竜王国へ
バルエラ竜王国・・・中央浮遊都市バルエラ
この都市にいるのは竜人の中でも特に選ばれた竜人のみが暮らす事を許された都市であり、名のある竜人が数多く暮らしている。
そしてそんな都市にいる竜人達でも滅多に入る事が出来ない場所・・・バルエラ竜王国の巨城・ラ・ゼログニル城に慌ただしく竜人達が出入りしている。
それもその筈だ今この城には四方の都市を統べる竜人達が集結しつつあるのだから。
数ヶ月前に定例召集をしたばかりなのに何故この時期に緊急召集をするのか?
それに四方の都市を統べる竜人達が緊急召集されるのはかなり稀であり、数十年間は召集がなかった。
『・・・ルーシャ様はまだ来ないのか?』
そう言って近くで警備している竜人に問いかける年老いた竜人。
知性を感じさせる瞳に、見事な髭、その手には見事な杖を持っている竜人の名は、ヴァンク・マディ・ルグデーネフ。
この浮遊大陸にて竜法研究を担当する者であり、新たな竜法を開発する分野においての最高責任者だ。
『申し訳ございませんが、まだルーシャ様は来ておりません』
『彼女の速さならものの数分で西側から来る事が出来ると思うのじゃが・・・』
『それはそうなのですが・・・ラ・ゼログニル城へはルーシャ様以外全員居られるのですよね』
『そうじゃ。今回の緊急召集に儂も呼ばれておるのじゃが、少し・・・ルーシャ様に聞きたいことがあるのじゃよ。じゃから儂は待っているのじゃが・・・』
その言葉を聞き、少し・・・不快な表情をする警備兵。
何故不快な表情をするのかその理由は・・・
(またこの話だ・・・もうこれで4回目なんだよなぁ。ヴァンクさんには竜法のことでいろいろとお世話になっているんだけど同じ話を何回もされるのはなぁ・・・それに愚痴みたいなことなら尚更なんだよなぁ)
警備兵がヴァンクの話を話し半分に聞いていると、遠くの方が騒がしくなってきているのを感じ取る。
何事かと騒がしくなっている方向を振り向くと、一人の竜人が近づいて来ているのが見える。
その竜人を囲むように複数の竜人がその竜人・ルーシャ・ルビー・イエウエスト・アリードライブだからだけでなく・・・彼女の連れている人物が問題なのだ。
その人物を一言で言うと美しかった。ただその一言が彼女を現すのに最も適した言葉だ。
整った顔立ちに、長く艶やかな黒髪は黒曜石を思わせるかのようであり対照的に、服を来ているので見えにくくなっているが雪のように白い肌をしている。
ルビーを思わせるような赤い瞳には見るもの全てを魅了するような、そんな瞳だ。
聖職者らしい服装をしてはいるのだが基本的な色は髪の色と同じ黒で、下はロングスカートでその両脇に銀の糸で刺繍されているのか十字架が描かれている。
服の上からでもわかるようなボディラインは聖職者と言われても疑問に思うかしれないが・・・それは仕方ないことなのである。
しかし聖職者らしからぬ物が二点・・・それは彼女の首に付けられた首輪であり、その首輪は分厚い鎖で繋がれている。何故か二重になっておりその中の一つにはバルエラ竜王国の紋章が刻まれいる。
そしてもう二つ・・・その両手を拘束している手錠と腰に付いている分厚い本だ。
両手の手錠は奇妙な光沢があり、自らが光っているように思える。
腰に付いている分厚い本は聖職者、シスターが身に付けている本なのだから聖書なのだろうが・・・その本は何故か不気味な雰囲気をかもし出し、好き好んで触りたくはないような本を身に着けている。
そして何よりも問題なのは彼女・・・マリアティアス・V・ヘリエテレスが竜人ではなく、人間であるのだから。
(すごい目線・・・都市国、帝国でもこれほど露骨な視線を浴びた事はなかったんだけどなぁ)
マリアティアスがそんな事を考えていると・・・マリアティアス、ルーシャの前に一人の竜人が立ちはだかる。
ルーシャよりも一回りも、二回りも大きな竜人であり、その両手には巨大な大斧が輝いている。
断罪者を狩る為の大斧を持ち何故ルーシャの前に立ちはだかるのか?
