アリセス&廻る忍刀VS凍てつく鋏刀
その世界は凍っていた。
周辺・・・目に見える全ての光景は冷たく氷によって閉ざされている。
溶ける気配は微塵もなく、そして静寂が支配する世界。
そんな世界に一人オールの懐刀である凍てつく鋏刀は優雅に飛んでいる。
周りに映るのは凍結し、最早指一つ動くことが出来なくなってしまった天使や大天使。
ある者は攻撃しようとしている途中に、またある者は逃げようとしている瞬間に凍りつかされているような感じだ。
『邪魔な天使達は凍りつけ・・・だけどまだ戦いは終わっていない』
凍りつけにされた天使。
分厚い氷によって凍りつけにされていた天使なのだが・・・まるで薄氷を割るかの如く簡単に砕くアイリット。
見るも無残に砕かれてしまった天使。
人間であれば絶命してしまってもおかしくないはずの傷・・・しかしながら砕かれてしまった天使からは光輝く泡が出てくることはなかった。
『・・・死んだはずなのに何で血が出ないの?』
まだ天使という者の存在を理解していないアイリットは、死んだはずの天使から血が出ないのか不思議に思う。
そんなことを思ったアイリットは、凍りつかせた天使の一人に対して今度はアイリットの名を表す刀を取り出す。
アイリットの大きさとしては子供の竜人と大差ないのに対して、アイリットの刀・・・鋏刀の大きさはおおよそ二倍。
到底子供の筋力では持つことが出来ない大きさの刀なのだが、アイリットはその鋏刀を難なく扱うことができる。
鋏刀・・・その名の通りこの刀は刀とは言っても形状的には鋏に近く、刀の内側と外側にも刃が付いているという刀だ。
そしてその刀は対となる刀がもう一つ存在し、二つで一つの形状をにもなる。
無論片方を両手に持って戦うことも可能。
戦う相手によって戦闘スタイルを変えられるのが強みの刀なのだ。
まぁ・・・アイリットの二倍以上の大きさなので、片手に持ったとしてもその一撃は重く並大抵の剣士であれば受け流すことは不可能であろう。
それに加え、鋏となった鋏刀の切断力は凄まじく・・・竜導六刀の中では随一。
そんな鋏刀を取り出したアイリット。
勿論凍ってしまった天使を斬るためであり・・・天使を斬り伏せる。
しかしながら鋏刀で斬っても、砕いても天使から血が出ることはなく・・・光輝く泡がでることはなかった。
『不思議な・・・』
常識外れなことを目の当たりにしたアイリットだが・・・こちらに近づいてくる者の気配を感じとる。
『天使・・・それに人間?』
天使と人間・・・もといアリセスと廻る忍刀と増援の天使達は、周囲の光景を目の当たりにし絶句してしまう。
周りを覆い尽くす極寒の冷気に凍りつかされてしまった天使達。
凍りつかされているのにも関わらずに、何故空中に浮いているのかは置いておいても目の前の竜人・・・凍てつく鋏刀が殺ったのだと即座に断定できる。
動けているのがアイリットだけなので当然なのだが・・・
『私達の同胞が・・・』
『それよりもこの冷気・・・私は大丈夫ですがディライ貴女は大丈夫なのですか?』
『私は魔導六刀の内の一振りだぞ・・・普通の人間とは違う』
『つまり大丈夫なのですね?』
『勿論・・・それよりも私は貴女の方が心配です。貴女は普通の人間ですよね?』
ディライに指摘され何故か微笑むアリセス。
そして答える『私は特別であり、マリアティアスさまに選ばれた』のだと。
そう言われて何も言えなくなるディライ。
確かにアリセスは人間にしては強者だとわかっている。
しかしながら人間にしては強者なだけであり・・・世界には人間よりも遥かに強い者は確実に存在する。
目の前の竜人が良い例であり、天使達もまた竜人に負けず劣らずの強者もいる。
ましてや実力だけではどうすることも出来ない物も、この世界には山ほどある。
例えば病。
いくら肉体的に優れていたとしても病原菌に打ち勝つことができるかはその時の体調、運次第。
予防できると言っても完璧ではなく、負けてしまう時だって存在する。
それと同時に気候に関しても同じことが言える。
