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魔導六刀・朽ちゆく奪刀

  帝国首都ダグマオーネが災害級の疫病の狂天使に襲撃されてしまってから直ぐに行動を開始した騎士団や魔導師、警備兵の面々。

  ある者は災害級の疫病の狂天使から産み落とされた疫病の狂天使を倒す為に剣を手に取り戦い。

  またある者は疫病の狂天使から人々を守る為に魔法を使い。

  またある者は疫病の狂天使に倒されてしまう。

  そんな人々が必死に、死力を尽くして帝国を守る為に戦っている。

  しかしそんな帝国首都に住んでいる全ての人々が疫病の狂天使と戦っているなかで一人・・・帝国皇帝リプロ・デクリメンス・フォール・ゼナーガは帝国内で最も安全な地下で床にに伏せてしまっている。

  しかたのないことだがそれでも罪悪感という物は拭えるものではなく、気分的にも滅入ってしまう。


『皇帝陛下容態は安定しましたか?』

『あぁ・・・少しはよくなかったぞ』

『そうですか。しかし魔婆様を突き刺したあの短剣・・・一体何処から飛んで来たでしょうか?』

『分からないな・・・しかし明確に魔婆を狙って攻撃してきた事は確かだな』


  沈黙がこの場を支配する。

  一体誰が、何の目的で魔婆・シュエ・パールシェールズ・スヴェイレスを殺したのか不明であり、そして何故帝国皇帝であるリプロ・デクリメンス・フォール・ゼナーガではなかったのか?

  誰に分からない・・・不気味な影が帝国を襲っているのは確かだ。


『お言葉ですが皇帝陛下・・・魔婆様を殺した者は分かりませんが、魔婆様を殺した武器を調べられたのですか?』

『いや、調べてはいないそもそも・・・』


  短剣がなかった。

  魔婆を殺した武器である奇妙な形の短剣が忽然と無くなってしまったのだ。

  ほんの一瞬、全員が災害級の疫病の狂天使に魔法が直撃し、爆音が響き渡ったことによって注意が魔婆から災害級の疫病の狂天使に向けられてしまった。

  ほんの一瞬の間にだ。

  音という物は人間の五感であり、当然人間、動物であれば大きな音がした方向に振り向いてしまうのは仕方ないはずだ。


『短剣が消えた・・・まさか物質による転移魔法(テレポーテーション)だとでも』

『グリス殿何か思い当たる節が?』


  グリスと言われた魔導師は少し考え込む。

  帝国近衛魔導師グリス・ニルギルス・フルーダイン。

  魔力量的に考えれば帝国魔導団団長であるディズ・エンドルフィン・オーカルスには及ばないが、彼もまた並大抵の魔導師ではない魔力量を持っている魔導師だ。

  しかしながらも彼は古くから帝国王族直属の魔導師であり、彼の父親もまた帝国王族に仕えている。

  つまり帝国内において彼以上に皇帝に近い魔導師はいないのだ。

  そして今この場には複数名の帝国近衛兵がおり、全員が特別な存在なのだ。

  彼らはリプロから絶大な信頼の元に身辺警護を任されている。

  そんな絶大な信頼を任せている近衛兵の中で最も魔法の知識がある人物が口にした言葉はそれなりの重みがあり、驚いている様子は近衛兵、書記長、そしてリプロを不安にさせるだけの材料になってしまう。


『か、仮に・・・もし仮にですよ・・・わ、私が知っている知識にある物が本物であるとするのならば・・・』

『グリス・・・私もお前の事を最も信頼している魔導師の一人と思っている。そんなお前がそんなに驚くほどの事が起きたのか?』

『は、はい・・・皇帝陛下』


  皇帝リプロに返事をしたグリスの声はあからさまに先ほどとは違い、明らかに不安そうな口調だ。

  何故こんなにも不安に思っているのか?

