絶対なる力の差
マリアティアスがアリセスとエールに別れを告げてから数分後、アリセスとエールは死刀の黒狼の面々を狩る為に武器を構える。
手に持った槍を自分の前で一回転させ、準備運動なのだろうか感触を確認するようにするアリセス。
エールも同様に両手に持った短剣の他に、もう二本スカートの中から取り出し、ジャグリングのようにしている。
全くもってこの場の雰囲気には似つかわさしくない二人の行動に、呆気に取られている死刀の黒狼の面々だが・・・その姿は死刀の黒狼の面々では隙だらけであるアリセスとエールでさえも倒すことが出来ないと言わんばかりである。
(う、嘘だろ・・・マグザス様の魔法も効かないなんでいったいどうしたらいいだよ!?)
死刀の黒狼の一人であるリグは心の中で絶句する。
マグザスを新たに頭にしてから今まで負けなしで戦ってきたのでなおさら心の不安は大きく、マグザスの指示に従って戦っていればよかっただけなのだから。
『さて・・・潰させていただきましょうか』
そう言い終えるよりも先にリグが走り出す。この状況からいち早く脱出するために。
リグの位置は新入りであったが為にマグザスの位置よりも少し後方であり、死刀の黒狼の面々が負傷してしまった時の為の穴埋め的な存在でしかなかったからこの位置にいるのだ。
アリセス、エールからは見えない位置に居たはずであり、なおかつ走って逃げたので狙われないと思っていたが・・・リグば背中に突き刺さるような激しい痛みに襲われ、堪らずに悲鳴を上げてのたうち回る。
慌てる死刀の黒狼の面々が振り向くと、リグの背中には先ほどエールが持っていた短剣が突き刺さっていて、血が流血してしまっている。
『あれは殺しても構わないですよね?』
アリセスに問いかけるエールだが、問いかけられたアリセスがリグの事を気にしている素振りはない。
何故ならアリセスにとってリグの存在という物は取るに足らない存在であり、別にどのような事になっても関係ないのだ。
それに・・・
『あれは既に助からないのでしょ?』
『私が投擲したのはマリアティアス様によって作られた毒を付与させた短剣です・・・まぁ、解毒など出来るはずもないですね』
『あの短剣はどのような効果でしたでしょうか?』
アリセスが明日の天気でも聞くような口調でエールに問いかける。
それに対してエールも楽しそうに、愉快に、死刀の黒狼の面々に聞こえるように答える。
『あの毒は切り口から毒が侵食し、神経を削るような痛みを与える毒です。痛みを与える事に特化した毒ですので心臓や他の臓器には異常はないはずですよ。最も・・・』
そう言いながらリグの方を見るエール。
そこにはどうすることも出来ずにのたうち回った末に絶命してしまったリグが転がっていた。
『もう死んじゃいましたね』
リグを容易に殺してみせたエールに対して警戒心を高める死刀の黒狼の面々。
一斉に逃げ出さないのは、逃げたとしても生きてこの敷地を脱出できる保証がないからであり、マリアティアスの造った結界を自分達で突破できるか分からないからだ。
それなればと思い手に持つ獲物に力を込める死刀の黒狼の面々。
アリセスとエールを倒さなければ自分たちは助からないと理解したからだ。
『てめぇら離れろ!』
死刀の黒狼の面々が武器を構えるなかで、マグザスが吼えるようにして周りに展開しようとしていた面々を抑制し前に出る。
その瞳は怒りと決意を秘めた瞳をしていて、自身の持っている杖をアリセスとエール突きつける。
『あの女は伯爵様の命で殺せねぇがてめぇらは違う!』
そう言いながらマグザスは魔力を練り上げる。
それに呼応するようにマグザスの構えた杖の宝石が輝き出す。
『俺様を侮辱した事をあの世で後悔するがいい!爆裂火炎弾!』
そう言いながらマグザスは自分が使用可能な魔法の中でも最大火力の魔法を解き放つ。
