聖薔薇騎士団
スペルオーネ帝国とある村近郊森林区画にて・・・
マリアティアスとソイルはマリアティアスが何故この地にいるのかについて話し終えた最中であり、今はソイルの持っている簡易食料で少し休憩中だ。
『なるほど・・・そのようなことが』
『はい・・・なので、あの・・・少し、昔の話はお話したくないのです。も、もちろん・・・話せと言われればお話しますが・・・』
緊張気味に、しどろもどろに答えるマリアティアス。
マリアティアスのその姿を見て何を思ったのかソイルは一気に表情を変え、頰を高揚させてしまっている。
『だ、大丈夫ですマリア様。もうこれ以上の事はお聞きしません。それに私の部下にも釘を刺しておきます』
その答えに対してマリアティアスは食事を辞めて深々とお辞儀をする。
(あぁ!あのお方が私に対してこのような態度を。も、もしかすれば・・・)
マリアティアスがお辞儀をしている最中にソイルは不敵に笑う・・・
『あの・・・マリア様。私の事を覚えていらっくしゃいますか?』
お辞儀を終えたマリアティアスだが・・・ソイルが何を言っているのかわからないのか小首傾げる。
(・・・昔会ったでしょうか?しかしこの女性はエルピーラ王国の第二王女ソイル・ネロクリリス・ラック・エルピーラ会っていたでしょうか?)
『無理もないですよね・・・あの時の私はまだ何も知らない少女でしたので』
そう言ってソイルは手に持っているロケットペンダントと、小さな短刀を取り出す。
小さな短刀は少し傷が付いてはいるが手入れされている様子であり、ロケットペンダントは確かに珍しいが、エルピーラ王国の第二王女であるソイルであれば持っていても不思議ではないと納得するマリアティアス。
『これは私が幼少の頃に助けて下さった方が残してくれた物なのですが・・・覚えてませんか?』
そう言いながらマリアティアスに短刀を差し出す。
(この短刀・・・まさかあの時の?)
マリアティアスは記憶の中に存在するこの短刀、そして助けた少女の事を記憶の奥底から思い出す。
今より十年以上前・・・エルピーラ王国にて
幼少期のソイルはとある病に侵されていた。
王国内でも流行していた流行り病であり、決して治療できない病ではなく、ちゃんと治療するれば直させる病だ。
それに王の娘であるソイルであれば国で最高の医療を受けさせてもらえるのも当然であり、幼少期のソイルも王族専属の治療薬剤師の元で治療を行なっていたのだが・・・流行り病とは別の物に苦しめられてしまっていたのだ。
その別の物とは・・・呪い。
いつ、何処で、誰が何のためにソイルに呪いをかけたのかは不明だが、ソイルは苦しめられていたのだ。
王室に対して怨みを持っている人物がいないと言えば嘘になるが・・・それでも幼子であるソイルを狙う理由にはないはずだ。
しかしながらソイルは呪われてしまったのだ。幼いソイルを蝕み、呪いによって夜も眠れない日々を過ごしていたソイル。
三日三晩・・・それ以上の月日を呪いによって蝕まれてしまい、徐々に衰退していってしまうソイル。
国王、そして側近の面々も国中を駆け回りこの呪いを解く方法を探し回ったのだが、結果的にこの呪いはこの呪いをソイルにかけた本人にしか解くことが出来ないと治療薬剤師に言われしまったのだ。
その言葉を聞き落胆してしまった国王に何も言えなくなってしまう王女。そして半分諦めてしまった兄弟達。
しかし・・・ソイルを蝕む呪いは突如として、何事も無かったかのようになくなってしまったのだ。
マリアティアスの気まぐれによって。
当時マリアティアスは王国に赴いていて、立ち寄った食事処で聞いた話を頼りに王城へと侵入し、幼少の頃のソイルの呪いを解き、病を癒してあげたのだ。
