偽りの平和
バルエラ竜王国王城ラ・ゼログニル城内玉座の間にて・・・
空の玉座を中心に左右に各浮遊都市を統べる竜人、東の浮遊都市・イースベラァを統べる竜人。ウルキード・ボイル・イーストロン・ファルエンタ。
南の浮遊都市・グラスサウスを統べる竜人。ジェイロス・ビート・サウスウェル・リューリック。
北の浮遊都市・ロウェイノースを統べる竜人。ハッカ・ラフス・ノースルー・ライブエラ。
そして不在となった西の浮遊都市・ウエストゲェルを臨時に統べている三体の竜人。ケイコウ・ドリップル・クリームと、エドワルド・ガウス・コールゲイクズ、そしてフィヘイン・ゲート・カルサ。
更には名のある竜人や研究所に所属する所長クラスの竜人も集まっている。
『さて・・・全員集まったようですね』
まず最初に言葉を発したのは北の浮遊都市・ロウェイノースを統べる竜人。ハッカ・ラフス・ノースルー・ライブエラであり、この場に集まった竜人の視線が集まる。
『まず始めに・・・そして簡潔に今何が起きているのかを説明いたしましょうフィヘイン』
『はい。ハッカ様!』
ハッカに名指しされたフィヘインが一歩前に出て周囲の様子を伺う・・・
注目の的がハッカからフィヘインに移ったのは言うまでもなく、そしてフィヘインは皆から集められる視線に緊張してしまったのか、少し動揺している様子だ。
『皆様に説明をお願いできますか?』
『了解しました・・・それでは皆様、これより数時間前に発生した驚くべき出来事についてご説明いたします』
この場の雰囲気の馴染んだフィヘインは集まった竜人に対して説明し始める・・・数時間前に起きた驚くべき出来事について。
『そ、そんな事が・・・』
『これは好機じゃねぇのか?あの人間どもを皆殺しに出来るまたとないチャンスだぜ!』
『待て、ジェイロス我々にはその他にもやるべき事が山積みなのじゃぞ』
『まずは現地に赴くべきだと某は発言します』
『この情報は竜王国全土に発信すべき案件ですね!』
『まぁ・・・抑えようとしても抑え込めるような案件じゃないですからね。でも問題なのは勝手に発信してもいいのかどうか・・・』
『然り!今は不在ではあるが竜王様の意見を聴かず勝手に動くのは忠義に反するかと』
『それならば、竜王様不在なれども自ら動くのもありかと・・・王に命じられて動くだけが家臣の務めではいと思うのだが』
『竜王様の意見も聴かずにか?』
『時間、時の流れは刻一刻と過ぎて行っておる・・・今日と明日ではまるで変わっているやも知れんぞ』
この場の全員が各々意見を出し合い玉座の間が騒がしくなってしまう。
それもその筈だ。
前代未聞の出来事・・・竜王国と人間の国を隔てる巨大な結界が破壊されたのだから。
長年人間達に怨みを持っている竜人や血気盛んな竜人からは、即座に人間の国々に赴き即刻滅ぼしてしまった方が良いと言う意見が出され、それに対して穏健派の竜人からは人間どもを滅ぼすよりも竜王の捜索が第一だと言う竜人とで意見が二分してしまった。
更に今は竜王国と三ヵ国・・・バルエラ竜王国の北に領土を持つドワーフとダークエルフの連合国家エルメダ連合国。
南に領土を持つエルフの王国ウルマイト王国。
そして東の滅びたとされている島々を根城にしている魚人、人魚のならず者達の連合国家・アクモア海洋都市国家連合との戦争している最中だ。
無論そのために北の浮遊都市・ロウェイノース、南の浮遊都市・グラスサウス、東の浮遊都市・イースベラァにいる竜人を大々的に動かす事はできなく、西の浮遊都市・ウエストゲェルと中央浮遊都市に住まう竜人の大半は復旧作業、そして竜王オール・ディストピア・バルフロン・マリッジを捜索する為にハッカを含めた水の属性竜法を扱う事ができる面々は動かす事が出来ない。
つまり結界が消滅したとしても動かせる竜人が数少ないのだ。
『このままじゃ埒があかないなぁ・・・どうするよ?』
『・・・仕方あるまい。結界の方は数名の竜人でなんとかするしかないのぉ』
『そうですね・・・竜王様が不在ですので、我々だけで決定するのは不敬かと』
『つまり人間達には攻撃を行わず、あの結界が何故消滅したのかという調査を行うと?』
『その方が良いでしょう・・・貴女方は結界の消滅を目撃したそうなのですが、何故結界が消滅したのかまではわからないのでしょう?』
『申し訳ございませんハッカ様、やはり現地に行って調査しなければ・・・』
