竜化結晶石
マリアティアスが竜王国を訪れてから数時間後・・・各浮遊都市を束ねる竜人達は秘密裏に集まっていた。
この集まりは勿論人間の国・・・スペルオーネ帝国の結界が破壊された事に対しての集会であり、企画者はルーシャだ。
日が沈み、夜を迎えようとしている中で、この都市一番の宿にはルーシャ以外の全員が集まっている。
『ルーシャの野郎はまだ来ていないのか?』
『来てはおらんのぉ。あの若僧自分の立場を理解しておるのかのぉ・・・』
約束の時間が過ぎ、ジェイロスとウルキードは苛立ちを覚えていた。
それもその筈だ。
自らが人を呼び出しておいて自ら遅れてやって来るのだ、苛立ちを覚えない筈がないのだ。
『少し落ち着いてくださいジェイロス、ウルキード』
この場で唯一苛立ちを覚えていないハッカがジェイロスとウルキードを宥めるが・・・あまり長引いてしまうとルーシャが来る前に帰ってしまうと感じ取ったハッカであった。
『そうだよ。落ち着きなよ』
この場にいるジェイロス、ウルキード、ハッカではない声が聞こえ・・・振り向いてきた先にいたのは。
『ルーシャ・・・いつの間に』
『ついさっきね』
『なんでいい・・・それよりもさっさと話を始めようぜ』
『それもそうなんだけど・・・遅れたお詫びにこれを!』
ルーシャはジェイロス、ウルキード、ハッカに対してそれぞれ脈動する魔導石と魔導銃を差し出す。
魔導銃はリボルバー型の拳銃のような形をしているが・・・リボルバーの部分に魔導石を埋め込めるような形状している。
『こ、これは・・・』
ルーシャから渡された魔導石を見てジェイロス、ウルキード、ハッカが同時に驚愕の声をあげる。
それもその筈だこの脈動する魔導石はかなり特別・・・一目見ただけでかなり異質な魔導石であると理解出来る。
しかも一つならばそれほどまでに驚愕してはいなかったが・・・三つ、それも同時に出てきたのだからその衝撃は大きい。
各浮遊大陸統べる竜人である、ジェイロス、ウルキード、ハッカでさせ見たことのない異質な魔導石・・・何故ルーシャがこのような魔導石を三つも持っているのか疑問に思っていると、ジェイロスがその異質な魔導石を掴む。
するとジェイロスの表情が急に険しくなり、魔導石を再びテーブルの上に置く。
『ジェイロスどうかしたのですか?』
『ハッカ、ウルキードのじいさんこの魔導石を触れてみてくれ・・・』
急に険し表情になったジェイロスがハッカとウルキードに向かって魔導石に触れるように促す。
ジェイロスの言葉に促されるようにハッカ、ウルキードは触れようとする。
ハッカは恐る恐る。ウルキードは不思議そうに魔導石に触れた瞬間・・・ハッカは即座に魔導石を投げ捨て、ウルキードは時が止まったかのように魔導石を凝視している。
『ルーシャ貴女・・・』
『おっと、これの魔導石は僕が見つけた物でも、僕が作ったわけでもないからね』
『ならば何故このような魔導石を持っておる。このような・・・不気味な忌まわしい魔導石を!?』
魔導石を差し出したルーシャに対してウルキードは怒鳴るように言い放ち、ハッカは軽蔑するようにルーシャを見つめる。
しかしジェイロスは好奇心・・・ルーシャに対して尊敬の眼差しを送っている。
『忌まわしい魔導石とは酷いなぁ・・・』
『忌まわしいとしか言い表す事が出来ないじゃろうに・・・それよりも何なんじゃこの魔導石は!?』
ウルキードの怒鳴るような口調に対してルーシャは笑いながら答える・・・『人類の叡智の結晶』だと。
『人類の叡智の結晶だと・・・』
その言葉を聞き更に不快感を露にするウルキードとハッカ。
『この魔導石は人間達が来るべき我々との対決に準備したと言われている魔導石・・・人間達の願いによって結実した魔導石。名前を呪術石と言うらしいよ』
『呪術石・・・人間が我々との対決の為に準備したのだと!?』
『そう・・・呪術石を』
『人間風情が出来るとは到底思えないのですが・・・』
『人間達を侮ってはいけないよハッカ。彼奴らは自分たちの利益になる為ならどんなことだってするんだから』
『確かにな・・・』
どうやらルーシャの言っている事を理解したのかジェイロス、ウルキード、ハッカは異質な魔導石・・・呪術石を哀れむように見ている。
『それでこの呪術石をどうしようというじゃ?』
