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帝国首都襲撃2

  帝国首都ダグマオーネ、嘗て帝国の首都として繁栄していたダグマオーネは今は混乱の最中にある。

  ある者は疫病の狂天使から必死に逃げ、またある者は疫病の狂天使を倒す為に剣を取り、そしてまたある者は既に息絶えてしまっている。

  そんな混乱の最中、一人の少女が必死になって走っている。この災害から逃げる為に・・・


『はぁ・・・はぁ・・・何で、どうして』

 

  少女は物陰に隠れ泣きながらその手に持っている物を見つめる。

  少女が持っている物は手のひらに収まる小さなロケットペンダントであり、その中には三人一緒の写真が入れられている。

  仲が良さそうな夫婦の真ん中に綺麗な服を着て、満面の笑みの少女の写真でとても幸せそうな感じの写真だ。

  少女は帝国首都に住んでいることもあり、小さいながらも写真という高価な物を持っているというのは少女の家系が裕福だからだ。

  しかしながら今はその豪華であった少女の家は既に瓦礫となってしまい、崩壊してしまった衝撃によって自分の・・・最も愛している母と父が死んでしまったのを目撃してしまいその少女の家を破壊した疫病の狂天使に追われているのだ。

  少女は幸いなことにその時は庭で遊んでいて無事であった。

  いや・・・もしかすれば不幸なのかもしれない。

  今の少女が着ている服は名家の出身とは思えない程にぼろぼろになってしまったセーラー服のような物。

  所々が破け、その柔肌が見えてしまっており、美しかった髪も埃まみれで汚れてしまっている。

  大事に持っているロケットペンダントでさえ、疫病の狂天使から逃げている最中に一度転んでしまい凹んでしまっている。

  必死になり疫病の狂天使から逃げてはいるが・・・既にこの世界に少女を最も愛してくれる存在はいなく、そして帰るべき家もなくなってしまっている。

  これからどうすればよいのか・・・頼るべき相手もいない少女にはこの世界を生きて行くには辛すぎる現実を疫病の狂天使の咆哮が気がつかせる。

  まるで世界全てを怨んでいる者の咆哮は聞くだけで人々を震え上がらせ、心の弱い者の精神を蝕む・・・

  木霊する疫病の狂天使の咆哮は少女には耐える事ができなかった・・・恐怖に心のが支配されてしまったのだ。

  この世界から逃げ出したい程に・・・


『お父さん・・・お母さん・・・今から私もそっちに行きます』


  少女が地面に落ちている硝子を手に取り首に当てる。

  震える少女の手に溢れでる涙・・・少女の心ではまだ決心がつかないのだ。

  そして数時間のように錯覚してしまう程に時間が過ぎ去り、地響きと共に疫病の狂天使が少女の近くに降り立つ。

  幸いなことに疫病の狂天使は少女を見つける事が出来なかったのか少女の横を通り過ぎる。


『怖い・・・怖いよ・・・お願い、お願い・・・お願い・・・誰か助けてよ』


  少女は必死に祈るこの絶望の世界から逃げ出したいと。

  膝を擦りむき血が出ようが、涙、鼻水を流しようが必死に祈る・・・純粋に・・・

  すると少女の視界に赤い、真っ赤な林檎が落ちているのが目に入る。

  とても美味しそうな・・・この場にはそぐわないみずみずしい林檎だ。


『あ・・・うぁ・・・』

 

  その林檎を見た瞬間少女はとてつもなく食べたいという衝動に駆られる。

  いつの間にか少女の震えは収まり、恐怖がかき消えてしまう。

  そしてそれ以上に・・・恐怖よりも、あの林檎が何なのか疑問も何よりもあの林檎を食べたいという食欲を押さえきれなくなってしまっている少女。

  その口元からは涎が垂れ、少女の目線は縫い付けられたように一直線に林檎を見つめ・・・走り出す。

  衝動を押さえきれなくなってしまったからだ。


『・・・うわぁ』


  林檎を手に取り、うっとりと見つめた後・・・一口食べる。

 


