28 決着のハーレム王
俺の背に守られていた女が、後ろから歩み出る。
すると男のどよめきと、女の歓声が交錯した。
その反応は対照的。
俺に襲いかかってこようと立ち上がっていた男たちは、イキった態度から一変……地獄に堕ちたような情けない表情になっている。
跪いていた女たちは、絶望の暗闇にいるような表情から一変……天から降り注ぐ奇跡の光を受けたかのように、瞳を輝かせている。
「な……なんで、壺仮面だけじゃなく、女のほうまで生きてるんだ……!?」
「たしかにあの女は、壺野郎と一緒に『真・メデューサキック』の餌食になったはず……!」
「壺野郎が無事だったのは、とっさに女を盾にしたからだと思ってたのに……!」
「それだったら、女のほうがズタボロになってるはずだろ!? でも、実際は逆……! 壺野郎はズタボロなのに、あの女はカスリ傷ひとつ付いてねぇぞ……!?」
「なんでだ……!? なにがどうなったってんだ……!? なにがなんだか、全然わからねぇ……!?」
答えにたどり着けない男たちは、ただただうろたえるばかり。
ヤツらの足元から、蚊の鳴くような声が立ちのぼった。
「まさか……あの壺仮面さんが、お姉ちゃんを守ってくれた……?」
ひとりの少女の何気ない一言が、その場を大いに揺らす。
「そんなわけあるかよっ!? 『メデューサキック』を受けるとわかっていて、女を守るバカなんているわけねぇだろっ!?」
「そりゃそうだ! あんな女一匹のために命を賭ける男なんざいるかよ!? 俺だったら真っ先に蹴り倒してるぜ!」
「それ以外の選択肢なんて、ありえねぇ……! いままで『真・メデューサキック』を受けてきたヤツらは100%そう……! だってそれ以外に、助かる道なんざねぇからなぁ!」
「おい、女! てめぇ、いったい何しやがった!? そっちの壺野郎みてぇに、変な技を隠してたんじゃねぇだろうな!? ああん!?」
女はキッと男たちを睨み返す。
さっきまで俺にすがっていた弱々しさは、微塵も感じられなかった。
きっと……この堂々した態度こそが、この女の本来の姿なんだろう。
「わたしは、何もしていません……! でも、無傷だったのは……こちらにいる壺仮面さんが、わたしのことを守ってくだったからです……!」
四方八方から飛んできた「ウソをつくなぁ!」というヤジを、「ウソではありませんっ!」と跳ね返す。
「男は女を家畜のように扱うもの……このバーに監禁されてから、わたしはそう思うようになりました。乱暴され、踏みにじられ、最後には男たちの争いために利用され、家畜のように屠殺される……! それが当たり前で、この世の男はすべてそうなのだと、思っていました……!」
「なに言ってんだテメェ!? それが当たり前に決まってんだろ! 女と家畜は同列に扱う……それが男らしさってもんだ!」
「しかし……その考えは間違いであると、壺仮面さんは教えてくださいました……! 壺仮面さんの足を押さえたわたしを、責めるどころか……! 守ってみせる、とおっしゃってくださったのです……!」
「そんなわけあるかっ! 恐怖で頭がおかしくなったんじゃねぇのか!? それとも脅されてるんだろう!?」
「壺仮面さんは、おっしゃいました……! 『男が女を守るのは、当たり前のことだ』と……! 男が女を守るのは、血縁や損得ではない……! 生き物として当然の行為だと、おっしゃったのです……!」
「そ……そんなわけ……そんなわけあるかよっ!? そんなことをして、何になるっていうんだっ!?」
「まだわからないのですか!? それが、壺仮面さんという殿方なのです……! 何の見返りがなくとも、大いなる強さと愛で、わたしたち女を包み込んでくれる……! そして無償の愛を注ぎ込まれたわたしの中に、初めての感情が芽生えました……! この方のためなら、何だってできると……! いままでは神の教えや道徳によって、人にしてきたわたしが……初めて……女として……殿方である壺仮面さんに、何かをしてあげたいと……そう思ったのです……! 壺仮面さんのためなら……嫌々ではなく、心の底から喜んで、靴だって舐められる……!」
女は両手を掲げながら、なおも続ける。
「壺仮面さんこそ、我らが主、タクミ様が遣わした救世主……! わたしたちを助けに来てくださった、愛の戦士……! さあ、祈りましょう……! 私たちのわずかな力を、壺仮面さんに使っていただくのです……!」
四つん這いになっていた女たちが、次々と祈りのポーズをとりはじめる。
何かを囁いていたが、それが二人、三人と伝搬していき……ついには大きな合唱と化す。
「我らが偉大なる主、タクミ様……! どうか、壺仮面さんの傷を、お治しください……! 健やかなる身体を、壺仮面さんにお与えください……!」
……なんか不思議な呪文だな……と俺は他人事のように思っていた。
俺に祈って、俺を治す?