その理由は彼の見れば明らかであった。
『ルーシャ・ルビー・イエウエスト・アリードライブ・・・貴様の後ろにいるのはなんだ?』
『断罪者・・・ジャンジュル何か用なの?』
『何かようだと!?』
断罪者・ジャンジュルが怒りを露にしながら一歩前に出る。
明らかに高圧的であり、西側の浮遊大陸を統べる竜人であるルーシャに対しての態度ではない。
『俺の二つ名を知っているな』
『知っているよ。さっき言ったじゃん』
『だったら何故その女を連れている?』
『これは僕の所有物・・・何か問題でもあるの?』
『問題があるのか・・・だと?』
その言葉を聞き、更に不快になるジャンジュル。
何故この竜人がこんなにも不快感を露にしているのか・・・その理由は。
『貴様は竜王国に人間を入れるという大罪を犯しているのだぞ!』
『大罪ねぇ・・・これは人間じゃないよ』
『人間じゃないだと・・・?』
『さっき言ったじゃん・・・こいつは僕の所有物だって』
『理屈になっていないぞ!』
『うるさいなぁ・・・怒鳴らないでよ』
竜王国であるこの国の中に人間がいる。
それだけで大罪であり、無論人間であるマリアティアス。そしてマリアティアスをこの竜王国に入れてしまったルーシャも大罪になってしまう。
いくらルーシャが西側の浮遊大陸を統べる竜人であっても大罪なのだ。
まぁ・・・この竜王国が大陸中央部に君臨してからは人間など入ってきたことなどなかったが。
『今、この場で断罪させてもらう・・・文句はないな!』
『へぇ・・・お前に出来るの?』
『出来ないとでも?』
『そう・・・じゃ、殺ってみれば?』
その言葉を聞き、瞬時に行動に移すジャンジュル。
大斧を振りかざし、処刑台のギロチンの如くマリアティアスを断罪する・・・筈であった。
『な・・・に・・・』
断罪の大斧はマリアティアスに当たる事はなく、マリアティアスの作り出した根源の守護盾によって弾かれる。
何が起きたのか理解出来ていないジャンジュルだが、とある・・・一部を見て驚愕してしまう。
その一部とは・・・
『ジャンジュルさんの大斧が欠けた!?』
マリアティアスがジャンジュルによって断罪されるところを見学しようとしていた竜人の一人が驚愕の声をあげる。
そのことに気がついたのか回りを取り囲んでいた竜人達も驚愕の声をあげている。
その中でただ一人・・・ジャンジュルだけは歯の欠けた大斧を凝視し・・・もう一度マリアティアスに向かって断罪しようとする。
しかし先ほどと同じようにマリアティアスの作り出した根源の守護盾によって防がれてしまう。
『無駄だよ。お前程度の力じゃこの盾は破壊できないよ』
ルーシャが嫌みな笑みと共に笑い始める。
そのことに激怒したジャンジュルが更に力を、渾身の力を込めてマリアティアスに襲いかかろうとすが・・・時既に遅くルーシャによって斬り伏せられてしまう。
『お前にこれ以上時間を費やすつもりはないの・・・邪魔だから退いてくれる』
ルーシャによって斬り伏せられてしまったジャンジュルに対してルーシャは更に追撃し、ジャンジュルを進行方向とは真逆の方向に吹き飛ばす。
『さて、行こうか?』
ルーシャがマリアティアスに付けられている手錠と首輪に繋がれている鎖を強引に引っ張る。
『ち、ちょっと・・・きゃっ』
急激にそして強引に引っ張ってしまったが為にマリアティアスが地面に躓き、倒れこんでしまう。
『なにやってんのー?さっさと歩いてよ』
ルーシャが強引にマリアティアスを引っ張り、マリアティアスが無様に引きずられてしまう。
そのず無様な姿を見てく周りで見ていた竜人達がクスクスと笑い始める。
中にはマリアティアスに対して指を差して笑っている者もいる。
『ひゃっははは!なんだなんだ!?』
『おい!この竜王国に人間風情がいるぞ?』
『おっ!?中々美人じゃねぇか?』