『他の残っているのはいるか?』

『あっちにはもう居ないぞ』


  街で疫病の狂天使から逃げている市民を捜索し、助け出している警備兵。

  彼らも訓練してはいるが警備専門であり、騎士団のような装備や、武器を持っていないために都市での戦闘の際は迎撃等は行わず、危険区域に残っている市民の捜索や砦の防衛等を主にしている。

  そんな彼らも突如として地面から出現した災害級の疫病の狂天使、そしてその災害級の疫病の狂天使から産み出された疫病の狂天使の強襲により指示系統が機能しておらず、特に出現場所に近い警備兵にはまだ伝令が来ていない。

  その為に各々の判断によって取り残された人々の救出を行っている最中だ。


『じゃあっちに向かうぞ・・・無事ならいいが』

『あっちか・・・』


  そう言って警備兵が向かう先には疫病の狂天使が暴れた場所で、複数の建物に穴が空き、瓦礫になっている建物が複数存在する地区だ。

  警備兵が瓦礫が散乱する地区に進んでから数分後・・・周りを探索したのはいいが見つける事が出来たのは人間・・・の形をした何かでしかなく生きている人間は未だに発見出来ずにいた。


『おいアレを見ろ・・・』

『周りに疫病の狂天使はいない・・・行くぞ』


  そう言って警備兵は一人の倒れている少女の元に駆け寄る。

  幸いなことに少女の近くには疫病の狂天使はいなく警備兵は無事に少女の元にたどり着く。


『外傷は少しあるが・・・致命傷は無い。心音は・・・生きているぞ!』


  警備兵が少女が生きている事を確認して揺すり、声掛けをしてみるが反応がない。

  気絶しているのか?それとも何か彼女の病気的なことで意識が無いのか不明だが起きる気配は感じられない。


『起きないか・・・とりあえずこの子を安全な場所に運ぶか』


  少女を運ぼうとした時、少女の近くに落ちている食べ掛けの林檎が目に入る。

  少女が食べていたのだろうが・・・何故倒れている少女の近くに落ちているのか疑問に思っている警備兵。

  手持ちの林檎を食べている最中に倒れたとは考えにくいが・・・とりあえずその事は置いておき警備兵は走り出す。

  そして無事に少女を疫病の狂天使が暴れていた地区を脱出し、都市に数ある砦へと少女を運ぶ。

  幸いなことに疫病の狂天使に襲撃されてはいなかったので避難し終える。


『それではこの子をお願いします』


  砦を警護している警備兵と帝国軍専属治療薬剤師に少女を明け渡すと警備兵がこの砦を去ってゆく。

  少女を受け取った帝国軍専属治療薬剤師が少女が何故倒れてしまったのかを考えているが・・・警備兵の言っている通りに少女には致命傷と言える傷は見当たらず、帝国軍専属治療薬剤師の地位にいる者でさえ少女がどのような状況になっているのかわからずにいた。


『どうしてこの子は・・・』


  独り言を呟いている最中に少女に胸元にあるロケットペンダントが目に入り、そしてそのロケットペンダントを開ける。

  とても綺麗な細工が施され、一般的には流通していない・・・高価な雰囲気のロケットペンダントだ。

 

『これはこの子の・・・何かこの子の手がかりになるかしら?』


  ロケットペンダントを開けた中に入っていたのは写真であった。

  仲が良さそうな夫婦の写真なのだが・・・何故か違和感がある。

  その理由は夫婦の真ん中・・・ちょうど子供が一人入れそうな空間が存在しているのだ。

 

