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幸せとは・・・

  このところエリカは機嫌も気分も良い。

  産まれて初めて味わう母の愛、温もりと共に生活できることがこの上なく幸せなのだ。

  そしてもう何も怯える事はなく、お腹を空かせる事もない。

  年相応の子供のような生活ができ、母に甘えることのできる日常を何度も夢みたことか・・・叶わないと思い割り切って生きてきた。

  まだ幼い妹の為に自分がしっかりしなければと自分の夢を諦め、今まで必死に生きたがもうその必要がない。

  何故ならば・・・


『エリカちゃん。そろそろ朝食が出来上がるからアイカちゃんを呼んできてくれる』

『わかった』


  マリアティアスに言われてまだ寝ているアイカを起こしに行くエリカ。

  エリカ達は今マリアティアスと一緒に暮らしている。

  二日前に大柄な男から助けてもらって以来マリアティアスの借りた家で一緒に暮らしているのだ。

  助けてもらった最初は警戒していたが今となっては警戒どころか、信用して一緒に寝たりしている。

  最初は何故助けてくれるのか?何故見ず知らずの自分達を助けてくれるのか疑問に思っていたが、行く場所も帰る場所も無くなってしまったエリカ達には、マリアティアスしか頼る事は出来なかったのだ。


『アイカ起きて。朝ごはんが出来たよ』

『・・・んっ。おはようお姉ちゃん』


  寝ぼけ眼を擦りながら起き上がるアイカ。

  大きな欠伸をしながらエリカと一緒に台所まで移動して行く。


『おはよう。よく眠れた?』

『うん。お母さんよく眠れたよ』

『そう。それは良かったわね。エリカちゃん、アイカちゃんを連れて顔を洗ってきてあげて』


  マリアティアスの事を母と言うアイカに疑問はない。

  今まで母の温もりを知らずに生きていたアイカにとってはマリアティアスこそが母なのだ。

  たとえ血は繋がっていないとしてもマリアティアスのエリカ、アイカに向ける愛情は本物なのだから。

  アイカの顔を洗い終え、今日の朝食は何か聞いているアイカにエリカははぐらかすように答える。

  実のところエリカは今日の朝食が何か知っている。

  アイカよりも先に起きて少しマリアティアスの手伝いをしたので知っているが・・・村で暮らした時とは違い硬いパンに、畑で取れた少し野菜の朝食ではなく、マリアティアスと一緒に暮らしてからの朝食は柔らかなできたてのパンに、貴重であるはずの卵を使った料理に、果実を潰して煮詰めたジャムと言われる物等、村で暮らしていたときには食べたことがない朝食を食べることが出来ている。

  そして今日の朝食はというと・・・


『わぁ・・・こ、これってお姉ちゃん!?』


  今日の朝食を見て眼を丸くするアイカ。

  その瞳はキラキラと輝いており、とても興奮しているようだ。

  それもそのはず・・・今日の朝食には燻製にした塩漬けのお肉があり、焼きたての良い匂いが漂っている。

  それに加えて取れたての新鮮な野菜を加えた物をパンにサンドしたのが今日の朝食だ。

 

『お肉と野菜を使ったサンドイッチという物を作ってみました』


  そう言いながら満面の笑みのマリアティアス。

  マリアティアスの両手には暖かな湯気が立ちこめているカップを手に持ち机に置く。


『さぁ席に座って朝食にしましょう』


  マリアティアスに言われて席に座るエリカとアイカ。

  目の前にはマリアティアスの作ってくれたサンドイッチと、暖められた牛乳が置いてある。

  とても美味しそうな朝食であり、今にも食らいつきたいアイカだがその前にすべき事がある。

 