『ねぇ・・・ジェイロス、ウルキード、ハッカもしこの呪術石の作り方を知っている人間がいるとしたらどうする?』
その言葉を聞き、ジェイロス、ウルキード、ハッカは同時に直ぐ様思いつく・・・その呪術石を作ることが出来る人物を。
『その人間があの女か・・・』
『そうだよジェイロス。あの人間だけが唯一作ることが出来る人物なんだ』
『なるほど・・・何故お主があの人間に固執しているのか理解したぞ』
『・・・まさかルーシャ。あの人間が何故人間を守る筈である女神セラフティアスの結界を破壊しようとしている理由とは』
『流石ハッカ・・・鋭いね』
ルーシャはジェイロス、ウルキード、ハッカに対して話始める・・・何故マリアティアスが人間を守る筈である女神セラフティアスが創り上げた結界を破壊しようとしているのかを。
『なるほど・・・あの人間にそのような過去があったとはの』
『人間って本当に惨いことするよねぇ・・・何百、何千の人間の思う力をこの呪術石に込めてるんだから』
そう言いながらルーシャは手に持っている呪術石を手の中で転がす。
『一つ聞いていいかルーシャ・・・この呪術石をどうするつもりなんだ』
ジェイロスが少し・・・嬉しそうにルーシャ問いかける。
それに対してルーシャもまた嬉しそうに答える。
『この呪術石は使える。だから渡したんだ』っと。
『つまりルーシャ・・・我々にこの呪術石を使えというのか?』
『勿論、せっかく手に入れたんだから使わない手はないよ』
ルーシャのその言葉に対してウルキードが憤慨し、ハッカは呆れている。
何故ウルキードが憤慨し、ハッカが呆れているのかと言うと・・・
まず第一に竜人は非常にプライドが高く、生物という概念においては自分達が頂点であると自負している。
更にその中でも上位種族であり、竜王国の中でも各浮遊都市を統べる・・・選ばれた者たちは自分達全ての物は竜人に作らせた物を使用している。
つまり人間の願いによって作り出されたと言われる呪術石を使う事を嫌っているのだ。
ルーシャはマリアティアスから送られた物を使っている・・・秘密だが。
そして第二にこの呪術石に込められている願い・・・呪いと言っても過言ではないからだ。
ジェイロスにルーシャが与えた呪術石の呪いの力は・・・『強欲』
ジェイロスほどの竜人であればその呪術石の呪いの力に耐える事が可能だが・・・もしこれをルーシャが与えた魔導銃に人間が撃たれた場合・・・その呪いに支配され、眼に映るもの全てを欲しようとするようになる。
ウルキードに与えた呪術石の呪いの力は・・・『怠惰』
この呪術石が嵌め込まれた魔導銃を撃たれると、廃人のように何もしようとは思わないくなってしまう。
そしてハッカに与えた呪術石の呪いの力は・・・『色欲』
この呪術石が嵌め込まれた魔導銃で撃たれるとどうなるか・・・理解出来ないハッカではない。
この二つ・・・の事がウルキードとハッカがこの呪術石を忌み嫌う理由であり、そんな正体不明の呪術石を使用し続けるとどうなるのかわからないのも理由の一つだ。
『儂はごめんじゃ・・・こんな得体の知れない呪術石とやらを使用するつもりはないぞ』
『私も同じですわ』
ウルキードとハッカが否定的な意見を述べるが・・・どうやらジェイロスだけが違うようだ。
『俺は使わせれもらうぜ』
『ジェイロス!』
『ジェイロスさん・・・』
『だってそうだろ・・・面白そうじゃねぇか』
『面白そうじゃと?』
『そうだろウルキードのじいさん・・・人間達が俺達と愚かにも戦う為に作ったと言われるこの呪術石で自分たちが倒される。これほど間抜けなことはねぇぜ』
高らかに、興奮している様子のジェイロス。
どうやらジェイロスはこの呪術石を気に入り、使うつもりなようだ。
『本当か?』
『本当に本当よ!俺様はこの呪術石を使わせてもらうぜ』
そう言いながらジェイロスは『強欲』の呪術石を手にし、魔導銃に嵌め込み。
そして魔導銃を構える。
『どうやらジェイロスは気に入ったようだね・・・ウルキードとハッカはいらないの?』
『そのような物は必要ない』
『いりません』
『つれねぇなぁ・・・それよりも本題はなんだ?』
その言葉を聞き、急に雰囲気を変え真剣になるルーシャ。
『本題ねぇ・・・それじゃ本題を話そうか』
そう言いならばルーシャは自分の持っておる剣・・・黒銀の斬妖を取り出す。
ルーシャがいつの間にか手にしていた剣。
誰が作ったのか?