  それは一つ・・・一つの仮定に過ぎなかった。

  魔導師、魔法を使う事が出来る者であれば誰もが思う、思い描く力の一つ。

  物質や生物を自在に、別の空間に移動出来る夢のような魔法。

  かつて世界を救ったと言われ、そしておとぎ話のようにして語られた女神セラフティアスのみが使えたと言われた究極の魔法。

 

『か、かつて魔法の研究の為に読んだ本の中に書かれていました。この世界の物質、生物を自在に別の場所へと移動させる事が出来る魔法があると・・・』

『なに!?そのような魔法があるのか?』

『いえ・・・現在、そして過去にもそのような魔法を使う事が出来る魔導師の存在は確認されてません。しかし・・・その本には女神セラフティアスが使えたと書かれておりました』

『グリス殿お言葉ですが女神セラフティアスは想像上の人物・・・実際に実在したか定かではないのですよ?』


  白けたような目線を送るセロンに対してグリスは『確かにそうだ・・・自分もその話が本当だとは思ってもいない』っと。

  実在そんな話を信じるのは子供や、一握りのロマンチスト、そして女神セラフティアスを信仰しているような人物だけだ。

  しかしながら今は違う・・・今この帝国首都に、前代未聞の・・・災害にも匹敵すると言われている疫病の狂天使が襲撃し、更には50体の疫病の狂天使が出現したこの状況において、不思議な事など山ほど存在する。

  もしかすればそのような・・・物質を瞬時に別の場所に移動させる事が出来る疫病の狂天使がいないとも限らないのだ。


『つまりあれか・・・この帝国首都の襲撃は仕組まれた可能性があると?』

『正確には断言出来ませんが・・・』

『なるほど・・・くそ!何がどうなっている!』

『こ、皇帝陛下落ち着いてください!お身体に障ります!』


  思わず激昂し、机を叩きつけるリプロ。

  あまりにも理不尽なことに腹が立ってしまったのだ。

  確かに皇帝であるリプロは怨まれる存在なのかもしれない。

  実際リプロの代、そして先代からは無能と判断した貴族の爵位を剥奪を多くしてきた。

  しかし、それもこれも全てはこの帝国・ダグマオーネを良くする為に行った行為であり、後悔はなかった。

  だが・・・もしこの惨状がリプロが引き起こしたのであればあんまりだと叫び、喚き散らしてしまいかねない。

  リプロが少しでも自我を保っているのは周りにいる近衛兵がいるからであり、もしいなかったら完全に喚き散らしていたとリプロは心の中で思う。


『はぁはぁ・・・す、すまない少し気が立ってしまったようだ』

『無理をなさらずに・・・皇帝陛下が倒れてしまったら全てが敵の思う壺ですので』

『そう・・・だな・・・ところで私を守る近衛兵達よ』


  リプロがこの場にいる全員の近衛兵を見渡し、一拍おいて話す。


『もしこの帝国首都の襲撃が仕組まれていたのであれば一体誰が仕掛けたか・・・思い当たる節がある者はいるか?』


  リプロの問いかけに少し考え込む近衛兵に、セロン。

  数分後・・・一人の近衛兵が恐る恐る手を上げる。


『そんなに脅えないでくれ・・・これは非公開の会談であり、この場の全員が忘れれば何も残らない。勿論記録にもな』


  そう言ってセロンを見るリプロ。

  セロンもメモを取る気が無い事をアピールするようにノートを机に置く。


『で、では・・・皇帝陛下・・・恐れながらも王弟陛下ではないでしょうか?』


  確かにそうかもしれない。

  皇帝の地位をめぐって王族同士での争いごとは無いわけではなく、近年は無いが数十年前までは平気であったと記述されている。

  しかし・・・いくら自身が皇帝になりたいからと言ってこのような・・・帝国首都が崩壊してしまいそうな事をするのかと疑問だ。


『さすがにそれはないでは無いでしょうか?あの会議の場に私は居ましたが・・・王弟陛下がそのような事をするとは思えません』

『私もそう思う・・・そもそもこの事件・・・私ではなく、帝国自体に怨みを持っている者が裏で糸を引いていると私は思う』

『まさか・・・国が動いていると?』

『断言は出来ない・・・そもそも疫病の狂天使をこのようにして任意で出現されられるのか・・・』

 

  リプロがこの・・・帝国で起こっている現象について話していると、一人の外で警備しているはずの野人(レンジャー)が入ってくる。

  リプロに敬礼し、報告を開始する野人(レンジャー)

  話の内容は現在帝国で起きている現象についてた。


『北西の砦が崩壊してしまったのか・・・このままでは』


  野人(レンジャー)から北西の砦が崩壊してしまった事を伝えられ、落胆している近衛兵や、リプロ達。


『しかしご安心してください皇帝陛下。あの災害級の疫病の狂天使は帝国魔導団団長の魔法により火達磨になりました。もうじきあの災害級の疫病の狂天使は倒されるでしょう』


  その報告を聞き、溜まっていた疲れが一気に溢れだしたのかリプロは深いため息をつく。

  今の今まで安心出来る情報が入って来なかっただけにやっと一歩前進した感じだ。


『これならば疫病の狂天使を倒し終えるのも時間の問題ですね』

『そうだといいのだが・・・』


  突如として大きな音が響き渡り地下室が揺れる。

  何事かと慌てている近衛兵、数名の近衛兵はその腰に帯刀している剣を抜きいつでも戦闘出来るようにし、魔導師の面々も魔力を練り上げ・・・轟音と共に地下室の天井を突き破り巨大な・・・木の根のような物が現れる。