『別に貴女方を責めている訳ではございません。それではフィヘイン・ゲート・カルサ調査をお願いしますね』
『了解いたしました!』
ハッカ、そしてウルキードが後押しにより、フィヘイン達は結界が何故消滅したのかという調査をする事になりフィヘインはハッカ、ウルキード、ジェイロスに感謝の意を示すと共に忠義の意も示す。
他の竜人・・・特にフィヘインと同じ西の浮遊都市を臨時に統治しているケイコウとエドワルドからはよい印象が感じられないが、とりあえずフィヘインは気にしている様子は無いようだ。
『それと次に・・・私の方は引き続きオール様の捜索を行います』
『異論はないぜ・・・あんたが適任だからな』
『無論儂も同意見じゃ』
『だが、ハッカ少し提案させてもらうぜ』
『何でしょうかジェイロス?』
『今、現在竜王国は目下戦争の真っ只中なんだが・・・攻め込むのは少し止めにしねぇか?』
『どういう風の吹き回しじゃジェイロス。お主からそのような言葉が出てくるとは到底思えぬのだがのぉ?』
『明日は浮遊都市が落下するのかもしれませんね』
『おいおい。お前等、俺の事をなんだと思って・・・まぁ、別にそれはいいや。それよりも俺が言いてぇのは一時的に戦争を止めてみても問題はねぇんじゃねぇのかという話だぜ。今は竜王様が不在だし、西側ではあの絶対に破壊する事が出来ねぇと言われていた結界が破壊されたんだからよぉ』
『うーん・・・確かにあの程度の実力なのであれば戦争を一時休戦しても問題はないと思いますが』
『別に休戦とは言ってねぇよ・・・とりあえずこっちからは攻め込むのは止めた方がいいんじゃねぇのかって話だぜ。無論奴らが攻めて来たら即刻反撃はするけどな』
『なるほど・・・お主の言いたい事がわかったぞ。つまり攻めているだけではなく守り・・・籠城戦等の訓練も若い竜人に経験させようという魂胆じゃな?』
『そ、そうだぜウルキードじいさん。流石だぜ!』
何故か動揺してしまったジェイロスのことを不思議そうに見ているフィヘイン。
しかしながらどうやらハッカだけは違うようであり、納得しているような雰囲気を出している。
『確かに籠城戦を経験させるのは良いことです・・・戦争とは常に状況が変化しますので』
『だ、だろう!』
『それともう一つ・・・未知なる敵。特に疫病の狂天使や人間達との戦争も視野に入れた方がよいでしょうね』
『いずれは人間どもとも戦争になるのは必然じゃからのぉ・・・しかし人間どもは我々の脅威になるとは到底思えぬのじゃが?』
『ウルキードさんボケたのですか?我々の知識は数百年前の人間に対しての知識しかありません・・・我々と同様に人間どもだって成長するのです。あまり舐めてかかるのは如何なものかと』
『確かに・・・』
『なので私は偵察の他にも別動隊を用意して人間どもの戦力を見極めた方がいいかと。その為にもまず第一に実力が上位の・・・特にそうですね・・・ジェイロスのような実力、経験、そして非常時の時にでも臨機応変に対応出来る竜人がよいかと』
『・・・なるほど、確かにジェイロスならば問題あるまい。どうじゃジェイロス?』
『俺は大丈夫だぜ!威力偵察っていうことだな』
『そうですね。危険が伴いますが・・・貴方の実力ならば問題はないはずです。無論緊急事態だと判断した場合は即座に徹底を』
『了解した』
『フィヘインもそれでよろしいですね?』
『無論問題ございません。ジェイロス様であれば適任かと』
『ならば決定ですね・・・フィヘイン率いる部隊は結界周辺の調査と共に、何故結界が破壊してしまったのかとう原因究明を。そしてジェイロス率いる部隊は人間どもの実力の見極め為の威力偵察を。私は引き続き竜王様の捜索を指揮しますので・・・非常事態の時の対応はウルキードさんにお任せしますよ』
『了解じゃ』
『・・・何か他に意見のある者は?』
そう言い終え、周囲の竜人の様子を伺うハッカだが・・・意見を述べる者がいなかったのでこの会議を閉幕させる。
そして空の玉座の間にはフィヘインを含めたハッカの二体だけが最終調整に残っており、今もまだ調整を行っている最中だ。
『それではフィヘイン、調査を行う面々は貴女に一任します。どの人材を選ぶのかは貴女の自由です』
『ありがとうございますハッカ様』
『それと必要な物資があるのでしたら言ってくださいね。私に出来る範囲内でしたらいくらでも協力しますので』
