スヴァ都市国
スヴァ都市国
人口はおおよそ百万程度で他の三ヵ国ともう一ヵ国よりは人口が少なく、小国に属する国だ。
国としての歴史は浅くまだ建国してから五十年程度しか経っていない。
スヴァ都市国が独立した背景には元々この土地を納めていた貴族の圧政により、市民達が立ち上がり貴族の圧政を退け建国したという背景があり、元々都市国はエルピーラ王国という国の領土だったのだ。
当然国から独立するのであれば国王や、貴族が圧力や最悪内戦をして独立させまいとするのだが・・・幸いな事に都市国は他の二ヵ国と隣接しており、独立にはその二ヵ国が協力してくれたおかげで独立できたようだ。
エルピーラ王国とは仲が悪く、都市国の北部に隣接するエレメンティア魔法国、南部と隣接するスペルオーネ帝国とは仲が良い。
そして都市国、魔法国、帝国が隣接する山脈を隔てて存在する巨大帝国・・・バルエラ竜王国が存在する。
都市国は主に流通によって成り立っている国であり、魔法国からは主に鉱石や魔法石を、帝国からは主に農作物や畜産を輸入していて、都市国にはよく三ヵ国から商人が来て賑わっている。
そしてスヴァ都市国の中央部、元々はこの地を納めていた貴族の館を改修して新たに改築された建物に今五名の人物が集会を開いている。
護衛の者を含め十名足らずの人々が集まっているこの建物は都市国の重要機密機関で、都市国ないで行われる全ての事を決定する機関だ。
スヴァ都市国は国として小国でありながらも隣接する三ヵ国・・・そしてもう一ヵ国に攻めこなれる事がなく、日常風景は平和そのものであり、国内の生活水準は三ヵ国、そしてもう一ヵ国よりも高いとされている国だ。
しかし、だからと言って貧困が無くなっているわけではなく、キースやメリーのように幼くして親を失ったり、最初っから親がいない子供達も存在する。
残念な事に都市国では自身で稼がなければ生活していけないような国であり、義務教育や生活支援などは存在しない。
そして都市国に住まう全ての人々に兵役の義務があり、いざというときは銃や刀、魔法を使い防衛することになっている。
もちろん例外は存在するが・・・
その都市国を運営するのは各事業を取り仕切る人物であり構成員は全部で五名、今この場に集まっている者たちだ。
『さて・・・今回皆様よくお集まりいただきました』
まず最初に口を開いたのは少し年齢的に老けている男性であり、彼の右胸には都市国の紋章が輝いている。
名前をワルト・ルールズ・ドルイーター。
主に都市国内での内政を担当する人物でり、この人物は国民の選挙によって選ばれた人物だ。
肩書きは都市長。 都市国内では身分制度という物は存在しない。
なのでその人物の人柄や、性格、能力等を評価されワルトは都市長という地位にいるのだ。
堅実であり、日々都市国内の内政に奮闘する姿は五十代前半なのだが少し老けている感じだ。
妻子持ちであり、魔法の使用は出来ない。
『まぁ・・・毎度のことですからねぇ』
次に口を開いたのは、肉付きの良いふくよかな体型をしていて、長い金髪で青色の瞳をしている女性だ。
彼女の名前はノロン・ドラレイン・ノックオン。
都市国内での魔導師、錬金術師、治療薬剤師の人事管理や、人員への給金を担当する人物であり、都市国内での肩書きは魔法長だ。
こう見えても都市国内で一番の魔導師だと言われてる。
その理由は、都市国内で数名しかいない土属性と風属性の二重属性魔導師だからである。
今は一線から退いているがこれでも戦闘の経験があり、特に防御魔法を得意とする魔導師として有名である。
『姉・・・魔法長の言う通りですよ。別に毎度の事なのですから挨拶は不要では?』
そう言ったのは先ほど話していた女性の隣に座っている人物で、女性と同じく金髪で青色の瞳をしている男性だ。
年齢的には先ほどの女性と変わらないこの男性の名前はザロウス・エロレイン・ノックオン。
名前の通り、ザロウスとノロンは兄妹だ。
彼はこの都市国内での魔導石の流通と魔導石の加工を取り仕切る人物で、都市国内では彼以上に魔導石に詳しい人物は存在しないと言われていて、皆からは魔導石長と言われている。
