帝国首都襲撃3
帝国魔導団団長ディズ・エンドルフィン・オーカルスが、災害級の疫病の狂天使に向かって魔神の真火を撃つ数分前・・・マリアティアスと別れたアリセスとエールはダグマオーネのとある施設に向かったていた。
『さて・・・マリア様より命じられた任務を遂行するといたしましょうか』
気合いが入っているのかアリセスは手に持っている杖をクルクルと回しながら隣にいるエールに話しかける。
エールもまたマリアティアスから貰った短剣を手に取り不備がないか確かめている。
『・・・アリセス覚えていますかマリアティアス様に救われた日の事を』
『忘れるはずがありませんわ・・・だってマリアティアス様は私の退屈で仕方なかったあの日々から解放してくださったのですから』
エールに質問されたアリセスはとても嬉しそうにしている。
何故このような状況・・・疫病の狂天使がダグマオーネを襲撃するこの都市、今この状況で嬉しそうにしているのか。
それは数年前に遡る・・・
数年前・・・スペルオーネ帝国とある貴族屋敷
少女は退屈そうに屋敷で行われているパーティーを眺めていた。
現帝国皇帝リプロ・デクリメンス・フォール・ゼナーガが無能と判断した貴族達が次々に極刑に送られるなかで、彼女の家は変わらずに豪華で優雅な生活をしている。
いや・・・パーティーに出席する貴族達が少なくなってしまったので賑わいは少なくなっているが。
『お嬢さん私と踊りませんか?』
そう言って少女に手を差し伸べる男性貴族。
少女より年上らしくその顔には整えられた髭が蓄えられている。
またか・・・と少女は心の中でため息をつく。
彼女の屋敷でパーティーを開催すると100%数名の男性貴族が彼女にダンスを申し込んでくる。
別に少女はダンスは嫌いではなかった。
少女が子供の頃はきらびやかな衣装に身を包み、可憐に、そして美しく踊る女性達に憧れていた。
しかし・・・少女が段々と年齢を重ねていくにつれて男性貴族達の見る目が変わってきたのだ。
いや・・・男性貴族達の見る目が変わってきたのではない。少女が成長するにつれて少女が理解してしまったのだ男性貴族が少女をどのような目で見ているのかを・・・
『申し訳ございません・・・』
そう言って男性貴族からの誘いを断る少女。
その心には罪悪感も、そして悲しみも存在していなかった。
何故なら少女は自分を誘ってくる男性貴族・・・いや、自身の身内でさえもどうでもよかったのだ。
『やぁ我が娘よ・・・隣よいかね?』
『どうぞお父様』
タイミングを見計らって少女の父親が話しかけてくる。
ここ最近パーティーを開くと必ずと言っていいほどに少女の父親はとある話を持ちかけてくるのだ・・・その話とは。
『どうかね?彼もよいとは思うのだがね?』
『・・・』
父親の問いかけに無言の少女。
『彼の家計は代々皇帝に仕えてきた家計でね、彼もまたその地位を約束されているのだ。優秀であり、彼自身もまた騎士団に入団して優秀な指揮能力、判断力を発揮していると聞いている。このまま行くと彼のお父上と同じ・・・』
長々と続きそうな父親の話に嫌気がさした少女は一言父親に告げると、バルコニーの方に歩いて行ってしまった。
『はぁ・・・』
少女の父親がため息をついていると一人の女性が話しかけてくる。
まだ年は若く、少女の父親とは十歳以上歳が離れてはいるが・・・この女性は少女の母親である。
『また駄目だったのですね』
『あぁ・・・どうしたらいいのかねぇ』
『だから言ったじゃありませんか。まだ難しい年頃なのですから焦らなくても・・・』
『そうなのかねぇ・・・私としてはもうよい年頃だと思うのだがね?』
(またあの話だ・・・)
少女はため息をつき空を見上げる。
今夜は満月で月明かりが美しく少女を照らす。