そう言って引きずられているマリアティアスを指を差しながら大笑いしている竜人達が近づいて来ている。
大笑いしている竜人達はどうやら酔っているらしく、更に先ほどジャンジュルが吹き飛ばされた事を知らないらしい。
『ルーシャ様こいつ何ですか?』
『僕の所有物。何か問題でも?』
『いや・・・なんで人間風情が竜王国に入るのかと思いましてねぇ?』
『おい人間!てめぇ名前なんて言うんだ?』
一人の竜人がマリアティアスの名前聞こうとしているが・・・マリアティアスは無言のままだ。
『・・・人間風情が無視とはいい度胸じゃねぇか!?』
一人の竜人が地面に倒れているマリアティアスに対して無理やり立たせようと、胸ぐら掴もうとした時・・・ルーシャの竜法によって吹き飛ばされる。
『へっ?』
仲間の一人が何故吹き飛ばされたのか、理解出来ていない竜人達に対してルーシャは更に竜法を喰らわせ吹き飛ばす。
『君たち風情が僕の所有物になにするの?』
『る、ルーシャさ・・・』
『お前達も・・・全員邪魔!』
ルーシャが荒々しい竜法を発動させて、ルーシャとマリアティアスを見ていた竜人が四方八方に散ってゆく。
そんな中で、マリアティアスは起き上がり竜法を発動させたルーシャを無言で見つめる。
『・・・ルーシャ様少しお話が?』
ルーシャの周りから竜人達が散ったのを確認したからなのか、先ほどまで待機していたヴァンクがルーシャに話しかけて来るが・・・
『邪魔だって言ったよね!』
機嫌が悪かったルーシャが黒銀の斬妖に手をかけ・・・ヴァンクを斬り刻む。
年老いたヴァンクに対して竜人最速とも言われるルーシャの剣撃を防げる筈もなかったらしく・・・今日一体の竜人がこの世を去る。
見るも無惨に斬り刻まれてしまったヴァンクに対してルーシャ、そしてマリアティアスは何も思う事はなかったのか横を通り過ぎ、ラ・ゼログニル城へと入って行く。
バルエラ竜王国、ラ・ゼログニル城玉座の間前にて・・・
ラ・ゼログニル城へと何とか入る事が出来たマリアティアスだが、やはりと言うよりもかなり注目の的であったのか先ほどの男達の他にも、すれ違う竜人達から好奇な眼差しを感じる。
特に目立っていたのが男の竜人からの眼差しであり・・・特に胸の辺りに視線を感じていた。
(男ってのはどれも同じですねぇ・・・まぁ私も人の事は言えませんが)
『さてマリアティアス準備は出来たかな?』
マリアティアスに対してキラキラした瞳で見つめているルーシャ。
相変わらずマリアティアスには手錠と首輪とはめられて自由に動けないが・・・
『準備と言いましても私には自由に動く事が出来ませんので・・・どうしようもないと思いますが?』
『いや・・・心の準備だよ』
『心の・・・別に問題ないですね』
『流石がマリアティアス・・・じゃあ行こうか』
ルーシャに鎖で引っ張られながらマリアティアスは玉座へと通じる扉を開き入って行く。
一直線に敷かれている真っ赤な絨毯の左右には鎧を着込んだ竜人が数十名、不動の体勢を維持し、即座に反応出来るようにしている。
どの竜人の鎧にも傷一つなく、鎧自体に魔化してあるのか光っているようになっている。
腰に差している剣も見事な装飾が施され、一目で一級品だと判断できるほどの出来映えだ。
更に奥に進むに連れて鎧ではなく、見事な衣装の身を包んだ竜人が見られる。
老若男女、様々な竜人がおり、年齢は様々で年老いた竜人もいればまだ若い・・・ルーシャと同年代の竜人もおり様々な衣装を着ている。
その家計独特なのか、ドレスを着ている者もいれば和服を着ている女性も存在し、男性もスーツ姿の男もいれば和服・・・歌舞伎のような衣装を着ている者もいる。
そんな・・・このバルエラ竜王国において権力、財力、武力、そして竜力が優れている者達から放たれる目に見えない圧力がマリアティアスに襲いかかる。