『・・・なにこの写真?この子の持ち物なの?』


  少女の持ってたロケットペンダントに入っていた不思議な・・・違和感が存在する写真。

  まるで夫婦の真ん中の人物がいなくなってしまったようなそんな感じの不気味な写真に気を取られていると、同僚から注意されてしまう。

  忙いで少女をベットに移し、ロケットペンダントをしまう。

  残念ながら今は疫病の狂天使の襲撃にあっており、人手が足りないので少女をベットに置いてこの場を去ってしまう。



 帝国騎士団参謀本部

 災害級の疫病の狂天使はダグマオーネに甚大な被害をもたらしただけでなく、一瞬にしてダグマオーネを地獄へと変貌させてしまった。

  運の良いことに帝国騎士団参謀本部には疫病の狂天使の被害は無く、無事に機能しているが・・・参謀を担う面々のうち数名の席が空白だ。

  緊急事態の時は直ぐ様に参謀本部へと集まるように言われているが、空白なのは連絡が取れない・・・もしくはこの世界にいないからかもしれない。


『くそ!何故このタイミングで・・・』


  纏められた資料を見て嘆いている一人の参謀。しかし彼が嘆くのも当然である。

  何故なら現在この帝国首都ダグマオーネには本来居るべき人物達がいないのだ。

  その面々とは帝国騎士団団長ジュラ・レイジスト・ウルエイオを筆頭に、数名の名のある団長達や帝国魔導団副団長の他に帝国軍所属治療薬剤師団長などが今この都市にはいない。

  それに周辺都市から集められた一万人規模の騎士団が不在であるのがとてもまずい状況だ。


『嘆いていも仕方のないことです・・・既に派遣した部隊は戻って来ないので残りの部隊で倒すしかないのです』


  そう言って自身もため息をつき、疲れた表情の女性・・・帝国騎士団参謀長・エルロ・ジュッテウロ・レモネードだ。

  王弟であるシエン・ユネルメンス・フェール・ゼナーガに命じられ帝国南部へと派遣する部隊を編成したのは彼女であり、断れなかったとしても罪悪感というのは存在する。

  しかし今すべき事は嘆くことでも、後悔することでもなく、ダグマオーネに出現した疫病の狂天使を討伐することに意味があるのだ。


『そうですね・・・参謀長の言う通りです』

『それよりは問題なのはあの大きな・・・大木のような疫病の狂天使ですね』

『あの大きさは異常だな・・・今までにあのような巨体の疫病の狂天使が出現したという情報はあるのか?』


  そう言われて質問されたのは今まで帝国に出現した疫病の狂天使に関して書かれた資料を見ている兵であり、時は一刻を争うので既に見た資料が乱雑になってしまっている。


『いえ・・・全て見た訳ではないですが見当たらないですね』

『帝国内に出現した疫病の狂天使の最大の大きさは・・・資料によると約10m前後と書かれていいます。あのような巨体の疫病の狂天使は確認されてませんね』

『そうか・・・まぁ、疫病の狂天使に常識等は存在しないからな、何が起きても不思議ではない・・・』


  参謀達が話している最中に扉が開けられ一人のローブを着た人物と、野人(レンジャー)が入ってくる。

  彼らの胸元には光輝く帝国騎士団参謀本部の紋章が刻まれており、彼らの所属が帝国騎士団参謀本部だと証明している。

 

『報告いたします!帝国魔導団団長ディズ・エンドルフィン・オーカルスを含めた数名の魔導師達があの災害級の疫病の狂天使を討伐するために動いております。オーカルス様の命により災害級の疫病の狂天使に増援は不要とのことです』

『なるほど・・・本気で戦うつもりなのですね。分かりました。あの災害級の疫病の狂天使は帝国魔導団団長達にお任せしましょう。それと他の面々には近づかないように、巻き添えにならないように伝えましょう』

『同じく報告いたします。皇帝陛下は数名の近衛兵と書記長と共に地下室へと避難されました』

『なるほど・・・』

『それと皇帝陛下からの言伝てです。帝国騎士団参謀長エルロ・ジュッテウロ・レモネードに采配を委ねるとのことです』

『分かりました・・・皇帝陛下の容態は大丈夫なのですか?』


  そう質問され少し困った顔の野人(レンジャー)