いくらこちらで対象できるといっても限度は存在しており、この極寒の冷気は人間であれば数分ともたない断言できるのだが・・・アリセスからは吐く息は白くなっていない。
周りの天使たちが吐く息は白くなってしまっているので、冷たいのは確実であり、ディライもまた寒さを感じている。
行動に影響するほどではないが・・・それでも寒いのには変わらない。
そんなことを思っていると・・・周囲の天使達の中で火の属性魔法を扱うことの出来る天使が、他の天使に対して保温の魔法を使い冷気に対して体勢を整える。
『・・・一気に倒してもいいんだけ気になることがあるんだよね。極凍竜の冷咆!』
竜力を溜め放たれる咆哮。
その咆哮は冷気を纏い、凍てつく暴風にも匹敵する。
それにより周辺の空気に含まれる水分が凝縮し・・・結晶となり更に殺傷力が増しアリセス達に襲い掛かる。
『冷気攻撃・・・』
『任せてください!』
迫り来る冷気の咆哮に対して火の属性魔法で迎え撃つ。
攻撃の他にも防御魔法を展開してアイリットの攻撃を防ぐ算段だ。
それに対してアリセスとディライは攻撃範囲外へと逃げ出し・・・ディライは手に持っている忍刀を投擲する。
極寒の冷却と火の属性魔法が炸裂し・・・熱波と寒波が周囲に襲い掛かる。
しかしながらアイリットの放った竜法は強力であったようで・・・力比べはアイリットの方に軍配が上がり溶かしきれなかった結晶が天使達の防御魔法を破壊し襲い掛かる。
防御していた天使達は、アイリットの咆哮を喰らい・・・直撃した箇所から光輝く泡が溢れだす。
『・・・おや?』
ディライの投擲した忍刀をかわしたアイリットは、光輝く泡が出ている天使を凝視する。
(血が出ない・・・その変わりになに?あの光輝く泡は?)
血ではなく、光輝く泡が天使の身体から出てきたことに疑問を抱くアイリット。
数秒程度考えた後にアイリットは伝令をしてきた竜人の言っていたことを思い出す。
『そう言えば天使って竜人や人間ちは違うだよね・・・だけど血が出ないのはわかったけどなんであの凍りつけにした天使は、あのようにならないんの?』
小声でブツブツと呟くアイリットであったが・・・こちらに近づく風斬り音を確認すると同時に振り返る。
『な!?この刀は!?』
アイリットが目にしたのは目前まで近づいた忍刀であり、風斬り音の正体は忍刀が高速で回転しているからだと理解した。
咄嗟に盾を作り出した防ごうとしたアイリットであったが・・・残念ながら時すでに遅く、盾を作り出している最中に斬られてしまった。
『ぐ・・・がぁぁぁぁ!?』
斬られた部分に冷気を流し込み無理矢理止血したアイリット。
だがしかし、アイリットが忍刀に気を取られている最中にアリセスは動き出し、四戦の血晶杖を変化させ槍を作り上げると同時にアイリットを貫く・・・直前にアイリットの鋏刀で防がれてしまった。
『よい反応速度ですね』
『な・・・なめるなぁぁぁぁ!』
『なめてはいませんよ・・・』
そう言い終えるや否やアリセスは槍の形状を変化させ、大鎌に変化させ・・・別角度から攻撃を仕掛ける。
『な・・・』
突如として槍の形状から大鎌に変化したことに反応することができなかったアイリットは、肩を深々と斬り裂かれてしまった。
『ぐっ・・・くっそがぁぁぁぁ!』
あまりの痛みからなのか?それともプライドを傷つけられたからなのか・・・
激昂したアイリットは、自身の竜力を急速に高めると同時に解き放つ。
それはまさに冷気の爆発。
先ほどの咆哮よりもより一層の冷気がアリセスに襲い掛かる。
『しまっ・・・』
至近距離で冷気を浴びてしまったアリセスは、そのまま冷気を浴び・・・凍りつく。
『アリセス!?』
凍りついてしまったアリセスは、浮力を失い落下して行く。
落下して行くアリセスを受け止めることに成功したディライなのだが・・・あまりの冷たさに一瞬手放しそうになるディライであったが、何とか地上に降りることに成功する。
『この冷気・・・受け止めたのはいいけど流石にこれじゃ』