『それでは感謝の意をこめて、女神セラフティアス様への祈りを捧げましょう』


  マリアティアスに言われるとエリカとアイカはお互いに両手を組んで女神セラフティアスへと祈りを捧げる。

  村で暮らした時には祈りを捧げたことなどはなかったエリカとアイカだが、マリアティアスと一緒に暮らしてからは食事の時等に祈りを捧げるようになった。

  最初は疑問に思ってたエリカとアイカ。

  何故なら女神セラフティアスという存在はおとぎ話のような存在であり、実際に存在しているのかしていないのか分からない存在に祈りを捧げようとは思っていなかったからだ。

  女神セラフティアスの話は聞かない訳ではないが・・・そもそもこの世にいない人物を崇拝する気にはならなかったからだ。

  そして祈りを捧げ終わったマリアティアス、エリカ、アイカは朝食を取り始める。


『どうかな?』


  マリアティアスの作ってもらったサンドイッチを食べるエリカとアイカ。

  一口食べるとパンの柔らかさと、燻製肉の歯応えに、新鮮な野菜が口の中で広がり自然と笑顔になってしまう。

  人は美味しい物を食べると自然に笑みがこぼれると言うがどうやら本当のようだ。


『お母さん美味しい!』

『そう良かった。どうやら上手に出来たようね』


  そう言いながら笑顔でエリカとアイカが食べているところを見つめるマリアティアス。

  その姿は子供達を見守る母親であり、一緒にいるエリカとアイカもまたマリアティアスの子供のようだ。

 

(やっぱりお母さんは料理が上手だなぁ・・・あれ・・・?死んだお母さんって何か作ってくれたっけ?)


『どうしたのエリカちゃん?お口に合わなかった?』


  マリアティアスに言われて気がつくエリカ。

  どうやら考え事をしていたからか手が止まってしまっていたようだ。

  不安そうな顔をするマリアティアス。

  隣に座っているアイカもまた食事の手を止めてエリカを見ている。


『そうじゃないのお母さん。ただ・・・』

『ただ?』


  言葉につまるエリカ。

  確かにマリアティアスと一緒に暮らしてからはエリカとアイカは村で暮らしていた時とは違い、健康的で、美味しいご飯も食べる事が出来ているだけではなく、ふかふかのベッドでぐっすり眠れ、村で行っていた畑仕事や水汲みなどの仕事をしなくてもよくなってしまった。

  それは母親代わりであるマリアティアスと一緒に暮らしてからは、マリアティアスがエリカとアイカに子供らしく暮らしてほしい言われたからだ。

  急に環境が変化してしまったのだ戸惑うのも無理はない。

  しかし・・・だからと言って死んでしまった母親との思い出が無くなる事は無いが・・・何故か思い出せないのだ。

  何故思い出せないのか?母親が死んでしまってからは十年程度になるが、今までは思い出せていた・・・と思っていた。


『何か悩み事があるならお母さんに話してね・・・お母さんは何時でもエリカちゃんの味方だから』


  そう言って手を握ってくれるマリアティアス。

  その姿は我が子を心配する母親であり、エリカの不安を拭い去ってくれる存在に他ならない。


(まぁ・・・いいや。もう過ぎてしまった事は元には戻らない。割れた花瓶が元に戻らないのと同じように死んだお母さんはもう戻ってこないって理解しなきゃ)


  心の中に芽生えた疑問は置いておいて、マリアティアスに心配ないと告げるエリカ。

  取り敢えず今は朝食を食べ終えることにしたようだ。


『ごちそうさまでした』

『ごちそうさま』

『それじゃお片付けしようか』

『はーい』


  朝食を食べ終えたマリアティアス、エリカ、アイカは食器を運び洗う作業に移動する。

  村で生活していた時には水を汲みに行き、その水を使って洗っていたが今は違う。

  マリアティアスと一緒に住んでいる家には水の魔導石を常備しており、それを大きな槽に入れている。

  蛇口という物を捻ると水が出てくる仕組みになかっていてそれを運べばよいだけで、毎朝に井戸から汲み上げる仕事が無くなっただけではなく、台車という物を使うことでエリカのような少女でも楽に運ぶ事が出来るようになっている。

  毎朝に水に汲みに行く作業だけでもエリカにとっては、かなりの体力を使うので魔導石という物がどれだけ偉大かは理解出来る。

  大雑把ではあるが・・・


『それじゃこれを戸棚に戻して来てね』


  そう言われてアイカと一緒に食器を戸棚に戻すエリカ。

  この食器だって村では見かけることのなかった陶磁器の食器であり、どれくらいの値段がするのかエリカには分からない。

  そんな未知の世界ともいえるマリアティアスとの生活はエリカ、アイカにとって驚きの連続であり、未だに驚く事もある。

  そんな中でエリカは心配なのだ・・・マリアティアスがエリカとアイカを捨ててしまわないか。


『お母さん今日は何にするの?』


  食器を戸棚にしまい終えたアイカがマリアティアスに向かって問いかける。

  このところエリカとアイカ達はマリアティアスの手伝いをする為に一緒に行動している。と言っても基本的にはマリアティアスが主体で、この都市のお偉いさんや商人に会い行くだけなのでエリカとアイカが一緒に行く意味は無いのだが・・・マリアティアスが『この街はエリカちゃんとアイカちゃんにとっては危険が多いから一緒にいましょう』っと言うので一緒に行動しているのだ。

