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攻防戦

帝国南部都市キルギオーネ


つい先日のことであった・・・

その絶望は突然に、そして劇的に日常を変えてしまった。


『撃て!撃ちまくれ!』


城壁の上にて兵士が吼える。

しかしその怒号をかき消すように城壁では魔導弾や矢が放たれ、魔導師達が遠距離攻撃をしている。

今この城壁の上では戦いが起きている・・・絶望の権化との死闘が。


帝国南部都市キルギオーネは帝国中央へと向かう為の最後の南の都市であり、敵が攻め込んで来てもいいように分厚い城壁によって守られている都市だ。

それに5m程の城壁には攻防戦が出来るように多数の武器や、城壁から攻撃出来る仕組みになっている。

そしてこの都市は帝国中央と帝国南部を繋ぐ中間に属していることもあり、商業として栄えていた都市なのだが・・・今は戦いの真っ只中にある。


『ぎぃぃぃがぁぁぁぁ』


この世界を怨むように叫ぶ絶望の権化・・・もとい疫病の狂天使。

そして疫病の狂天使と対峙していた魔導師がバラバラに引き裂かれて血溜まりが出来上がる。


『ちくしょう!エンジが殺られた!』

『だが・・・あいつのお陰で隙が出来たぞ!』

『一斉に叩き込む!』


そう言って物陰から飛び出し疫病の狂天使に斬りかかる警備兵達。

先ほど死んでしまっている魔導師の渾身の魔法が効いているのか疫病の狂天使は傷ついており、先ほどよりも弱っているようだ。

案の定警備兵達の攻撃は疫病の狂天使を捉え、疫病の狂天使が切り裂かれる。

しかしまだ倒れない・・・普通の人間であれば到底出血死、ショック死してしまいそうな傷でも疫病の狂天使は戦い続けることが出来るのだ。


『くそ!?まだ倒れないのか?』

『化け物め・・・』


一度離れ態勢を立て直そうとしたその時、警備兵達の後方から魔法が炸裂し疫病の狂天使が崩れ落ちる。

炸裂した魔法は土の属性魔法・岩石弾(ロックボール・ネオ)

土の属性魔法の代表的な魔法であり、岩弾(ロックボール)の強化版だ。


『大丈夫か?』


土の属性魔法を放った魔導師が警備兵達へと近づいて来る。

手に持っている杖や、羽織っているローブはボロボロで、みすぼらしくなってしまってはいるが、走って来るのを見ると怪我を負っている雰囲気は無い。


『助かりました。えっと・・・名前は?』

『ランプ・ガツジア・アースラス・・・駆けつけるのが遅くなってすまない』


そう言いながら疫病の狂天使に倒されてしまったエンジを見つめる。

同じ帝国を守る魔導師であり面識もある人物が目の前で死んでしまったのだ、気持ちが沈み泣きそうになってしまいそうになるがランプは気持ちを押し殺し次の疫病の狂天使を倒そうとすると・・・城壁に何かが激突したのか振動が響き渡る。

何事かと思い周りの警備兵と共に音がした方向を覗き込むと・・・そこにはランプの魔法が直撃し、地面に叩きつけられた疫病の狂天使が壁を叩いている。


『あの状態で生きているのか・・・』


困惑と脅威が混じり疫病の狂天使を見つめる警備兵達。

ランプの魔法が直撃し、地面に叩きつけられ最早絶命したと思われていた疫病の狂天使。

血で出来た枯れ枝のような翼はボロボロになり、脚は曲がるはずの無い方向に向かっている。

そして何よりも・・・頭部が潰れたトマトのなっているのにも関わらずに動けているのだ、化け物以外の何者でもない・・・


『もう一度喰らわせる!』


そう言って魔法を放とうとしたランプの耳に何者かが接近してくる音が聞こえてくる。

何かが羽ばたく音だが・・・


『敵襲!ランプさん疫病の狂天使が!?』


そう言って刀を構える警備兵に向かって飛来してくる疫病の狂天使。 

先ほどの疫病の狂天使は違い、体格も大きく全長にして5m以上あり、そして両腕もまた非常に長く4m程の長さがあるだけではなく、その4m程の両腕には蝙蝠のような翼膜がある疫病の狂天使が強襲して来たのだ。