しかしながらマリアティアスは呪いを解くことに集中していたが為にミスをおかしてしまい、王城から撤退するさいにこの短刀を落としてしまったのだ。
(なるほど・・・そういえばそんな事もありましたね。あの当時はいろいろありましたし、この力がどの程度出来るのか試している最中でしたのでねぇ・・・まぁ、今も研究中ですけど)
記憶の奥底に眠るソイルとの出会いを思い出したマリアティアス。
そしてその事を思い出したマリアティアスは次なる策略の一手を打つ・・・
『思い出した!あの時の女の子ですね?』
マリアティアスのその一言によって満面の笑みを浮かべるソイル。
もじもじと恥ずかしそうにしているソイル。
その姿はとてもエルピーラ王国の第二王女ソイル・ネロクリリス・ラック・エルピーラでも、聖薔薇騎士団団長でもなく。
一人の少女が其処にはいた。
『元気になられたのですね良かったです』
『は、はい。お陰様で』
『今は・・・騎士様になられたのですね?』
『そ、そんな騎士様だなんて、そんな、私はただ・・・』
『ただ?』
(はわわわわわ!?わ、私、今マリア様と会話しています。しかし・・・私が聖薔薇騎士団を創設した理由がマリア様を探すためだと知ったら・・・流石に辞めておきましょうか)
心の中で自身が聖薔薇騎士団を創設した理由を揉み消すソイル。
今は語るべきではないと判断したからだ。
『そ、それよりもマリア様此処は危険です。マリア様が大丈夫なのであれば移動したいのですが・・・』
(・・・まぁ、私は問題ないですが、とりあえずこれだけ時間をかければ大丈夫でしょうね)
ソイルに気がつかれないように不敵に笑うマリアティアス。
そしてマリアティアスはソイルの指示に従うようにこの場を後にする。
ソイル率いる聖薔薇騎士団簡易駐屯署にて・・・
ソイル率いる聖薔薇騎士団の簡易駐屯署に案内される。
その間にソイルの部隊と合流したのだが・・・何やら問題が発生しているようであり、マリアティアスを案内した後にソイルは会議をするためにこの場を去ってしまった。
『さてはて・・・いろいろと面白い事になって来ましたね』
マリアティアスは楽しそうに笑いながら一枚の札を取り出す。
そしてマリアティアスはその御札に魔法で文字を描く。
一文字一文字、一画一画後とに魔力を消費してしまう魔法であり、今のマリアティアス・・・竜王オール・ディストピア・バルフロン・マリッジと激戦したばかりであり更に竜化、竜法秘伝・竜融血装を使用してしまったが為に、残りは僅かとなってしまったのだ。
しかし残り僅かとなってしまった魔力でも、必要最低限の魔力は維持しており、今のマリアティアスは普通に生活出来ている。
・・・強力な魔法は放つことは出来ないが。
『さて・・・書き終わりましたし、お願いしますね』
そう言い終えるとマリアティアスは御札に更に魔力を込める。
すると御札に多数の紙が重なり合い、ひとつの形になる。
その形は鶴・・・マリアティアスの魔力によって折り鶴と変化したお札が開けた窓から飛んで行く。
『お待たせしましたマリア様』
マリアティアスが折り鶴となったお札を飛ばしから数分後・・・ソイルがマリアティアスに貸している部屋へと入ってくる。
その顔は野人部隊と連絡が取れないからなのか暗くなってしまっている。
『暗い顔ですね・・・どうされたのですか?』
『いえ・・・マリア様には関係のないことです。私の部隊の問題なので・・・』
『そうなのですか?しかし、話すことで少しは楽になるかもしれませんよ。それに・・・』
マリアティアスが言い終えるよりも先に野人がマリアティアスの部屋へと入ってくる。
『な!?貴女、ノックも無しに入ってくるのは非常識で』
『無礼お許しください!ソイル様遠方、南側より疫病の狂天使が複数体接近しているとのことです!』
