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戦闘狂の聖職者

  エリカとアイカが去った事を確認すると深呼吸をして、気持ちを落ち着かせるマリアティアス。

  先ほどまで息を切らせていたのが嘘のように呼吸も落ち着き、顔色も良くなっている。

 

『さて・・・エリカちゃんとアイカちゃんは無事に行きましたかね』


  マリアティアスは魔法を解き、死刀の黒狼の面々を地面に降ろす。

  誰もが不思議そうに顔を見合わせながら何が起こったのか理解出来ていないようだ。

  それもその筈、死刀の黒狼の面々はマリアティアスの風の属性魔法によって浮かされ、高さにしておおよそ5mの高さで身動きの取れないようになっていたのだが、マリアティアスは何故か死刀の黒狼の面々を地面近くまで降ろして魔法を解除したのだ。

  普通であれば5m程度の高さから落ち、地面に叩きつけられる筈であったのだが、何故かマリアティアスは死刀の黒狼の面々を地面近くまで下げたのだ。

  何故?何の目的があるのか困惑している中で、クロスボウを手にした男が矢を放つが・・・マリアティアスが矢を弾き飛ばされる。


『て、てめぇらさっさとあの子供達を捕まえろ!』

『りょ、了解です』


  何が起こったのか理解できなかったが、とりあえず逃げたであろうエリカとアイカを追うように指示出すマグザスであったがその顔には焦りの色が伺えていた。

  理解できない出来事が起きてしまったので、混乱してしまったのだが、流石は何十名の部下をもつ頭である。

  直ぐ様に何をすべきか理解し、部下に行動させようとするが・・・時既に遅かったのだ。


  マリアティアスのその手のひらには水の魔力が塊となっておりそれを天に掲げ・・・魔法を放つ。

  死刀の黒狼全員を逃がさない為の魔法を。


大海の如き(マリエル・ディス・)水球牢獄(プリズディア)


  マリアティアスの手をひらに集められた水の魔力の塊が上空高らかに飛び立ち一定の高さ・・・死刀の黒狼の屋敷と塀全てをを覆い尽くす高さまで到達すると魔力が一気に弾け、魔法が解放される。


『な、何だ!?何が起こったんだ』

『あの女がやったのか?』

『何がどうなっているだ?』


  口々に今の起こった理解出来ない現象に困惑している死刀の黒狼の面々だが、マグザスだけは違いマリアティアスに向かって火の属性魔法『火弾(ファイアーボール)』を放つが・・・マリアティアスが軽く手を振るうだけで弾かれて明後日の方向に飛んで行くがマリアティアスの展開した魔法 によって空中でぶつかり爆発する。


『なん・・・だと・・・』


  自身の火の属性魔法が意図も簡単に弾かれてしまったことに困惑気味のマグザス。

  しかしマリアティアスはそんな事を気にしている雰囲気なく、寧ろどうでもいいようにストレッチを始める。

  まるでマグザス達、死刀の黒狼では相手にならないとでも言うように。


『さて・・・エリカちゃんとアイカちゃんは逃げてくれたようですしそろそろ大丈夫ですかね』


  そう言いながら死刀の黒狼の面々を見るマリアティアスだが・・・その姿は異常であった。

  頬は紅潮し、瞳は潤んでいる。

  息づかいも少し荒くなっており、どうやら興奮しているようだ。


『て、てめぇは何者だ!?ただの魔導師じゃねぇのか?』


  自身の魔法を片手で防いだマリアティアスに恐れを抱いたマグザスが問い詰める。

  先ほどまでとは雰囲気が様変わりしてしまったマリアティアスを警戒しているのか、他の死刀の黒狼の面々をマリアティアスを捕まえようとはせずに警戒している。

  そんな警戒している中で数名の死刀の黒狼の面々が走ってくるのが見てとれる。

  彼は塀の敷地内を巡回していた死刀の黒狼の面々で、敷地内を突如として襲ったマリアティアスの魔法に困惑してしまい、自身達ではどうすることも出来ないと判断して頭であるマグザスに助けを求に来たのだが・・・マリアティアスと対峙しているマグザスの表情を見てただならぬ状況だと判断し言葉を詰まらせてしまう。


『どうしたのです?お仲間が来たのですよ。お話してはどうですか?』


  クスクスと悪戯っぽく笑うマリアティアス。

  マリアティアスの事を警戒しつつも今自分達がどのような状況に置かれているのかを冷静に考える。

 

(嘘だろ・・・この女は俺の魔法を意図も簡単に弾いただけじゃなく、俺達の屋敷全体を魔法で覆っているのか?しかも彼奴らの話だとこの魔法の結界は剣でも魔導銃でも傷つかねだと・・・ふざけてやがるぜ)