  ・・・マリアティアスが話している内容はあまり理解できていないが。


『今日は商会長さんに会いに行った後に・・・』


  マリアティアス言い終えるより先にノックの音が聞こえてくる。

  どうやら誰かが来たようだ。


『はーい。今行きますよ』


  マリアティアスが返信をして玄関まで歩いて行く。もちろんエリカとアイカも一緒だ。

  身なりを確認し終えた後に玄関の扉開くと、その先には太った男とこの街憲兵も二人、そして二人の憲兵とは違う鎧を身に纏った騎士とローブ着た人物、そしてマリアティアスへこの家を貸してくれている大家の合計六名が来ていた。

  太った男の指には複数の煌めく宝石がはめ込まれており、男の身なりもこの街では見かけない高級そうな感じ服を着ている。

  騎士の方は全身フルプレートに身を包んでいるのでその顔色を伺うことは出来ないが、太った男と一定の距離を保っており、フードの人物も一定の距離を保っていることからどうやらこの二人は憲兵と違い、この太った男のボディーガードのようだ。


『どちら様でしょうか?』

『失礼・・・私はギジロ・ラングス・ランギライスと言う者でして、帝国ではこの南部を束ねる貴族の一人です』

『これはご丁寧に・・・私の名前はマリアティアス・V・ヘリエテレスと申します。今日はどのようなご用件で?』

『そ、それについてなんだが・・・立ち話ではなく中に入ってもよろしいかなヘリエテレスさん』


  表面上では平常心のマリアティアスに太った男・ギジロ・ラングス・ランギライスの隣で控えていたこの家の家主、シュセン・ゼニパイプが言葉を遮り家の中に入るように言う。

  この家はマリアティアスが借りているだけでなのでシュセンの言う事は最もであり、何より貴族を家に入れずに玄関先での会話はあまり良いことではないが・・・マリアティアスは何か良くない気がしていた。

  取り敢えず家の中へと案内し、飲み物を準備するとマリアティアスとギジロは真正面に座る。エリカとアイカはマリアティアスの隣に、ギジロと一緒に入ってきたシュセンも共に座り、全身フルプレートの騎士とローブの人物は側に控えるようにして立っている。


『それで?どのようなご用件でいらっしゃたのかお伺いしてもよろしいですか?』

『あぁ・・・その事なのだが・・・それよりもその子達は?』


  ギジロがエリカとアイカに向かって指を差しながらマリアティアスに向かって疑問を投げ掛ける。

  確かに大人の会話に子供は不要だ。そもそも子供では理解出来ない話もするのだから。


『この子達は私の子供です。別にご一緒してもかまいませんよね』

『確かにかまわないが・・・』


  そう言いながらシュセンの事を横目で見るギジロ。

  その瞳は『かまわない』っと言っているのとは違い、エリカとアイカを邪魔者のようにして見ている瞳だ。

 

『し、しかし・・・ヘリエテレスさん家を・・・』

『なら良かったです。それで話と言うのは?』


  シュセンが言い終えるより先にマリアティアスが割って入り言葉を遮る。

  普通ならば怒りや、憤りを覚えるはずだが・・・マリアティアスのシュセンへと向けた女神のような微笑みによって黙ってしまう。

  実のところシュセンはマリアティアスにかなり惚れており、実際この家を貸す時にも快く貸してくれたのだ。

  黙ってしまったシュセンを見ながらギジロは小さく舌打ちをする・・・絶世の美女であるマリアティアスから微笑みをもらったのだ嫉妬の一つや二つ産まれたのであろう。

  その嫉妬心を心の奥底に押し込み話始めるギジロ。

  何故ギジロがマリアティアスの家に赴いたのかというと・・・マリアティアスの借りているこの家を買うからであり、マリアティアスには早々にこの家から退去してほしいというものなのだが・・・今すぐに退去してほしいというものだ。