解き放たれた爆裂火炎弾は、先ほどまでマグザスが放っていた火弾とは比べ物にならないほどの巨大な火の玉であり、火弾が人間の頭蓋骨程度の大きさなのに対して、爆裂火炎弾はその五倍はありそうなほどの巨大な火の玉だ。
速度も段違いであり、この距離ではかわすことも出来なかったアリセスとエールが爆炎に包まれる。
着弾と同時に巻き起こった爆炎に耐える為に死刀の黒狼の面々は一斉に伏せ、マグザスも自分の持っている守りの魔導石を発動させて身を守る。
『どうだ!これが俺の力だ!』
守りの魔導石によって守られているマグザスは高らかに勝利宣言をする。
未だに続く爆炎による延焼は周りの空間を包み込む。
マリアティアスの魔法で防いだとしても加熱した数百度の空気が肺を焼き、発生した二酸化炭素により呼吸困難を引き起こす凶悪魔法。
マグザスの手に入れた火の属性魔法を増幅させる魔導石を装飾した杖により、通常の爆裂火炎弾より強化された爆裂火炎弾はマグザスの最強の切り札であり、どんな強力な相手でも一撃で葬ってきた最強の魔法だ。
欠点としては一時的に杖に装飾された魔導石の効果が使えなくなり、マグザス自身も多量の魔力を使ってしまうので残りの魔力量が大幅に減ってしまうのは難点だが、それに見合うだけの威力はあるそれに・・・
『す、すげぇ・・・』
『流石俺らの頭だ!』
『これが魔法の力・・・』
爆炎に耐えていた死刀の黒狼の面々が口々にマグザスの解き放った爆裂火炎弾に対して驚愕しているのか言葉が漏れる。
驚愕している者や、その力に憧れる者等様々な者がいるが・・・一概ににして言えることはこの場の全員に戦意が戻ったということだ。
爆炎の規模が少しずつ弱まり、未だに黒煙が立ち込めるがそれでも先ほどよりは視界が良くなり、死刀の黒狼の面々が伏せるのを止めてアリセスとエールが居た方向を見つめ・・・黒煙が晴れてゆく。
マグザスの解き放った爆裂火炎弾が着弾した場所は酷く焼け焦げ、地面が完全に焦げてしまっている。
そして其処にはアリセスとエールの二人の姿はなかった。
当然である。高温の炎によって焼かれてしまったアリセスとエールは骨すら残らず燃やし尽くされてしまったのだ。
『す、すげぇ・・・すげぇぜ頭!』
『マジやべぇよ!』
『あいつら骨すら残ってねぇぜ』
死刀の黒狼の面々全員がアリセスとエールが完全に死んでしまったと思い舞い上がる。
自分達では倒すことが出来るのか分からない人物を倒した事に歓喜してしまったのだ。
マグザスもまた安堵のため息をこぼし、肩の力を抜く。
『てめぇら喜んでねぇで、あの女を追うぞ』
そう言い終えマグザス達死刀の黒狼が屋敷へと向こうと振り向いた瞬間・・・この場の全員の動きが止まる。
それは時が止まったような完全なる静止の世界。
そんな世界に迷い混んでしまったように死刀の黒狼の面々は止まってしまう。
その理由は・・・
『中々の威力でしたね・・・』
『そうですね。事前に対策していなかったのでしたら少し危なかったですね』
『マリアティアス様から授かった服が焼けるのは不敬』
『勿論です。まぁ・・・流石はマリア様ですね。この事を予期していたのですから』
『当然。マリアティアス様は全てにおいて万能』
『あの竜王と同等、それ以上でしょうかね?』
『絶対マリアティアス様の方が上』
『まぁまぁ・・・エールはマリア様にぞっこんですね』
アリセスに指摘されて照れてしまったのか、顔を赤めるエール。
その事を隠すようにスカートの中から短剣を取り出す。
アリセスもまた手に持つ槍を構え・・・唖然としている死刀の面々を見据える。
『あ、ありえ・・・』
『ありえない』っと言いそうになかったマグザスが急いで口を閉じる。
しかし周りを見れば死刀の黒狼の面々の顔色は青ざめ、恐怖からなのかガチガチと歯を鳴らしている者もいる。
『ど、どうやってあの爆炎から逃げたんだ?』
マグザスが堪らなくアリセスとエールに問いかける。
何故、どのようにしてあの魔法・爆裂火炎弾を防いだのか、かわしたのか知りたかったのだ。