『こ、これは!?』

『木の根!?』

『ま、まずい・・・』


  反応しきれなかった数名の近衛兵が襲っきた木の根に刺されてしまう。

  咄嗟に土の属性魔導師が土の属性魔法・土壁(アースウォール)を発動させて、リプロに迫りくる巨大な木の根防ごうとするがものの数分で壁が壊れてしまう。

  しかしその数分間の内にリプロは逃げることに成功し、間一髪で脱出する。

  生き物のように動いていた巨大な木の根だが・・・何故か急に動きを止めてしまう。

  地下室の3分の1を破壊して止まった巨大な木の根。

  その巨大な木の根を止める為に数発の魔法が放たれたかもしれないが・・・何故急に止まったのかは誰にも分からない。


『くそ!?この木の根・・・』

『バカな!?剣で斬れないほどの強度だと!』


  負傷した仲間を助けようと巨大な木の根に向かって剣を降り下ろす近衛兵だが、予想以上に木の根が頑丈であったが為に切断出来ずに手をこまねいている。

  間一髪で逃げることに成功したリプロ、セロンの額からは大粒の汗が流れてしまっている。


『まさかこのような時に・・・』

『なんというタイミングだ・・・狙ったのか?』

 

  リプロの問いかけに答える者はいない・・・と思っていたが答える者が崩壊した天井から現れる。

  その人物は綺麗だった。

  帝国で様々な美女を見てきた皇帝であるリプロですら驚いてしまうほどの美女であり、母性に溢れたような雰囲気を醸し出している聖女と言っても過言ではないそんな人物だ。

  黒の聖職者の衣装に身を包み、黒のロングスカートには十字架が刺繍されている。

  シミ一つない衣装も見事だが・・・それ以上に、目を奪われるのはそのスタイルの良さだ。


『聖女・・・さま?』

『な・・・何者です!?』


  突如として現れた絶世の美女と言っても過言ではない美女の出現。

  このような場所でなければ口説いてしたかもしれないと思っている近衛兵も多いだろうとリプロは心の中で思う・・・実際リプロ自身ももし結婚していなければ誘っていたはずだ。

  いや、絶対に誘っていると断言出来る。

  しかし・・・今は帝国本土が疫病の狂天使に襲撃されており、そして今この場所・・・帝国本土で最も安全とされている場所に侵入して来たのだ・・・絶対に何か・・・並々ならぬ力を秘めた人物であると即座にリプロは理解する。


『お前は何者だ・・・まさか・・・』


  リプロが絶世の美女・・・マリアティアス・V・ヘリエテレスに問いかけようとした時、マリアティアスが人差し指を口に当てる。

  そのジェスチャーの意味は『静かに』っと言う意味であり、何をしているんだと近衛兵、リプロ、セロン達が見ていると・・・崩壊した天井から一つの影が落ちてくる。

  その影を見て驚愕し、恐怖してしまうリプロ。

  その理由は・・・


『クチルギ!?』

『な!?何故・・・』


  天井から落ちてきた影が先ほどリプロとセロンが面会して、この都市に出現した疫病の狂天使をリプロから討伐するように命じられた人物であったことに驚きを隠しきれないリプロ。

