり昔のかな?』
ヘルの指摘した通り、ネスクの身体には無数の縫われたような傷が存在しており・・・その傷の正体は数年前に遡る。
獣ずる牙刀は元々は魔法国で生まれた将来優秀な魔導の素質を持って生まれた子供であった。
父も母も魔導師であり、家系は代々続く魔導師の家系。
父と母の後を追うように彼女もまた魔導師になるはずであった・・・あの事件が起きるまでは。
少女の夢は突如として業火によって焼かれしまい、そして少女の全てを焼き尽くしてしまったのだ。
まだ年端もいかない少女には何が起きたのか理解できず、そしてその事件が何故起こってしまったのかは最早その真実を知る者は誰もいない。
しかしながら少女は生きていたのだ。全てを焼き尽くす業火の中で・・・
少女は何者かが張った結界魔法によって業火の中でも生きており、奇跡的に救出されたのだ。
だが、少女はかなり深手を追ってしまっていた。
火傷が酷く両腕の第二関節から下は既に使い物にならず、足も太ももから下は見るに耐えないほどの火傷。
最早少女は自力で立つことも、魔法を使うことも出来ない身体になってしまった。
しかし・・・そんな少女であったが選ばれてしまう。
人智を越えた力を持っている魔導六刀の一振りとして・・・
少女が最初に気がついたのは見慣れる機械に囲まれた場所であり、既にその身体には魔導六刀である獣ずる牙刀を有していた。
少女に力を授けたのは何を隠そう女神の神眼であり、神目の能力によって最適な人材を見つけ出し少女に力を授けたのだ。
そして今少女は女神の神眼の為に戦っている。
自らに力を与え、自由に動くことが出来る身体をくれた女神の神眼の為に・・・
『何が起きて・・・』
ようやく痛みに慣れたネスクが周囲を見渡す。
すると先ほどまで水が濁流のように流れた地下貯水槽の水が徐々に少なくなってきており・・・今は太もも程度までしか無くなってしまっている。
(なんなのさっきの痛み・・・まるで神経を直接斬られたような)
未だに痛むのか傷ついた箇所を気にしているネスク。
そして突如として襲ってきた原因不明の激痛の正体が何であるのかを理解すると、その元凶であるヘルを探す為に周囲を伺うが・・・ヘルの姿は見当たらない。
(あいつ何処に・・・水の水位が下がっていることと何か関係が)
ネスクが下がっている水位を気にして水面を見つめていると、あることに気がつく。
『ふ、フードがない!?ど、何処に・・・』
周囲を見渡して先ほどまで被っていたフードを探すネスクだが、発見したフードは既にボロボロで最早着られるような状態ではなかった。
『そんな・・・これじゃ』
思わず弱音を口にしたネスクの瞳には輝く物が流れている。
自らのこの姿を隠すために着ていたフード。
それは周囲の眼差しからネスクを守る物であると同時に、ネスクにとっては自らの心の支えであった。
女神の神眼の能力によってネスクの周囲にいる人間は全て、女神の神眼の言いなりになっており、ネスクの事を気にしている様子はない。
しかしながら人間という物は自分ではないとしても、気になってしまうものなのだ。
それが人と違うのであれば尚更気になるのはしかたないのかも知れない。
『これで戦いやすくなった』
ネスクの心情など気にしている様子も微塵も無い口調で現れたヘル。
その表情は楽しそうにであり、心の底から笑っている。そんな笑顔だ。
しかし、そんな笑顔を見せられた方はどういう心情なのであろう。
人とは違う姿をしている者にとってその笑顔は不快の象徴であり、自らの姿を見て笑っていると思うのかも知れない。
たとえ本人にその気は無くても、今のネスクはお気に入りの・・・この姿を身を隠すためのフードをズタズタにされて怒りを覚えている。
それが逆怨みで、自らがやったということが分からなくなるはどに・・・
『なかなかかわいい顔しているじゃん・・・何で隠しているの?』
『殺す・・・』
『いいねぇ、その殺意・・・』
ネスクは怒りのままに走りだす。
背中から生えている六本の牙刀の内四本を使って、まるで獣のような移動でり、残りの二本でヘルに狙いを定める。
それはなながら移動する砲台。
ヘルはそんなネスクに向かって迎え撃つようにどっしりと身構え・・・そして双方が激突する。
ヘルの右腕の虐刀とネスクの二本の牙刀がぶつかりあい、けたたましい音が地下貯水槽に響き渡る。