『どうしますエール?あの外道達に教えますか?』
『別に教えても構わないけど・・・まぁ目的は無力化ですから戦意を削ぐという意味ではお答えしますね・・・単純な話です。貴方の魔法・爆裂火炎弾が直撃する直前に次元転移の魔法を発動させただけです』
『・・・は!?』
マグザスの余りにも間抜けな反応だが、死刀の黒狼の面々は誰もその事を指摘する事が出来なかった。
アリセスの言い放った言葉を理解する事が出来なかったからだ。
次元転移・・・全ての魔導師が実現させようと日夜奮闘している魔導師であり、未だにその魔法を使う事が出来る魔導師は存在しないと言われている究極魔法の一つだ。
文献等では女神セラフティアスが使ったと記述されているが、何百年も昔であり、その事実を確認する事は出来ていないが・・・
世界最高の魔法研究機関とされている魔法国魔導開発機関でも現実に使用出来ていない魔法を使う事が出来る魔導師・・・それ即ち未知の魔法技術を持っている魔導師であることに他ならない。
自分達が拐おうとしていた相手が計り知れない相手だと理解した死刀の黒狼の面々の顔色は優れず、恐怖で身動きが取れずにいる者、未だに理解できずにいる者もいるが・・・アリセスが懐から奇妙な文字が書かれた紙を取りだし魔法を発動する。
すると今まで死刀の黒狼対峙していたアリセスの姿が突然消えてしまう。
何が起きたのか理解出来ずにしている死刀の黒狼の面々だが、突如叫び声が聞こえる。
何が起きたのか確認すると・・・其処には死刀の黒狼の面々の前から突然消えたアリセスがおり、その手に持った槍によって死刀の黒狼を串刺しにしていた。
『これが事実です・・・』
そう言いながら槍構え・・・再び攻撃しようとしていると左手に大きな盾・タワーシールドを手に持った死刀の黒狼が立ちはだかる。
彼の名前はライグス・ガード。
この死刀の黒狼の面々の中では古参であり、左手にタワーシールドと右手にグラディウスを装備した死刀の黒狼では珍しい純粋な剣士であり、その左手に持ったタワーシールドを使用しての守りに定評がある剣士であったが・・・
『その程度でマリア様がお造りになられたこの槍が止められるとでも』
アリセスは躊躇なく攻撃する。ライグスの構えたタワーシールドなど関係なくアリセスの槍はタワーシールドごとライグスを貫通し、その衝撃によって吹き飛ばされたライグスに死刀の黒狼の面々が巻き込まれてしまい、マグザスもまた巻き込まれてしまう。
『アリセス・・・久しぶりの戦闘で張り切るのもいいですがほどほどに』
『すみませんエール。ですが効果はあったようですね』
そうアリセスが言っている間にも死刀の黒狼の面々は手にした武器を手放し、降伏していると言わんばかりに両手を上げている者が多数いる。
中には未だに戦意があるのかアリセスに向かって刃を突き立てる者もいるが、その刃は震え、剣先は狂ったようになっている者もいる。
『まだやる気があるようですね・・・なら・・・もう少し遊びましょうかね?』
そう言いながら不適な笑みを浮かべて再び槍構えるアリセス。
その頬は紅葉し、瞳も潤んでいる。
しかし、アリセスのその行動に水を差すようにエールが手にした短剣をアリセスと対峙していた死刀の黒狼に向かって投擲する。
その事に気がついたのか直前にかわす事に成功した死刀の黒狼は安堵のため息をこぼし、アリセスに斬りかかろうとしたその時・・・突如としては身体を拘束されてしまう。
何事かと思い周りを確認してみると、先ほどエールが投擲した短剣が地面に刺さっている場所から魔方陣が展開し、土の属性魔法を発動させ拘束しているのだ。
『武器を捨てろ、これは要求ではなく命令だ。さもなくば・・・』
そう言い終えるより先に、先ほど拘束された死刀の黒狼が悲鳴を上げる。
土の属性魔法によって圧力を加えられ、身体が悲鳴をあげてしまったのだ。