冷たく、氷の塊となってしまったアリセス。
全身が白く、霜のようになってしまっており・・・はっきり言って誰か理解できないほどだ。
そしてかなり冷たく、人間とは違う身体の構造をしているディライでさえも冷たいと感じている。
つまりそんな極寒の冷却を至近距離で喰らってしまったアリセスが生きているのかと疑問に思っていたディライであったが・・・急に皹が入る。
何事かと思ったディライだが、瞬く間に皹は全身を覆い尽くし・・・砕け散る。
『ま、まさか凍りつかされてしまうなんて・・・何て冷気なのです』
砕け散ったのはアリセスを覆い尽くしていた氷であり、アリセス自身はと言うと・・・凍傷になってしまっている。
『こ、こっちこそ驚きですよ・・・なんで生きているのです?てっきり死んだのかと?』
『まぁ・・・普通ならそうですよね。先ほども言いましたが私の身体の構造は他の人間とは違うのです。この身体には多数の薬を投与しているので・・・』
『薬・・・いったいどんな薬を使えばそのような身体になるです?』
『それは秘密です・・・それに私以外の人間は耐えることが出来ないでしょう』
アリセスとディライが話している間にもアリセスは懐から治療液を取り出し飲み干す。
凍傷で傷ついた身体を癒す為なのだが・・・飲み干すや否や高速で凍傷で負った傷が癒え始める。
『回復が速いですね・・・それも薬の影響ですか?』
『まぁ・・・そうですね。それよりもまだあの竜人は生きているのですね?』
そう言いながらアイリットの方を見ると・・・するとそこには圧倒的な冷気を操り天使達と戦闘を繰り広げているアイリットの姿がそこにはいた。
アイリットに有効な火の属性魔法で攻撃を仕掛けているのだが・・・炎すらも一瞬で押さえ込む冷気。
周辺の空気も冷やしているからなのか、周囲にはキラキラと輝く結晶が出来ている。
『極寒の冷気を操る竜人・・・』
『どうする・・・徐々に倒されていっているぞ』
アリセスが回復している間にも天使達の数は少なくなっており・・・このままでは全滅してしまう。
アイリットの方もダメージは負っているだろうし、竜力も消費しているので、このままいけばアイリットを削ることは出来る。
天使達の全滅という形ではあるが・・・
『あの冷気を無効化することは不可能ですね・・・』
『だったらどうする・・・このまま天使達と戦闘している最中に逃げるのか?』
『それも別にいいですが・・・他の面々が頑張っているのにも私達が逃げるのはどうかと』
『確かにそうだが・・・根性論だけではどうにもならないぞ?』
『そうですね』
そう言いながらアリセスは懐から少し変わった色の治療液を取り出す。
ドロドロとした半液体であり・・・赤色、ルビーのような輝きを放つ治療液だ。
その治療液を飲み干すアリセス。
そしてディライに一つになり・・・戦闘体勢に入る。
(これは・・・)
(冷気に対して耐性をつける物です・・・まぁ、私が火の属性魔法を扱えるのであれば何も問題はなかったのですがねぇ)
治療液によって冷気に対しての耐性を得たアリセス。
最初っから耐性は持っているものの、先ほどと同じように極寒の冷気を至近距離で喰らってしまえば凍ってしまいからだ。
ディライ自身もまた冷気には耐性があるが・・・はっきり言ってアイリットの扱う冷気は桁違いであり、長期戦は不可能。
そしてディライ一人だけでアイリットを倒すことが出来るのかと言うと・・・正面からは確実に無理だと言える。
ディライの強みは自由自在に動く忍刀であり、遠距離、中距離から一方的に攻撃できるのが強みだからだ。
『忍刀の操作は任せましたよ』
『了解!』
アイリットが攻撃を繰り出した瞬間にアリセスは忍刀を投擲する。
高速に回転し、けたたましい音を響かせアイリットに襲い掛かる。
『さっきの・・・』
襲い掛かる忍刀に対して鋏刀で撃ち落とそうと攻撃するアイリットであったが・・・
『あまい!』
ディライが忍刀を操作し、ありえない角度で横にずれ・・・アイリットの死角に入ると同時に再び襲い掛かる。