  どうやら表情を読み取るに皇帝陛下の体調は優れないようだ。


『皇帝陛下の体調は優れてはおりません・・・多分あまり悲惨は出来事が続いてしまったが為に病んでしまったのでしょう』

『皇帝陛下はあの時以来体調を崩し気味ですか・・・』


  エルロが言い終えるよりも早く大規模な爆発音と共に揺れが伝わってくる。

  何事かと取り乱している面々を他所に、一人の警備兵が伝令として入ってくる。

  伝令の内容は災害級の疫病の狂天使に、ディズが大規模爆裂魔法を発動させ直撃させたとうことであり、ディズと災害級の疫病の狂天使が戦っている方向を見ると燃え盛る災害級の疫病の狂天使の腕が崩れ落ちる瞬間であった。


『おぉ・・・流石は帝国魔導団団長殿だ』

『これが彼の本気・・・凄まじいですね』


  口々にディズを褒め称えている参謀の面々だが・・・何故かエルロには違和感を覚える。

  その違和感の正体とは不自然に災害級の疫病の狂天使の片腕が斬られたように見えたからだ。

 

 

 帝国内災害級の疫病の狂天使出現場所にて・・・


  災害級の疫病の狂天使と戦闘している帝国魔導団の面々。

  帝国魔導団団長ディズ・エンドルフィン・オーカルスを筆頭に集められた選りすぐりの魔導師達なのだが・・・それでもなおあの災害級の疫病の狂天使を倒す事は出来ずにいた。

  複数の魔法が直撃しているのにも関わらずに全くもって倒れる気配がない災害級の疫病の狂天使。

  片腕は失ったのにも関わらずにその動きは鈍るは気配も、怯む気配もない。

  まるで痛覚が存在していないようだ。

 

『団長!』


  そう言って戻って来たのは風の属性魔導師であり、ディズの命令によって周りを探索していたのだ。


『団長の命令で辺りを捜索しましたがそれらしき姿は見当たりませんでした』

『くそ!?だったら何故あの時そうなったんだ・・・』


  ディズが言っているのはあの時・・・災害級の疫病の狂天使の片腕がディズによって燃やされた時に起きた現象で、通常であれば燃やされた片腕から全身に燃え上がる筈であったのだが、何故か燃えている最中に何者かに切断されたように斬れてしまったのだ。

  もう一度魔法を放とうにも災害級の疫病の狂天使が妨害してしまい詠唱必要な集中力、詠唱時間が作れずにもう一度放つことが出来ないのだ。


『やはり何者かが団長の魔法に妨害を?』

『ありえるかもしれないな・・・明らかに不自然だか』

『団長!』


  ディズ達が話している最中にも災害級の疫病の狂天使が攻撃してくる。

  速度はそれほどでもないが地中からの奇襲は危険極まりなく、さらに災害級の疫病の狂天使の攻撃は防ごうにも防げない。

  土の属性魔法で防ごうにも貫通されかねない程の強度を持っており、更にまずいことにこの災害級の疫病の狂天使の攻撃は意思を持っているように動き、魔導団に襲いかかる。


『悠長に作戦会議もしてられないか・・・』

『しかしこの耐久力にこの破壊力・・・』


  そう言っている間にも災害級の疫病の狂天使は攻撃によって建物が破壊された建物から巨大な枝が出現し、避けている最中の魔導団に襲いかかり三名が犠牲になってしまう。


『くそ!このままではじり貧になってしまいます・・・団長、我々が詠唱までの時間を稼ぎます!』


  自らが囮となる為に魔導団は各自に散会し、災害級の疫病の狂天使に応戦する。

  最早ここが自分達の死地だと決意した魔導団は各々に攻撃魔法を発動させ、災害級の疫病の狂天使の防御を掻い潜り数発直撃する。

  しかし大木にナイフで斬り倒そうとするように、火弾(ファイアーボール)風弾(ウインドボール)程度の攻撃魔法では災害級の疫病の狂天使は倒す事は出来ないようだ。


『勝手な奴らめ・・・』


  そう言って魔力を練り上げるディズ。

  ディズが魔力を練り上げている間にもまた一人・・・また一人と悲鳴と共に崩れ落ちる魔導団。

 

