序章
曇りきった空に、焼け焦げた匂いと血の匂いを運ぶ生暖かい風。
目の前には、無残に焼かれた家々と人々、そして――自分の家族。
(どうして…)
おんぼろな服を身にまとい、白い肌の所々に火傷を負い、瞳に光を失くした少年は、ただその場で座り込むことしかできなかった。
ふと、砂利を踏む人の足音が近づいてくる。
その足音は少年の後ろでピタリと止まると、落ち着いた低い声で少年に話しかけた。
「悔しいか、家族を失くし、家を失くして」
「…悔しい?分かりません。人はいつか死にます。どんな理由で死んだって、いつ死んだって、それはその人の運命で、仕方のないことだと思います」
少年は声の方を振り返らずに答えた。そして少し俯くと、地面についていた手をぎゅっと、砂利を掴むようにして握りしめた。
「でも、どうして皆は死んでしまったのに、自分だけ生き残ったんだろうって…」
その弱々しい声を聞くと、男は羽織っていた服を一枚脱ぎ、少年の頭に乱暴に被せた。
「おまえの瞳は濁ったカイヤナイトみたいだな…」
男はそんなことを呟いていたが、少年には何のことだか分からなかった。
「よし、おまえがこれからすべきことはただ一つ。悪をこの世から消し、家族の仇を討つんだ。俺についてくればいい」
「仇…」
仇を討つということが、どういうことなのか。討たなければいけない理由も感情も、この時はまだはっきり分かっていなかった。けれど何の罪もない人間が殺された。そんな事実は、一般的に見てあってはならないと思う。
少年はゆっくりと立ち上がると、男についていった。
この人に着いていけば、自分のすべきことが分かるかもしれない。そして、理不尽に生き残ってしまった自分の居場所をなくさないために。
――人間として、生きていくために。






