機竜聖姫
バルエラ竜王国地下・・・翼なき者から貢物を受け取る為の船着場にて
ルーシャによって仕組まれ、強制的にバルエラ竜王国に反逆する事を余儀無くされてしまった翼なき者・・・絶対絶命の戦場の中で蜘蛛人の女王であるアラクノは今隠れている。
蜘蛛人の女王である彼女が何故隠れているのかと言うと・・・
『・・・やれやれ、やっと全員行ったようね』
今現在アラクノは船着場の一角にて即席の巣を作って避難している。
本来であれば率先して自身の種族を率いて戦わなければならない地位にいるが・・・どうやら彼女は違うようだ。
船着場に飛空挺を強制発着させ、発着と同時に飛空挺の中にいた八千もの翼なき者が一斉に飛び出て来た事によって船着場は大混乱してしまい、その大混乱に乗じて彼女は抜け出す事に成功したのだ。
自身の種族の者たちには大混雑が予想されると予め伝えており、各自で戦闘を行うように指示を出している。
群れを成して戦闘をする種族ではない蜘蛛人ではあるが、数名でまとまって行動するのが鉄板だが、アラクノだけは違うのだ。
彼女は種族的にも珍しい風の属性魔法が使える蜘蛛人であり、単体で行動した方が都合のいいのだ。
蜘蛛人という種族は罠とそして弓を使って戦う種族なのだが、基本的に獲物を罠に誘導して獲物を狩るのだが・・・彼女は風の属性魔法を使えるが為にその弓の威力を増大させる事が可能であり、更に自身で作り上げた糸を風の属性魔法を使用して自在に操る事が可能なのだ。
粘着質な糸を自由自在に操る事が出来るという事はつまり、獲物の死角となる場所から攻撃が可能であり、更に彼女の種族、蜘蛛人は八つの眼を持っているので人間、亜人、竜人よりも視界よりも広いというのも蜘蛛人という種族の利点だ。
『んー!うぅ・・・』
『もぉ、少しじっとしてくれないかな』
アラクノはこの場所に巣を作った時に一体の亜人を拉致している。
その亜人の名前はフロスロート。
アラクノの種族である蜘蛛人とは常日頃から争いを続けている種族である蝶々人の種族の長だ。
何故彼がアラクノに拉致され、そして拘束されているのかというと・・・
『もう少しじっとしてくれないとぉ・・・』
アラクノはゆっくりとフロスロートの身体を触り、そしてその眩い青色の両目の片目を抉る。
激痛の為に悶え苦しむフロスロートだが、口を塞がれているが為に叫ぶ事が出来ず、片方となってしまったその青色の瞳から大量の涙が溢れ出す。
そしてそのフロスロートから奪い去った青色の瞳を口の中でキャンディーのようにコロコロと転がして遊んでいる。
『もう大丈夫になったかなぁ・・・』
アラクノが作り出した巣の隙間から様子を伺い、今アラクノが巣を作っている一角が安全だと判断すると再び巣の中に戻って行く。
すると泣き疲れたのかぐったりっとしているフロスロートが其処にはいた。
そしてアラクノはゆっくりとフロスロートに近づき、優しくその頬を撫でて口を塞いでいた糸を取る。
『はぁ・・・はぁ・・・ど、どうして僕を拉致するの?』
泣き疲れたフロスロートが懇願するようにアラクノに対して問いかける。
そんなフロスロートに対してアラクノは笑いかける・・・パックリと割れた口からは先ほどフロスロートから奪い去った青色の瞳を覗かせながら。
『やっぱりフロスロートは可愛いなぁ・・・だから君を選んだんだよ』
『え、選んだ?』
『そうだよー。フロスロートは可愛いし、綺麗だし、そして何よりも優しいんだからね。私はずっと、ずっと見てたんだよ君が蝶々人の長になる前からずっと、ずーっとね』
『え・・・あぁぁ・・・』
『ほらこの前だって君達のテリトリーに侵入して来た蟻人を撃退していたし、ついこの間は体調の優れない蝶々人の為に危険を借り見ずに私達のテリトリーに侵入して来て花の蜜を採取したり、この作戦が開始する前にもその綺麗な可愛い顔、声に似合わずに気張ってみたりして頑張ってたじゃない』
フロスロートに対して怒涛の褒め言葉がアラクノから発せられる。
それに対して呆気にとられ、ドン引きしてしまうフロスロート。
どう考えてもアラクノはフロスロートの事を監視しており、そしてアラクノはどうやらフロスロートの事が好きなようだ・・・異常というまでに。
『だから今回のこの無謀とも言える作戦が決まった時に決めたのです』
『き、決めたって何を・・・』