人間程度であれば到底堪えることの出来ない・・・竜人であったとしても耐えきれないほどの圧力なのだが・・・マリアティアスは平然としている。
何故なら・・・この場において最も権力、財力、武力、そして竜力が優れている竜人竜王・・・オール・ディストピア・バルフロン・マリッジが未だ不在だからだ。
それ以外・・・四方の浮遊都市を統べる竜人は既にこの場に集合している。
東の浮遊都市・イースベラァを統べる竜人。ウルキード・ボイル・イーストロン・ファルエンタ
東の地方を統べる竜人で赤い翼を持っており、昔の戦いで片方の角が折れていて、竜人の中でもかなり高齢でその顔や身体には戦いの古傷が多数存在し、顔には髭を蓄えている。
火属性の竜力を操る事ができ、長年生きた経験からよく若い竜人に稽古をつけていると言われている。
どうやらマリアティアスに対してはそれほど興味がないのか一見した程度だ。
西の浮遊都市・ウエストゲェルを統べる竜人。ルーシャ・ルビー・イエウエスト・アリードライブは通常の定位置から少し離れ、竜王・・・オール・ディストピア・バルフロン・マリッジと真っ正面になっている。
南の浮遊都市・グラスサウスを統べる竜人。ジェイロス・ビート・サウスウェル・リューリック。
南の地方を統べる竜人大柄で筋肉隆々の竜人だ。
健康的に焼けた肌に、割れた腹筋、鋼色をした翼にその体格に似合う角と翼をしている。
そして背中には大剣を背負っていて、土属性の竜力を操れるが主に背中に背負った大剣で戦う好戦的な竜人として知られており、先ほどからマリアティアスをずっと見ている。
北の浮遊都市・ロウェイノースを統べる竜人。ハッカ・ラフス・ノースルー・ライブエラ
北の地方を統べる竜人で白竜の異名を持つ竜人だ。
その姿が全身白く、髪や角、翼から尻尾の先端に至るまで純白の女性だ。
美貌もスタイルも良く、天が二物を与えたと言われていて、その身を包む衣装も見事な物を着ている。
マリアティアスというよりはルーシャの事を気になったいるのか、ルーシャとマリアティアスを時々見ている。
『これよりバルエラ竜王国、竜王・・オール・ディストピア・バルフロン・マリッジ様が入室いたします!』
控えていた城兵が竜王・オール・ディストピア・バルフロン・マリッジの入場を告げ、程なくして六人の侍女竜引き連れたオールが入って来る。
マリアティアスと同様に長い黒髪に白い肌、そしてルビーのような赤く瞳は異常に瞳孔が開いており、見るものを圧倒させる。
どことなく似ている二人・・・髪の色、肌の色、 そして瞳色までも似ている二人だ。
着ている服装はマリアティアスが聖職者の衣装、オールがどす黒い鎧・・・何故か胸元は露出しているが。
そんな似ているような・・・似ていないような二人。
『面を上げよ』
マリアティアスの重々しい言葉と共にかしずいていた全員が一斉に面を上げる。
そしてマリアティアスと竜王・オール・ディストピア・バルフロン・マリッジの視線が交差する。
『さて・・・今回私が皆を緊急召集したのには理由がある』
そう言いながらオールはマリアティアスを見る。
『まぁ、皆も知っての通りなのだが・・・この場に人間がおるな』
ほぼこの場の全員・・・ルーシャ以外の竜人が一斉にマリアティアスを見る。
『何故この場に人間がいるのか・・・その理由はルーシャ』
『はい。竜王様』
『ルーシャ自らに説明する事を許可する』
『分かりました竜王様』
そういい終えるとルーシャはマリアティアスと共に歩き、回れ右をしてこの場に集まった竜人の方振り向く。
『さて・・・まず始めに結論から申し上げます』
一拍置きルーシャがこの場の全員の竜人が注目している事を再確認する。
『西側に山脈を隔てて存在する人間の国・・・四ヵ国存在しますがその中の一つ、人間達からはスペルオーネ帝国と呼ばれている国の結界の破壊に成功しました』
玉座の間に動揺の声が響き渡る。
