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疫病の狂天使

  スヴァ都市国・・・中央区とある路地にて


『それにしても・・・何故今日から警備を厳重にする必要があるんですかね?』

『さぁな・・・俺にもわかんねぇよ。別に都市国で問題が起きたわけでも、周辺国で騒ぎが起きたわけでもないのに警備を厚くする必要はない筈なんだが・・・』

『もしかして、これから何か起きるんでしょうかね?』

『流石に戦略長でも予知能力はもってないだろう』


  夜間警備をしている二人の警備兵は談笑しながら巡回をしている。

  警備をしているようには見えない二人組だが、一様警備兵の装備である剣と軽鎧を身に纏い、その手には魔法の炎を灯したランタンを持っている。

  この二人組と同じような装備をした警備兵が合計で二十名が都市国を巡回しており、都市国の中央区、北区、南区、東区、西区に四名ずつ巡回している。

  そして警備兵駐屯所に四名待機している状況だ。

  この警備態勢は通常の警備態勢の二倍で、何故今日からこの警備態勢になかったのかは今巡回している警備兵、駐屯所で待機している警備兵も誰も知らないのだ。


『おや?』

『どうしたんだ?』

『彼方を見てくださいよ』


  警備兵の一人がそう言いながら指差す先には、魔法の明かりが揺れており近づいて来ているのが見てとれる。

  お互いの顔が確認できる距離にまで近づき、近づいてきた相手が同じく区画を担当する警備兵だと確認できるとお互いの情報を交換しあう。

  お互いにこの巡回では問題が無く、やはり何故今日から警備が厳重になったのか疑問になっていた。

  そんな中・・・話し合いをしていた最中、突如地面が爆発する。

  いったい何が起きたのか?何故爆発したのか?その答えを考える前に四人の巡回していた警備兵はこの世を去る。

 

  スヴァ都市国・・・中央区・都市長邸


  スヴァ都市国にて比較的安全な土地に立てられ、貴族の館程ではないが都市国ではそれなりの大きさに分類される都市長の邸宅は、今起こった爆発により揺れて棚に置いてあった食器や、コップが落ちその場に散乱する。

  何事かと飛び起きたワルトが寝室の窓を開けて周りを確認すると・・・そこには其処らかしこから爆炎が起き、火柱が天に向かって上がっている。

  何処からどう見ても酷い惨状であり、何故こうなってしまったのか検討もつかないワルトだが、今は考えるよりも先に行動する方が先決だと判断し行動しようとしていると扉がノックされ開かれる。

  部屋の主の許可も得ずに入ってきたのはワルトの妻と子で、二人の顔は不安と、恐怖、困惑によってどうしたらよいのか慌てた様子だ。


『あなた・・・い、いったい何が起きているのですか?』

『私にもわからない・・・だが、考えるよりも先に行動するのが先決。君は屋敷の者達と一緒に地下室に避難するんだ』

『パパは?パパも一緒でしょ?』


  そう言いながらワルトの袖を握る息子の目には涙が浮かんでいた。

  子供特有の直感によって察知してしまったのか、ワルトがこの場を離れ行ってしまわないのか不安なのだ。

  しかし、ワルトは一緒に行けないのだ。

  もちろん妻と子供を残してこの爆炎と、火柱が響きわたる都市国へと出ていくのは気が引ける。

  できるのであれば妻と子供と共に地下室へ避難し、この悪夢のような惨状がおさまるまで一緒にいたいのが本当の気持ちだが・・・そうも言っていられないのだ。

  ワルト・ルールズ・ドルイーターはこの国、スヴァ都市国の都市長なのだ。

  皆を纏める者が先導して現場に出て指揮をする。それがスヴァ都市国であり、ワルト・ルールズ・ドルイーターが皆から信頼される最もな理由なのだ。


『すまない・・・パパはこれから現場に赴き、事態を収集しなければならないのだわかってくれるね』

『パパは一緒に来ないの・・・』


  涙が浮かびそうになるワルトだが涙をこらえ、息子を抱き締める。

  どんな子供よりも愛らしく、まさに目に入れても痛くないほど愛らしい息子を強く抱き締める。

 