しかし美しく月を見ようとも、美味しい食事を食べようとも、楽しいパーティーを開いても少女の心には何も響かない。
誰も少女を理解しようとはせず、誰もが少女の事を考えてはいない。
いや・・・確かに少女の事を考えてはいるのだが少女の真の願いを叶えようとはしてくれない。
家柄が、父親が・・・そしてこの世の中が少女を束縛する。
(どの人たちもみんな同じ目・・・外見だけ見ている。誰も私を理解してくれようとはしない)
少女はとある親しいメイドの事を思い出す・・・幼いころから少女に仕えてきたメイドで、気軽に何でも相談できる相手だった。
しかしそんな信頼していたメイドにさえも少女は裏切られてしまったのだ。
お金を積まれ簡単に裏切る・・・そんな信頼など無に等しい。
少女は自分を理解してくれる存在はこの世界にいないと思っていた・・・そしてある日少女は決意してこの屋敷から出て行く。
しがらみも、面倒なパーティーなどない自由な生活を夢見て・・・
しかし現実は少女が思うほど簡単には行かなかった。
帝国を離れて異国の地、都市国で暮らそうと思った少女だが誰も、何も頼ることが出来ない状況での生活は予想以上に金銭を消費してしまっていた。
元々貴族である少女にとっての異国の土地での慣れない生活、それに少女の整った身なりに気品ある言葉使い、そして可憐な美貌。
当然近寄ってくる男達もいる。パーティーで出会った男達がマシだと思える程に・・・しかしそうではなかったのだ。
とある女性に出会って少女の人生は全て変わってしまった。
その女性の名前はマリアティアス・V・ヘリエテレス・・・名前をアリセスへと変えた少女が仕える聖女だ。
『マリアティアス様に出会って全てが変わったのは私も同じ・・・だからその恩に報いなければならない』
『そうですね。私達にとってマリア様が全て・・・他のことなどはどうでもよいのです』
『その言葉を聞いて安心した・・・そうしたら帝国を滅ぼすのに悔いはないんだね』
そう聞かれてアリセスが動きを止める・・・
そしてアリセスからおびただしい程の殺気が溢れ出す。
もしこの殺気が目に見えるのであればこう言うだろう・・・まるで溶岩のようだと。
ドロドロにアリセスから溢れ出る殺気・・・とても女性が、人間が出せる殺気ではない。
『私の全てはマリア様に捧げている・・・その事実は絶対に変わることはないし、変えるつもりもない』
『申し訳ございませんアリセス。ただ・・・貴女の生まれ故郷だと聞いていたので』
『まぁ・・・その事はマリア様も気にかけておりましたし、エールも気にかける気持ちもわかります。しかし・・・いえ・・・だからこそこの帝国は滅びなければならないのです。大いなる大義、そしてマリア様が望む楽園の為に』
そう言ってアリセスはエールに向けていた殺気を抑えこむ。
『ではマリアティアス様の望む楽園の為に・・・まずはこの帝国騎士団参謀本部を襲撃しましょうか』
そう言ってアリセスとエールは帝国騎士団参謀本部にたどり着く。
アリセスとエールの気配に気がついた警備兵が不思議そうにしている。
それもそのはずだ・・・何故なら帝国騎士団参謀本部に常駐しているはずの野人部隊の面々から連絡が一切きていないからだ。
無論この場所は帝国騎士団の参謀本部、帝国騎士団の頭脳が終結している場所であり、当然その参謀本部を守る為に数多くの兵、魔導師も、野人も存在している。
それなのに何故連絡が来ていないかというと・・・
『あら?門番は残していたの』
『正面の敵はアリセスに任せたよ。私は裏から奇襲させてもらうよ』
『だからって正面の敵は残さなくても・・・』
此方に近づいてくる聖職者の衣装に身を包んだ二人の女性。
何故この帝国騎士団参謀本部に向かってくるのか?