  いや・・・正解には退去してほしいというのではなく、退去しろと言うのが正しい。

  いくら帝国内での貴族の権力が弱くなっているからといっても、商人や農民よりも地位は上であり、当然この家の持ち主であるシュセンよりも上だ。

  そして流れ者であるマリアティアスにいたっても例外ではなく、その権力を行使しようとしているのだ。


『なるほど・・・しかしいきなり今日、今すぐにというのはいくら何でも急ではないのでしょうか』


  マリアティアスからの問いかけに待ってました言わんばかりにギジロが食らいつく。


『まぁ、確かにそうですね。しかしこれは既にもう決定していることなので』


  そう言いながら嫌みな笑みと共にこの家がギジロの物になったという証明書をつき出す。

  どうやら証明書に書かれている事は本当であり、マリアティアス達は退去しなければならないようだ。

 

『私も鬼ではありません。どうしてもと言うのであれば住まわせてもかまいません。ただし・・・見返りは求めますよ』


  そう言いながらマリアティアスの特に胸の辺りを見るギジロ。

  その目線はいやらしいく、何を言いたいのかは言わなくても分かるほどだ。


『・・・この身体になってから人間のゲスさがよく分かるようになりましたねぇ・・・まぁ、私の居た時代とは違うので何も言えませんが』

『何か言いましたか?』


  シュセンに言われて何も言っていないと言うマリアティアス。

 

『それで?どうしますか?』

『・・・分かりました私達はこの家を去ります』


  そう言われて慌てるように口を挟むシュセン。

  どうやら本心ではマリアティアスにこの家を去ってもらうのが目的ではなく、ギジロに対してマリアティアスがする見返りにあるようなのだが・・・マリアティアスの意識を事は出来ずに話は終わってしまう。

 

『それでは片付けが終了次第この家を去らしていただきます。少しの間ですがお世話になりました』


  そう言い終えるとこの場をさり、二階へと向かうマリアティアス達。

  この場を残ったシュセンからは嫌な汗が流れており、顔色も悪くなっている。

  ギジロもまた気分が悪いのか苛立ちを押さえきれずに目の前のテーブルに脚を置き、大柄な態度を示す。


『おい貴様!』

『はい』

 

  ギジロに言われて即座に頭を下げるシュセン。明らかに自分の思い通りに苛立っているようだ。

 

『予定と違うじゃねぇかよ・・・てめぇ俺様を嘗めているのか?』

『そ、そのような事は一切ありません』

『別に俺はこの家が欲しいわけじゃねぇんだよ・・・あの女が欲しいんだよ』


  そう言われて黙ってしまうシュセン。

  どのようにすればギジロの機嫌を直せるのか考えていたが・・・思い付かないのだ。


『す、少し時間を頂けないでしょか?』

『っち、あの女が手に入らなかったらこの家も買わねぇからよ。覚えておけよ』


  そう言い終えるとマリアティアスの借りている家から出ていくギジロに付いて行く全身フルプレートの騎士とローブの人物。

  馬車までたどり着くと全身フルプレートの騎士は馬車に入らずに外で警備。馬車の中にはギジロとローブの人物が一緒に入って行き、憲兵とシュセンは家の前で解散する。


『これで良いんですかね?』


  そう言いながらローブの人物に問いかけるギジロ。

  先ほどとは態度が明らかに違いシュセンに向けた大柄な態度ではなく、寧ろ自分よりこのローブの人物の方が地位が上のような感じだ。

 

『上出来です。ギジロ・ラングス・ランギライス男爵。これで彼もやり易くなったでしょう』

『そ、それで見返り方は・・・』

『もちろん保証しますよ。伯爵様にも伝えますので』

『ありがとうございます』


  そう言いながら深々とお辞儀をするギジロ。

  その瞳は欲望に燃えており、ゲスな笑みを浮かべていた。



  マリアティアス達が借りていた家を去ってから数時間後・・・日も暮れ始め、街の中心街に灯りが灯し始める中でマリアティアスは外食をしていた。

  運よく今日泊まれる宿を確保してからの夕方なのだが・・・エリカの機嫌は優れていない。

  アイカはまだ事の重大さが分かっていないからなのか夕方を楽しそうに食べている。

  食事を済ませ宿へと帰り自分達の部屋へ戻るマリアティアス達。マリアティアス達泊まる宿は借りていた家とは違い安っぽく、床の所々に何かを溢したようなシミが残っているような薄汚れた宿だ。