  リプロほどではないがセロンも驚いてしまっている。


『この子は何者です?とても人間とは思えないのですが・・・』


  そう言って指摘したマリアティアスの指差す先には人間ではない・・・奇妙な形をしている腕。

  左腕が人間の物とは思えない枯れ枝のようになってしまっている。

  気絶してしまっているのか全く動く気配がないクチルギ。


『お前がこの事件の犯人か!』


  冷静にマリアティアスに向かって魔導銃を突きつける複数の近衛兵。

  他の近衛兵も皇帝であるリプロを守るように各々の得物をマリアティアスに向かって突き立てる。

  そんな近衛兵に対してやれやれと言うような目線を送る。


『私が質問をしているのですからまず質問に答えて欲しいですね。まぁ・・・そうですね。私がこの・・・腐りきった帝国の為に仕掛けました』

『貴様がこの事件の犯人か!』


  そう言い終えると直ぐさま魔導銃を発砲する近衛兵。

  しかし・・・その弾丸がマリアティアスを貫く事はなく、全く別の方向に着弾する。


『な!?外れた!』

『この距離で外すなよ!』

『ま、待てお前達・・・』


  リプロの忠告も虚しくマリアティアスに向かって魔導銃を構えた近衛兵が発砲するが・・・発砲された魔導弾はマリアティアスの前で止まってしまい地面に落下してしまう。

  そんな近衛兵の行動を見ていたマリアティアスが手を降り、魔法を発動させる。

  すると魔導銃でマリアティアスを狙っていた近衛兵、そしてリプロを守ろうとしていた近衛兵に、セロンが魔法の餌食となってしまう。


(な!?これは・・・)

(なんだこれは!?)

(水の結界?)

(まさか・・・皇帝陛下!)


  自分達の状況に気がついた近衛兵が皇帝であるリプロの方がどうなっているのか見てみると・・・そこには皇帝リプロ以外の近衛兵全てが水の結界によって閉じ込められてしまっている。

  閉じ込められてしまった近衛兵が持っている得物で水の結界を突破しようと試みるが・・・柔らかなゼリーを斬っている感覚があるが、斬った瞬間に再生するのか全くもって突破できる気配がない。


(くそ・・・駄目か。ならば魔法ならどうだ!)


  一人の近衛兵が風の属性魔法を発動させ、水の結界を破壊しようとするが・・・


(な!?・・・バカな!)


  滝をそよ風では止める事が出来ないように、この近衛兵の魔力で作りだした魔法程度ではマリアティアスの水の結界を突破する事は出来ない。


『結界魔法・(アクア)球牢獄(スフィラ)。さて・・・この結界で貴方を守る者はいません。それでは私の質問に答えてくださいますか?』


  聖女のような笑みを浮かべるマリアティアス。

  しかしその笑みはこの場には似つかわしくなく、とても・・・不気味だ。

  脅迫ともとれるようなマリアティアスの問いかけ、自身の身を守る全ての近衛兵は拘束され、人質のようになってしまい自身もまた質問に答えなければ殺されてしまう・・・そんな不安に駆られてしまうリプロ。

 

(な、何者だ!?こ、この場所を知っているだけでなく私の近衛兵を一瞬にして制圧しただと!?そ、それに・・・)


  リプロは横目で床に倒れてしまっているクチルギを見る。

  先ほどから数分は経っているが動く気配がない・・・つまり今リプロを守る者は誰もいないということでだ。


『この子について・・・何が知りたいのだ?』

『そうですね・・・何故この子のような普通の女の子が何故あのような力を持っているのかということです』

『・・・あのような力とは?』

『とぼけるおつもりですか?』


  マリアティアスは魔法を発動させてリプロに向けて放つ。

  水の属性魔法であり、鋭く長く固定させたより槍のような形状をした魔法はリプロの隣の壁を破壊する。

  次は当てる。そんな気迫でマリアティアスは再びリプロに問いかける。


『わ、わかった・・・は、話す』

『嘘、偽り無く話してくださいね・・・でなければ』


  そう言って再び魔法を発動させ狙いを定めるマリアティアス。


(正直に話した方がいいのか?しかし・・・クチルギの存在自体が我が帝国にとっての最重要秘密。極限られた人物のみが知ることを許されている秘密だ・・・この女が知っているはずが無い。だが・・・もしこの女がクチルギの秘密を少しでも知ってい答え合わせとして私に質問しているだとしたら・・・)


  心の中でマリアティアスにクチルギの本当の事を伝えた方がいいのか?

  それとも嘘をつきこの場をやり過ごした方がよいのか?