この場所は帝国騎士団参謀本部・・・聖職者が来るような場所ではない。
避難している雰囲気ではなく、むしろ真っ直ぐに向かったている二人の女性。
一人はどことなく気品があり、何処からよいところの・・・貴族の出ではないと思えるような感じだ。
そして横を歩くもう一人の女性はまだ若い、前髪に隠れて醜くなっているが少し目付きが悪い女性だ。
『兵長彼らは何者なのでしょうか?』
『わからん・・・疫病の狂天使に追われている雰囲気はないな』
『避難者でしょうか?』
『避難するなら参謀本部には来ないだろ・・・』
そう言っている間にほんの少し・・・瞬き程度の時間の間に聖職者の内の一人が目の前から消える。
『な!?』
『消えた・・・』
『我々は幻を見ていたのか?』
『まさか?そんなはずは・・・』
そう言っている間にも迫りくる女性。
声の届く範囲に届くと・・・
『すみません少しお訪ねしたいのですが・・・』
『はい!何でしょうか?』
『ここが帝国騎士団参謀本部ですか?』
『そうだが・・・貴女は一体?』
『ただの聖職者です・・・まだ今ね』
そう言って持っている杖の形状が変化し・・・槍のようになると瞬く間に二人の警備兵を突き刺す。
『な・・・』
『疫病の狂天使が来ないからと言って油断し過ぎですよ』
『さて・・・正面突破と行きますか』
帝国騎士団参謀本部・・・今参謀本部は大混乱の最中にある。
その理由は・・・
『殺せ!』
『あの侵入者を生かして返すんじゃねぇぞ!』
『女だから、聖職者だからといっても油断するな!』
一人の侵入者・・・アリセスの手によって次々に倒される騎士団、警備兵。
参謀達を守る為に迫りくるアリセスに向かって一人の騎士団が前に出る。
全身鎧を着こんだフルプレートの騎士でその手には身の丈程の巨大なバスターソードを持っている。
『俺が相手をする・・・』
フルプレートから殺気のこもった声と共にアリセスに向かって斬りかかる。
常人では受け止めることが出来そうにない、上段からの一撃を優雅に、そして踊るようにかわすアリセス。
衝撃を受け止めきれなかった地面が斬られ、その衝撃によって近くにある柱も斬られてしまう。
『重さ・・・力は凄いですが全然スピードがありませんね』
『その身のこなし・・・その洞察力・・・貴様何者だ』
『何者でしょうね・・・ただ今は聖職者です。貴方・・・罪人を殺すためだけの』
『ほざけ!』
フルプレートの騎士が今度は横に一線。
並々ならぬ重さの一撃をアリセスはその槍で受け止める。
『な!?』
『重い一撃・・・しかし取るに足らない攻撃ですね』
ニッコチ・・・いや、不気味に微笑むアリセス。
驚いているフルプレートの騎士をよそに、バスターソードを受け流すと矢のような鋭い攻撃を右肩に喰らわす。
堅牢なフルプレートを貫通し、その身体から出血してしまう。
『ぐぁ・・・』
『その程度の鎧など無意味ですよ』
『き・・・さま・・・』
全てを言い終えるよりも先に串刺しにされてしまうフルプレートの騎士。
『少し強い程度でしたね・・・』
串刺しにされてしまったフルプレートの騎士を見て戦意を失ってしまう騎士団、警備兵達。
彼らはフルプレートの騎士の間合いに入らないようにしており、今まで避けていたがそうも言っていられない・・・この先には参謀の面々がいるだから。
『一斉に隙のない攻撃・・・』
戦意を失ったのにも関わらずにまだ戦うことが出来るのは彼ら使命なのか、それとも彼らの意地なのか。
今度は一斉にアリセスに攻撃を仕掛ける。
ある者は突き刺そうと、またある者は斬撃を、そしてまたあの者は殴り倒そうと攻撃する。
前後左右隙のない一斉攻撃・・・
『槍が得意な私なら間合いを詰めれば攻撃出来ないとでも思っているのでしょうね・・・しかし、しかし全然甘い考えです。血も十分に補充しましたし』
そう言ってアリセスは手に持っている槍・・・もとい杖の能力を発動させる。
四戦の血晶杖・・・この杖はマリアティアスの手によって造り上げられた杖であり、世界に一つしかなく、アリセス専用に造り上げられた杖だ。
その杖にはあまたの魔導石、そして多数のルーンが刻まれている。
そして杖の能力とは・・・
『ぐぁぁぁ!?』
『馬鹿な!』
『なんだ・・・槍じゃなかったのか』
次々に斬り倒される騎士団、警備兵達。
アリセスの間合いに入っていないのにも関わらずに倒されてしまった騎士団、警備兵達が斬られてしまった原因それは・・・
『か、大鎌に変わった?』