岩弾(ロックボール)!』


ランプが強襲してくる疫病の狂天使に向かって魔法を放つ。

放った魔法は土の属性魔法・岩弾(ロックボール)だ。

この魔法は人間の頭部程の岩の塊を作り出し放つ魔法であり、岩を生成して放つ魔法なので攻守共に優れた魔法だ。

飛来してくる疫病の狂天使のスピードと考え、到底かわせるスピードではない・・・直撃すると思っていたが、この疫病の狂天使は違うようだ。

即座に空中で身体を捻り、スレスレでかわす疫病の狂天使。


『なんだと!?』


驚きのあまり次の動作が遅れてしまうランプ。

強襲してくる疫病の狂天使に対して防御魔法を発動としようとするが・・・それよりも早く疫病の狂天使が切り裂かれる。

何事かと思い疫病の狂天使は反対方向・・・風の属性魔法が放たれた方向を見ると、其処には疫病の狂天使に向かって強襲してくる風の属性魔導師達が近づいて来ている。

数にして数十名の風の属性魔導師が次々と疫病の狂天使に向かって魔法を放っているのだ。


『な・・・何事だ?』

『まさか・・・援軍!?』


警備兵達が騒いでいると一人の風の属性魔導師が降り立つ。

立派な杖に、立派なローブ、そしてその右腕には帝国中央魔導師の称号・・・この魔導師が帝国中央部からの増援だとランプ達は理解する。


『増援が遅れてすまない!』


帝国中央魔導師・・・自分たちよりも上の存在が頭を下げる。

言いたいこともある・・・何故もっと早く来てくれなかったのか?何故今さら来たのか・・・言いたい事は山程あるがそれよりも早くランプ達は感謝の言葉を告げる。


『それで・・・増援は貴方達だけですか?』


不安そうに質問するランプ。

確かに増援に来てくれたのは良いことなのだが増援部隊が数十名・・・この都市を襲撃している疫病の狂天使の数が七体だと言っても殲滅するのには心持たない数だ。

その問いかけに対して帝国中央魔導師は答える・・・『増援は俺達だけじゃない。帝国中央部から大部隊が接近している』っと。


『ありがとうございます。これでこの都市を襲撃している七体の疫病の狂天使は倒せそうですね』


そう言って安堵するランプ達。

先ほどとは違いその表情は希望に満ちていた。


『・・・七体!?まて・・・話では約五十体の疫病の狂天使が襲撃していると聞いているぞ?』

『・・・えっ!?ご、五十体?』


そう言われて困惑するランプ達。

そして・・・絶望がキルギオーネ全体に伝えられる・・・数にして数百。

南の空を覆い尽くす程の疫病の狂天使が接近中であると。



疫病の狂天使討伐部隊風の属性魔導師部隊


現在帝国南部を襲撃しているであろう疫病の狂天使を討伐する為に帝国中央部から派遣された大部隊は現在南に向けて進行中である。

魔導車と馬車を駆使して移動している中でも、空中を移動することが可能な風の属性魔導師達は特別であり、いち早く異常を知らせることが出来る部隊だ。


『あれは・・・』

『どうした?何か見えてきたか?』


今回の帝国南部までの移動するにおいて風の属性魔導師達は二人一組で行動し、異常があった場合即座に片方が中央部分・・・シエン・ユネルメンス・フェール・ゼナーガ王弟に伝える為の編成だ。

