赤髪の少女ベリス
「ベリス様ー!ベリスお嬢様、どこにいらっしゃいますかー!」
赤いふわふわな髪が、城の中でチラチラと見え隠れする。
広いお城の中、侍女数人の声と溜め息があちこちに響き渡る。探されている張本人ベリス・フェルネットは、侍女たちと隠れ鬼でもしているように身を潜めてはいろんな部屋に逃げ隠れていた。
「どこにもいませーん、なんちゃって」
ベリスは声を潜めてイヒヒッといたずらに笑う。
近くにいた侍女がベリスに気付かず通り過ぎるのを確認すると、近くにあった部屋に駆け寄り、扉を静かに開けた。
あ――…。
部屋の窓が一つ開いている。
外からの爽やかな風が入り混み、眩しい光が部屋中に広がっていて、心地が良かった。
ベリスは扉を背中で静かに閉めると、窓際で本に目を通していた人物と目が合った。
しばらく見つめ合ったように固まっていると、その人物は優しく微笑んだ。
ベリスも思わず口角が上がり、その人物のもとへと駆け寄る。
「エドウェル!!」
「これはこれは。どうやら美しい一羽の小鳥が迷い込んでしまったようですね」
エドウェルと呼ばれるその男は、分厚い本をパタンと閉じるとゆっくりと立ち上がり、ベリスの方へ向き直る。
「…相変わらずクッサイ台詞ねぇ、どこからそんな単語が出てくるのかしら」
ベリスが渋い顔をすると、何故かエドウェルは嬉しそうに顔をほころばせた。
「お褒めいただきありがとうございます、ベリス様」
「いや褒めてないし…」
今日も相変わらずだわ…と思いながらベリスは溜め息を付いた。
改めて見上げるとエドウェルはベリスを見つめて優しそうに微笑んでいる。
「ぅ…」
顎の下ほどまで少し長めに伸ばされたサラサラな銀色の髪が風に吹かれ、光に当たってキラキラ輝いている。その端整な顔立ちに増した神々しい姿に、ベリスは思わずドキッとする。
エドウェル・デーヴェン。ここブリスター国の第3王女であるベリスの護衛兼教育係。9年前、ベリスが8歳のときに城の外でエドウェルが倒れているところをベリスが見つけたのが出会いのはじまりだった。
ベリスはエドウェルの素性を何一つ知らない。知っているのは歳がベリスより5歳上の21歳ということと、格別に頭が良く、格別に剣の腕が立つということだけ。たぶん王城内で一番の強者だ。その他のことはベリスが聞いてもいつも笑顔で誤魔化されてしまう。
あまり踏み込んではいけない領域なのだろう。
しかしその強さに反して性格はかなりの変わり者。容姿は男から見ても惚れてしまうらしいほどの美貌を兼ね備えていて、一見すると威厳があるように見えなくもないが、たまにポエムのような言葉を囁き、嬉しいことがあれば周りにお花が飛んでいると錯覚してしまう…。
ほとんどの人物は「彼の微笑んだ顔しか見たことがない」といえるほど、ほのぼの天然、ならぬ天然記念物男なのだ。
そんな、いまいち何を考えているのかよく分からない人物だが、その微笑んだ顔は後ろに羽が見えそうなほど美しく、王宮内にいる女性を片っ端から魅了し、その剣の腕前から兵士たちをも魅了した。
(ほんと、恐ろしい人)
ベリスは目の前の、花が咲き誇った笑顔に思わず身震いした。
「それはそうと、何か御用でもあったのですか?」
「え、あぁ。来週私の誕生パーティがあるでしょ。その時に着るドレスを試着するみたいなんだけど…。嫌よあんなの、何分も立つだけだし苦しいし、窮屈。だから侍女から逃げてたの。スリルがあってなかなか面白かったわ!
ってことで、しばらくここでかくまってちょうだい」
そう言ってベリスは楽しそうに隠れられそうな場所を探し出した。
「それは良かったです。しかしよろしくないですね」
「…はぃ?」
(何が良くて何が良くないって…?)
エドウェルの、いまいち理解に苦しむ発言にベリスは思わず振り返り、彼の顔を見た。
「ベリス様が楽しそうにしていらっしゃることは、私としてはとても良いことなのですが、侍女から逃げるのはよろしくないですね。せっかくのお誕生パーティですし、ベリス様にはいつも以上にお綺麗になっていただかないと」
「なっ…」
(んでそういう台詞をサラッと言っちゃうかなぁ!)
いつものことなのに、エドウェルに言われると何故だか心臓が跳ね上がって顔が熱くなる。
恥ずかしくなってエドウェルから目を逸らす。
「べ、別に。私はお姉さまたちと違って美人でもないしスタイルも良くないし。ドレスの試着なんてする意味が分からないもの」
「そんなことありませんよ。ベリス様はとてもお綺麗でいらっしゃいます。身体つきはまだ幼いかもしれませんが私にはちょうど良いくらいですし…」
「えっ、ちょっと」
エドウェルはベリスの両脇下を両手で優しく掴むと、自分より少し高い目線の位置まで持ち上げた。
「とても、可愛らしいですよ」
「っ…」
(絶対子ども扱いしてる!!)
そして子ども扱いしていることは分かっているのだが、心臓の音は加速する一方。
「も、もぅエドウェル、下ろし――」
いつまで経っても下ろしてくれないことにいっそう恥ずかしさが増し、足をバタバタさせていると、バンッと扉が勢い良く開く音がしたとともに、ベリスはものすごい殺気を感じた。
「ベーリースーさーまぁー?」
「げっ、シンディ…」
侍女の一人、シンディ。3年ほど前にシンディ専属の侍女となった。歳もまだ20代と若いのにも関わらず、自己中でおてんばで放漫なベリスに厳しくものを言える人物で、ベリスが一番気を許している侍女でもあった。
「エドウェル様、失礼シマスッ」
「はい」
そういって険しい顔をしてズカズカ入ってくるシンディに対して、エドウェルはニコッと笑って返した。
「いや「はい」じゃないって!シンディ分かった戻るから!!」
「エドウェル様、そのままベリス様を離さないでください」
「はい」
「ちょっ…」
さっきに比べて地面に近くはなったものの、ベリスはまだエドウェルに両側から持ち上げられている。身動きの取れないベリスは、シンディが近づいてくるにつれてある感情が脳裏をかすめた。
(…コロサレル――!!)
・・・・・。
次に目を開けたときには、ベリスはシンディに片腕で持ち上げられていた。ベリスはもうすぐ17歳だというのに身長が145cmというかなりの小柄体系で、細身のわりに力持ちなシンディにはお手軽に運べてしまうほどだった。
無言で部屋を出ようとするシンディの肩の上で固まって、窓際でヒラヒラと手を振っているエドウェルと目が合った。
その笑顔と手の動作にだんだんと怒りがこみ上げる。
ベリスはエドウェルを涙目でキッと睨んだ。
「…エドウェルの…裏切り者ぉぉ――!!」
西洋ファンタジー風に書いているつもりですが、設定がめちゃくちゃな部分もあると思います。基本めちゃくちゃです。
生意気ながら絵も付けさせていただきました…。2人しか書いていませんが私的にそんな顔のイメージ?です。余裕があればまた挿絵描いてみようと思います。
今まで漫画を描こうとしていた者でしたので語彙力のなさに今更苦しんでいますが(関係ないかも)、温かく見守ってくださると嬉しいです…笑