恐る恐るアラクノに問いかけるフロスロート。
そしてアラクノから返ってきた言葉は正気とは思えない言葉だった。
『私とフロスロートで一緒にこの場所から逃げましょう。そして遠く、遠く離れた南の土地で一緒に暮らしましょう』
狂気・・・正気ではない程にフロスロートを愛しているアラクノ。
その八つの瞳からは並々ならぬ、狂気が渦巻くの力強さを感じさせ、フロスロートを一瞬にして恐怖という名の鎖によって拘束する。
絶対に逃げれない・・・もし逃げようものならばフロスロートの美しい翼や、その白魚のような細い腕がアラクノによって破壊されてしまうと容易に想像できる。
現にアラクノはフロスロートの片目が抉られたのだから・・・
しかし、これでもフロスロートは蝶々人の長なのだ。
今フロスロートがアラクノに囚われてしまってはいるが、他の蝶々人は今戦っているのだ・・・己の種族の為に。
『だから自分が怖じ気づいては駄目なのだ』っとアラクノの恐怖に打ち勝ったフロスロートは意を決してアラクノに仕掛けようとしたその時・・・巣の外からフロスロートを呼ぶ声が聞こえてくる。
その声はフロスロートと同じ種類である蝶々人だと巣の中でも理解出来る。
『この声を・・・フィンローっ』
仲間の名前を喋ろうとしたフロスロートの口の中にアラクノの指が突っ込まれ、喋ることが出来なくなってしまう。
『う、うぅんんん!?』
『喋っちゃ駄目ですよぉ・・・』
仲間の蝶々人が過ぎ去るのを待っていたアラクノだったが、意外に去らなかったのかアラクノが再びフロスロートの口を塞ぎ、巣から出て行く。
(彼奴が私とフロスロートの邪魔をする奴・・・殺す・・・殺さなくちゃ)
巣から出て来たアラクノがフロスロートの事を探している蝶々人に向かって弓を構える。
フロスロートを探している蝶々人はアラクノの事に気がついていないようだ。
(この距離なら当てられる)
一撃必殺・・・絶対に当てれる距離にまで近づいて来た蝶々人。
アラクノの放つ矢はアラクノの風の属性魔法によって作り出された特殊な矢であり、通常の矢よりも更に貫通力が強く、そして何よりも射程距離が長いのが特徴だ。
更に通常の矢よりも速度は段違いであり、この矢を交わすのはかなり手練れでなければ不可能なのだ。
そんな一撃必殺・・・必中の矢を放とうとしたその時、急に蝶々人が動きを止める。
何事かとアラクノも動きを止め、動きを止めた蝶々人を見ていると・・・どうやらまだ生き残っていた竜人に見つかってしまったようだ。
そのまま様子を見ようとしていたアラクノの表情が急激に険しくなる。
その表情はまるで、交通事故を目の当たりにしてしまったような表情であり、何故アラクノがそんな表情をしてしまったのかと言うと・・・
(そ、そんな、あの妖精みたいな四枚の翼に金色の二本角・・・はまさか!?)
アラクノの気が動転している間にも物陰から現れた竜人・・・ルーシャは恐怖で動けなくなってしまっている蝶々人を一刀両断する。
綺麗に・・・竹のように真っ二つになってしまった蝶々人。
こんな事はルーシャにとっては朝飯前であり、赤子の手を捻るように簡単なのだ。
(まずい、まずい!まずい!!そんななんであんな奴がここにいるの!?)
突如として現れたルーシャに気が動転してしまい、アラクノは息遣いが荒くなってしまうのを必死に抑える。
しかしながらアラクノは必死に抑えながら戻る・・・愛するフロスロートが待つ巣へと。
やっとの思いで巣に辿り着こうとした時・・・絶望がアラクノの前に立ち塞がる。
『あれれー?どうしてまだ生き残りがいるのかなぁ?』
偶然か、それとも実力からなのかアラクノの前にルーシャが立ちはだかる。
愛するフロスロートが待っている巣までは最早目前、視界にあるにも関わらずその一歩は遠く、そして重い。
突如として現れたルーシャによって呼吸することさえも忘れてしまっていたアラクノ。
ルーシャに問いかけられてから数秒後に、荒くなってしまった呼吸を整えルーシャと向き合う。
『こ、これはアリードライブ様・・・』
額に大量の汗とそして最早死人同然のように青くなってしまっているアラクノだが、ルーシャに対して深々と頭を下げる。
そんなアラクノに対してルーシャは『余興としては十分かな・・・』っと小声で言う。
ルーシャが自分に何をするのか?