『そ、それとお頭・・・この結界の魔法なんだが、殴ろうとしても柔らかいのか弾かれちまうんだ』


  巡回していた死刀の黒狼の面々の話を聞き、不思議に首を傾げるマグザス。

『何故この魔法の結界は柔らかいのか?普通なら硬い筈ではないのか』っと。

  結界魔法というのは普通は硬く強固な守りの魔法であり、柔いというのはかなり奇妙な話だ。

  結界魔法は文字通り相手の攻撃を防ぐ魔法であり接近戦を主体とする者、特に剣士や戦士、己の肉体で戦う者にとっては苦手な魔法だ。

  攻撃のタイミングと同時に魔法を展開された場合、剣で斬りつけようとして弾かれ自身の肉体にダメージを負う可能性があり、剣や槍等の武器の強度よりも結界魔法の方が強固であった場合、刃こぼれや凹みが等の武器破壊を可能にすることもある。

  しかし・・・マリアティアスの放った結界魔法は今までマグザスが経験してきた結界魔法とは違い硬くなく、弾性に優れた結界魔法。

  何故このような・・・意味不明な結界魔法をマリアティアスが使っているのか疑問でしかなかったのだが、マリアティアスを観察していたマグザスに閃きが舞い降りる。

  普通ならばありえないはずだが、目の前いるマリアティアスをまじまじと見る。

  マリアティアスは先ほどから死刀の黒狼には攻撃することはなく、数回攻撃してきた矢を弾く程度であった。


(なるほど・・・まさかこの女)


  一通りマリアティアスの動きを観察していたマグザスが数名の死刀の黒狼を呼び、マリアティアスへと直接攻撃を仕掛けるように命令する。

  最初は戸惑っていた死刀の黒狼の面々だが、最後はマグザスを信じてマリアティアスへと向かって攻撃をする。

  ある者は剣での斬撃、ある者は手にしたメイスでの強打、またある者は槍での刺殺攻撃を繰り出すが・・・マリアティアスが展開した魔法によって弾かれる。

 

(よし・・・この角度なら)


  マグザスは残り少ない魔力を使い火弾(ファイアーボール)をマリアティアスに向かって放つが、火弾(ファイアーボール)はマリアティアスの放った魔法によって相殺されてしまう。


『今だ!てめぇら一斉に攻撃だ!』


  マグザスの合図と共に一斉にマリアティアスに向かって攻撃を仕掛ける死刀の黒狼の面々。

  しかしどんな武器を使おうが、死角から攻撃しようがマリアティアスに攻撃を届く事はなく全て弾かれしまう。

  その動き見て確信したマグザスが高らかに笑い始める。

  突然笑い始めた自分たちに頭を見て困惑している死刀の黒狼の面々を他所に、マグザスは確信をしたようにマリアティアスに向かって杖を突きつける。


『流石だぜシスター様・・・こんな屑みたいな俺達でも助けてくださるのか?』


  マグザスの言ったことの意味が分かっていない死刀の黒狼の面々が顔を見合わせる。

  いったい頭は何を言っているんだという雰囲気の中で、マグザスはこの場にいる全員に聞こえるように大声で話す。

  何故マリアティアスが攻撃を弾いていただけなのかを・・・


『シスター様はどうやら俺達を傷つけることは出来ないようだなぁ・・・そうだよなぁ。神に仕えるシスター様が人殺しなんて出来ないようだなぁ』


  憎たらしく嫌な笑みを浮かべて言い放つマグザス。

  周りの死刀の黒狼の面々も納得したのか頷いている者、未だに疑問を持っている者等もいるがこの場の全員がマリアティアスの方を一斉に見る。

  その事が事実にしろ偽りにしろ、マリアティアスがどんな態度をするのか気になった為だ。


『クスクス・・・えぇそうです。私は貴殿方を傷つけることは出来ません』


  それを聞いた死刀の黒狼の面々が笑い出す。

  今この状況が可笑しくて仕方がないのだ。

  いくら神に仕えるからといっても戦いの場において相手を攻撃しないなど、愚行そのものなのだから。

  こちらからいくら攻撃しないといっても相手はそんな事はお構い無しに、躊躇無く攻撃をしてくるのだ守ってばかりではじり貧になってしまいかねない。


『確かに私が貴殿方を攻撃出来ないのは否定しようのない事実ですが・・・貴殿方もまた私を傷つけることは出来ないですよね』


  マリアティアスは悪戯っぽくおどけるような態度を取る。

  マリアティアスが自分達を傷つけることが出来ないのは分かったが、自分の攻撃ではマリアティアスの防御を突破出来ない事実を突き付けられどうすればよいのか戸惑っている死刀の黒狼の面々。