『大丈夫・・・パパはきっと帰ってくる』

『本当?』

『本当だ。パパが嘘つた事なんてないだろう?』

『うん』

『だからお利口にして待っててくれないか?』

『わかった。僕待っている』

『すまない・・・妻と子を頼んだぞ』


  そう家の執事に頼んだワルトは一人、この惨状に向かって飛び出してゆく。



  屋敷を飛び出したワルトが目にしたのは逃げ惑う市民と、必死に消火活動をする者達がいる。

  主に逃げ惑うっているのは女性や子供であり、男性は必死に消火活動をしているが火の手が大き過ぎるからなのか未だに消火出来ずにいる。

  消火活動をしていた一人が気がつきワルトに近づいてくる。


『都市長いったい何が起きているのですか?』

『わからない・・・誰か現状を説明出来る者はいるか?』

『それならあの者が』


  そう言いながら連れてこられた男性は所々が焼かれてしまってはいるが、動く事に支障がないらしく消火活動を起こっていた人物だ。


『この場で何が起きたのか説明してくれ』


  ワルトの指示で所々が焼かれてしまった男性は話始める。

  夜中に目が覚めてしまい、水を飲もうとしていた矢先に爆発が鳴り響き、何事かと外へでて確認したところ三軒先の建物が炎に呑まれる瞬間だったという。

  どうする事も出来ずに突如として爆発が起きたので、周りの者達をかき集めて消火活動をしている最中だと言うのだ。


『なるほど・・・無差別による爆発という線が濃厚か』

『もしかするとここ以外にも爆発が!?』

『えぇ、そうです。私の屋敷から見える範囲では三ヵ所程爆発が発生してました』

『なんという・・・いったい何が』


  ワルト達が話していると上空を何者かが通過するような音が聞こえてきて、再び戻りワルト達の前に一人の魔導師が降り立つ。

  魔導師のローブを身に纏い、その腕には飛ぶのに使用した箒を持っている。

  ローブを着ているから分かりにくいが・・・ワルト達の前に降り立った人物には胸があり、女性だという事がわかる。


『都市長大変です!!』

『どうした!?やはり複数箇所で爆発が?』

『確かにそうですが違うのです』


  いったい何が起きているのかと確認しようとした矢先に再び轟音が響き渡り、何かが落下してきたのか砂埃が辺りに舞い上がる。

  何事かと驚き落下してきた者を見てその場の全員が恐怖する・・・

  落下して者の正体はこの世界の厄災・・・疫病の狂天使だ。

  その身体は死人のように青白く、不釣り合いな程に隆起した両腕にソレを支える脚は人間のままなのが余計不気味だ。

  瞳は狂気に駆られたように真っ赤に染まり、血で出来たような・・・枯れ枝のような翼に同じく血で出来たような天使の輪はまごうことなき人外の存在だ。


『疫病の狂天使!?』

『まさか追ってきたの?』

『ぎぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁ』


  疫病の狂天使が悲鳴にも似た叫び声をあげて攻撃を仕掛けてくる。

  血走った眼からは理性は感じられず見るもの全てに攻撃し、ワルト達目掛けて拳を降りおろす。

  しかしワルトに当たる事はなく、疫病の狂天使が攻撃した地面は魔法の攻撃をうけたように凹む。

  わざと外したわけではない。ワルトの隣で話をしていた魔導師が風の魔法・風による浮遊(エアーコマンド)を使用してワルトと共に後方へと回避したのだ。


『大丈夫ですか?』

『すまない助かった・・・』


  額に汗を滲ませ、この状況をどうするのか考えているワルトだが・・・それよりも先にワルトの前に炎を消そうとしたいた男達が壁になるようにして遮る。

  男達の手に爆発によって辺りに散らばった木や、そこら辺に置いてあった木材等を手にとり疫病の狂天使と対峙している。