『なに!?直ちに戦闘・・・』
ソイルが言い終えるよりも先にマリアティアスの部屋が破壊されてしまう。
何事かと驚いているソイルを他所に、マリアティアスは気がつかれないように防御魔法を発動させてソイルとマリアティアスの身を守る。
しかしながらマリアティアスが守らなかった野人は破壊された瓦礫が直撃してしまう。
『こ、これは!?』
壊れてしまった家屋の瓦礫によって潰されてしまった野人。
そして何故家屋が壊れてしまったのと言うと・・・野人と同じように上空を監視していた風の属性魔導師が倒され、そして投げ飛ばされてしまったからだ。
投げ飛ばされた風の属性魔導師は家屋に直撃してしまったが故に・・・悲惨な状態となってしまっているが・・・
『くそ!?もう既に・・・』
『ソイル様私のことは気にせずに討伐に向かってください』
『わ、わかりました・・・マリア様。何かありましたら直ぐに叫んでください。直ぐに向かいますから』
ソイルがマリアティアスの部屋を出て行っている最中に村の外から世界を怨むような咆哮と、圧倒的な・・・威圧感と共に舞い降りる疫病の狂天使。
全部で合計十体の疫病の狂天使がこの小さな村に舞い降りたのだ。
『全部で十体。私の部隊なら倒せますが・・・サリアの率いる野人が少なくなかっているのは痛手ですね。それにしても・・・サリア達は一体何処に行ってしまったのでしょうか?』
ぶつぶつと呟きながらソイルは準備を終えて、疫病の狂天使十体を確認する。
もう既に何名かの聖薔薇騎士団が戦っているようであり、あちこちで戦闘音が鳴り響いている。
そしてその十体の疫病の狂天使の中でも圧倒的な威圧感を放っている疫病の狂天使が三体・・・身体の半分以上がフジツボのような物体に覆われしまっている疫病の狂天使。
その身体に付着しているフジツボからは嫌な雰囲気のする液体がドロドロと出ており、遠くからで感じるほどに異臭を放っている。
次は上半身は普通の疫病の狂天使、よりも細身のタイプなのだが・・・下半身が甲殻類になっている疫病の狂天使。
細身の身体を支える八本の異様に細長い脚のような物。
アンバランスな非常に脆そうな体型をしているのだが・・・この疫病の狂天使はどうやら魔法が使えるようだ。
その証拠に細い両手にはその体格に見あった長目の水の属性魔法で作り上げた薙刀が握られている。
最後は大きな体格・・・大きさにして家の二階ほどあるどっしりとした体格に、出っ張っているお腹が特徴的な疫病の狂天使。
その両手にはその大きな体格に見合う巨大な、石で出来たような大剣を持っており、既に何名かを殺めたのかその大剣には血がどっぷりと付着してしまっている。
『あの疫病の狂天使は私でなければ相手出来ませんね』
そう言いながらソイルは手に持っている剣を手に取り抜刀する。
鍛え上げられたソイルの剣には王家の家紋と共にソイル率いる聖薔薇騎士団のマークが刻まれている。
ソイルの剣は細身の女性でも扱いやすいように改良されたクレイモアであり、そのクレイモアには風の魔導石を埋め込んでいて剣撃の速度を高める効果があるのだ。
『最速で決めさせてもらいますよ!』
クレイモアを手に、大剣を持っている疫病の狂天使に攻撃を仕掛けるソイル。
ソイルの脚力と瞬発力により大剣を持っている疫病の狂天使が攻撃するよりも速く行動し、攻撃が疫病の狂天使の身体を引き裂く。
しかしながら痛みを感じない疫病の狂天使は、自身の身体が引き裂かれるのも気にもせずにソイルに斬りかかる。
『受け流は無理ですね・・・』
そう言いながら優雅に回避することに成功するソイル。
ソイルに当たることのなかった大剣が地面に直撃し地面を抉る。
『ぎぃぃぃぃぎゃぁぁぁぁ!』
ソイルに攻撃をかわされて怒っているのか疫病の狂天使がソイルに向かって手当たり次第、無差別に攻撃を繰り出す。