  このままではマリアティアスに逃げられるかも知れないからだ。


『てめぇら、シスター様の魔力が尽きるまで攻撃し尽くせ!シスター様はあのガキどもが逃げられるまで時間稼ぎをするつもりだ!』


  マグザスの命令を受けて、マリアティアスの魔力が尽きるまで攻撃し続けようとしたその時・・・突如死刀の黒狼の面々の前に何かが降ってくる。

  何が降ってきたのか困惑している死刀の黒狼の面々だが、その内の数名が降ってきた物を確認すると顔色を変え叫び始める。

 

『こ、こいつは・・・』


  降ってきた物を確認したマグザスが青ざめる。

  死刀の黒狼の面々の前に降ってきたのは人の生首であり、先ほどまで生きていたからのか首からは鮮血が滴り落ち、その瞳は死刀の黒狼の面々を見ている。

 

(なんでこいつらが此処に!?こいつらは森を警備していたはずだぞ。まさか・・・)


  降ってきた生首の正体が自分たちの仲間だと理解すると、この場にいる死刀の黒狼全員が動きを止めてしまう。

  しかもこの生首がこの場いる面々とは違い、森を警備していた者達であるということがより恐怖させるのだ。

  森を警備していた死刀の黒狼の面々はこの場にいる面々と違い、野人(レンジャー)の経験が豊富な面々を配置しており異変が起きた場合に即座にマグザスに知らせる役割をしている連中だ。

  今はマリアティアスの放った結界魔法によって連絡出来ないのは理解しているが、それでもこのような非常時においては数名が警備をして、数名が街に潜伏している死刀の黒狼の面々に連絡する筈であったのだが・・・この場に森を警備していた死刀の黒狼全員の生首があるということは誰も街へは行けず、増援がないということだ。

  増援が望めないのはかなりの痛手だが、それ以上に不味いのは誰がこの面々を殺したかということだ。

  彼らは野人(レンジャー)の経験が豊富で人が近づいて来たり、何か異変があったりした場合即座に判断し行動できる。

  しかもこの森は彼らにとっては庭のような存在であり、素人に遅れをとることなどまずありえない。

  しかし・・・その事実を否定するようにて降ってきた生首は、彼らを容易にこの森の中から探しだし、殺すことが可能な人物がいることを知らせている。


『・・・どうしたのです?せっかくお仲間に再会出来たのですから何かお話をしてはどうでしょうか?』


  クスクスと悪戯っぽく笑うマリアティアス。

  美人が笑うと絵になると言われているが、今この場にこれほど似つかわしくない笑顔はない。

  まるでとても楽しそうに、愉快に笑うのだから。


『お前が殺ったのか?』

『私ではありません。ただ・・・私の半身とでも言った方がよろしいですかね』

『何を言っているんだ?』


  そう言いながらマリアティアスは両手を広げると・・・上空から二つの影がマリアティアスの両脇に降り立つ。

  その影が月明かりに照らされ露になる。

 

『な、何だこいつらは!?』


  突然マリアティアスの両脇に降り立った人物達を警戒するように刀や、クロスボウを構える死刀の黒狼の面々。

  突如今まで戦っていた人物の両脇に人が降り立ったのだ警戒するのも道理だが・・・降り立った人物が鎧を着込み、武器を構えているのらば敵だと直ぐ様分かるが、マリアティアスの両脇に降り立った人物達の一人は先端が奇妙な形をしている杖を持っており、もう一人は何も持っていなかったからだ。

  しかしそれだけではない。

  この二人の人物はマリアティアスと同じような黒い聖職者の衣装に実を包み、スカートには同じ銀で刺繍されている十字架がある。

  完全にマリアティアスと同じ同業者だ。

  一人はマリアティアスより少しはスマートな体格の女性で、金の長髪を三つ編みにしていて、その右手には先端が奇妙な形をしている杖を持っており、マリアティアス同じ赤い瞳をしている女性だ。

  どうしてもマリアティアスと並ぶとマリアティアスの方に目が行きがちだが、彼女もまた美人であることには変わり無く雰囲気的にもおっとりしている感じがする・・・戦場でなければだが。

  そしてもう一人はマリアティアスともう一人の女性とは違い、まだ幼いのか身長は二人より小さく、前髪に隠れてしまっているので分かりにくいが、少し目付きの悪い・・・良い意味ではドスの効いている目付きの女性だ。