  その程度の武器では疫病の狂天使に傷つける事など不可能だと理解している。理解しているが・・・最早覚悟を決めなければならないのだ。

  大切な者や、財産等を守る為にたとえ不可能だとしても、この場でこの疫病の狂天使と戦わなければならないのだ。

  ・・・命を捨てたとしても。


『アレイスティアこの場は俺達がなんとかする』

『お前は都市長をつけれこの場から離れるんだ!』

『な!?ま、待つんだ君たち』

『都市長四の五の言っていられませんよ、この場で貴方を失う訳にはいかないのですよ』

『そうですよ都市長。時間ないんですから』

『・・・皆さん。すみません』


  男達と別れの挨拶を済ませてワルトと風の魔導師、ヘルメス・T・アレイスティアは夜の都市国へと飛び立つ。

  その後・・・衝撃と共に悲鳴が聞こえて来たのは言うまでもない。


  スヴァ都市国・・・中央区より西区付近上空


  男達と別れ、安全な空へと逃げたワルトとヘルメスは言葉を失ってしまう。

  都市国上空から見える光景はまさに戦場と言う言葉が似合う惨状になってしまっていた。

  都市国のあちこちで炎が巻き起こり、火災が発生してしまっている。

  だが・・・惨状というのは火災だけではなかったのだ。


『そ、そんな・・・』

『どうしたんだ!?』

『都市長アレを見てください・・・』


  双眼鏡で都市国の状況を見て、安全な場所を探していたヘルメスの顔色は優れず、その瞳は恐怖がやどっくている。

  何故そのような事になってしまったのか・・・ワルトは双眼鏡を借りてヘルメスの指差す方向を見て驚愕する。


『疫病の狂天使・・・』


  ワルトとヘルメスが見た先には、先ほどのとは違う疫病の狂天使が暴れており、建物を壊し市民を襲っている。

  その姿は先ほどの疫病の狂天使と似ている部分、死人のような青白い肌に、血で出来ているような翼と、天使の輪、そして狂ったように血走った眼は同じだが、その下半身はタコを思わせるような十本の不気味な触手が蠢いている。

  剣を持って応戦しようとしている人がいるが・・・一本の剣では十本ある触手を全て捌く事は出来ずに触手に絡まれてしまい、圧死してしまう。

  複数の人物が疫病の狂天使を取り囲んでいるが、目の前で殺されるのを目にして戦意が目に見えて薄れてゆく。奇襲され、鎧も何も身を守る術がないこの状況では打開するのは難しいのかもしれない・・・


『なんと言う事だ・・・疫病の狂天使が二体も一度に降臨するなど』


  あまりの悲惨な状況に思わず目を瞑ってしまうワルト。

  しかし、奇襲され疫病の狂天使によって被害が拡散してゆく最中に、上空から魔法が放たれるのを目撃する。

  遠くでわからないが、何者かが魔法を放ったようだ。


『魔法!?まさかあっちにも?』

『アレイスティアすまないあっちに向かってくれ』

『わかりました』


  魔法が放った地点に移動したワルトとヘルメスの前には、風による浮遊(エアーコマンド)による浮いている人物が五名程、別の疫病の狂天使に向かって魔法を放っていたのだ。

  その五名の中には魔導長、ノロン・ドラレイン・ノックオンがいるのがわかる。

  彼女の魔力であれば五人程度の人間を浮かせる事など余裕であり、もっと大勢浮かせたとしても問題ない筈だ。

そして彼女達が戦っている疫病の狂天使は、身長は鎧でも纏っているのかような錆色の硬質化の甲殻を身に纏い。

その甲殻が全身を覆っているからなのか皮膚の色まではわからないが、その仮面のしたから覗かせている瞳には憎悪に溢れている。

甲殻から飛び出している疫病の狂天使特有の血で出来た翼に、天使の輪はまごうことなき人外の象徴だ。


『魔導長!』

『アレイスティアと・・・都市長か』

『魔導長・・・こ、ここにも疫病の狂天使が!?』


  挨拶もそこそこにノロン達が攻撃した相手が疫病の狂天使だと確認すると、ワルトとヘルメスは驚きの声をあげてしまう。

 