『ここは俺が死守させて貰う。喰らえ風鋸(ウィソー)!枝を切り刻め!』


  一人の風の属性魔導師が風の属性魔法・風鋸(ウィソー)を発動させて迫りくる枝を斬ってゆく。

  岩程度なら一刀両断することが可能な魔法であり、災害級の疫病の狂天使を守る枝を斬り倒しながら進んでゆくが・・・鋸も何度か使用していると刃こぼれするのと同様に災害級の疫病の狂天使にはたどり着いたのはよいが、かすり傷程度したダメージは与えられなかった。


『俺の魔法でもあの程度かよ・・・』


  唖然としている風の属性魔導師に対して災害級の疫病の狂天使が地面から不意討ちをしてくる。

  人間の死角からの攻撃だが・・・彼もまたディズには及ばないながらも名のある魔導師であり、災害級の疫病の狂天使の不意討ちをかわすことに成功する。

 

『この程度なら』


  攻撃をかわしながら自身の魔力を高め、建物に隠れながら接近して行く風の属性魔導師。

  災害級の疫病の狂天使の攻撃が止み、自身も攻撃を開始しようとしたその時・・・近くの建物が崩壊し疫病の狂天使が出現する。


『な!?』


  突如として出現した疫病の狂天使に不意討ちを喰らってしまい吹き飛んでしまう。

  吹き飛ばされた先は壁であり、必死に態勢を立て直そうとしたが・・・運悪く着地に失敗して足を折ってしまう。


『ぐあぁぁ・・・くそ!まずい・・・』


  足を折ってしまったことで痛みにより自身にかけていた魔法・(エアー)による浮遊(コマンド)が解除されてしまい地面に倒れる。

  そしてその事を見逃さないと言わんばかりに疫病の狂天使の、世界を怨むような瞳が風の属性魔導師をとらえる。


『まだ距離はある・・・集中するんだ・・・また(エアー)による浮遊(コマンド)で空に逃げるんだ』


  魔力を高め再び空に飛び逃げようとするが、それよりも早く何かが飛来してくる音が聞こえ・・・肩に激痛が走る。

 

『な・・・に・・・』


  激痛の中、必死に肩の方に目をやると肩には深々と刺さった・・・貫通している木の枝があった。

  張り付けにするように刺さってしまった木の枝・・・何が起きたのか理解出来ずにいると此方に近づいてくる足音が聞こえてくる。

  目線を動かした先にいたのは先ほど不意討ちを喰らわせた疫病の狂天使であり、その手には災害級の疫病の狂天使が産み出した木の枝が握られている。

  たとえ木の枝でも人外の力を持った疫病の狂天使が投げればそれはまさに凶器そのものであり、人間程度の皮膚ならば意図も簡単に貫いてしまうのだ。


『きぃぃがいぁぁ!』


  世界を怨む咆哮と共に災害級の疫病の狂天使の破片である木の枝を再び投擲し、今度は腹部に突き刺さる。

 