すかさずヘルはナイフを取りだし投擲しようとするが、それよりも早くネスクがヘルの右肩に噛みつく。
だがしかし・・・ネスクの予想とは違う結末が待っていた。
『噛み千切れ・・・』
『隙だらけ!』
驚いてしまってことによって注意が逸れてしまったネスクは、腹部にヘルの蹴りを喰らってしまい後方へと吹き飛んでしまった。
痛みと共にヘルが近づいてくる気配を感じ取ったネスクは咄嗟に全身を牙刀によって包む。
そして数秒後にはヘルの攻撃がネスクへと直撃し、全身を包み込んでいた牙刀とぶつかり合う。
『か、硬ったいなぁ・・・』
思いの外ネスクの牙刀が堅かったようで、ヘルは後方へと距離を取り攻撃した右腕を見ている。
傷はついてはいないが、それでもネスクの牙刀の方が堅かったが為にヘルはカウンターによってダメージを追ってしまったのだ。
微量とはいえ・・・
『そっちこそどうなってるの、その衣服・・・』
『凄いでしょー。マリアティアス様が用意してくれたんだ』
『私の牙刀でも噛み千切れないなんてありえない!どんな技術で作ったらそんなことが出来る!?』
自らを守る牙刀に囲まれたながらネスクは声を荒らげて、ヘルが着ている聖職者の衣服がどうなっているのか問いただす。
しかし、そんなネスクの対してヘルは・・・『知らない。マリアティアス様にしか作れないよ』っと答える。
『マリアティアス様。あの女性が・・・』
『まぁ・・・でもダメージはゼロではないけどね』
そう言いながらヘルは噛まれた部分を指差す。
よく見てみるとその部分にはネスクの噛みついた跡がしっかりと残っており、血も滴り落ちている。
つまり、ネスクの攻撃は通じていなかったのではなく、噛みつかれたことによって衣服も破れていたのだ。
ただ、噛み千切ることが出来なかっただけで・・・
『・・・だとしても、その衣服は凄いですね。羨ましいなぁ』
ネスクは自身を包んでいる牙刀を少し緩め・・・その隙間から羨ましそうにヘルを見ている。
自分と違う物を持っているヘルの事が羨ましいようであり、まだ幼いネスクであるならば尚更なのだ。
そんなネスクに対してヘル何故か上着を脱ぎ・・・そしてネスクに向かって投げる。
『な、何をしてい・・・』
『いや・・・だって羨ましいって言うんだから』
その言葉を聞き思わず赤面してしまうネスク。
それもそのはずだ。
ネスクは声を抑えたつもりで『羨ましいなぁ』っと呟いたはずであったからだ。
『油断させるつもり?』
『いらないならいいよ』
そう言いながら自らの上着を取ろうとすると、ネスクは咄嗟に上着に噛みつき自らの元に引き寄せてしまう。
『やっぱりいるんじゃん・・・』
『くれるのなら貰うだけです』
ヘルの上着を着ている最中でも攻撃して来ようとしないヘル。
しかしながらネスクの警戒はまだ解かれていなく、まだ牙刀の守りの中だが・・・
『ちゃんと着れた?』
『年下だと思って馬鹿にしないでください』
『馬鹿にはしてないよ。だけどなんだか妹みたいでさ』
『・・・妹。私には姉はいませんよ』
『でもヘル達は人智を越えた存在・・・記憶を取り戻していないからわからないと思うけどね』
『はぁ』っとため息をつくヘル。
自分たちが置かれている立場を理解しているヘルだからこそネスクと親近感がある。
生まれも、育ちも違う二人だが、根は同じ・・・人智を越えた力を宿した刀であることには変わりないのだ。
望む、望まないに・・・
『記憶・・・私の記憶は途中からしかない』
『記憶喪失なの?』
『多分そう・・・だけど思い出したくない』
『何で?』
『何でかわからない・・・だけど、私のあの身体を見たでしょ』
痛ましく、そして目を覆いたくなるような傷を負ってしまったネスク。
いったい何故、どうやってこの傷を負ってしまったのかはネスクにもわからない。
しかし・・・ネスクは本能で理解している。思い出したくない記憶があることを。
『あの身体ねぇ・・・ねぇ、その傷って言うか。その身体を元に戻せるとしたら戻りたいの?』
『そんな事が出来るとでも?』
ネスクの言葉に殺意が混じり始める。
ネスクだって五体満足・・・元の身体に戻りたいのに決まっている。
しかし・・・そんな事は出来ないとわかっている。魔機国全ての技術を集め、そして応用することが可能な女神の神眼の力を持っても失われた手足を再生するのは不可能なのだ。