体格に、そして自身の身体能力に依存した攻撃の範囲は広く、徐々にソイルの逃げ道を塞いで行くが・・・
『見切った!』
本能の赴くままに攻撃していた大剣を持っている疫病の狂天使の攻撃を見切ったソイルが、王国最速の剣撃を疫病の狂天使に浴びせる。
『ぎぃ・・・ぎゃぁ・・・』
ソイルの無数の剣撃によって力無くなった倒れてしまった大剣を持っている疫病の狂天使が、消えそうな悲鳴を上げて倒れて込む。
『次へと向かいましょうか』
額から流れる汗を吹きながらソイルは次の疫病の狂天使を求めてこの場を去る。
『この臭い・・・一体なんの?』
『あの疫病の狂天使から臭っているようですよ』
『何であんなのを相手にしなければならないのでしょうか?』
『あの・・・その・・・そ、それはフレル様が決めたことですので・・・』
『俺たちならあの臭いも気にせずに戦えるからだそうだ』
『戦えるって・・・まぁ、確かにあの臭う疫病の狂天使に接近戦をしてくだいって言いたくはないですよね』
『だから私達、魔導銃部隊と、弩部隊の出番なのですね?』
『一方的に攻撃出来ますからね』
『さて・・・お喋りもほどほどに。射程距離に入りますよ』
それぞれの武器、魔導銃と弩を構える遠距離攻撃部隊の面々。
遠距離から一方的に攻撃出来るこの部隊は、通常であれば疫病の狂天使に対しての後方援護として一塊にせず、各部隊に組み込まれなければならないが・・・今は違う。
その原因は彼女達の目の前にいる疫病の狂天使にあるのだ。
目の前にいる疫病の狂天使は身体の半分以上がフジツボのような物が付着している疫病の狂天使で、そのフジツボからは気味の悪い液体がドロドロと出ており、腐敗したような臭いを周囲に撒き散らしている。
その悪臭はとても戦っていられるような臭いではなく、その疫病の狂天使の情報を収集しようと接近した野人の一人が思わず耐えきれずフレルの元に戻ってしまったのが原因だ。
野人の職を有している人物は通常の人間よりは五感が鋭い傾向にあるが・・・それを考慮しても接近して戦う事が困難だと判断出来る程の臭いだと野人が力説したからだ。
ちなみに持ち帰った情報としては通常の疫病の狂天使よりも動きが鈍いらしく、その通りにフジツボが付着している疫病の狂天使の動きは鈍いのだ。
『撃ち方よーい・・・』
掛け声と共に一斉に構える魔導銃部隊に、拡散して疫病の狂天使の死角に入ろうと動く弩部隊。
全員が全員配置に付き・・・
『放て!』
合図と共に一斉に放つ魔導銃部隊と弩部隊。
複数発の一斉総射と、死角からの攻撃。
たとえ疫病の狂天使でも耐えることの出来ない攻撃が直撃し、疫病の狂天使が倒れる・・・はずであった。
『え・・・』
気がついた時には時既に遅く・・・魔導銃、弩部隊の攻撃が直撃したと同時に周囲を巻き込んだ大爆発が発生する。
そして跡形もなく吹き飛ばされてしまった魔導銃部隊と弩部隊。
こうしてソイル率いる魔導銃部隊と弩部隊は全体の八割以上の損害を出してしまい・・・壊滅状態に陥ってしまう。
残りの二割は他の部隊に行っていたので無事だが・・・一瞬にして起きた大爆発によりソイルの部隊の戦意が著しく低下してしまったようであり、ソイルもまた驚きと共に一瞬唖然となってしまった。
『そんな・・・全滅・・・』
『うそ・・・でしょ』
『え・・・あっ・・・どうして』
『お前達!滅入っている暇はない。敵はまだいるのだぞ!』
必死に聖薔薇騎士団を鼓舞させるソイル。
自身も脅えたい気持ちを圧し殺しソイルは剣を構える。
目の前で今まで苦楽を共にしてきた仲間が殺されたのだ怯えるのも当然であり、逃げないでいる聖薔薇騎士団も立派だ。
それに聖薔薇騎士団の活躍により、この村に飛来した十体の疫病の狂天使の半数以上が倒す事が出来ている。