『都市長驚いていること悪いですが疫病の狂天使は彼方にもいるんですよ』


  そう言いながらノロンと共にいた魔導師が東区を指差す。

  その方向を確認するや否や、魔法による衝撃なのか爆発が発生する。

  ノロン達の話によると、今ノロン達が戦っているのとは違う疫病の狂天使が暴れていると言うことだ。

  ソレを聞いてワルトとヘルメスは再び驚き、あまりのありえない状況に途方にくれてしまう。

  今この都市国では訓練を積んだ一人前の戦士、同じく一人前の魔導師達が束にならなけれ勝てない相手が四体。疫病の狂天使が同時に暴れているのだ。

  疫病の狂天使は説得できない。そもそもあの生物が言葉を理解しているのか疑問はあるのだが・・・力づくでしか止める手段はないのだ。

  それに疫病の狂天使には個体差が存在し、先ほど確認した筋肉隆々な疫病の狂天使もいれば、下半身が他の生物へ変化した個体など。記録を見る限りでは家より巨大な狂天使が存在していたなど、嫌な噂にはこと欠かさない存在だ。

  疫病の狂天使の中には炎に耐性のある個体も存在し、魔法の炎が効かなかったなどとい事もあったほどだ。


『いったい何が起きているんだ!?疫病の狂天使が四体!?これでは消火活動をしている暇がないぞ』


  最早都市長という地位をなぶり捨てたワルトの悲痛な叫びにも似た声が都市国の上空響き渡る。

  ソレを聞いたヘルメスに閃く物が思いつく。


『都市長!マリア様!マリアティアス・V・ヘリエテレス様に協力してもらってはどうでしょうか?』


  ヘルメスが提案したのはマリアティアスにこの都市国で起きてしまった惨状である、火災や狂天使の対処をしてもらおうというものだ。

  確かにマリアティアスはこの都市国内でも指折りの魔導師であり、特にマリアティアスの使える魔法は火災等に有効な水の魔力を使えるので協力してもらうにはもってこいであるが・・・少し問題がある。

  マリアティアスは確かにこの都市国に住んではいるが、ヘルメスのようにノロンの魔導協会に属してはいない。なので権限を使って召集する事が出来ないのだ。


『確かに、だが彼女の魔力ではれば大丈夫だとは思うが・・・協力してくれるのだろうか?』

『マリア様なら協力してくれる筈です』

『私はこの疫病の狂天使を相手にするので手一杯なんで説得は任せたよ』


  そう言いながら疫病の狂天使に向かって魔法を放つノロン。

  ノロン達、五人の魔法を喰らっても未だに倒されてはおらず建物を破壊し、やはり理性が無いのか暴れまわっている。

  どうやらこの疫病の狂天使は遠距離に対して攻撃手段が投擲しかないらしく、ノロン達には時々当たるが防御魔法でなんとかなってはいるが・・・ノロン達もまた魔力は無限ではないので、空中で戦うのには限界がある。

  なので増援にマリアティアスが来てくれるのは願ったり叶ったりだ。


『ならば私も同行しよう・・・私にはこの場でやるべき事はないようなので』

『わかりました。それではセラフィア教会へ向かいます』


  そういい終えるとヘルメス達はこの場を去ってゆく。

  自身の魔力量と速度を計算し、最適な速度で飛行しているヘルメスの前に火の手が見えてくる。

  場所はヘルメス達が向かっている方向・・・セラフィア教会の方だ。


(あの炎の場所・・・まさかマリア様の!?)


  速度を上げて教会へと向かって行くヘルメス達が見たのは、抱いた希望をぶち壊す。そんな光景が広がっていた。


『そ、そんな・・・教会が』

『なんという事だ・・・これでは』


  セラフィア教会へとたどり着いたヘルメスが見たのは、業火に呑まれたセラフィア教会であった。

  しかしそれだけではない。

  何かが爆発したように辺り一面の地面が抉れ、所々が業火の残り火によって燃えているのだ。

 

『アレイスティアさんとりあえず地上に降りましょう』


  ワルトの指示により安全そうな場所に降り立ったヘルメスは、辺りで消火活動をしている人物に話しかける。

  数名が火を消そうとしているが人間の手では炎の勢いを弱める程度しか出来ておらず、消火活動は難航しているのが見てとれる。

 