『お母さん・・・』

『どうしたのエリカちゃん?』

『この世界は理不尽な事だらけだね・・・』


  エリカは自分達姉妹に降りかかってきた不幸について話は始める。

  どうしたて自分達が村を離れてこの街に来たのかを・・・そして今日もまた理不尽な目に遭い女神に向かって祈ることに意味があるのかをマリアティアス向かって問いかける。

  その問いかけにマリアティアスは確固たる自信を持って答える。『純粋無垢な願いこそが成就されるべき願いであり、どんなに世界が理不尽でも、どんなに不幸が降りかかろうとも祈りを忘れてはならない』っと。

  それを聞いたエリカは少し納得のいっていない雰囲気だが、その事は一先ず置いておいて後に考えようとしていると・・・突然宿の窓が割れ、室内に何かが入ってくる。

  何事かと思っていると、室内に投げ込まれたであろう物質が煙を出し始める。

  瞬く間に室内に充満してしまう煙を風の魔法で吹き飛ばすマリアティアスだが・・・煙が晴れた室内に居たのはマリアティアスただ一人であり、エリカとアイカは室内から姿を消していた。


『エリカちゃんアイカちゃん!』


  必死に名前を叫ぶマリアティアスだが、その叫びに答える者はいなく、代わりに机にはナイフに刺された手紙のような物が置いてある。

  机に刺さっているナイフを取り、手紙の中身を確認するマリアティアス。

  内容を確認し終えるとマリアティアスは風の属性魔法・誰が為に(ウィンエアー)風は吹くのか(ヘミングウェイ)を発動する。

  これはマリアティアスのオリジナルの魔法で、風の魔法により目に見えない物の発見や物陰に隠れた人物等の発見を可能にする魔法なのだが・・・マリアティアスの放つ誰が為に(ウィンエアー)風は吹くのか(ヘミングウェイ)の探索範囲は都市全域を覆い尽くす程である。

  そよ風程度の風を気に止める人物等数名しかいない・・・マリアティアスの放つた誰が為に(ウィンエアー)風は吹くのか(ヘミングウェイ)はエリカとアイカを拐った人物達もその程度としか考えていないのか気にも止めていないようだ。


『見つけた・・・これは馬車を使っている?』


  エリカとアイカを見つけたマリアティアスだが、どうやらエリカとアイカを拐った人物は馬車を使って移動しているようだ。

  まだ夜になっておらず街の街灯も疎らな中で馬車を使うということは・・・即時に離脱してこの街を去る考えなのであろう。

  マリアティアスは手紙の内容を再度確認する。

  そこにはエリカとアイカを返して欲しかったら街外れにある屋敷へ行けと書いてあり、大雑把ではあるが地図も同封してある。

  何故マリアティアスがエリカとアイカの位置を特定出来たのかというと・・・マリアティアスがエリカとアイカに渡した御守りにある。

  その御守りはマリアティアスの魔力よって造り上げられた物であり、マリアティアスの魔力に反応するようになっている。

  もちろんエリカとアイカの他にも持っているが・・・


『追いますか?』


  突如としてマリアティアスに話しかける声が聞こえてくる。

  気がつくとマリアティアスの横にはエールが居り、エリカとアイカを追えばいいのかマリアティアスに問う。

 

『よろしくお願いしますねエール。ですがエリカちゃんとアイカちゃんを拐った相手は殺さずに・・・動きが止まり次第連絡をください』

『分かりました。それとマリアティアス様の言っていた通りにあの人物との繋がりがある人物が死刀の黒狼と接触しました』

『報告ありがとうエール。ならば彼らを生かしておく道理も無いんですね・・・エリカちゃんとアイカちゃんを回収次第に殲滅いたしましょう』

『それがよろしいかと・・・ところでマリアティアス様、あの子供達を導くのですか?』

『さぁ・・・それはどうでしょうか?あの子供が成れるかどうかは不明ですからね』


  そう言いながら天を仰ぐマリアティアス。

  その瞳には期待と不安が混じっている。

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