『彼方は終わりましたか?』

『はい。この森、奴等の縄張りにいた連中は全員始末しておきました』

『ありがとうねアリセス。エール』


  マリアティアスにお礼を言われて頭下げるアリセスとエール。

  その様子は周りを囲んでいる死刀の黒狼の面々を全く相手にしている様子はなく、死刀の黒狼の面々が居ようが居まいが関係ない様子だ。


『て、てめぇら撃て!』


  マグザスの合図と共にマリアティアス達に向かって矢を放ち、マグザスもまたマリアティアス達に向かって火弾(ファイアーボール)を放つが・・・マリアティアスの魔法によって防がれてしまう。


『話をしている最中に攻撃ですか・・・教育がなってませんね』

『・・・殺す』


  攻撃を放った死刀の黒狼の面々に対してアリセスは哀れむような瞳を、エールは憤怒の感情が宿った瞳で見つめる。

  エールの手には何故か両手に短剣が握っており、アリセスの持っていた杖はいつの間にか槍に変わっている。

  エールの持っている短剣には持ち手の部分から刀身に至るまでに鐔のような物は無く、変わりに鐔の部分が縦に膨らんでいて其処にも刃が付いて少し変わっている短刀だ。

  そしてその刃の鎬の部分には奇妙な文字が刻まれている。

  アリセス持っていた杖がいつの間にか槍へと変化し、その槍もまたエールの持っている短剣のように奇妙な文字が刻まれている。


『マリア様こいつらは殺しても大丈夫ですよね?』

『生かしておく価値は皆無かと・・・』

『そうですね・・・とりあえず彼らを抵抗出来なくさせておいてください。方法は任せます』


  そう言いながらマリアティアスは風の属性魔法・『風による浮遊(エアー・コマンド)』を発動させて飛び立つ。

  飛び立とうとしたマリアティアスに向かって攻撃をしようとした死刀の黒狼の一人が、悲鳴を上げてのたうち回る。

  何事かと思い確認したマグザスが見たのは、悲鳴を上げてのたうち回っている死刀の黒狼の腕に深々と突き刺さり貫通している短剣であり、その短剣が熱せられているのか貫いた腕から焼け焦げ、煙が上がり臭っている。

  その短剣は先ほどエールが持っていた短剣の一つで、投擲したのかもう一つの短剣をスカートの中から取り出している。

 

『あぁ・・・抵抗出来なくする手段ですが、あまりにもいうことを聞かないのでしたら数名程度でれば殺しても構わないですよ』

『了解しました』

『それと、其処にいる杖を持っている男は殺さずにしておいてくださいね』


  最後にマグザスを殺すなと命じたマリアティアスは死刀の黒狼に向かって、恭しくお辞儀をすると屋敷の方へと飛んで行ってしまう。


『さて・・・マリア様に命令に従い貴殿方を手出し出来ないようにさせていただきます』

『本来であれば即座に皆殺しにしたいが・・・』


  アリセスとエールが攻撃するより早くマグザスの魔法が炸裂するが・・・アリセスとエールは無傷でその衣服が焼けたような後もない。

 

『な!?何故だ!?』


  自身の魔法がアリセスとエールに通じなかったことに驚きを隠せないマグザス。

  何故ならマグザスの魔法が直撃する直前まで二人が何も、魔法を発動させるような仕草をしていないからだ。

  何故自分の魔法が防がれたのか?その事を考えるより先にアリセスが話始める。

『私達のこの身はマリアティアス・V・ヘリエテレス様の半身であり、この程度の攻撃はマリアティアス様の加護により無効化され傷一つ付くことはない』っと。


『あ、ありえ・・・』


  その事を聞いたマグザスが絶句してしまう。

  もしその事が本当だとすれば『ありえない』の一言である。

 

(嘘だろ・・・確かにこの女は俺より魔力は上だとは理解していたがまさか帝国魔導団の団長と同等、もしくはそれ以上なのか!?)