そしてその中でも南側・・・帝国南部の方向を警戒している風の属性魔導師の目に接近してくる影が見えて来る。

明らかに鳥ではない直線的な動きの影だ。


『先行した風の属性魔導師が戻って来る!』


そう言っている間に先行した風の属性魔導師が合流する。

こちらに戻ってきた理由はシエンに情報を伝える為であったようで、簡易に挨拶を済ませるとシエンの元まで飛んで行く。


『王弟陛下!先行部隊のサッチです!』


そう言ってシエンの乗る魔導車の隣を低空飛行するサッチ。

その言葉を聞き魔導車の窓が開けられる。

そして魔導車の中ではシエンの付き人が魔導車に取り付けられている小さな鐘を鳴らす。

この小さな鐘は人間が生み出した魔導具で、この魔導具を鳴らすと魔導車の半径5mの範囲内の雑音を消してくれる作用があり、一度鳴らすと十分間の間続く魔導具だ。

これにより移動する魔導車でも的確に聞き取れるのだ。


『先行部隊・・・何事か?今南部はどのようになっている』

『はい!王弟陛下。現在疫病の狂天使は帝国南部都市キルギオーネを襲撃しております!』

『なん・・・だと・・・』


その言葉を聞き、表情が曇るシエン。

当然である。

キルギオーネは帝国南部と帝国中央を繋ぐ中間都市であり、キルギオーネが壊滅していたのであれば帝国中央部での戦闘になってしまうからだ。


『しかし・・・キルギオーネを襲撃している疫病の狂天使は合計で七体であります』

『なんだと!?ではオルフの言っていた事は間違いであったのか?』

『違います王弟陛下・・・』


一拍おいてサッチが答える。


『現在キルギオーネに向かって約百体程の疫病の狂天使が接近している最中です・・・このままでは我々の到着と同時に疫病の狂天使もキルギオーネを襲撃するでしょう』


その言葉を聞き考え込むシエン。

キルギオーネがまだ健在なのは何よりだが、それよりも疫病の狂天使が想像していたのよりも二倍・・・この大部隊でも勝てるかどうか分からなくなってしまったからだ。

疫病の狂天使は疲労しない・・・いや・・・確認出来ていないだけでありもしかすれば疲労するのであろうが、そう考えても通常の人間の五倍以上の体力を持っていると予想してもいいだろう。

それに疫病の狂天使は個々に異形な姿をしているだけではなく、中には固有の能力を持つ疫病の狂天使も存在する。

帝国の上層部しか知らないことだが、つい先日都市国で起きた疫病の狂天使の強襲では火の属性魔法を扱うことが出来る疫病の狂天使も居たと言われている。

そんな疫病の狂天使が約百体・・・まさに災害に匹敵する程の規模である。


(どうする・・・この事実を全部隊に告げるかいや、それとも・・・)


必死にどのようにすれば良いのかを考えるシエンだが・・・その答えが変わる事はなかった。


『報告ご苦労。少し休みたまえ』

『お気遣いありがとうございます王弟陛下。しかし・・・私も帝国魔導師です王弟陛下のお言葉を先行部隊に伝えるなければなりません』


そう言って決心したような表情のサッチ。

これからシエンの言う事をどうやら見ぬいているようだ。


『そうか・・・』


そう言ってシエンも決心して付き人に命じる。

付き人は魔導車に取り付けられているもう一つの魔導具を発動させる。

この魔導具はある棒の先端が丸くなっている魔導具であり、効果は至ってシンプル・・・この魔導具を通して広範囲に言葉を拡散させて伝える魔導具だ。

しかもこの魔導具は近い距離に居ようが遠い距離に居ようが一定の声量で伝える事が出来るのだ。


『疫病の狂天使討伐部隊に告げる!現在南部都市キルギオーネが疫病の狂天使に襲われている。幸いな事にキルギオーネに出現した疫病の狂天使は七体・・・しかし百体以上の疫病の狂天使がキルギオーネに向かって先行しておりこのままでは我々とぶつかるであろう』


一呼吸置きシエンは発言する『諸君。心せよ!我々はこれより疫病の狂天使討伐する』


その発言を聞き一斉に叫ぶ面々。

皆決心して疫病の狂天使と戦う為に速度を上げる。



速度を上げて討伐部隊がキルギオーネに向かっていると・・・討伐部隊よりも先に疫病の狂天使が到着しており都市は戦場と化していた。

キルギオーネを囲む5mの壁もあまり疫病の狂天使には効果はなく、壁の上で矢や魔導弾を放っているがそれでも撃ち漏らしや、耐え忍ぶ疫病の狂天使もいるので都市内に侵入を許してしまっている有り様だ。