『お心遣い感謝いたします』
『やはり貴女を推薦した私は正しかったようですね。貴女の実力は他の二体の竜人よりも群を抜いていますので・・・』
『そ、そんな滅相もございません。私はハッカ様に拾っていただけなければこのような地位までは・・・』
『自信を持ってください・・・貴女は物事を冷静に判断し、そして結果を導き出せる能力を持っているのですから』
そう言いながらハッカはフィヘインに近づくと・・・ゆっくりと優しく折れている角を撫で、フィヘインの下腹部に手を当てる。
一度は止めさせたフィヘインだが・・・ハッカにされるがままに壁に追いやれてしまった。
『は、ハッカ様・・・このような場所で・・・』
『あら?でも貴女は期待しているのでしょう。その証拠にこんなにも・・・』
『あっ・・・だ、駄目・・・です・・・ハッカ・・・様・・・』
『相変わらず此処が弱いのですねぇ・・・まぁ、それも可愛いのですが』
『は、ハッカ様・・・』
潤んだ瞳でハッカに訴えかけるフィヘインであったが・・・残念ながらフィヘインが望むように事は動いてくれなかった。
『残念ですけどこの続きはまた今度にいたしましょうね』
『え・・・あぁ・・・そんな・・・』
『大丈夫ですよ・・・調査から帰ったらたっぷりと・・・してあげますから』
その言葉を聞い、より一層瞳をキラキラさせるフィヘイン。
その姿はまるで恋人同士・・・のような雰囲気であり、ハッカもまた悪戯っぽく『クスクス』っと笑う。
『それと今度する時は何時ものように・・・ママっと呼んでくださいね』
『わ、わかりました・・・ママ』
『そう・・・それでよいのです』
楽しいそうに笑いながらハッカとフィヘインは空の玉座を後にするのであった。
バルエラ竜王国の北に領土を持つドワーフとダークエルフの連合国家エルメダ連合国にて・・・
エレメンティア魔法国とバルエラ竜王国と国土を隣接する山脈国家であり山脈や渓谷にはダークエルフが、山脈内部の洞窟にはドワーフ達共同で生活をしている連合国家だ。
二つの異なる種族が共同で国運営しているという稀な国であり、両種族共に争いなく暮らしている。
っと言うよりも近年はバルエラ竜王国との戦争で協力をしなければ生きていけない状況になってしまっているが・・・
そんな状況の中でダークエルフの代表とドワーフの代表は会議をしている。
議題はもちろん今もなお続いているバルエラ竜王国との戦争の件と、それともう一つ先日起きた異常事態についてだ。
『それで?あの話は本当なのですね?』
『そうでござます。私も含め複数人で確認しましたので・・・』
『なるほど・・・』
ダークエルフの女王とその付き人が異常事態についての確認を終え、そしてドワーフの王もまた納得したように首を縦に降る。
『人間の国と我々の国とを隔てるあの強大な結界が存在していない・・・これは異常事態なのですが、問題はそれだけではございません』
『あぁ、彼方の方は儂の方で確認が取れておる・・・まぁ、お主らも知っての通り、バルエラ竜王国からの砲撃や進軍が見られないどころか拠点である砦から出てくる気配がない』
『何故このタイミングでっと言いたいところなのですが・・・どうしますか?』
ダークエルフの女王に言われ、この場の全員が黙ってしまう。
それもその筈だ。
今は竜王国が攻めてはいないが本来はこちらが攻め込まれている現状は変わりなく、数年前よりも前線が後退しているのも事実を裏付ける証拠だ。
つまり戦力差や個々の戦闘能力を考えると後々は、この連合国が飲み込まれてしまうのも時間の問題だと言える。
竜王国に飲み込まれてしまえばどうなるのか・・・その事は連合国、周辺国家に住まう者達であれば誰もが理解していることだ。
竜王国の下・・・翼なき者と言われている亜人達と同じように、竜王国へ貢ぎ物をしなければ生きていけなくなり、そして竜人の機嫌を損ねるだけで殺されてしまうようになってしまうのだ。
しかしながら今の連合国には余裕がない。
数年もすれば首都防衛戦をしなければならないのは目に見えてしまっている状況・・・
降伏するか?はたまた徹底交戦をするのか?という事を決めようとしていた矢先にこのような異常事態に陥ってしまったのでこのように緊急会議をしている最中だ。
『儂は・・・儂の代でこの国を・・・捨ているのは真っ平ごめんじゃ』