  マグザスはこのどうしようもない絶体絶命の事態をどのように打開すればよいのか考える。

  相手は自分よりも膨大な魔力を有している魔導師に、その彼女に仕えている二人の聖職者。

  その手には短剣と槍を持っていてマグザス達、死刀の黒狼と敵対するのは明らかであり、もし戦うのであれば死刀の黒狼の面々であれば勝てない可能性が非常に高い。

  何故ならもう既に一部に死刀の黒狼の面々が、戦意を喪失してしまっているからだ。

  彼らは先に攻撃された死刀の黒狼の近くにいた面々で、今は必死にアリセスとエールに向かったて狙いを定めているが・・・その手元は震えてしまっている。


『さて・・・潰させていただきましょうか』


  アリセスとエールは死刀の黒狼を狩る為に行動を開始する。


 死刀の黒狼屋敷内地下室


  薄暗い地下室は蝋燭で灯りが灯されているだけであり、薄暗く空気の流れも悪い。

  地下室へと向かう螺旋階段を下り、鉄の扉が見えてくる。

  マリアティアスはその扉を開けようと試みるが・・・鍵を持っていない為に開く気配が無いのを確認すると、水の属性魔法・水流鋭刀(エッジ・ウォルソー)を発動させて切断する。

  水流鋭刀(エッジ・ウォルソー)は水の魔力を刃物状に形成した魔法で、斬るということに特化した魔法だ。

  似たような魔法としては水剣(アクアソード)というものが存在するが、こちらは水流鋭刀(エッジ・ウォルソー)と比べて魔力消費量が少なく扱いやすいのが特徴で、岩や木等は切断することが出来るが鉄等の鉱石は斬ることが出来ない魔法だ。

  マリアティアスが扉を破壊し、地下室へと入って行くと其処は牢屋のように鉄格子が並んでいる。

  鉄格子の中には一人、二人程度の人数で隔離されている女性達が囚われて、ある女性は怯え、またある女性は虚ろな瞳をしてしまっている。


『怯えなくても大丈夫ですよ』


  マリアティアスは鉄格子の中にいる女性達に優しく微笑みかける。

  彼女達は死刀の黒狼によって囚われてしまった女性達で、男達の慰み者にされていた者達だ。

  合計にして十名程の女性達は全員がボロボロの薄絹を着せられており、その両手には手枷を、足には足枷を嵌められ自由を奪われてしまっている。

  突然扉を破壊して現れたマリアティアスを見て驚愕している者や、困惑している者、男達によって植え付けられてしまった恐怖によって怯えてしまっている者など様々な反応をしている。


『あ、貴女は?』


  一人の女性が困惑した様子でマリアティアスに問いかける。

  当然である。その扉が開かれる時は決まって男達が彼女達を犯しにくる時であり、また新たに彼女達と同じように拐われた女性が連れて来られる時であったからだ。


『私の名はマリアティアス・V・ヘリエテレス。女神セラフティアスに仕える者です』

『わ、私達を助けてくださるのですか!?』


  興奮した様子の女性に対してマリアティアスはゆっくりと頷き、鉄格子から離れるように彼女達に促す。

  マリアティアスの魔法で鉄格子が破壊され、彼女達を拘束していた手枷、足枷も破壊して彼女達が自由になる。

  その瞬間彼女達はマリアティアスにすり寄るように近づき、涙を浮かべて感謝する者や、まだ体力が回復していないのか他の女性に支えらている者もまたマリアティアスに感謝の意を示している。


『これをどうぞ。ポーションはご存知ですよね』


  そう言い終えるとマリアティアスは女性達の目の前に赤い色のポーションを差し出し、飲むように促す。

  最初は困惑して手に取ろうとはしていなかった女性達だが、一人、また一人と手に取り十人全員の手にポーションが行き渡る。

  意を決してそのポーションを飲み女性達。

  すると直ぐ様にポーションの効果が発動し、女性達の傷ついた身体が癒えみるみる内に健康な状態へと戻って行く。

  その事に全員が驚愕しているとマリアティアスは再びポーションを取り出す。

  先ほどとは違う色のポーションでこちらは薄い青色になっていて、このポーションもまた人数分用意してある。


『こちらもどうぞ・・・』


  マリアティアスが言い終えると同時に女性達がポーションを手に取り次々に口に運ぶ・・・すると女性達の顔に活力が溢れでて来たのが目に見えて分かる。

  今までの疲れが取れたのか元気になった女性達。身体を支えられていた女性も元気になったようだ。


『さて・・・それではあの者達に復讐しに行きましょうか』


  マリアティアスに促せる女性達だがその顔色は優れていない。

  何故なら自分達では死刀の黒狼の面々に敵わないと理解しており、また逆らったりした場合どのような仕打ちをされるのか容易に想像出来るからだ。

  それよりは今はこの場から逃げる方が先決であり、十名全員が同じ考えだが・・・マリアティアスの『既に準備は整っております。私を信じてください』っと言われて黙ってしまう女性達。


『ほ、本当に信じてもよろしいのですか?』

『もちろんです。さぁ・・・私と共に貴女方の人生を、幸せを、そして夢も奪い去った者達に復讐するのです』


  マリアティアスは女性達に訴える。

  その姿は神の言葉を代弁する預言者のように・・・

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