そもそもキルギオーネに常駐している警備兵や、帝国兵だけではとても太刀打ち出来ない状況であるが故に今現在は攻城戦の防衛のようになかってしまっている。


『伝令!現在帝国中央部より派遣された疫病の狂天使討伐部隊の本部が間もなく到着するもようです!』


都市内へと響き渡る伝令・・・そしてキルギオーネに討伐部隊が到着する。


『王弟陛下!我々騎馬部隊はこのまま突貫します!』


そう言ってシエンの返事も待たずに騎馬部隊が都市内で暴れている疫病の狂天使へと向かったゆく。

自身の指示も待たずに騎馬部隊が動いたことにシエンが思うところは無い。

このような混沌としている状況下であるのだ、上の者が指示するよりも現場の判断によって動いた方が良いのだ。

元よりキルギオーネに赴く前に大まかな指示は出している。


『王弟陛下!私達も負傷者の救出に赴きます!』


そう言って騎馬部隊とは別に二人一組で行動を開始する野人部隊の面々。

彼らは人々の捜索や、敵の捜索に長けているからではあるが・・・疫病の狂天使との戦闘ではまず勝てないので出会った場合は撤退するしかないが・・・



帝国騎士団騎馬部隊・・・


騎馬部隊団長であるサマー・アラッシス・アルスタイルはどの騎馬よりも速く馬を走らせる。

これは歴代の騎馬部隊団長より教えられ、伝えられて来たものだ。『騎馬部隊はどの部隊よりも勇敢であり、そして帝国軍の一番槍であれ』っと。


『前方に疫病の狂天使を数体発見!全員突撃準備!』


サマーの指示の元に騎馬部隊が槍を構える。

騎馬部隊が持つ槍は長さにして2m程であり、騎乗での戦闘を考慮しているために通常よりも軽くなっている。

しかし・・・騎馬部隊団長であるサマーだけは特別に通常よりも長く、そして重い槍を装備しているこれはサマーがその槍を扱えるだけではなく、サマーの騎乗している軍馬も特別なのだ。

子供のころから育てておりサマーにとっては家族と同じ存在であり、手足のように扱えるのだ。

そんな使い慣れた・・・特別な馬に乗っているのにも関わらずにサマーの心には不安がある・・・この疫病の狂天使の数を見れば誰だってそうであろう。

だからこそサマーは吼える!自分の不安を打ち消すように・・・


『騎馬部隊・・・突撃!』


サマーの方向と同時に騎馬部隊の突撃が開始される。

サマーを筆頭に数名の騎馬部隊の槍が疫病の狂天使に突き刺さる。

しかし・・・騎馬部隊の突撃程度では疫病の狂天使を怯ませる程度しか出来ず、サマーより後方から突撃攻撃した騎馬部隊が疫病の狂天使の餌食になってしまう。


『くそ・・・何名残った?』

『15名程です!』


後方の騎馬部隊から返事が上がると同時に悲鳴が聞こえ・・・嫌な音が響く。

何かが壁にぶつかった音だ・・・


『14名です・・・』


残り人数14名となった騎馬部隊を率いてサマーは次の疫病の狂天使を討伐する為に手綱を強く握り締める。

都市内に入って直後に数名の部隊に別れて突撃した為に他の部隊がどうなっているのかは不明だが・・・時折聞こえる人々の悲鳴が耳に残る。

しかし、悲しんではいられない。

悲しみ、憎しみ、恐怖がサマーを襲ってくるがそれでも歩みを止めてはならないのだ疫病の狂天使を倒す為に。


『見つけた・・・各員次の獲物は小さいぞ!』


そう言ってサマーの視界には通常の疫病の狂天使より小さい・・・大きさにして1m30cm程度の疫病の狂天使が見えてくる。

先ほどよりも的は小さいがそれでもサマーは狙いを定め速度を上げようとしたその時・・・

突如として視界が傾く。

何事かと辺りを見ると・・・地面が液状になってしまっているのだ。

石畳の通路が液状になってしまっており、騎乗している馬が沼に囚われ・・・


『くそ!?何が・・・』


抗おうとしても逆にドンドン沼に沈んでしまいかねない状況にてサマーは馬に取り付けられている魔導具を発動させる。

この魔導具の効果とは・・・


『駆け上がれ!』


そう言って手綱を強く握るとサマーが騎乗していた馬が沼から脱出し空を駆ける。

この魔導具の効果は馬や、人間などの足元に目には見えない床を形成するという物であり、効果の対象者が移動する速度に合わせて瞬時に形成され空を駆ける事が可能になるのだ。