それもその筈だ・・・バルエラ竜王国が建国され、人間の国との間に女神セラフティアスが作ったと言われる結界を確認し、その結界を破壊しようと全竜人が知恵を絞っても破壊する事が現状出来ないと思われていた結界が破壊されたと言うのだ・・・
これは・・・いや、この事実はバルエラ竜王国において最も大事であると言える。
かつて・・・遥か昔に全滅させる事が出来たと言われている人間を、再び全滅させる事が可能だということだ。
『皆落ち着くのだ!』
オールが騒がしくなり始めたこの場を静める。
程なくして静かになり、再び全員の視線がルーシャ、そしてマリアティアスへと向けられる。
『みんなも何故あれほど知恵を絞り・・・あれほど試行錯誤したのにも関わらずに破壊する事が出来なかった結界が破壊されたのか不思議でしょ?』
ルーシャの問いかけに全員の瞳に同意の色が見える。
当然である。確かにルーシャは西側の浮遊大陸を支配しており、人間の国々とも近い位置にあるが・・・結界が破壊出来るとは数ヶ月前の定例会議では話してはいなかったからだ。
そもそも何故今頃になって結界が破壊出来たのか?
その理由は・・・この場、この国には似つかわしくない人物が鍵と言うほかはないであろう。
『ルーシャ様・・・まさかその人間が関係しているのですか?』
結界の研究をしている竜人から声が上がり、ルーシャが同意するように頷く。
『その人間・・・何者なのですか?』
『僕の所有物であり、あの結界を破壊出来る唯一の存在だよ』
『な、なんと!?』
『結界を破壊出来るだと!?』
『そんな事が可能なのか?』
口々にマリアティアスに対して驚愕の声が上がり、それと同時に疑問や、困惑の声も出てくる。
『おい!人間本当にてめぇが破壊出来るのか?』
四方を統べる竜人、ジェイロス・ビート・サウスウェル・リューリックがマリアティアスに問いかけるが・・・マリアティアスは無言のままだ。
『シカトとはいい度胸してるじゃねぇか・・・』
『ジェイロス・・・僕は言ったよね?』
『何がだ?』
『僕の所有物だって・・・だからジェイロスの問いかけには答えないよ』
『なんだと!?』
『僕が許可しない限り何も出来ないからね』
『あぁ・・・そう言うことか』
そう言いながらルーシャはマリアティアスを撫で・・・そして何故か少し胸を揉んでいる。
最初は腹が立っていたジェイロスだがルーシャとマリアティアスとのやり取りを見て、呆れたようにため息をつく。
ルーシャとジェイロスとのやり取りが終わり、場が落ち着き始める。
『それでルーシャよ。他二ヵ国の結界も破壊出来そうなのか?』
『出来ます。いえ・・・やってみせますよ』
『心強い返事だな』
ルーシャの問いかけに満足したように頷くオール。
ルーシャもまたオールに対して恭しくお辞儀をして答える。
『それでルーシャよ、その人間が結界を破壊したと言うがどのようにして破壊したのじゃ?』
『結界の核となる物を破壊したそうです・・・残り二ヵ国の結界の核がどういう物なのかはわかりませんが』
『なるほど・・・』
『しかしルーシャ・・・お主はその結界を破壊した瞬間を目にしたのか?』
『まさか!僕も竜人だよ。あの結界を突破することが出来ないよ』
『えぇ・・・とつまりルーシャ自身はどのように結界た破壊されたのか分からず、更に結界が破壊された瞬間は見ていないと?』
『そうだよ』
平然と『何も問題ない』っと答えるルーシャ。
いくらマリアティアスが結界を破壊したいってもその瞬間、そしてその破壊した方法が不明ならばマリアティアスが破壊したと断言出来ない筈なのだが・・・どうやらルーシャには関係ないようだ。
『それで竜王様にお願いが・・・』
『なんじゃ?』
『現在バルエラ竜王国と人間の国々を隔てている結界の一部を破壊したのですが・・・全ての結界を破壊した暁には私の所有物を竜王国に置かせてくださいますか?』