なんかよくわかんねぇけど……それって効果あんのか?
しかし、ちゃんと俺の身体は光に包まれた。
治癒魔法が発動した証だ。
『アドレナリン・オーバードーズ』の効果と入れ替わるようにして、身体に健やかさが戻ってくる。
ああ……助かった。
死にかけでヤバかったんだが、これなら雑魚どもにいちどに襲いかかられても大丈夫だろう。
俺は背後にいる女に向かって、グッ、と親指を立てた。
「助かったぜ、あとは俺にまかせてくれ。約束どおり、このガキども全員にたっぷりとお灸を据えてやっからな……!」
さぁて、どのツボを突いてやろうか……と、指の骨をポキポキ鳴らしながら前に出る。
ヤケになったガキどもが、自爆特攻してくるかと思ったんだが……なぜか全員、目を剥いて後ずさっていた。
「お……おい……見ろよ……! 壺野郎の腕……!」
「さっきまで血まみれだったから、気づかなかったけど……マジかよ……!?」
「あ、あれ……タトゥーじゃねぇ……! ほ、ホンモノの……真実の愛のアザ……!」
それで気づいた。
ガキどもは俺の腕にびっしりとある『真実の愛のアザ』に注目していることを。
「う、うそだ……! 『真実の愛のアザ』は、多くてもひとつだって聞いた……! 女に心の底から愛されるなんて、一生にひとりが限界だって……!」
「に……ニセモノだろ? 俺たちのと同じ、タトゥーじゃねぇのか……!?」
「いや……違う……! あれは全部ホンモノ……! 水に浮かんだ油みてぇに輝いてるだろ……!? あれがホンモノとニセモノの違いだ……!」
「ぜ、全部ホンモノって……マジかよっ!? アイツの腕は、アザだらけ……! いったい何人の女に愛されてるっていうんだよっ……!?」
「あ、アザが数えきれねぇ……! あれだけの女に愛されるだなんて、まるで『ハーレム王』じゃねぇか……!!」
「あ、あの、壺野郎が……!? 伝説の……『ハーレム王』だとぉ……!?」
立ち尽くしていた男たちが、甲子園で逆転満塁ホームランを食らった球児たちのように……次々と崩れ落ち、膝をついていた。
そして、誰もが……ボスも雑魚も、奴隷となっていた女たちまでも……俺に向ってひれ伏していた。
あれほど俺に対して挑戦的だったボスに至っては、誰よりもかしこまっていて……己を責めるかのように額をゴツゴツと床に叩きつけている。
「……ゆ、許してくれ……! まさかあんたがあのハーレム王だったなんて……! もう二度と歯向かわねぇ……! た、たのむ……! 壺仮面……! いや、壺仮面さん……! 俺を……俺をアンタの舎弟にしてくれ……! 俺は……俺は……壺仮面さんのようなハーレム王になりてぇんだ……!」
「……そうか。じゃあ、こいつにサインしな。それと……お前らに女をあてがった親玉のところにも案内してもらおうか」
俺は『タワークエスト』の同盟用紙を、『ジェノサイドキッカー』の頭上に降らせた。
次回、最終決戦…!
それと新作小説を掲載いたしました。
本作がお好きな方でしたら、同じく楽しんでいただけると思います。
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