『ぎやぁぁあやぁあぁ・・・た、助け・・・』
助けてを呼ぼうと声を張り上げるが、触手のようになった土の属性魔法が喉を潰し・・・ベキベキ・バキバキと嫌な音を立て初め・・・数秒程で動かなくなってしまう。
『圧死・・・次は誰がこうなりたい?』
『あらあらエールは酷いことしますねぇ』
『もう一度言う。武器を・・・』
エールが言い終えるよりも先に残りの死刀の黒狼全員が武器を手放し、降伏しているように両手を上げる。
『さて・・・マリアティアス様の言う通りに無力化させましょうか』
そう言いながら短剣を構え、ゆっくりと歩んで行くエール。
『ま、待ってくれ!?降伏したら攻撃しないんじゃなかったのか?』
『誰がそんな事言いました?私達は貴様を無力化するのが目的。その為にまずは心の砕き、抵抗の意識を奪う。次は物理的に抵抗出来ないようにする』
そう言いながら一気に距離を積めようとダッシュしたエールに向かって魔法が飛んでくる。
それは火の属性魔法の火炎弾であり、エールを炎が包み込みが・・・やはりエールは無傷であり、傷ついている様子はない。
『か、頭!?』
アリセスとエールが振り向いた先には、先ほどまで気絶していたマグザスが頭から血を流しながら立っている。
『て、てめぇら何やってんだ!』
『し、しかし頭俺たちじゃ勝てないですぜ』
『降伏したら命だけは助けてくれるそうです』
『降伏しましょうよか、頭・・・』
どうやらマグザスはまだ戦意はあるが、他の死刀の黒狼の面々には既にアリセス、エールに抗う気力はなくなってしまったようだ。
それもそのはずだ。相手にはこちらから一切攻撃が通じず、相手は鋼鉄の盾ですら容易に貫通して攻撃をしてくるのだ。
それにこの世界で誰も出来ていない次元転移の魔法を扱う魔導師がいるのだ、そのような絶望的な事実を突きつけられ戦意がまだある方ががどうかしているのだ。
『ふざけやがって・・・この女達を倒さなきゃ俺達はどうなる。この女達によって俺たち死刀の黒狼は大打撃だぞ!』
その事を言われて黙ってしまう死刀の黒狼の面々。
確かにマグザスの言っている事は理解出来るが、それでもアリセスとエールの力は絶大であり、そのバックにいるマリアティアスの未知数の力は脅威に他ならないのだ。
『こ、降伏しましょうよ頭・・・』
一人の死刀の黒狼がマグザスに向かって降伏するように促す。
完全に戦意は折れ、抵抗する気はないようだ。
『ふざけやがって・・・てめぇらもうお仕舞いだぞ』
そう言いながら持っている杖を掲げるマグザス。
何をしているのか疑問に思っていると・・・
『全員俺の為に戦いやがれ!狂戦士の咆哮』
マグザスが魔法を発動させ杖から真っ赤な光を放つ。
目を眩ませるような光に堪らずに後退してしまうアリセスとエール。
光が止み気がつくと先ほどまで武器を手放し、降伏しようとしていた死刀の黒狼の面々が再び武器を手にしているが目に見える。
そしてその眼は血走り、口元には泡がありとても正気ではない雰囲気だ。
『これは・・・狂戦士化の呪法!?』
エールが警戒心を露にしていると、死刀の黒狼の面々が攻撃してくる。
眼は血走り先ほどまで戦意を喪失していたとは思えない程の狂乱し、攻撃が通じないはずのアリセスとエールに向かってデタラメに攻撃している。
『まさか呪法を使用できるとは・・・』
『まさか狂戦士の咆哮を受けても正気でいられるとはな・・・てめぇらは何者だ何故この呪法に対しての対処法を知ってやがる!?』
狂戦士化の呪法・狂戦士の咆哮
呪法と言われているこの魔法は特殊な魔法と位置付けられており、四大属性魔法、そして人々が造り出した魔法とは違う魔法だ。
そもそもこの呪法と言う物は原始の魔法と言われており女神セラフティアスが使用していたという物なのだが・・・その真偽は不明である。
呪法は人々の願いの魔法と言われ、数千、数万人の願いを一つにした魔法でありその魔法を魔導石に凝縮した物を使用して発動する魔法だ。