しかしこの魔導具の効果は約十分程度であり、主に奇襲の為に使われる魔導具だ。

サマーに続くように次々と騎馬部隊が魔導具を発動させて空に向かって逃げようとするが・・・疫病の狂天使はこれを許す事はなかった。


『きぃぃぃぃえぇぇぇ!』


小柄な疫病の狂天使の咆哮と共に騎馬部隊が脱出したはずの沼が蠢く。

ヌルリっと言う擬音と共に人間の脚ほどもある泥で形成された触手が騎馬部隊を絡めとる。


『うぁぁぁ!?なんだ!』

『こ、こいつ!』

『斬り倒して・・・斬れない?』

『だ、団長!』


泥の触手に馬ごと絡めとられた騎馬部隊の面々は必死に逃げようとするが・・・粘液性の泥を振りほどく事は出来ずに次々と沼に沈み、斬り倒そうとしていた騎馬部隊もまた沼に沈んでしまう。

唯一生き残ったのはサマーとサマーと同様に最前列に居た三名、合計で四名しか残らず、騎馬部隊の十名がものの数分で沼へと消えてしまった。


『団長!』


残った騎馬部隊が沼に沈んでしまった騎馬部隊を助けようとするが・・・疫病の狂天使はそれを許さず騎馬部隊に向かって躊躇なく泥の触手で襲いかかる。


『彼奴が俺の部隊を・・・』


怒りで声が震えるサマー。

その感情を感じとったのかサマーの騎乗している馬も同じように喉を鳴らす。


『ぶっ殺してやる!』


サマーは疫病の狂天使に向かって突貫攻撃を開始し、それにつられるように他の騎馬部隊も突貫して行く。

撤退することも頭を過ったが・・・それよりも憤怒が、この疫病の狂天使を倒さなければならないという使命感に駆られサマーは泥の触手を回避し、疫病の狂天使に向かったて進んで行く。


『死ねぇ!』


サマーの槍が疫病の狂天使を貫き、崩れ落ちる。


(なんだこの感触は・・・)


手に伝わる違和感・・・それは疫病の狂天使、生物を突き刺した感触ではなかった。

まるで泥人形でも刺したかのような感触であり・・・刺したはずの槍の先端を見ると泥が付着していた。


(まさか!?)


咄嗟に振り向き、突き刺した疫病の狂天使を見ると、其処には泥で出来た疫病の狂天使が崩れ落ちる瞬間であった。


『泥人形だと!?』


馬の足を止めて、周りを確認すると其処にはサマーと同じように周りを確認している騎馬部隊がいる。

サマーと同じように疫病の狂天使を倒そうとしたのだがその姿は何処にもいなかった。


『団長?』


途方にくれた騎馬部隊の一人がサマーに助けを求めるが、サマーはそれどころではなかった。

突如として姿を消した疫病の狂天使。

最初からあの小柄な疫病の狂天使は泥人形だったのか?