残りの疫病の狂天使も順次聖薔薇騎士団の面々が戦っているのだが・・・ソイルは何か思う事があるようであり少し様子を伺っている。
『あの疫病の狂天使は一体何処に・・・』
ソイルの言っている疫病の狂天使とは水の属性魔法を扱う事が出来る八本脚の疫病の狂天使であり、最初に舞い降りた時以降は姿を見せていないのだ。
『ソイル様!』
『こちらです。どうなされたのですか?』
『この村へと侵入してきた疫病の狂天使は倒し終わりました・・・村への損害、そして我々聖薔薇騎士団の大きかったのですが』
『全部?あの疫病の狂天使はいったい何処に・・・』
ソイル考え事をしていると急に地面が崩落を開始する。
『な、何にごとです?』
『ソイル様!』
崩落した地面から出てきたのは八本脚の疫病の狂天使であり、水の属性魔法によって地面を液状化させているのだ。
ドロドロになってしまった地面と、八本脚の疫病の狂天使が扱う水の属性魔法によって渦潮のような物が発生し周囲の建物や、木々を呑み込み徐々に減って行く。
『いったい何が・・・』
ソイルが状況を把握するよりも先に疫病の狂天使が攻撃を開始する。
水の属性魔法で作り上げられた薙刀により水の斬撃がソイルに向かって飛んでくる。
足場の悪い泥によって動きが鈍くなってしまったソイル。
回避しようとしても泥濘んだ地面によって脚が上がらず直接してしまう・・・前に何かによって弾かれてしまう。
『これは・・・』
『ソイル様・・・逃げ・・・』
何が起きたのか理解出来ないソイルだが・・・事態は動き出してしまう。
ソイルの目の前で呑み込まれてしまう聖薔薇騎士。
助けてようとしたその時には時既に遅く・・・手を伸ばした先に掴んだのはただの泥だけであった。
『くそ・・・』
悔しがるソイルだが、何故かソイルだけは泥に八本脚の疫病の狂天使の発生させる渦潮に呑まれる事はなかった。
まるで風によって目に見えない足場が出来ているようで、ソイルだけは自由に動く事が出来るようだ。
『それにしてもこれは・・・』
『聞こえますか?』
『こ、この声は!?』
『私マリアです』
『そんなマリア様!?え、何故・・・近くにいるかなのように声が・・・』
『隠していてすみません。私は風の属性魔道士なのです。なのであの・・・風による浮遊で浮かせているのです』
『で、ですが何故私と会話を?』
『少し特殊な事をしまして・・・そ、それよりも早くその疫病の狂天使の討伐を、このままではこの村全てが呑み込まれてしまいます』
『そ、そうですね』
『残念な事なのですが私の魔力も残り後わずかなのです。人一人も満足に浮かす事が出来ません』
『わかりましたマリア様・・・』
武器を構え、見えない足場を軽やかに進んで行くソイル。
その動きは地上にいる時と何ら変わる事はなく何の障害もなくようだ。
八本脚の疫病の狂天使も水の属性魔法を放ち迎撃しようとしていたが、思うようにソイルに当てる事が出来ないとわかるとソイルを迎撃する姿勢に入る。
薙刀を使う八本脚の疫病の狂天使の方が間合いが長いが・・・隙もソイルより大きくなってしまう。
『一気に間合いに入らないと・・・』
『私が僅かに隙を作ります・・・ほんの一瞬ではありますが可能です』
『出来るのですか?』
『先ほど攻撃を防いだようにして防ぐ事が可能です。しかしながらほんの一瞬ですので・・・』
『躊躇してしまっては間合いを詰める事が出来なくなってしまうということですね』
『はい。そうです』
『わかりました・・・お願い出来ますかマリア様?』
『もちろんです』
空中で八本脚の疫病の狂天使を観察していたソイルだが、準備を整えたソイルが八本脚の疫病の狂天使に向かって突撃を開始する。
(勝負は一瞬・・・マリア様を信じて!)