『すみません。この惨状はいったい何なのですか?』

『あぁ・・・あれは数時間前の事だな、俺が寝ていた時に突然爆発が響き渡ったんだよ。何事かと思って外に飛び出すと教会が爆発したように燃えていたんだよ』

『な!?そんなまさか・・・』

『しかしまだそれだけじゃ終わっていなかったんだ。ほらあの家や、あっちの方の道路付近でも同じように爆発してしまったんだよ』

『やはり何処の地区でも爆発が!?』

『何!?この爆発はここだけじゃないのか?』

『違います。この区画の他にも上空で見た範囲では都市国全部・・・全ての区画で爆発が起きて火災が発生しています』

『なんてこった・・・だから手が回らないのか』

『それだけではないのだよ』

『と、都市長・・・それはそういう意味です』


  ワルトは一呼吸おいて話始める。

  今この都市国で起きている惨状について・・・


『そんな・・・疫病の狂天使が四体も』

『そうなのだ・・・だから私達はマリアティアスさんに助力を頼もうとしたのだが』


  ワルトは喋りながら顔色を伺っていたが・・・どうやら望むような答えが返ってくることはなかった。


『残念ながらマリアティアスさんは見つかってはおりません。セラフィア教会があのような惨劇ですし・・・』

『ま、まさかマリア様が面倒を見ていた子供達もですか?』


  首を横に振り『残念ながら』とかえされる。

  その場で座り込んでしまうヘルメス。彼女は一度マリアティアスに救われており、暴れ馬が暴走した時に魔法によって助けてくれたのだ。

  咄嗟の出来事で反応出来なかったヘルメスは、マリアティアスが助けてくれなけば確実に命を落としていたのだ。

  そのような縁もあり、ヘルメスはマリアティアスの事を実の姉ように慕い、セラフィア教会で住んでいる子供達とも仲がよかったことから受けたショックは大きかった。


『そんな・・・マリア様、子供達が・・・』


  悲しみによってヘルメスの目には涙が浮かんでしまう。

  しかしヘルメスは泣いてはいられない。ヘルメスもまたこの都市国で生きる者であり、まだ魔法が使えるのだ。

  悲しみに更けるのは後からでも出来る。

  ヘルメスは流れる涙を拭い、やるべき事・・・疫病の狂天使を倒す為にこの場を後にする。





  スヴァ都市国・・・セラフィア教会上空


  都市国のあちこちで爆発が起き炎に呑まれる最中、彼女達は遥か上空でこの惨劇を観戦している。

  その中の一人の右側には赤い宝石が嵌め込まれた奇妙な文字が書き込まれた杖を持っており、もう一人もまた宝石は嵌め込まれていないが奇妙な文字が書き込まれた杖を持っている。

  そして二人の真ん中には、不思議な聖書らしき分厚い本を腰に下げている女性がいて、どの女性も聖職者らしき服を着ている。

  黒色ではあるが・・・


『あら、彼女は・・・』

『ヘルメス・T・アレイスティア。たまに教会にくる風の魔導師』

『どうしますマリア様?』

『このままでは彼女は狂天使とぶつかりますよ』


  そう・・・スヴァ都市国上空にてこの惨劇を観戦していた人物の名はマリアティアス・V・ヘリエテレス。

  そしてアリセスとエールの二名だ。

  何故この状況で観戦などしているのか・・・何故助けにいかないのか?

  度重なる疑問は生まれるが・・・マリアティアスは裂けたような笑みを浮かべて答える。


『別にどうもしませんよ。私にとって重要なのはこの惨劇の観察。別に誰が死のうが誰が助かろうが関係ないのですよ。まぁ・・・貴方達は別ですが』


  両手を広げアリセスとエールを抱き締めるマリアティアス。

  アリセスとエールの二人もまたマリアティアスに向けて感謝の言葉を発する。

  その姿はまるで同じく教会で働いているだけの存在ではなく、もっと親密な・・・そんな関係に思える。


『ただ・・・彼女が私の考えに賛同してくれるのであれば、仲間にすべきでしょうね』


  マリアティアスとアリセス、エールは疫病の狂天使に向かって行くヘルメスを見つめる。

  その瞳には実験動物を見るような冷たい瞳だが・・・

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