どのような技術によって作られたのか一切不明な剣だ。
『まさかその剣も・・・』
『そうだよハッカ。この剣もまた僕の所有物が作ったの』
『へぇ・・・名のある竜人の鍛治師でも同じように作ることは出来ないと言われている剣をあの人間がねぇ』
『つもりルーシャお主が言いたいのは、あの人間をこの竜王国に置くことを認めて欲しいということか?』
『まぁ・・・正確にはオール様から僕の所有物を返して貰えるように説得して欲しいんだよね』
ルーシャのその言葉を聞き、全員が全員神妙な顔をする。
それは当然な判断であり、竜王オール・ディストピア・バルフロン・マリッジを説得できるのかが微妙だからだ。
『悪いが儂は降りるぞ・・・竜王様を説得出来るとは到底思えぬからの』
『私も・・・一様説得してみますが無理だと思いますよ』
『俺は・・・俺が説得出来るのか?』
口々に微妙だとルーシャに告げると、ルーシャは顔を子供のように膨らます。
どうやら納得していないようだ。
『いや、ルーシャそんな顔をしても・・・』
ルーシャ達が話し合っていると・・・不意に外が騒がしくなり始め、大きな音と共に悲鳴が聞こえてくる。
『何事じゃ?』
『騒がしいな、喧嘩か?』
『それにしては少し騒がしいような・・・』
『別にどうでもいいじゃん。それよりも・・・』
ルーシャが会話を再開しようと話し始めた時・・・宿の壁が破壊されそしてルーシャが吹き飛び、壁に激突してしまう。
壁を破壊して現れた竜人・・・いや、化け物を見て驚愕するジェイロス、ウルキード、ハッカ。
何故驚愕しているのか・・・その理由は一目瞭然。
化け物としか言い表せない姿形をしているからだ。
かなり巨大な・・・この中でも一番大柄なジェイロスの二倍以上ある身長に、それに見合うだけの筋肉隆々の屈強な肉体。
しかし肉体とは正反対にボロボロの翼に、折れた角、そして途中から斬られてしまっている分厚い尻尾のある竜人なのだが・・・その胸には明らかに致命傷の大きな傷が深々と刻まれている。
そしてその傷からは此方を見つめる大きな・・・大きな瞳が存在し、更に傷からは死人のような青白い肌に血のような真っ赤な枝のような物が見え隠れしている。
壁を破壊するために使用したのか、その手には歪な形に変形した大斧が握られており、ルーシャの血なのかべっとりと真っ赤な血が付着している。
『まさかてめぇ・・・ジャンジェルか?』
ジェイロスが壁を破壊した竜人の名を言い当てたその時・・・断罪者ジャンジェル。だった者が咆える。
世界を怨んでいるような、狂気に満ちた叫び声がこの響き渡る。
『むかつくなぁ・・・』
断罪者ジャンジェルに吹き飛ばされたルーシャだが、幸いな事に致命傷は免れていたようだ。
明らかに激昂しており、冷静ではない。
『ルーシャちょっと待っ・・・』
ハッカの静止を他所に激昂したルーシャは変わり果てた断罪者ジャンジェルに向かって黒銀の斬妖、白金の刺妖を構える・・・
バルエラ竜王国・ラ・ゼログニル城にて・・・
侍女竜と戦い、健闘するも倒されてしまったマリアティアス。
そんなマリアティアスが今、現在何処にいるのかというと・・・
『こ、ここは・・・?』
マリアティアスが眼を覚ました場所、そこは一面水晶に覆われた隔絶された空間にマリアティアスはいた。
そしてマリアティアスは壁・・・柱に両手両足を拘束されてしまっている。
抜け出そうとしても抜け出せない、関節を動かそうとしても関節の部分まで水晶に覆われしまっているので動かすことは不可能だ。
それに・・・
『ようやく起きたようだな』
マリアティアスを見つめている六体の侍女竜と、竜王オール・ディストピア・バルフロン・マリッジ。
そして何故かマリアティアスは着替えされられており、オールがマリアティアスに着させようとしていたウエディングドレスを着ている。
何故か胸元は露出してしまっているが・・・
『さて人間。これから貴女を正式に私の物にするための儀式を行うよ』
そう言ってマリアティアスに近づき、ねっとりとマリアティアスの頬を撫で、味見をするかのように舐めるオール。
『儀式』という言葉に違和感を覚えたマリアティアスだが、その意味を婚姻の儀のような物なのか?
それとももっと別の・・・魔術的な意味なのかはわからない。
何故ならマリアティアスは今、身動きをすることは出来ず、視界を動かそうにも首の回る範囲でなければ見渡せないからであり、死角となる後ろは見ることが出来ないからだ。
『うん、やっぱり美味しい・・・まぁ味見はこれくらいにして儀式を始めようか』
そう言ってオールはマリアティアスの胸の中心に触れると・・・マリアティアスを中心に巨大な、夥しいほどの魔法陣が展開する。
いや・・・この場合は竜法陣と言った方が正確だが。
その竜法陣はマリアティアスを拘束している水晶の壁にも描かれ、そして血管のように水晶の壁一面に伝わっていく。
『こ、これは・・・』
水晶の壁一面に広がる竜法陣を見て驚愕するマリアティアスを他所に、オールは展開した竜法陣に対して更に竜力を流し込む。
(私が知らない竜法!なんだこれは!?こいつは私に何をしようとしている!?)