魔導石という物はこの世界に二種類存在し、魔導師が自身の魔力を使用して生成した魔導石と、自然界に存在する魔力が長い年月をかけて結晶化した物の二種類が存在する。
前者は安価に製造が可能だが、魔導師の実力によって左右されるので稀に粗悪品が混ざったりしている。
それに対して後者は基本的に魔導石の純度が高く長い間使用する事ができる。
各魔導石にはそれぞれに対応した魔導師が生成しなければならず、火属性の魔導師が水の魔導石を造り上げる事は不可能である。
自然界に存在する魔導石にもこの法則は適用し、湖の底から水の魔導石や、山の頂上で常に風が吹き荒れる場所では風の魔導石が生成される傾向にある。
極稀に、自然界に存在する魔導石の中にはありえない力を発揮する魔導石も存在する・・・大嵐を引き起こす魔導石や雷鳴を轟かせる事が可能な魔導石等があると言われいる。
『都市長よ。今回もいつもの定例報告なのであろう?』
『そうなのでしたら早く始めるて欲しいのですけど・・・私もあまり暇ではないので』
ザロウスに続いて話始めたのはノロンよりも年老いた男性で、その瞳には歴戦の戦士のような雰囲気を醸し出し、日に焼けた肌には無数の傷がある老人だ。
出身は都市国の元々の国、エルピーラ王国出身なのだが、王国よりも南の国の血が流れているのか黒髪に黒い瞳をしている。
老人の名はザヴィード・シュミレート・サファイヤ。
こう見えて威厳のあるただの老人ではなく、都市国がエルピーラ王国から独立する時に先陣をきって部隊を指揮し、都市国の独立に貢献した人物だ。
今では都市国での兵士の訓練を担当していて、肩書きは戦略長と言われている。
本当はあまり会議には出たがらず少し都市より離れた何処かで暮らしたいと思っているのだが、そうも言ってはいられなく都市国での戦闘が発生した際には指揮をする立場にある人物なのだ。
『商業長。今回は定例報告の他にも、もう一つあるのです』
『へぇ・・・何があるのかしら?』
今ワルトと会話しているのはスヴァ都市国において、流通部門を取り仕切る人物で名前をエバニセルス・インディンゴ・スターライフ。
この会議場の中でも一番の若さの女性で年齢的には二十代後半で、藍色の髪に深い青色の瞳をした女性だ。
肩書きは商業長であり、この若さので都市国内のほぼ全ての商会を傘下に納めている。
人を見る目は鋭く、抜け目ない女性だ。
交易によって手に入れたスーツ身につける姿はバリバリのキャリアウーマンを彷彿させる女性で、動く時に動かなければ損をするという事を心情にしており、行動力も評価されている。
『まずは定例報告を始めましょうか』
ワルトの指示の元に各長が報告を開始する。
各長から現状の報告を受け、目立った出来事やいざこざが無いことを確認し終えると、ワルトは少し間を開け各長の顔色伺った後に話始める。
『それでは皆さん由々しき事態になりました』
『どうしたのです。改まって?』
『我々の仕入れていない情報があるというのですか?』
『えぇ・・・内政に関わることでありますもしかすると都市国・・・いえ王国にも関わるかもしれないことなのですから』
『もったいぶらずに話したらどうなのじゃ?』
『その話をする前にまず資料を』
ワルトの指示の元に控えていたメイド達が各長に資料を配布する。
資料を見た者たちの表情は困惑した様子の者や、眉をひそめ『なんだこれは?』と呆れる者など様々な表情をしている。
その中でも最も困惑しているのは魔導石長、ザウロス・エロレイン・ノックオンであり彼と同じく魔法長のノロン・ドラレイン・ノックオンもどうすればよいのかと頭を抱えている。
それに対してエバニセルスとザヴィードは自分達で何が出来るのか考えている。
その理由は商業長であるエバニセルスと戦略長であるザヴィードには直接関係はなく、問題として魔法・錬金術師に関わることなのだから。
『都市長。これは本当なのですか?』