確かにヘルの親玉であるマリアティアスにはネスクの知らない力を持っているのは確かなのだが・・・
『さぁ・・・ヘルはよくわからないけどマリアティアス様なら可能だと思うよ?』
『・・・仲間になれと?』
『まぁ、ヘル達は同じ仲間だからね。でも・・・ヘルはまだネスクと戦いたいけどね!』
ヘルもまた殺意を露にする。
そんなヘルに答えるようにネスクもまた自身を守っていた牙刀を展開して・・・戦闘態勢に入る。
『そんな都合のいいものはありえない・・・』
『だった賭けをしない?ヘルが勝ったらネスクを連れて行く』
『・・・貴女が負けたら?』
『うーん・・・何がいいの?』
本気でどうすればいいのかわからないヘルはネスクにどうすればよいのか問うが、ネスクはその答えを攻撃で示す。
それに対してヘルもまた攻撃で返す。
『死んでくれたらそれでいいよ』
ヘルとネスクとの戦闘が始まる。
ネスクはヘルから貰った聖職者の衣服を着ているが・・・
ヘルよりもネスク方が身長が低いので少しぶかぶかになってしまっているが。
『その服気に入ってくれたんだね!』
『少しぶかぶかだけどね』
『でもそれはそれで可愛いと思うけどね』
ヘルの攻撃を牙刀で受け止め、残りの牙刀で攻撃を仕掛ける。
最大級に警戒すべきはヘルの右腕なので絶対に攻撃されないように立ち回るネスク。
それに対してヘルは右腕を囮に左手や蹴り等で攻撃を仕掛けるが、六本のネスクの牙刀によって防がれてしまう。
ただの拳や蹴りが魔導六刀の一振りであるネスクの牙刀に通じるはずもなく、徐々にヘルの身体がボロボロになってゆく。
やはりネスクの攻撃は通じるようであり、ヘルの身を守っていたのはマリアティアスから貰った聖職者の衣服だという事がわかる。
ネスクによって喰われ流血し、硬度な鞭のようにしなる牙刀は振り下ろせば石畳を容易に破壊出来るほどの威力だ。
そんな攻撃を何回も喰らっているヘルなのだが、それでも攻撃の手を緩める事がない。
不気味な、痛みを感じていない様子のヘルに恐怖してしまったネスクは後方へと距離を取る。
『な、何で・・・何でそんなになっても戦うの!?貴女を突き動かすのはなに!?恩人に報いる為?それともなの女に何かされているの?』
声を張り上げネスクはヘルに向かって問いただす。
『別にマリアティアス様は関係ないよ。ヘルはただ・・・ヘルがやりたいと思っているから戦うんだ』
とても楽しそうに、満面の笑みで笑うヘル。
自身がボロボロに傷ついてもなお、楽しそうに・・・心の底から笑うヘル。
その姿は狂気にしか思えないのだが・・・ネスクはその笑顔が羨ましいっと思ってしまった。
自分は心の底から笑えない・・・この姿になる前の事はよく覚えていないが、今は本当に心の底から楽しいと思える事が無いのだ。
ネスクが今こうして戦っているのは、自らに力を与えてくれた女神の神眼の為で自分の為ではない。
『動きが鈍いぞ!』
考え事をしてしまっていたネスクは先ほどと比べて動きが鈍くなってしまったようで、隙をつかれてヘルの蹴りがネスクへと直撃する。
『ぐっ・・・あ、あれ?』
蹴りを喰らったネスクなのだが違和感を覚え、思わず口にしてしまう。
『い、痛くない・・・』
腹部を蹴られたのであれば当然痛みを感じるはずなのだが・・・何故か蹴られたネスクに痛みはない。
だが、確かに蹴られたという感触は残っている。
それなのに何故痛みがないのか・・・その理由は先ほどと着ている服が違うからだ。
ヘルの着ていたマリアティアスの作った衣服・・・服と思えない硬度と耐久度を持っている。
『す、凄い・・・って、あれ?』
脅威の耐久度を持っているヘルの衣服を感心していたネスクなのだが、とあることに気がつく。
それは・・・
『死んで・・・いや、生きている。気絶しているの?』
ネスクとの戦いで多数の傷に流血によって気絶してしまっているヘル。
防御などする気が全く無いヘルの戦いは身体に相当の負荷が蓄積されてしまっていたのだ。
傷がつけば動きは鈍り、流血すれば身体に力が入らなくなるのは当然なのだが・・・ヘルは魔導六刀の一振り、その身体に何かされていも不思議ではない。
まぁ・・・気絶してしまった今となってしまってはわからないが。
『・・・私も貴女について行ったら心の底から笑えるのかな?』
気絶してしまったヘルの隣に座りネスクは考え込むのであった。