マリアティアス自身も知らない竜法陣。
しかも更にこれほど夥しい数の竜法陣は見たことは・・・一度しかない。
『さて・・・展開し終わりましたし、貴女が私の物になる瞬間が来ましたよ』
あれ程の竜法陣を展開したのに関わらずにオールは平然としており、顔色一つ、汗すらかいていない。
『オール様これを・・・』
控えていた侍女竜の一体、マリアティアスを拘束した侍女竜がオールに向かって宝石箱のような物を差し出す。
見事な装飾が施された宝石箱。
しかし、マリアティアスには理解出来る。
この宝石箱にも先ほどの竜法陣と同じようにオールの手が触れた瞬間、竜法陣が展開して宝石箱に仕掛けた数多の罠が解除されるのを目にする。
(爆破に、激風の二重の罠・・・激風の結界によって閉じ込め、爆破の追撃。それにこの竜力の量では一瞬にして炭化してしまいますよ)
マリアティアスが宝石箱に仕掛けられた罠に気を取られていると・・・宝石箱の中から宝石が現れる。
『うわぁ・・・』
思わず声をあげてしまうマリアティアス。
当然である。その宝石は人の拳ほどある大きさをしており、更に眩いばかりに輝いているからであり、明らかにその宝石自らが光っている。
つまりこの宝石は宝石ではなく・・・竜導石。
それも途方もない・・・マリアティアスでは創り出す事が出来ない程の純度の高い、高濃度圧縮竜導石だ。
『美しいですか?』
『は、はい。凄く美しいです』
マリアティアスは自分が動けないのを忘れるほど、オールの持っている竜導石を凝視してしまう。
『それは良かったです。それではこれから儀式を行いますね』
『あ、あの・・・儀式というのは』
『この竜導石を貴女に埋め込みます。すると貴女は・・・』
『ちょ、ちょっと待ってくだい』
『どうしたのです?そんなに慌てて』
先ほどまでオールの持っている竜導石を凝視していたマリアティアスだが、突如として額に大粒の汗と共に焦り出す。
そんなマリアティアスに対してオールは自然に、さも当然かのように平然とマリアティアスに対して竜導石を埋め込もうとする。
何故そんなにマリアティアスが焦っているのか?
『大丈夫ですよ・・・貴女なら耐えられるはずですよ』
『ま、待って、待ってくだい!お願いです待ってくだい!こんな高濃度の竜導石を体内に埋め込むなんてしたら・・・し、死んでしまいます』
魔力という物は人によって許容量という物が存在し、無論使い過ぎれば死活問題であり、枯渇すれば自身の身体能力も低下してしまう。
それとは逆に人体の許容上限を超えて更に過剰に摂取してしまうとどうなるのか・・・
その人体は負荷に耐えきれずに死滅してしまうのだ。
そしてこの高濃度濃縮竜導石はマリアティアスの耐え切れるはずのない許容量だ。
『さぁ・・・産まれ変わる瞬間です』
『無理!無理無理無理!やめて、お願いしますやめてくだ・・・』
マリアティアスの制止を他所にオールはマリアティアスに向かって竜導石を埋め込む。
『ぎゃぁぁぁぁぁああああああうがぁぁぁぁ』
竜導石を埋め込まれたマリアティアスが異常に、狂乱と言っても過言ではないほどに暴れ狂う。
その姿をうっとりとした表情で眺めているオール。
暴れ狂うマリアティアスからは大量の涙、そして口からは血が出てしまっている。
そして変化は次第に、そしてはっきりと現れて始める。
『さて・・・私の侍女竜達』
『はい。オール様』
『貴女の新たなる末妹を祝いましょうね』
『オール様がお望みとあれば』
『我々はオール様の所有物』
『命令してくださればそれに従うのみ』
『一様意見は言いますけどね』
『特に今回はオロが凄かったけどね』
『あ、あれは特別だ。俺はオール様が人間風情を所有物にしようとしていたのだからな』
『でも実際は違ってたんだよね』
口々にこれから新たに産まれ変わる末妹・・・マリアティアスに対して話始める。
『どうやら終わったようですね』
『おーこれが・・・』
『中々いい感じじゃない?』
『ウェルもそう思うよ』
『そうだねウォルニル。ウォルもそう思うよ』
『おめでとう・・・これで貴女は私の所有物・・・そうですね。新たに貴女に名前を決めないといけないですね』
そう言いながらオールは先ほどと同じようにマリアティアスを撫で、そして味見をするように舐める。
竜人のように変わり果てしまったマリアティアスを・・・