『事実です魔導石長。特にこの問題は貴殿方に詳しく聞かなければ思っておりましたので』
『しかし・・・でも・・・実際に造り上げる事は不可能だとされているのですが』
『当然です。私も魔法は使えませんが知識としては記憶しておりますが・・・』
『これは完成品として存続するのか?』
『いいえ。そのような事はございません。しかし・・・未完成品ですがここにあります』
そう言い終えるとワルトは懐から赤く輝く宝石を取り出す。
まるで血でも凝縮したような濃さの宝石は、その宝石自体が発光しているのか少し不気味な雰囲気をかもしだしている。
その宝石を見たザウロスの目の色が変わる。
『まさか世界に存在していたのか!?』とでも言うように見開かれた瞳からは興味が、それと同時にかなり嫌悪する瞳に戻る。
『これがあの・・・』
『ほう・・・始めてみたわい』
『これだけでどれ程の価値があるのでしょうか?』
『不謹慎ですよ商業長。確かに興味がありますがもしコレがこの資料に書かれている通りに作られたのであれば・・・』
『十中八九間違いはないのですが、この資料に書かれている通りにその能力、秘められている力は粗悪品と言っても過言がないそうです』
『実際に試したのかね?』
『まさか?私にそのような事をする度胸はございません』
『没落貴族が・・・なんいう置き土産を残したものじゃのお』
『それで・・・我々を集めた理由をお聞きしたいのですが?処分だけなら貴方だけでも出来た筈では?』
『確かに処分だけなら私も出来ますが・・・その前に少し人払いを』
そう言い終えるとワルトの指示に従い護衛の者とこの屋敷に雇われているメイド達が撤収し、各長だけがこの場に残る。
流石は長年付き合っている仲だからなのか、皆都市長が言いたいことはわかるようだ。
『さて・・・人払いも済んだことですし本題に移りましょう』
ワルトが皆の顔色を伺い、一拍置いて話始める。
『私はこの宝石・・・賢者の石を所持した方が良いと思うのです』
賢者の石・・・魔導師、錬金術師、治療薬剤師達が完成を目指しているが、未だに作り上げることが不可能だと言われている物質だ。
魔導師が使えば魔法の威力上昇や、射程距離の上昇などが期待できるとされて、錬金術師が使えば製造する魔導石の持続力の向上や純度の高い魔導石が製造できると言われ、治療薬剤師が使えば治療薬の性能が上がり、この世界ではありえない・・・死亡した人物でも死亡してすぐであれば復活が出来ると期待される物質だ。
そのような物質が何故都市国に、都市長が持っているのか疑問なのだが・・・都市長ワルト・ルールズ・ドルイーターがこの土地を納めていた貴族の屋敷を再捜索した後、隠し扉から地下室を発見し、そこに保管してあったのだと証言している。
しかしこの賢者の石が文献に書かれている通りなのばよいのだが・・・実際には違うらしく都市長が提出した資料には『この賢者の石は欠陥品であり、完成品とはほど遠くもっと祈りが必要だ』っと書いている。
『正直に話させてもらおうかのう・・・今現状の都市国に新たな火種を抱える必要はないと思うのだが?』
『私も戦略長の意見に賛成です。この都市国には不要な・・・人類には不必要な産物だと思います』
『確かに私もそう思うが・・・最近は妙に三ヵ国ともう一ヵ国が静か過ぎるのです』
『確かにそうですね・・・しかしもう一ヵ国は毎度のことながら内乱をしているらしいのですが、こちらには手出しはしてきませんね』
『しかし都市国が現在安定しているのは戦略長のおかげではないのですか?戦略長が迅速に行動した為に王国に反撃を許す前に建国が出来たと、そう聞いていますが?』
話を降られた戦略長が考えるように瞳を閉じ、数秒考えた後重々しく口を開く。
言っていいことなのか、それとも言わずにこのまま墓場まで持って行った方がよいものなのかと考えたからだ。
『儂が迅速に行動したからと皆には思われているが・・・実際は違うのだよ』
戦略長の重々しく開くた口からは実際に世間一般に広がっている話と違うと言うのだ。
確かにザヴィードは悪政をしてきた貴族を打倒する為に尽力し、そして成し遂げた。