そんなことを考えているとサマーの真下の泥が蠢き・・・サマー達騎馬部隊に向かって無数の触手が襲いかかる。


『真下だ!?』


そう言って騎馬部隊に警告しようとしたが他の騎馬部隊が餌食になってしまう。


『くそ!?真下だと・・・どうすれば』


真下から攻撃してくる泥の触手必死に避けているが・・・次第に余裕がなくなり捕まってしまう。


『くそがぁぁぁ!』


泥に絡め取られ、そしてゆっくりと沼へと引きずられ・・・他の騎馬部隊と同じように沼に沈んでしまう。

っとなるはずであったがサマーに援軍が駆けつける。


水弾(アクアボール)!』


威力を弱められた水弾(アクアボール)がサマーに直撃し、サマーに取りついていた泥が水に流される。

直ぐ様に馬を走らせ脱出に成功するサマー。

水弾(アクアボール)が飛んできた方向を見ると其処には歩兵部隊とチームを組んでいると思われる水の属性魔導達が手を振っている。


『すまない。助かった』

『お気になさらずに、我々は同じ目的を持った同士なのですから』

『サマーさんあれは・・・』


そう言って歩兵部隊の一人が指差した方向にはこちらに向かってゆっくりと近づいて来ている沼の塊。

ゆっくりとではあるが周りの建物を呑み込みながら近づいて来る様子はまさに沼の河のようだ。


『あの中疫病の狂天使がいる。あれは蠢く沼だ!我々の部隊はあの沼に引きずり込まれてしまった』


悔しそうに、そして鬼のような形相で沼を睨むサマー。


『お前達!力を貸せ・・・この疫病の狂天使を今この場で倒さなければ被害が拡散する!』


そう言って味方を鼓舞するサマー。

歩兵部隊の面々も水の属性魔導師も覚悟を決めたようだ。


『援護します!』


そう言って先ほどの水弾(アクアボール)よりも強力な水流弾(アクアボール・ネオ)を蠢く沼に向かったて放つ水の属性魔導師。

すると沼の半分程度の沼を洗い流したのか、沼に隠れていら小柄な疫病の狂天使が露になる。


『見つけた!』


そう言って突撃しようとする歩兵部隊を止めるサマー。

理由はあの小柄な疫病の狂天使が本物かどうかという疑問があるからだ。


『・・・どうしますか?』


そう言って考えて込むサマー。

速く攻撃しなければあの沼がまた溢れ出てくる可能性があり、今の攻撃が無駄になってしまうからだ。

しかし・・・躊躇してはいられない。

この疫病の狂天使を倒さなければ他の部隊にまで被害が出てしまうのだから。


『全員ありったけの物を投げろ!何でもいい・・・奴を見つけるんだ!』


そう言って近くに落ちている瓦礫を投げるサマー。

それに釣られて歩兵部隊の面々も近くに落ちている瓦礫や、装備している物を沼に向かって投げ入れる。

案の定サマーの指摘した疫病の狂天使はダミーであり、瓦礫が直撃すると同時にべちゃりと音を立てて崩れ落ちる。


『見つけた!』


一人の歩兵部隊が声を上げて指を差している方向には投擲した剣が突き刺さっており、水の属性魔導師が確認の為に水弾(アクアボール)をぶつけるとサマーが見た小柄な疫病の狂天使が姿を現す。


『今度こそ打ち倒す!』


そう言って小柄な疫病の狂天使に向かって突撃する。

無数の泥の触手がサマーを襲おうとするが歩兵部隊が、そして水の属性魔導師が援護して小柄な疫病の狂天使への道が出来上がる。


『うぉぉぉりゃぁぁぁぁ!』


サマーの咆哮と共に小柄な疫病の狂天使が貫かれ、絶命してしまったのか周りの泥の触手が動きを止め崩れ落ちる。

周りには沼地が広がり、動かなくなってしまった泥の中には絶命してしまった騎馬部隊や歩兵部隊の面々の死体がチラホラと見られる。

サマーの乗っている馬の体力も限界なのか苦しそうにしている。


『これで終わりか・・・』


疲れた表情のサマー。だがまだ終わったてはいないのだ。

現在この都市では複数体の疫病の狂天使がまだ暴れているのだから。


『お前達・・・少し休憩したら次に行くぞ』


そう言って馬から降りて、他の面々と休憩しようとしたその時、サマー達に近づく影が見えてくる。

疫病の狂天使ではない、また討伐部隊のような鎧も着ている様子もなくローブを着ている。

身長はそれほど大きくはないのかまだ子供のような感じだ。


『子供か・・・歩兵部隊あの子を治療薬剤師の元に』


そう言って近づいてくるローブの子供に歩兵部隊が話かけようとしたその時・・・

突如として歩兵部隊が崩れ落ちる。

何事かと警戒していると崩れ落ちた歩兵部隊の身体を貫通して腕のような物が出てくる。

腕・・・とは言ってもその腕は腕と言うには禍々しく、そして異形であった。

赤く、血液のように巡っている紫色の模様・・・指に当たる部分の先端が鋭くなっており、そして剃刀のようになっている。

疫病の狂天使のような異形の腕のローブの子供は呟く・・・『やっぱり敵を倒した直後は油断するんだ』っと。



その後サマー達がこの世界から旅立つまでこの世を絶する苦しみを味わうことになってしまったが・・・

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