『ならば徹底交戦するのですか?』
『あぁ・・・儂も・・・儂以外の全てのドワーフに問い掛けたが全員同じ考えじゃ!』
『・・・理解出来ませんね?国が亡ぶとしても民は生きています!生きていれば必ず・・・』
『奴隷のように生き、竜王国に摂取されるだけの民に何が出来る!生きていればよいのか!貴様にはプライドという物が無いのか!?』
『民を守れる為であれば私はいくらでも手を汚しましょう・・・竜王国にこの身を捧げることも惜しくはありません!それに・・・民無くして国は成り立ちません!』
『・・・交渉は決裂じゃな』
『そのようですね・・・』
『さらばじゃ・・・哀れな奴隷の女王よ』
『さよならです・・・惨めな自殺願望の王よ』
ダークエルフの国の国民は竜王国に屈する道を・・・
ドワーフの国の国民は国民全員で徹底交戦の構えを・・・
こうしてエルメダ連合国は二分してしまった・・・この二分した国の民がどのような末路を辿るのかはもう少し先の話になるが・・・
南に領土を持つエルフの王国ウルマイト王国にて・・・
スペルオーネ帝国とバルエラ竜王国と国土を隣接する王国であり、国土の殆どを大森林に覆われた国だ。
最古の森林に覆われてしまっているからなのか、通常の木々よりもかなり巨大な木々が数多く存在している。
その影響により畑など・・・野菜類の栽培は出来ないが、果実等の木の実が数多く存在しており彼らはそれで生活している。
そんな彼らもまた竜王国との戦争の最中に、一方的に前線を破棄した竜人達に危機感を抱きながらもとある計画を進める為に国王に報告をしている最中だ。
『それで・・・あの事実は本当になのか』
『はい!王よ。私も含めた複数名が確認しております・・・帝国、人間の国と我々の国に存在していた巨大な結界が消滅しているのを確認しております』
『なるほど・・・ならば・・・あの作戦を決行するのであれば早い方がいいな』
『王よ・・・やはりあの作戦を進めるのですか?』
付き人であるエルフの問い掛けたに対してエルフの王は当然のように頷く。
『このような好機を逃しては我々もあの者達・・・翼なき者のように竜王国に摂取されるだけとなってしまうぞ?お前はそれでもよいのか?』
『しかし・・・何故あの、あれほど強大な結界が何故無くなっているのかは不明です』
『その事は俺だって理解している。理解してはいるが・・・お前だってわかるだろ?竜王国の本国に住まう竜人が複数体、もしくは我々と対峙している南の浮遊都市を統べる竜人ジェイロス・ビート・サウスウェル・リューリックが出てきた瞬間我々は壊滅してしまう』
『確かに・・・』
『それにだ・・・我々も含め後何人のエルフが戦う事が出来る?何千か?何万か?戦える者は多いに越した事はない筈だ。それに・・・お前は次世代の、我々の子らに戦いを残すつもりか?』
『その通りでございます・・・王よ。私の哀れな考えをお許しください!』
『よい・・・お前は俺よりも心配性なだけだ。その事を攻め立てるつもりなぞ毛頭無い』
『ありがたき幸せ・・・王よ。感謝いたします!』
『お前が納得したのであれば・・・準備はお前に任せ、俺も準備をしようか』
『ま、まさか王自ら!?』
『俺自らが行かなければ意味は無いと思うのだが?』
『し、しかし王自らが交渉とは・・・』
『それほど本気だと思ってもらわなければならないのだよ』
『わかりました我が王・・・では準備いたします。人間の国への交渉の準備を』
『よろしく頼むぞ』
エルフの王と付き人のエルフはこれより行われる人間の国への交渉の為の準備をするのであった。
打倒バルエラ竜王国を掲げ、同盟となることを信じて・・・
東の滅びたとされている島々・・・
この島々は数百年前・・・明確には明かされていないが、滅びたと言われている文明の名残が転々とする島々には魚人や人魚達が暮らしている。
大小二十六の島々から構成された連合国家であり、その名をアクモア海洋都市国家連合。
しかしながら国家とは名ばかりのならず者達からなる国ではあるが・・・それでも国なのだ。
海洋都市国家の名の通りに各島々、二十六の島々にはその都市を治める都市長によって運営されている。
島国であるのでバルエラ竜王国、人間の国とは陸続きではないが・・・それでも数日前に起きた事件の為に今現在会議をしている最中だ。