・・・しかしザヴィードは経験、そして長年生きてきた経験からこの都市国の独立が何者かに仕組まれた可能性が高いというのだ。
確証も証拠もないのだが、あまりにも上手くいきすげているとザヴィードは考える。
『なるほど・・・確かに確証のない証言は民を不満にさせるだけですからね』
『しかし、都市国の独立が仕込まれていたとしてこの五十年間なにも音沙汰がないのは不思議ですね』
『確かに・・・不思議ですね。商業長は何か他国から噂さを聞いていませんか?』
『知っていたら皆さんに話しますよ』
『まぁ、そうですよね』
『とりあえずこの問題は置いておくとして、今の話題はこの賢者の石をどうするかのですが・・・ここは公平に多数決で決めましょう』
そう言い終えるとワルトはこの賢者の石をどうするか多数決をとる。
内容は賢者の石を破棄するのか、それとも他国への切り札としてとっておくかというのだが・・・賢者の石の破棄に賛成なのは戦略長と商業長の二名。反対なのが都市長、魔法長、魔導石長の三名なりこの賢者の石を都市国で所持するという結論にいたる。
『それで・・・どうしますか?この賢者の石を使用すれば魔法の威力上昇や、魔導石の純度を高めることが可能性と言われているいますが使いますか?使いませんか?』
『皆さんのことは信用しております。しかしこの賢者の石の使用には国の危機限定とさせて戴きたいのですが』
『儂からしたら賢者の石も、ただのそこら辺の石と変わり無いからのぉ・・・別に儂はよいと思うぞ』
『私が持っても宝の持ち腐れですね。魔法が使えない者にかんしてはこの賢者の石は意味をなさない物質なのでですから』
『一つ質問をしてもよろしくでしょうか?』
今まで発言を控えていた魔法長が都市長に話しかける。
考え事をしていたのか、どうにも自身の考えた結論すると合わないようだ。
『この賢者の石を量産する事は不可能なのですか?確かにこの資料には粗悪品として書かれていますが、質より量という言葉があります。数を増やして他国への交渉材料、魔導師、錬金術師、治療薬剤師の質の向上に繋げた方がよろしいのでは?』
『その事なのでが、貴族の地下室からは賢者の石の作成資料は発見は出来ませんでた。ただ・・・祈りが必要とだけ書かれているだけで』
『意図的に破棄したのか・・・それとも誰かに持ちさらわれたのか』
『前者ならまだよいのですが・・・後者であれば何故賢者の石を持って行かなかったのか不思議ですね』
この場の全員が頷き、賢者の石を見つめる。
不気味に発光するこの物質の作り方は誰にもわからない・・・人間は本質的に正体のわからない物を畏怖する傾向にあるため知識を欲する。
誰だって自分の知っている知識を信じて生活をしているのだから。
火に触れれば火傷する。水の中では息が出来ない。そう・・・常識は人間が生きていくのに非常に重要であり、その事は誰だって分かっている。
しかし蛇に噛まれ、その毒に対しての知識がなければ毒を解毒出来ないのと同じように、いくら文献に書かれていたからといって過信し過ぎるのは危険なのだ。
賢者の石・・・現代の知識では再現不可能だとされている物質がどのようにして作られたのかは不明なため、それを知る為の知識を欲するが、時として知らなくてもよい知識という物も存在する。
代表的なのが疫病の狂天使である。
何故急に発病するのか・・・何時どのようにして発病するのか?感染源はなんなのか?潜伏期間はどれくらいなのかも一切不明は病、もしくは呪いとまで言われているのだ。
呪いなどこの世界には存在しない。
しかし人間に思いの力は時として信じられない力を発揮するかもしれないのだ・・・そう物語に登場する女神、セラフティアスのように。
『それでは今回の議題はこれにて終了です』
『賢者の石の所在については我々五人の秘密ということなのですね』
『知っての通りですが、この話は他言無用に。家族であっても厳禁ですので』
『分かっておるわ、最早この年で戦争はしたくないのでのう』