  数秒迷いリプロはマリアティアスにクチルギについて本当の事を教える事を決意する。


『この子の名前はクチルギ。何故あのような力・・・疫病の狂天使を倒せる力を持っているのかと言うと・・・』


  リプロは深く深呼吸し、呼吸を整える。

  今から言う事は帝国の最重要秘密についてなのだから。


『この子・・・クチルギがこの世界に存在する魔導六刀の一本を所持しているからだ』


  その事を聞き、頷くマリアティアス。

  特段驚いている様子もなく、いや・・・むしろ納得しているようだ。


『なるほど・・・ではその魔導六刀についての説明をお願いします』


  優しそうに微笑むマリアティアスだが、その笑顔はリプロにとって恐怖でしかなかった。


『魔導六刀と言うのはこの帝国が出来る数百年前・・・に超貴重魔導石と呪力を使って作り出された刀だ』

『なるほど・・・それで?』

『て、帝国王家に伝わる文献によるとこの刀は普通の人間には扱う事が出来ない・・・し、しかしその身を刀を埋め込むことによって使う事が出来る』

『つまり・・・この子、クチルギはその魔導六刀が埋め込まれた子供。人間兵器に変えられてしまったと言うのですね』

『し、仕方なかったんだこの力がなければ帝国は滅びてしまう。そ、それに帝国の他にも王国、魔導国でも持っているぞ!』


  必死に、自分が死なない為にマリアティアスに向かって説明するリプロ。

  その姿はあまりにも滑稽であり、道化のようだ。


『でもこの子にはこの子・・・幸せな生活があったかもしれないのですよ?それを奪うというのは・・・』

『ち、違うぞ!こ、こいつは元々孤児だったんだ』

『孤児であればよいと?』

『こ、子供・・・小さな子でなければ身体に馴染まずに直ぐに死んでしまうのだ!』

『・・・その言い方ですと何回か試されたようですね?』

 

  マリアティアスの鋭い指摘に答える事が出来ずになってしまうリプロ。

  実際に歴代皇帝は魔導六刀を使っての人体実験をしていた記録は数多く存在している。

  そしてリプロから数えて四代前からは幼い・・・孤児に埋め込むことにしている。

  最初に親から聞いた時はリプロも残酷だとは思った。

  いくら帝国を守る為とはいえ何の罪もない孤児を帝国を守る兵器に変えてもいいのかと・・・しかし、大人になり皇帝の地位を継いだからこそより良く理解することが出来た・・・魔導六刀、クチルギは帝国にとって絶世に必要であると。


『そ、そうだ・・・仕方なかったんだ。帝国を守り為にはな!』


  そう言い終えるよりも先にリプロは隠し持っていた魔導銃を使いマリアティアスに向けて発砲する。

  普通の魔導銃よりはコンパクトで、弾丸も一発した撃てないがこの弾丸には秘密がある。

  その秘密とは・・・


『不意討ち・・・しかし』

 

  魔導弾がマリアティアスに着弾するよりも先にマリアティアスは防御魔法を発動させ防ぐ・・・はずであった。

  リプロの放った弾丸はマリアティアスの防御魔法を破壊し、マリアティアスの頭部に直接して顔の半分以上を吹き飛ばす。

  明らかに致命傷であり、この世界の技術では助ける事が出来ないと断言できる。


『は、はは・・・アハハハハ!ざまみろ!防御魔法を突破する抵抗魔導弾だ!魔導師では防ぐことは不可能だぞ』


  マリアティアスを撃ち殺したことで死の恐怖から解放されたリプロが狂ったように半狂乱になってしまう。

 

『それにしても・・・こいつは使えなかったな』

 

  そう言いながらリプロはゴミを見るような目線で床に転がっているクチルギを見る。

 

『さて・・・次のクチルギの早急に探さないとな』


  そう言ってクチルギの方に近づきクチルギを起こそうとする。

  しかし・・・クチルギに近づいた瞬間、とてつもなない衝撃に襲われる。

  そして次にリプロに襲いかかって来たのは尋常ならざる全身に伝わる痛みであった。

  何が起きたのか?理解出来ずにいると・・・リプロに近づいてくる者がいる。

  マリアティアスは魔導弾で撃ち殺した。まだマリアティアスの結界魔法が発動しているのか未だに近衛兵達は動けていない。

  つまり今リプロに近づいている人物の正体は・・・


『・・・クチルギを騙していたんだね?いや・・・魔導六刀の犠牲になった全員を!』


  怒り狂った口調でリプロに近づいて来ているのは先ほどまで床に転がっていた人物、クチルギであった。

  鬼のような形相に、疫病の狂天使と同じように・・・この世界全てを怨んでいるような憎悪の瞳。

  何故倒れていたはずのクチルギが息を吹き返して此方に迫っているのか?

  何故リプロとマリアティアスとの会話を聞いていたのか?