『なめるなぁぁぁぁ!』
雄叫びをあげると同時に振り向いたアイリットはそのまま忍刀を間一髪で防ぐ。
しかしながら高速で回転している忍刀を受け止めた瞬間、強い衝撃と共に防いだはずの鋏刀を握っていた腕が吹き飛ぶ。
正確には吹き飛んでいないのだが・・・まるで吹き飛んだかのような感覚に襲われたのだ。
『ぐっ・・・あぁぁ・・・』
痛みと衝撃によって動きを止めてしまったアイリットに対して、今度はアリセス自身が攻撃を繰り出す。
一撃で沈める為に大斧での重い一撃を・・・
アリセスの一撃が炸裂し、衝撃によってアイリットは地面に急降下し・・・激突する。
『防がれた!』
そう叫ぶと同時にアリセスは地面に向かって急降下する。
先ほどの大斧の一撃は確かにアイリットに直撃した・・・
しかしながら直接ではない。
アイリットが大斧が直撃する直前に大斧を凍らせ、そして自らも氷の盾を纏うようにして直撃を防いだのだ。
空中に存在する水分を使っての巧みな防御。
いくらアイリットの竜力で氷の盾を作り上げたとしても、アリセスの大斧の方が切れ味は鋭い。
だがしかし・・・アリセスの大斧自体を氷で覆い尽くせば、それは大斧の切れ味が全く意味をなさず、氷の盾で防ぐことは可能だ。
衝撃自体はどうしようもないので仕方ないことなのだが・・・凍りつかせることによって相手の得物も封じ込めることができるので一石二鳥だとも言える・・・
まぁ・・・アリセスの四戦の血晶杖には何の意味もないが。
アリセスは急降下している最中に四戦の血晶杖の形状を大斧から杖に、そして大鎌へと変化させる。
すると変化したことによって、内部から氷が砕かれる。
そのまま地上にいるアイリットを斬り伏せる。
一刀両断・・・大鎌で斬られたアイリットであったが、それは氷で作り上げられた氷像。
騙されたと理解したアリセスは周囲を見渡すや否や、地面から勢いよく水が溢れだす。
『水!?』
急に地面から噴水の如く水が溢れだしたことに驚くアリセス。
そして溢れだした水はそのまま凍結し、氷の刃となって襲い掛かる。
(アリセス!)
(わかってます)
襲い掛かる氷の刃隙間を掻い潜りながら上空へと旅立つアリセス。
しかしながら襲い掛かる氷の刃全てをかわすことは不可能。
氷の刃がアリセスに直撃するが・・・アリセスの着ている聖職者の衣装はマリアティアスお手製の衣装であり、氷の刃程度では多少傷ついる程度。
アリセス自身を傷つけることは出来なかった。
『これは流石にまずいですね・・・』
氷の刃から逃れたアリセスが目の当たりにしたのは一面水浸しになってしまった中央浮遊都市の一角。
そして現れ出る冷気を操る竜人・・・凍てつく鋏刀。
両手には身長の二倍以上の鋏刀を手に持ち、冷気の竜力を操る。
(どうやら彼女に相応しい舞台が整ったようですね)
(この水量・・・どうやって対処するんだ?)
ディライの問いかけに対してアリセスは懐から禍々しい色をした宝石を取り出す。
『これを発動させれば逆転は可能です』
アイリットによって周囲の中央浮遊都市を水浸しになってから数分後、増援の天使達がアリセス達と合流する。
『私が接近して攻撃します・・・なので援護をお願いできますか?』
アリセスの問いかけに頷く天使達。
了承を得たアリセスは、一呼吸し気持ちを落ち着かせる。
『行きます!』
忍刀をアイリットに向かって投擲すると同時に突撃を開始する。
そして繰り出される援護射撃。
火の属性魔法を主軸に、土と風の属性魔法。
それに対してアイリットは周囲に存在する水分・・・水を使い凍てつく氷の竜を作り出す。
ヤマタノオロチをモチーフにした氷の竜は、そのまま天使達の弾幕など気にせず次々とアリセスに襲い掛かる。
『多少のダメージは仕方ないはずです・・・』
ダメージを負うことを覚悟したアリセスは、そのまま最小限のダメージで抑える。
しかしながらスピードを緩めることは一切なく、氷の竜を掻い潜りアイリットの距離を縮める。
(ディライ!)