先ほどの蝶々人と同じように自分も斬り伏せられてしまうのか?
それともルーシャの竜法によって吹き飛ばされてしまうのか?
それとも地上に行けと脅されてしまうのか?
どの道、愛するフロスロートの元までたどり着くのは不可能だと考えていたアラクノに対して、ルーシャが言い放った言葉は意外なものであった。
その言葉は・・・このまま地上・・・つまり自分たちの住んでいた土地へ帰ってもいいというものであった。
とてつもなく破格の提案・・・裏があると予想したアラクノだが、案の定その通りであった。
『つ、つまり私が地上に戻れるかどうかは・・・』
『君の運次第だねー』
アラクノが地上に雄一戻れる方法・・・それは飛行挺を使用して戻るというものなのだが、無論これは危険が伴う。
突然今戦いが続いているであろう場所から逃亡しようとする者がいるのだ。当然格好の的であり、狙われるのは必然だ。
更にわざわざ狙いやすいようにと、竜人が使用する飛行挺によって地上に降りようとするのだ。
『で、でもそれが成功すれば・・・』
『君はこの戦場から逃げる事が出来る・・・愛するあの子と一緒にね』
そう言いながらルーシャは飛び立つと、辺り一面に向かって風の属性竜法を放つ。
その影響によって地下を支えている柱が数本斬られてしまい、徐々にボロボロと崩れ始まれる。
『崩れる前に頑張ってねぇー』
ルーシャが地下から地上に繋がる大穴を竜法によって抉じ開けると、その穴から飛び立って行ってしまう。
一人残されたアラクノは急いで愛するフロスロートの元に行くのであった。
バルエラ竜王国、中央浮遊都市広場にて・・・
運よくルーシャが来る前にこの広間に出ることが出来た翼なき者は数百達であり、その中でも強者である者は合計で三名。
西側を住みかにしている亜人である。牛と人間を掛け合わせたような亜人・牛人
人間に牛の角と尻尾が生えたような姿であり、牛人の長であるスロウスはその中でもかなり大柄で、屈強な肉体をしている。
そしてその肉体に見合うかなり大きな戦槌を両手に持っている。
竜人であってもその大きな戦槌を受け止める事は難しいであろう。
そして人間の上半身に馬の下半身の亜人・馬人
主に平原を住みかにする亜人だが、今は平原でなく石畳をの上を走らなければならないが、それでも馬力、スタミナ、スピードに特化した亜人だ。
そして種族を束ねる者の名はポニー。 上半身に鎧を着込み白馬のように白色の亜人だ。
攻撃手段は主に体格に見合うような大斧や、弩を用いて戦闘をするタイプであり、既に竜人を殺めたのか血が付着している。
そして最後は二足歩行の虎のような亜人であり、名を虎人
嗅覚、聴覚に優れた亜人で、眼も同等に優れている亜人だ。
パワーとスタミナが優れていて、一対一での戦闘に優れている。
強者が族長の地位を獲得するので今この場にいる虎人は種族の中でも最も強者であり、その身体には無数の古傷がある。
その中でも特に目を引くのは顔の半分にまで斬られている大きな傷だ。それにより片眼を失っているのか眼帯をしている。
彼の名前はライガー。
彼らの種族は武器などは使用せず素手・・・己の爪や牙で戦うタイプの種族だ。
そしてその三体と対峙するのは南の浮遊都市・グラスサウスを統べる竜人。ジェイロス・ビート・サウスウェル・リューリックであり、その顔は幸福に満ち溢れた表情をしている。
『さぁ・・・命をかけた戦いをしようぜ!?』
ジェイロスはその背中に背負った大剣を三体に向かって構える。
バルエラ竜王国、中央浮遊都市商業密集区にて・・・
バルエラ竜王国の約五割以上の商会、商業施設が密集する区間には四体二組の亜人が同時に侵入していた。
侵入している亜人は東側に住んでいる二種族。
二足歩行の蛙のような姿の亜人・蛙人。
種族を束ねるトルードは水の属性魔法を使える魔導士であり、既に数発の魔法を使っているからなのか辺り一面が水浸しになってしまっている。
そして蛙人と同じく侵入して来たのはずんぐりむっくりな体格をしている亜人・山椒魚人だ。
主に水辺、沼地で暮らしている種族であり、この石畳の上では歩き辛そうにしているが・・・その欠点は同じく侵入した蛙人がカバーしてくれている。