  そんな事考えるより先にリプロをするべき事を理解し行動する。

 

『我が名・ダグマオーネ帝国皇帝の名において命ずる!クチルギ今すぐ歩みを止めよ!』


  その言葉・・・呪力を持った言葉によりクチルギを止めようとするリプロ。

  言葉の魔力とも言えるべくこの呪法は代々帝国・・・帝国より以前から伝えられている呪法で、ある特定の人物に対して強制的に命令でき、自在に操る事が出来る呪法だ。

  しかしこれは帝国王族が代々極秘に伝えられた呪法であり、今となってはその呪法を新たに作ることは不可能で、失われた魔法(ロスト・マジック)と言われてしまっている。

  そんな極秘な・・・絶対的な力によってクチルギを止めようとするが・・・


『その呪法はクチルギに通じませんよ・・・』


  何処からともなく女性の透き通るような声が聞こえてくる。

  何処から聞こえてくるのか、リプロは不思議に辺りを見ていると・・・そこにはリプロの対魔導師用の弾丸によって撃たれたはずのマリアティアスが立っている。

  手に持っている分厚い聖書からは光輝く不可思議な文字が溢れだし、マリアティアスを包んでいる。

  なんとも幻想的な光景だが・・・それ以上に目を疑ってしまう光景が起こっている。

  それは・・・リプロによって撃たれたはずの傷が再生しているのだ。

  光輝く文字自体がマリアティアスの吹き飛んだ頭部を復元しているのか、マリアティアスの傷はみるみる内に癒え元通りになってしまう。


『な!?バカな!?あ、ありえな・・・』


  リプロがこの世界では絶対にありえない現象を目の当たりにして、注意がクチルギからマリアティアスへと移動してしまい疎かになってしまう。

  その結果クチルギの攻撃を避けきる事が出来ずに直撃してしまう。

  自身の太ももを貫通し、後ろの壁に突き刺さる細長い槍のような武器。

  自身に刺さっている物がなんなのか、この激痛の正体がなんのか理解した瞬間・・・リプロの表情は一気に青ざめる。

  それは・・・この槍の能力を知っているからであり、これから自分がどうなるのか容易に想像できたからだ。


『どうやら心は決まったようですね?』


  マリアティアスが憤怒に駆られたクチルギを見る。

  その表情はとても可愛らしく・・・まるで少女が好きな男の子を前にしているような幸せに満ちた表情だ。

  理解出来ない・・・何故マリアティアスがそんな表情をしているのか理解出来ないリプロ。

  しかし・・・その疑問は次のクチルギの言葉によって知らされる。


『うん・・・マリアティアス様の言う通りだった。あの記憶は正しかったんだね』


  そう言って悲しそうにマリアティアスを見つめるクチルギ。

  あの記憶とはなんなのか?そんな疑問を浮かべているリプロ。

  今はそんな疑問を抱くよりも、この絶望的な状況を脱出する事を考えた方が良いはずだが・・・時に好奇心という物は自身の身の危険すら後回しにしてしまいかねない。

  台風の日に外に出掛けたるのと同じように危険だとは理解していたとしても見てみたい、聞いてみたいことはいくらでもあるのだ。


『理解しましたか?あの記憶は全て真実であり歴代王族は貴方・・・魔導六刀・朽ちゆく(クチルギ・)奪刀(アークエイク)となるべき者達を選びそして帝国の武力として扱って来た事実を・・・』

『うん・・・そうだね』

『何も知らない子供であれば洗脳するのは容易いと理解した歴代王族は、赤子の頃の貴女達に外の世界を教えずただ・・・帝国の脅威を去る武器としてしか見ていなかったのです』

『そう・・・ですね・・・』

『人としての幸せも、人生も、そして貴女達が産まれてきた意味すらも彼らによって作られたのです!』

『・・・うん』

『また壊れれば次の・・・代わりの貴女を用意し、使い終わったら当然のように捨てる!そんな事を平然とやる帝国に尽くす必要はもう無いのです』


  マリアティアスの言葉を聞いていたクチルギの言葉が徐々に震え出す。

  怒りか・・・それとも信頼していた人物から裏切られら悲しみからなのか分からないが・・・


『さぁ・・・クチルギ・・・貴女のしたいようにして大丈夫ですよ』

『ほ、本当に・・・』

『えぇ・・・本当です。もう貴女を縛る鎖は何もありません。自由に・・・貴女のしたい事をすればいいのです』

『だったら・・・』


  クチルギが言葉にする・・・世界で初めて本当に魂の底から願った事を実行しようと。


『この帝国の・・・全てを破壊したい!私が!今まで犠牲になった全員の怨みを晴らしたい!』


  その言葉を聞き、満面の笑みになるマリアティアス。

  そしてマリアティアスはクチルギに促す・・・それでは始めましょうと・・・


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