表舞台に出てくる事は稀で、普通の魔導師では持っているはずの無い物だが・・・どのような経緯かは不明だがマグザスはその魔導石の中でも狂戦士化の呪法の魔導石を手にしていたようだ。
歴史に残る呪法としては国と国との戦いに使用していたという形跡があり、自国の兵の恐怖心を無くして戦わせたと記述されている。
『面倒ですね・・・どうしますエール?』
『アリセスはこいつらの武器を破壊して・・・後は私がやる』
未だにアリセスとエールの防壁は壊れる気配はなく、いくら攻撃しても弾かれる状況が続いていたが・・・死刀の黒狼が振りかざした剣が砕かれる。
そして透かさずエールが武器が壊された事によってバランスを崩した死刀の黒狼の向かって斬りかかる。
狂戦士化していた死刀の黒狼は回避しようとはせずにエールに攻撃しようとしたが斬られてしまう。
すると先ほどまで狂ったように攻撃していた死刀の黒狼が一瞬にして地面に倒れ込む。
致命傷を負わされたゆえに倒れたのではなく、狂ったような戦意は未だに衰えてはいなく立ち上がろうとしているが、力が入らないのか起き上がれずにいる。
『な、何なんだその槍は・・・』
そう言いながら指摘したのはアリセスの持っている槍である。
いや・・・今アリセスが持っているのは槍ではなく、代わりに大斧へと変化していたのだ。
禍々しい装飾を施された大斧は鋭く月明かりを反射し輝いている。
『この杖・・・四戦の血晶杖はマリアティアス・V・ヘリエテレス様によって造り上げられた世界に一つの杖です。マリア様が私だけに造ってくださったこの杖は数多の魔法による魔化と超貴重鉱石、そして魔導石によって造り上げられたのです。貴殿方の理解外の性能をたっぷり楽しんでくださいね』
そう言い終えるとアリセスは迫り来る死刀の黒狼に向かって攻撃をする。
正解には死刀の黒狼の面々の持っている武器を攻撃し、武器破壊をしているのだ。
狂戦士化の影響によって次々とアリセスに向かったて武器を降り下ろす死刀の黒狼の面々だが、誰も彼もがアリセスの大斧と衝突すると破壊されてしまう。
そして透かさずエールによる攻撃により地面に倒れ込んでしまう死刀の黒狼の面々。 先ほど倒れてしまった死刀の黒狼と同じように力を込めるが起き上がれずにいる。
『これで最後』
そう言い終え最後の死刀の黒狼を斬り伏せるエール。
気がつくと周りには狂戦士化した事によって正気を失った死刀の黒狼が転がっている。
気絶しているわけではなく、全員エールに斬られた事によって全身の筋肉に力が入らないのか蠢いているが・・・
『どうやら終わらせてくれたようですね』
不意に響く第三者の声にアリセスとエールが振り向く。
其処には屋敷から出てきたマリアティアスと死刀の黒狼に囚われていた女性達、そしてマリアティアスの魔法によって囚われたマグザスが其処にはいた。
『マリア様!』
『マリアティアス様!』
アリセスとエールが同時にマリアティアスに向かったて歩んでゆく。
その姿は待ちわびた恋人との再開した時のように満面の笑みを浮かべている。
『マリア様その人達は?』
『この子達は其処に転がっている連中に酷い事をされてしまった者達です』
『そうなのですね・・・しかしもう大丈夫ですよ』
そう言いながら囚われているマグザスに向かって斬りつけるエール。
するとマグザスも他の死刀の黒狼の面々と同じように地面に倒れ込んでしまう。
(こ、これは・・・力が入らねぇ。何だ魔法か!?)
必死に口を動かすが言葉を発する事が出来ないのか口をパクパクしているマグザス。
その様子に驚き、ざわつき始める女性達。どうやら何が起きたのか理解出来ていない様子だ。
『これでこいつらは数時間は身動きが出来ない』
『さて・・・それでは始めましょうか?』
『パン』と手を叩き、楽しそうに笑みを浮かべてマリアティアスは女性達に告げる。
貴女方の人生を台無しにした死刀の黒狼への復習を・・・