『えぇそうです・・・槍ではなく大鎌です。大人数相手には此方の方がよいでしょうからね』
そう言ってアリセスは槍から大鎌へと変化した得物で斬り伏せる。
一瞬にして形状が変化し、間合いが変わった得物に対処出来なくなってしまった騎士団、警備兵。
槍が一瞬にして大鎌に変化してしまったのだ対処など出来るはずもない。
そもそも槍と言う物は刺殺に特化した武器であり、リーチは長いが横の間合いが極端に短くなってしまう。
それに対して槍から変化した大鎌は同じくリーチが長くそして横の間合いも槍より格段に広い武器だ。
そして鎌と言う物の形状の特権で人間の死角・・・つまり背中からの強襲が可能なのだ。
『な、なんで・・・さっきまで槍だったのに』
『不思議ですか?不思議ですよねぇ・・・貴方が理解出来ない現象ですものねぇ』
斬り伏せられてしまった警備兵が虚ろな瞳でアリセスに問いかける。
当然である。いきなり槍から大鎌に変化してしまったのだ戸惑ってしまうのも当然だ。
『冥土の土産に教えて差し上げましょう』
瀕死の警備兵に向かってアリセスは答える。
アリセスの持っている四戦の血晶杖の能力とは、斬った相手の血に含まれる鉄分を利用して杖の形状を瞬時に変えることが出来るという物だ。
形状の種類は全部で四種類。
取り扱いがよく持ち運びも簡単な杖タイプ。戦闘時以外は常にこの形状にしている。何故なら槍や大鎌であれば人目に付きやすく目立ってしまうが、杖であれば布にくるんでいれば怪しまれる事はない。
次は先ほど使用していた槍タイプ。リーチが長く剣などの間合い外から一方的に攻撃でき、一対一の戦いでよく使用する。
次は今は使っていないが大斧タイプ。大鎌と同様にリーチが長いが、こちらは大鎌とは違い遠心力を利用して爆発的な破壊力を生み出すのが特長であり、防御が硬い相手や、人間ではない・・・城壁などの破壊も可能だ。
そして最後は今アリセスの手にしている大鎌タイプ。リーチが長く人間の死角から攻撃でき、軌道が読まれ難いのが特長的だ。
これが四戦の血晶杖の能力であり、驚くべきことにアリセスはこの全ての形状を瞬時に変化させて戦うことが出来る。
そしてアリセスはその四形状全てで戦闘が可能だと答える。
『あら・・・もう死んでましたか』
アリセスは既に事切れしまった警備兵を見ながら更に追撃をする。
動かなくなってしまった警備兵の首が飛び・・・完全に絶命してしまう。
『やはり首を飛ばさないと安心しませんからね』
そう言って次々ともう既に事切れてしまった騎士団、警備兵の首を飛ばず。
帝国騎士団参謀本部中央会議室。
参謀本部に侵入者の知らせを受けた参謀の面々。
彼らも騎士団の訓練を受けているので盗賊程度であれ対処出来るが・・・今回侵入してきた人物は一筋縄ではいかないようだ。
何故なら・・・
『ぐ・・・あぁ・・・』
『ち、ちからが・・・』
『なんで・・・』
侵入者、エールに斬られた参謀の面々は全員倒れてしまっている。
致命傷ではないがエールの短剣に塗られている毒により力が入らないのだ。
『これが帝国騎士団参謀の考えですか・・・あの疫病の狂天使には帝国魔導団団長を当てると』
参謀の面々を斬り伏せたエールは机に並べられている資料を見ながら一人の参謀に目にやると・・・短剣で斬りつける。
苦痛な悲鳴が室内に響き渡りこの場の全員が青ざめる。
そしてまた一人・・・痛みによって絶命してしてしまう。
『ま・・・また・・・』
『うーん・・・その表情を見るにどうやらこの資料に書かれていることも真実なのですね』
参謀本部を襲撃したエール。情報収集の為に資料見ており書かれている内容が真実かどうか尋問しているようだ。
『あ・・・貴女の目的は何なのです?』
ただ一人、参謀の面々の中で立っている・・・いや、どちらかというと磔にされてしまっているエルロ・ジュッテウロ・レモネード参謀長が苦痛を堪えて発言する。
両手を深々と短剣によって刺され、磔にされてしまっているエルロ。
無理に動こうとするのであれば深々と刺さった短剣により両手を失ってしまいかねないのでエルロは動けずにいる。
『我々の目的はただ一つ・・・あのお方の理想の為です』
『我々・・・ということは貴女以外にもこのダグマオーネを襲っている人物がいるということですね。そしてあのお方とは何者なのです?』
『我々の同胞ない者に答えるつもりはありませんね・・・貴女は導かれるのでしょうか』
『導く・・・こんなダグマオーネが状況で何を言っているのですか!』