ルーシャのオールに対してのお願いに対してこの場の全員が騒然としてしまう。
四方を統べる竜人達でさえも驚いているのか目を丸くしている者もいる。
唯一・・・驚いた様子が感じられないのは玉座に座するオールただ一人だけだが。
『なるほど・・・確かにもし残り二ヵ国の結界を破壊し、我々が進軍出来るようになるのであれば、その成果は膨大なものであろうな。我々竜人の悲願なのだからな』
一拍置き、考えているオールだが・・・迷いは一瞬だったのかルーシャの願いを聞き入れる。
『感謝いたします竜王・オール・ディストピア・バルフロン・マリッジ様』
『我々竜人の悲願が達成出来るのであれば安いことだ』
ルーシャ、そしてマリアティアスも同時に恭しくお辞儀をする。
話が終わり、ルーシャ、マリアティアスが戻ろうとしたその時、二人の後ろからルーシャ・・・ではなく、マリアティアスを呼び止める声が聞こえる。
声の主はもちろん竜王・オール・ディストピア・バルフロン・マリッジである。
『どうかしましたか竜王様?』
『ルーシャの所有物の女・・・私も貴様に興味がある』
そう言いながらオールが座っていた玉座から降り近づいてくる。
それと同時に玉座の間にどよめきが広がる・・・その理由はただ一つオールが玉座から降り、そしてマリアティアスに対して興味があると言ったからだ。
『オール様そんな人間など、どうでもよいではないでしょうか?』
『そうか?オロ、私はそうは思わないなぁ』
『人間程度など我々にとっては取るに足らない存在・・・』
『そう殺気を出すでないアイリット。私はただ興味があるのだ』
先ほどまで一切喋ることなく、後ろに控えていた侍女竜の内に二人がマリアティアスに向かって殺気を叩きつける。
メイド服を着てはいるがその殺気はかなりの物であり、並大抵の人間であれば失禁していたかもしれないほどの殺気だ。
侍女竜六人からの叩きつけるような殺気だがオールの一言よって霧ように霧散して行き、マリアティアスとオールがかなり近い・・・目と鼻の先、互いの息がかかるほどの近くまで近づく。
そしてオールはその長い、鎧のような尻尾をマリアティアスの身体に巻き付かせる。
オールが滅多に・・・侍女竜に対してのみに行っている行為を目撃し、更に玉座の間にどよめきが広がる。
『オール様、しかし私にはこいつを使って残り二ヵ国の結界を破壊しようと思うのですが?あの・・・結界を破壊し終えてからでもよいのではないでしょうか?』
ルーシャの問いかけに対してオールは首を横に振り答える。
『ルーシャによって余程酷い目にあったのであろう・・・返事もルーシャの許可を得なければ答える事が出来ない。自由に笑い動くことも出来ないのだからのぉ』
オールがマリアティアス手錠、首輪を見つめ・・・破壊する。
マリアティアスには破壊する事が容易ではない、この手錠と首輪なのだが・・・一部の上位竜人であれば竜力を流し込み破壊する事が可能なのだ。
そしてオールはマリアティアスの最初っからしている首輪を手刀によって切断しようと試みるが・・・何事もなかったかのようにマリアティアスの首輪には傷一つ付いてはいない。
『ほぉ・・・これはこれは。先ほどお前の服を触った時に気がついたが、この服も人間の技術では作る事が不可能な筈だが・・・』
オールが更にマリアティアスに近づき・・・品物を見定めるようにマリアティアスを見る。
『まぁ、その辺りは詳しく・・・私の私室にて答えてもらおうかな?』
そう言ってオールはマリアティアスを私室へと連れ帰る。
竜王国において竜王・オール・ディストピア・バルフロン・マリッジの言う事が全てであり、その言葉、その行動は何人たりとも遮る事は出来ない。
こうして緊急召集は終わり、ルーシャも玉座の間を後にする・・・心の内に燃えたぎるマグマのような怒りを秘めながら。