真っ直ぐに出せる最高速で突き進んでくるソイルに対する間合いを合わせるようにして薙刀を喰らわせる八本脚の疫病の狂天使。
振り下ろされる薙刀がソイルを直後するよりも早く一瞬、マリアティアスが防御の魔法を発動させて防ぐ。
振り下ろされた薙刀が弾かれてしまった事によってバランスを崩してしまった八本脚の疫病の狂天使。
しかしながら下半身の八本脚によりよろける事はあっても倒れる事はなく、直ちに反撃しようと動き出すが・・・
『遅い!』
ソイルの方が一歩早く、八本脚の疫病の狂天使に攻撃が直撃し斬り倒されてしまう。
魔法が切れ渦潮が引いていき八本脚の疫病の狂天使もそれには伴い泥濘んだ地面に倒れ込む。
そして倒れる込んだ八本脚の疫病の狂天使にトドメを刺す。
『終わったか・・・マリア様の元に戻るか』
聖薔薇騎士団簡易駐屯署・マリアティアスが借りている宿にて・・・
『あぁ!?ご無事でしたか。何処かお怪我は・・・』
マリアティアスの宿に戻ると直ぐにマリアティアスが駆け寄ってくる。
余程心配していたのかソイルを見るなり抱き締めるマリアティアス。
(ま!?マリア様そんな・・・)
『わ、私は大丈夫です・・・さ、幸いな事にマリア様のお陰で怪我という怪我はしていませんので』
ちぐはぐと、歯切れの悪い受け答えをしてしまうソイル。
思わずマリアティアスを抱き締めたくなるが・・・何とか理性で踏み止まる。
(くすっ・・・かわいいですね。心臓の鼓動がこんなに早く・・・少し悪戯して差し上げましょうかね)
『それは良かったです。私の魔力の残り僅かでしたので』
そう言いながらマリアティアスはソイルから離れ、後ろに下がろうとしたその時・・・よろけてしまい倒れ込んでしまう。
しかしながら倒れ込む直前にソイルがマリアティアスを支えようとするが、体力を消耗してしまったソイルもマリアティアスと同じように倒れ込んでしまう。
下にマリアティアス、その上にソイルが重なるように倒れ込み・・・マリアティアスとソイルの顔が目と鼻の先程に近づく。
(ち、ちかい!ま、マリア様がこんなにも近くに・・・)
(ふふっ・・・顔が真っ赤ですよ。かわいいですね)
見つめ合うソイルとマリアティアス。
そしてソイルの手には何か柔らかな感触が・・・
『あ、あの、ソイル様。胸に手が・・・』
ソイルが触っていた柔らかな物の正体・・・それはマリアティアスの胸だ。
倒れ込むだ拍子に触れてしまったのであろう、ソイルはそれどころでは無く気がつくことが出来なかったが。
『す、すみませんマリア様』
慌ててマリアティアスから離れるソイル。
その顔は真っ赤になってしまい照れているようだ。
(わ、私はなんて事を・・・で、でも)
マリアティアスも腰を上げて・・・ソイルの隣に座る。
『ソイル様?』
『は、はい!?』
振り返ったソイルの瞳の先にマリアティアスの真っ赤な瞳が映り込む。
重なり合う手と手・・・そして唇と唇が重なり合うとした瞬間・・・突如として扉が開け放たれる。
突如としてこの雰囲気をぶち壊すようにして侵入してのは、あの戦いで傷を負っていない野人でありその顔はかなり焦っている様子だ。
『ほ、報告します・・・疫病の狂天使が更にこの村に接近しております。数にして五体。特筆すべき疫病の狂天使は確認出来ませんでしたがこのままではこの村に・・・』
野人が知らせて来たのは更なる厄災であった。