『私も・・・出来れば知りたくはなかったですね』
『一魔導師としてはとても興味深いですが・・・生きているうちに完成品を見てみたいものですね』
『本当に文献に書かれいる通りの効果なのか気になりますね』
話を終えて賢者の石をこの会議場に隠した後、各々護衛を引き連れて帰ってゆく。
都市国・・・中央市場
都市国の中央部より少し東方に位置する市場で様々な食材が集う場所だ。
南からは穀物や果実が、北からは森で取れた肉や河魚などが輸入され市場は活気に溢れている。
現在の時刻は昼を少し過ぎた程度だが、市場には未だに昼食を取っている者や家へのお見上げなのか果物を物色している者もみられる。
その通りの中を会議を終えたザウロスは護衛と別れ、何か小腹に良さそうな食べ物を探しながら歩いていく。
会議の内容は今後の都市国を左右する事だと理解してはいるが、目の前欲望には抗えないものだ。
特に、お腹が空いている時にこのような良い匂いを嗅いでしまえば当然である。
『さて、何か良い物は・・・おや?あの服装は』
食べ物を物色していたザウロスは露店の前で食べ物を眺めていた女性を目にする。
長く艶やかな黒曜石を思わせる黒髪に、雪のような白い肌。そしてルビーのような赤い瞳の女性をこの都市国で知らない者はいない。
特に男性なのであれば・・・
『おやおや・・・奇遇ですね。ヘリエテリスさん』
『あら!?ノックオンさん。今日は会議だったのですか?』
ザウロスが話かけた女性の名はマリアティアス・V・ヘリエテリス。
スヴァ都市国では有名な女性であり今は小さな教会を経営している。
彼女が有名なのには理由がある・・・まずその美貌だ。
百人中百人が振り向くような美貌の持ち主であり、その見に着けている衣装も彼女が着ていることで更に神聖さをかもしだしており、その姿はまごうことなき聖女その者だ。
彼女の祈る姿は一枚の絵画を思わせるようであり、男性なら誰しも彼女を妻にしたいと思うのは当然である。
しかし彼女はこの身は神に捧げた者だと言っており頑なに男性からの誘いを断っているが・・・
『予想外に長引いてしまったのでこの辺で軽食を食べようかと思ったところです。ヘリエテリスさんは?』
『私はこの近くのパン屋で頂きましたクッキーのお礼をし終えた後に、ちょっと市場で何かないか探している途中でしたので』
『ほう・・・そうですか』
ザウロスの心に嫉妬の炎が灯る・・・誰もが羨む女性にお礼を言われたのだ当然である。
しかしザウロスはその嫉妬の炎の感情を口にも顔にも出さずに応対する。
『それではノックオンさんの邪魔をしても悪いですし私はここら辺で・・・』
マリアティアスがザウロスの挨拶をして帰ろうとした時・・・ザウロスの心に黒い欲望が目覚める。
彼女が美しく過ぎるからいけないのだ・・・彼女が魅力的過ぎるからいけないのだと心に言い聞かせて・・・
『待ってくださいヘリエテリスさん』
この場から帰ろうとしたマリアティアスを呼び止める。
不思議そうな顔をするマリアティアス。当然であるザウロスと彼女の接点は非常に少なく、彼女が教会で使用している魔導石の取引を行った程度である。
名前は知ってはいるがそれ以上の詳しいことは知らないのだ。
『少しこの場では話しづらい事なので・・・そうですね。私の家にでも来てくれれば』
『どうしたのですか?何かあったのですか』
『ここでは話しづらいとだけ・・・そしてこの話は貴女と貴女の経営する教会に関わることなので』
『そ、そうなのですか・・・』
マリアティアスが自身に関わる事と教会に関わる事と聞いて、困惑した様子でザウロスの事を見つめている。
ザウロスはにやつきそうになるが意思の力でねじ曲げ、いたって平穏に、冷静に振る舞う。
心に宿った黒い欲望を悟らせない為に。
『心配になる気持ちもわかりますが・・・この事は他言無用に』
『わ、わかりました』
純粋で無垢・・・マリアティアスの事をそう思い込んでいるザウロスは、心の中でこれからマリアティアスにしようとしている事を考える・・・欲情の炎にたぎらせた男性がすること夢みて。