(わかってる!)
ディライが忍刀を操りアイリットの死角である上空からの奇襲、そしてアリセスは真っ正面からの突撃。
(上と正面・・・でも残念)
不適に笑うアイリット。
(何故笑って・・・)
この状況で何故アイリットが笑っているのかを疑問に思った瞬間・・・アイリットとアリセスの周りから噴水の如く水が溢れだす。
『水!?そうか・・・凍らせて』
アイリットの極寒の冷気によって周囲の水は氷となっている。
しかしながらその氷はアイリットの竜力で操ることができ、凍らせることも出来れば無論解凍することも可能なのだ。
押し寄せる水に抗うことができなかったアリセスはそのまま水に呑み込まれる。
(このままでは・・・)
水に呑み込まれたアリセスは、風の属性魔法を使うことができる武装を使い浮上しようとするが・・・周囲が凍りつこうとしているのを感じとる。
(間に合っ・・・)
水中から脱したアリセスであったが・・・水中から浮上した瞬間にアイリットが襲い掛かる。
鋏刀を一つに合わせ、巨大な鋏に変形させての攻撃。
『は、鋏・・・』
間一髪では攻撃をギリギリ四戦の血晶杖で防ぐことに成功したアリセス。
しかしながら凍結は続いており・・・水に浸かっていた足が凍りつく。
『これで逃げられない!』
『確かにそうですね!しかし・・・これで条件は揃いましたよ!』
そう言い終えるとアリセスと融合し、一つとなったディライが元に戻る。
驚いているアイリットなど気にも止めずにディライはアリセスから譲り受けた禍々しい色をした宝石を起動させる。
すると眩いばかりの純黒の光が溢れだし・・・周囲を覆い尽くす。
そして数分後・・・世界が変わる。
周囲を凍らせていた氷はいつの間にかなくなっており、自由になっているアリセス。
先ほどの光景とは様変わりし、黄昏時を彷彿させるような淡い光。
周辺に溢れるほどあった水はいつの間にかなくなり・・・変わりにアイリットの足元には何やら金属質な地面が広がっている。
何が起きたのか理解できないアイリット。
しかしながら、アリセスを殺すということには変わらず、更に力を加えようとするが・・・足が自由となったアリセスはそのまま倒れ込むように攻撃を受け流す。
『かわした・・・』
自身の攻撃をかわされたアイリットは、鋏刀の形状を変化させ両手に持ち替え更に追撃する。
身体のバランスを崩しているアリセスだが、四戦の血晶杖を地面に叩きつけ反動で鋏刀の攻撃を間一髪で回避することに成功する。
『反応が速い!』
体勢を立て直したアリセス。
そんなアリセスに対して更にアイリットは間髪容れずに更に連撃を繰り出す。
四戦の血晶杖だけでは捌ききれないと判断したアリセスは、忍刀を手に持ちアイリットの連撃を何とか防ぐ。
しかしながらアイリットの攻撃には冷気という特殊効果がついており・・・徐々にアリセスの動きが鈍くなり始める。
(まずいぞ!)
(知ってますが、なかなか隙が・・・)
徐々に動きが鈍くなってしまったアリセスに対して警告するディライであったが・・・そんなディライの警告している最中にアリセスの身体が揺らぐ。
その隙を見逃さなかったアイリットは、意表を突く攻撃を繰り出す。
攻撃の正体はアイリットの尻尾であり・・・アリセスの腕を貫く。
『ぐっ・・・あぁぁ・・・』
腕を貫かれてしまったアリセスはそのまま握っていた忍刀を手放してしまった。
しかしながら忍刀はアリセスではなく、ディライが操っているので手放してたとしても攻撃は繰り出せ・・・今度は逆にアイリットが傷つく。
『この・・・程度!』
傷つきながらも更に攻撃を繰り出すアイリットにアリセス。
次第に攻防は激しくなり・・・そして決着が訪れる。
『マリアティアス様・・・』
『オール様・・・』
最後に自らの主の名前を呟く二人が目にしたのはこの世界が光に包まれる瞬間であった・・・