辺り一面を水浸しにすることによって弱点である乾燥から身を守るようにしてくれている。
二種族で協力する事によって数名の竜人に対抗している状態だ。
そして種族を束ねる者マルガマンダは前線で戦っている。
そしてもう一組は 人間と猿の中間的な亜人・猿人
人間よりも長い手足が特徴的な亜人で、両手両足が毛に覆われていて、尻尾も長くそれで体重支える事が可能な亜人だ。
長であるジャルは火の属性魔法を扱う事ができ、竜人を殺して奪ったのか、その手には光輝くロットが握られている。
本来の住みかは森林等であり戦闘、狩りに関しては素早い動きと、木々を利用してのテクニカルな戦闘を得意とする亜人だが・・・この商業区では屋根などを使って戦いをしている最中だ。
そして猿人と(コギルエイプ)同時に協力して商業区に攻め入っているのは白銀の毛並み持つ二足歩行の熊のような亜人・熊人だ。
その全身を覆う白銀の毛並みは鉄以上の硬度を持つとされている亜人で、身体は大きな者で3m以上にもなる大型の亜人だ。
寒さに非常に強い種族なのだが・・・それに対して火の攻撃非常に弱い。
そして今現在この種族・・・熊人の長であるべリアスはもう既にこの世にはいない。
既に猿人の長であるジャルによって火の属性魔法によって焼き尽くされてしまったのだ。
つまり今の熊人には纏める者はおらず、そしてジャルによって奴隷のように戦わさせられている状況だ。
そんな二組、四種族が混在する商業区は未だに竜人との混戦が続いている。
個々として優れている竜人に対して数で戦うことによって勝利しようとしているが・・・彼らはまだ知らないのだ。
数の不利をものともしない・・・一騎当千の竜人が近づて来ている事を。
バルエラ竜王国、中央浮遊住宅街にて・・・
地下から地上へと通じる門が翼なき者によって開け放たれ、この住宅街にも多数の翼なき者の侵入を許してしまっている。
主に侵入して来た種族は二種族・・・人間の上半身に蛇の下半身が付いたような亜人・蛇人
この住宅街へと侵入して来た蛇人は合計で四百体前後であり、全長は5m以上にもなる種族である蛇人が大群で押し寄せるその姿はまさに川の反乱のような異常な光景だ。
それもこれも種族を治める蛇人のカルガが竜人によって倒されたのが大きい。
本来であれば深い森の中で生活している蛇人が、この住宅街ではかなり目立つ存在であるのは間違いなく・・・殲滅されてしまうのも時間の問題だがそれでも彼らの反乱は止まらないであろう。
そしてこの住宅街へと侵入して来たもう一つの種族は人間のような姿形に獣の耳と尻尾を持つ亜人で、狼人だ。
聴覚、嗅覚が優れており、夜でも月明かりを頼りに辺りを見渡せる眼を持っている亜人だが・・・現在は昼近くであり、優れている聴覚もこの混乱の中ではあまり役にはたっていない。
僅かな隙間でもその手足を器用に使って昇る事ができ、屋根や住宅街の壁も昇る事が可能だ。
奇襲を得意とする種族なだけあって今現在何体の狼人がこの住宅街に潜んでいるのかは不明だ。
種族を束ねる狼人の族長・ギャングもまた同じように住宅街に潜んでおり、数体の狼人と共に単体となった竜人を探している中で、何者かが羽ばたくような音が聞こえてくる。
それも一体や二体ではない・・・援軍として合計二十体以上の竜人がこの住宅街へと舞い降りたのだ。
『我らの聖地に土足で踏み入れた屑共に鉄槌を!』
一体のこの部隊のリーダーが自身の剣を高らかに掲げ咆哮をあげる。
バルエラ竜王国、地上船着場付近にて・・・
ルーシャが地下にある船着場に向かってから数分後・・・ハッカ・ラフス・ノースルー・ライブエラが親衛隊を率いて暴れ出した竜人を鎮圧するために奮闘している。
既に数十体の竜人を鎮圧してはいるが・・・なかなか思うようにはいかないようだ。
特にあの奇妙な文字の書かれたお札によって理性を失って暴れている竜人が手練れ、数体ではあるが強者が混じってしまっているのが鎮圧を遅くしている原因だ。
実力としてはハッカが率いている親衛隊に匹敵する。
奇妙な文字の書かれたお札によって理性が失われているのにも関わらずに、その動きは機敏で竜法も自在に使ってくる。