磔にされてしまったエルロが吼える。
それに同調するように地面に倒れている参謀の面々も吼える。
身体を動かせないがそれでも帝国に住む者として、帝国騎士団の端くれとしてこの場の全員が答える。
エールのやっていることは帝国に混乱をもたらすだけであり、決して導いていることはないと。
『何も知らないというのは時に幸せであり、不幸でもあるのですね』
『我々が何も知らないと?』
『知らないですね・・・この世界の理・・・罪の重さを』
『罪の重さ・・・だと・・・』
こいつは何を言っているんだ?そんな雰囲気の中で部屋の扉が開かれ、一人の女性が入ってくる。
エールと同じ聖職者の衣装に身を包んだ女性で・・・その手には血に塗られた大鎌が握られている。
明らかにエールと同じ・・・同業者の雰囲気の女性を前にエルロは息を呑む・・・
『こちらは終わりましたよ・・・そちらは?』
『まだ少し時間が必要でしょうかね』
『あ、あんたもそこの女と同業者なのか?』
地面に倒れている参謀の一人が部屋に入ってきた女性・・・アリセスを睨む。
その問いかけに答える間も無く、アリセスは問いかけをしてきた参謀の首を飛ばす。
『ひっ・・・』
目の前の惨劇を見て血の気が引いてしまったエルロ。
青ざめてしまったエルロをよそにアリセスは次々と周りに倒れている参謀の面々の首を飛ばず。
残っている参謀の面々が一人、また一人と死の恐怖に耐えられず泣き叫んでしまう。
大人であれ、死の恐怖に耐えれない・・・それを証明するように地面に倒れてしまった参謀は残り三名になってしまう。
『この程度あれば問題ないでしょう』
『倒し過ぎでは?まぁ・・・いいでしょう。さて・・・そろそろ本題へと移りましょうか?』
『ひっ!?あ・・・ほ、本題ですか』
『そうです・・・現帝国皇帝リプロ・デクリメンス・フォール・ゼナーガの娘は何処にいますか?』
『皇帝陛下の娘?』
エールの問いかけに何を言っているんだという雰囲気になってしまう。
それもそのはずだ。帝国皇帝リプロ・デクリメンス・フォール・ゼナーガの娘は死んでしまっている。
それは帝国全土が知っている事実であり、国葬までしたのだ。
『その反応・・・どうやら知らないようですね?』
『知らない?何を言って・・・』
訳がわからない?その事を言おうとしたエルロよりも先にとてつもなく明るく光る。
何事かと思い外を見るにアリセスとエール。
外には赤々と燃え盛る火柱が存在しており、アリセスとエールはその火柱の正体が巨大な大木であることを瞬時に理解する。
『これは・・・』
『どうやら帝国魔導団団長の魔法のようですね』
『はは・・・アハハハハ!やっと貴方達の驚く顔が見れました・・・どうやら予定通りには行っていないようですね』
渇いた笑いと共にアリセスとエールを睨むエルロ。
既に帝国騎士団参謀本部は壊滅状態ではあるが、帝国本土を襲撃した黒幕に一泡吹かせたことが嬉しかったようだ。
『あ、貴方達がどんな方法で・・・疫病の狂天使を操っているのかは知らないけど・・・帝国本土であるこのダグマオーネを襲撃して・・・生きて帰れると思わないことね』
苦しそうに、呼吸を整えながらアリセスとエールに睨むエルロ。
磔にされ、身動きは封じられてしまっても帝国騎士団の一員なのだ、心まで折られることはなく確固たる意識で抗う。
『心は屈せずですか・・・どうやら見込みはないようですね』
『何のことです・・・』
『いえ・・・こちらの事情ですので気にせ・・・』
エールとエルロが話していると・・・何処からか鼓動が聞こえて来る。
とても大きく、そして身体の芯に響き渡るようなそんな鼓動だ・・・
『この音は・・・』
『貴方にはどうでもよいことでは?』
『そうですね。とりあえず貴女には知っている事を話してもらいますよ』
『この私が・・・正直に喋るとでも?』
『えぇ・・・喋ってくれると思いますよ』
そう言いながらエールは懐から透明な液体が入った小瓶を取り出す。
『本来は使いたくなかったのですよ・・・これを使うと数分後には灰人になってしまいますから』
そう言いながらエールはエルロに無理やり飲ませ・・・エルロが知っている帝国の秘密を聞き出す。
『まだ若いのでなれると思ったのですが残念です』
『これでこの施設にはもう用はないですね・・・マリア様に報告しに行きましょうか』
そしてアリセスとエールは用済みとなってしまった帝国騎士団参謀本部を後にする。