『あぁぁ・・・そん・・・』


  気絶してしまいそうな激痛の中で彼が最後に目撃したのは迫りくる木の枝であった。



『うわぁ・・・すごいなぁ・・・』


  地下室を出て外に赴いたあどけない少女・・・クチルギは疫病の狂天使を倒す為に都市を移動している。

  今まで外に赴いたことがなかったかのように無邪気に、そして赤子の手を捻るように簡単に暴れている疫病の狂天使を突き刺す。

  細長い槍のような物なのだが、何故かクチルギの左腕が存在していない。

  引き千切られた筈であれば出血等するかもしれないがクチルギは痛みを感じていないのか平然としている。

  左腕の部分には肩から布で覆われていてどうなっているのかはわからないが・・・


『これがそとのせかいなのかなぁ・・・なんだかおもってたのとちがう』


  クチルギに突き刺された疫病の狂天使が苦しそうに後ろに後退する。

  何故か最初にクチルギに攻撃された時より少し細くなっており、そしてもう一度クチルギが突き刺す。

  すると数分も経たないうちに疫病の狂天使の身体から水分が、筋肉が・・・そして身体を構成する細胞までもが朽ち果て骨すらもボロボロになりクチルギに踏み潰される。

  訓練された騎士、訓練された魔導師達が束になってやっと勝てるような存在である疫病の狂天使、世界を怨む・・・疫病、厄災とまで言われる疫病の狂天使をこうも意図も簡単に倒すクチルギだが、今はリプロの命令には従わず空を見ている。

  その目線の先には赤々と燃え盛る巨大な火の玉があり、目線を横にづらすとそこには災害級の疫病の狂天使が君臨している。


『わぁ!?すごいすごい!なにがおきているのかなぁ?』



  広範囲爆炎焼却魔法・魔神の真火・・・この魔法はディズ・エンドルフィン・オーカルスが産み出したオリジナル魔法であり、核となる純度の高い火の属性魔法を発動させ、その核に対して大量の風の属性魔法を送り込ませ膨張させると言う物だ。

  そしてこの魔法の核というのは先ほどディズが持っていた杖で、この杖には火の属性魔法を増幅させる効果あり装飾にしようされている宝石のような赤い石は錬金術師達によって産み出され火の魔導石だ。

  帝国の錬金術師達が最高傑作と豪語する程の純度が高く、かなりの手間、経費で作られている。

  その最高傑作を使わなければ産み出すことが出来ないディズの最強魔法・・・発動したことは数回しかなく、こんな市街地で使用した事はなかった。

  しかし、最早そんな事は言っていられないのだ。この災害級の疫病の狂天使はそれほど脅威であり、なんとしてでも倒さなければならない。

 

『・・・多少の犠牲は仕方ないか』


  そう言って瞳を閉じ呟くディズ。

  そして数秒後、魔力を練り上げ造り上げられた魔神の真火を災害級の疫病の狂天使に向かって解き放つ。


『これで消えろ!この化け物が!』


  周りの空気を燃やし接近する魔神の真火。

  燃え盛る巨大な火の玉はまさに太陽の如く周りを建物を呑み込みながらも突き進む。

  触れる物全てを燃やし、魔法を放ったディズでさえ自身の身体から水分が無くなるのを感じとる。

  急激に大量の魔力を消費してしまったが為に飛ぶことにすら儘ならないディズは近くの屋根に降りると同時に魔神の真火が災害級の疫病の狂天使に直撃する。

  鋼鉄すらも容易に融解させる程の威力がある魔神の真火・・・この魔法の直撃を受けて燃え尽きない生物等この世界に存在しない。

  それがたとえ人外の存在であり、人智を越えた存在である疫病の狂天使であってもだ。


『これで終わったのか・・・』


  災害級の疫病の狂天使に直撃し、赤々と燃え盛る巨大な火柱・・・ディズの全身全霊を込めた最強魔法により災害級の疫病の狂天使は燃え尽きる・・・筈であった。


 ドクン・・・ドクン・・・


  何処からともなく音が聞こえてくる・・・その音はまるで鼓動のように。


『何が起きて・・・』


  鼓動が聞こえる方向をディズ達帝国魔導団、帝国騎士団、警備兵、いや・・・この鼓動が聞こえる全ての人間がある一点を見つめている。

  今尚燃え続けている巨大な火柱・・・災害級の疫病の狂天使を。


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