剣撃や体術も強力であり、ハッカの親衛隊にも少なからず被害が出てしまっている。
『くそっ!?なんでお前が・・・』
『理性を失っているにも関わらずにこの動き、流石だな・・・』
『あ、危ねぇ!もう少しで黒焦げになるところだったぞ』
理性を失った竜人とハッカの親衛隊が激しい火花散らしながら激戦は続く。
ルーシャのおかげでもうこの場に増援の翼なき者は来なくなかったのは良かったが、理性を失った竜人が見境無く攻撃してくるので辺り一面が酷い有様になってしまっている。
そしてウルキード率いる竜人がこのバルエラ竜王国に侵入して来た翼なき者が、何処かに隠れていないか捜索している。
そして現在二体の翼なき者・・・兎人の長であるベルドと、狐人の長であるフォーゼを捕虜として捉えている。
それにより兎人と狐人の反乱を治める事に成功している。
中には従わない者もいるが・・・
『き、貴様何をやっている!』
そんな中二対の捕虜をつれている二対を護衛する竜人に対して、突如として物陰に隠れていた狐人が奇襲を仕掛ける。
奇襲して来た狐人に対して竜法を叩き込むが・・・時既に遅かったようだ。
竜法が叩き込まれる瞬間、自らの種族に長であるフォーゼの首を噛みちぎったのだ。
普通であれば自らの長であるフォーゼを取り返すために行動するかもしれないが・・・どうやらこの狐人は違っていたようだ。
『これで十分・・・』
不気味言葉を残して狐人がこの世を去っていき悲劇が起こる・・・
そして狐人の長であるフォーゼはとは別に、もう一体の翼なき者・・・兎人の長であるベルドが急に苦しみ出し始める。
何事かと確認してみると・・・そこには動かなくなってしまったベルドがそこにはいた。
どうやらさっきの狐人は口封じの為に自らの種族の長を殺し、兎人の長であるベルドも殺されてしまったようだ。
そんなどうしようもないミスを犯してしまった竜人だが・・・そんな出来事が忘れてしまうほどの、目を疑うような光景が視界に広がる。
それは突如として現れた最強の竜人、竜王オール・ディストピア・バルフロン・マリッジと彼女に付き従う六体の侍女竜とそれともう一体・・・見慣れない竜人が付き従っている。
その竜人は一言で言えば美しかった。
格好は他の侍女竜とは大差ないのだが・・・美女揃いの侍女竜の中でも特段美しい容姿をしている。
長く艶やかな黒髪は黒曜石を思わせるかのようで、服を来ているので見えにくくなっているが雪のように白い肌をしている。
ルビーを思わせるような赤い瞳には見るもの全てを魅了するような、そんな瞳なのだが・・・何故か虚ろな瞳をしていて、首には首輪が嵌められていて繋がれている鎖が途中で断ち切られている。
多少違う箇所はあるが、その姿容は竜王オール・ディストピア・バルフロン・マリッジを連想させるようなそんな竜人なのだが・・・竜王オール・ディストピア・バルフロン・マリッジとはまるで違う奇妙な翼、角と尻尾も同様に奇妙な形をしている。
竜人の象徴である翼は大きく腰から生えているようなのだが・・・その翼は金と銀の機械仕掛けの翼をしており所々に歯車のような物が羽ばたきと同時にクルクルと動いている。
尻尾もまた機械仕掛けで出来ていているようで、生物ではなく無機質な感じであり足元まで達している。
額から生えている角は何故か右側が金色で、左側が銀色になっている。
そんな見たことも聞いたこともない容姿をしている竜人。
竜王オール・ディストピア・バルフロン・マリッジが秘密裏に・・・後宮にでも匿っていたのかどうか分からないが今まで噂にもなっていない。
気になって見ていると・・・その竜人が竜王オール・ディストピア・バルフロン・マリッジの前に出る。
そしてその竜人が手を振る。するとその竜人を中心に数多の魔法陣・・・竜法陣が展開する。
展開した竜法陣は光輝く文字が幾重にも重なり合い、一目で異常だと判断できるほどだ。
『さぁ・・・ 貴女の力を見せつけるのです』
そう言いながら竜王オール・ディストピア・バルフロン・マリッジはその竜人・・・マリアティアス・V・ヘリエテレスに命令を下す。