議題は数日前に起きた出来事・・・人間の国に存在する強大な結界が消滅に関してであり、どうやら意見が纏まったようだ。
『それじゃ・・・人間の国に攻め込むってことで決定ですね?』
『当然の結果だな!』
『そうですね・・・ですが決めなければならない事がありますよ』
その言葉に反応してこの場の全員が頷く。
そしてその決めなければならない事とは・・・何処から攻め込むべきかということだ。
アクモア海洋都市国家連合と人間の国々、王国、帝国、魔法国との三ヵ国と海を隔てて隣接している。
一番近く、そして比較的穏やかな時が多いのはエルピーラ王国近郊の海。
海面気温が高く浅瀬が多いのはスペルオーネ帝国近郊の海。
そして海面温度も低く、三ヵ国の中でも最も深い海峡が存在しているのがエレメンティア魔法国近郊の海。
この三つ海のどれから攻め込むべきが議論しようとしているのだが・・・ある人魚の一言によって終結する。
その一言とは・・・『好きなところをその都市で攻め込めはいい』っと。
確かにその通りであり、二十六の島々の部隊を全部一ヶ所に集めて戦う必要は全く無いのだ。
あまりにも当然なことなのだが、時として当然のことでさえも気がつかないというのはよくあることだ。
『じゃ・・・人間の国々に攻め込むのは各都市の自由ということで』
『何でこんな単純なことに気がつかなかったんだろうなぁ・・・』
『さんせーい!その方がいいなぁ』
『なぁ・・・競争しようぜ!どの都市が多く人間達を狩れるのか?』
『いいねぇ!僕は大賛成だよ!』
『反対意見は・・・ないですね。ならば決定ということで』
『わいわい』っとこれから行うであろう人間の国々に対して行う進軍を楽しみにしている魚人や人魚達。
どの魚人、人魚も人間に対しての敵対心を露にしている。
その理由は単純明快・・・人間が彼ら魚人、人魚にとっての餌にしかならないからだ。
元々彼らは同族である魚人、人魚以外であれば何でも食べる種族で、時としては力尽きた竜人でさえも食べたこともある。
そんな魚人、人魚達が楽しみに会議をしていると急に周囲が騒がしくなり始める。
会議は密室で行われているが、それでも扉越し、壁越しに伝わってくるのは何なのか?
疑問に思った一人の魚人が扉を開けようとしたその時・・・扉が勢いよく開け放たれ、傷だらけの魚人が入ってくる。
『な、何事か!』
『ど、どうしたんだ!?』
『その傷・・・誰に殺られたんだ!』
傷だらけの魚人は腹部を串刺しにされ、その傷は肉抉り、骨を砕き、そして貫通してしまっていた。
明らかに致命傷であり・・・直ぐ様に傷の手当てをしなければ間に合わない。
今魚人、人魚達が会議をしているのは海底に設けられた海中神殿で、もちろん救護所も存在し、救護班も存在する。
まさか敵の奇襲により救護所が襲撃されたのか思った魚人、人魚達であったが・・・後ろから救護班に属する人魚が無傷で駆けつけて来たので安心したが議論が生まれる。
何故この魚人は自身の傷の手当てもせずにこの会議室へと来たのか?明らかに致命傷であり、直ちに処置を施さなければならないこの状況で会議室に来る理由それは・・・
『ほ、報告します・・・我々の海域に見知らぬ船が・・・』
『見知らぬ船?』
『人間どもの船か!?』
『ち、ちが・・・う・・・あれは・・・』
『あれは?』
『人の・・・皮をかぶっ・・・た・・・化け・・・も・・・の・・・』
最後の一言を言い終え、その魚人は息を引き取る。
それを看取ったこの場の全員の目の色が変わり・・・そして全員海上へと浮遊する。
海上に出た魚人、人魚達が見たのは全身が真っ黒に塗られた中型の船なのだが・・・異様な雰囲気を醸し出している。
真っ黒に塗られた船はには多数の魔方陣が描かれ、そして周りには奇妙な見慣れない文字が刻まれている。
『な、なんだ・・・この船は?』
『船・・・なのか?帆が無いが・・・どうやって?動かすんだ?』
『なんだか気味が悪いですね』
浮上した魚人、人魚が口々に不安や、警戒心を露にしていると・・・船の上に人影がいることに気がつく。
ローブを被っているのでその顔を見ることは出来ないが、その手にはどす黒・・・殺意を具現化させたような弓が握られている。
『次から次へと・・・やはり全滅させた方がいいのですかね』
殺意を具現化させたような弓と共に怒涛の殺意が魚人、人魚達を襲うのであった。




