26 メデューサキックの洗礼
「てめえっ!? なにしやがったぁ!?」
一斉に向かってこようとする周囲の雑魚どもを、ボス……『ジェノサイドキッカー』は制止するように足を掲げて止める。
「やめろっ! まだ勝負はついちゃいねぇ……これは、俺と壺野郎のタイマン……! お前らは引っ込んでろっ!」
一喝されて、すごすごと引き下がる雑魚ども。
大人しく、助けてもらえばいいのに……片足をダメにされちまったのに、まだ1対1でやるつもりらしい。
呆れていると、掲げられた足の矛先が、ゆっくりと俺のほうに向けられる。
「壺野郎……テメェ、怪しげなのは被りモンだけじゃねぇみたいだな……素手だから、格闘系だとは思ったが……妙な技、使いやがって……!」
そう言いながら、ぴょん、ぴょん、と片足で跳ねて近づいてくるボス。
子供が遊んでいるかのような、なんともいえない滑稽さだ。
「ああ、片足が使えねぇから、ホップスコッチで勝負をつけようってんだな。いいぜ……」
俺の言葉が終わるより早く、旋風のようなローリングソバットが眼前を通り過ぎていく。
スレスレでかわしたはずなのに、背筋がゾッするような寒気に襲われる。
直後……あたたかいものが、あごを伝う。
「チッ、掻っ切れなかったか……!」
舌打ちするジェノサイドキッカー。
ハイキックのポーズのまま、微動だにしない靴のつま先には……ギラリと輝く刃が。
そこから、ぽたり……と床に垂れ落ちたのは、俺の血だった。
「……仕込みナイフか……。不意討ちで頸動脈を狙うのが、お前のやり方ってわけか……『ジェノサイドキッカー』じゃなくて『ダーティーキッカー』とかにしたほうがいいんじゃねぇのか? お前の顔とも合うし……」
女たちの失笑が、再び起こる。
「……笑うんじゃねぇっ! コイツをズタズタにしたあと……ここにいる女ども全員、同じ目にあわせてやんよっ!」
瞬間湯沸かし器のように顔をカッと赤熱させた、『ダーティキッカー』がまた挑みかかってくる。
片足だけで、器用に連続蹴りを繰り出してきた。
「ハッ! ハッ! ハッ! ハッ! ハッ! ハッ!」
なかなかのキックだ、でもこのくらいなら……と思い上半身だけでかわそうとすると、蹴りがうねる蛇のように軌道をかえて襲いかかってきた。
外人四コマのように、熱狂する雑魚ども。
「……出たあっ! ボスのメデューサキック!」
「メデューサの髪みたいに、無数の蛇のような蹴りを放つ技……!」
「この蹴りを受けて、生きていた男ぁいねぇ! そしてこの蹴りを見た女ぁたとえメデューサでもあっても、虜になっちまうんだ!」
「しかも、技はまだ始まったばかり……! まだ地獄の一丁目だぜ、壺野郎っ!」
蹴りはたしかに速さを増し、俺の身体に絡みついてくるようだった。
「ハッ! ハッ! ハッハッ! ハッハッハッハッ! ハッハッハッハッハッハァーッ! ハァーッハッハッハッハッハッハッハッハァァーーーッ!!」
「で、出たぁーっ! メデューサキックが最高潮に達した時に出る、地獄の高笑い!」
「蹴りを放つ時のかけ声が速くなりすぎて、笑い声みたいに聞こえるんだ!」
「もはや、壺仮面はフラフラ……! しかもナイフでボロボロ……! もはやナマスみたいになってるに違いねぇっ!」
「そろそろフィニィッシュだ……! 最後の蹴りは見ものだぞ! 高くブッ飛ばされて、身体をミキサーにかけられたみたいにきりもみさせて、あたりに血を撒き散らしながらド派手に死んでいくんだ……!」
「ハァァァァァァーーーーーーーーーーーッ!!!」
裂帛の気合とともに放たれる、フィニッシュブロー。
しかし宙に浮いていたのは、俺の身体ではなく……ヤツの身体だった。
「……あ……!? はああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
最後の一撃にあわせ、俺はチョコンとしたローキックでヤツに膝カックンをかましておいたんだ。
それに見事なまでに軸足をさらわれ……スッテーンとすっ転ぶ、なんとかキッカー。
俺のほうはというと、最初に受けた頬の傷以外はなんともなってなかったので、観客どもは嘔吐しそうな勢いでビックリしていた。
「おげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?!?」
「なっ……なんだぁ!? なんでアイツは無傷なんだぁ!?」
「メデューサキックはたしかに決まってたはず……! 壺野郎の身体をたしかに捉えてたはずなのに……!?」
「まさか……あの蹴りを全部よけたっていうのか!?」
「そんなわけあるかっ! あの蹴りをよけるなんて、忍者でもムリだったんだぞ!?」
「じゃあ、アイツはなんなんだ!? 実体のねぇ幽霊かなんかなのか!?」
「そ……そうだ! そうに違いねぇ! 壺の幽霊だっ……!」
「そ、そうか……! だから、一発も蹴りが当たらなかったのか……!」
「ひっ……ひぃぃ……!? 成仏、成仏してくれぇぇ……!」
勝手に結論を出し、勝手に怯えて後ずさる雑魚ども。
俺は、このたまり場に来てから長いこと立ち位置を変えていなかったので、本当に地縛霊にでもなったような気分だった。
「……なるほど、『皆殺しのジョニー』のマッハストレートに比べて速度は劣るが、膝関節の柔軟さを活かして蹴りの軌道を変化させてるんだな。たしかに普通のヤツなら予測がつけられなくて食らっちまうと思うが、俺にはバレバレだ。太ももの筋肉の動きで蹴りの軌道が手にとるようにわかっちまう」
霊体と見紛うほどの回避ができた、タネあかしをしてやったんだが……、
「……アイツ、なに言ってんだ?」
「予測とか軌道とか……意味わかんね」
「もしかして頭を蹴られておかしくなっちまったんじゃねーの?」
誰からも理解してもらえなかった。
そうこうしているうちに、ボスのジェノサイドなんとかがヘッドスプリングで起き上がる。
「ハンッ……! 俺のメデューサキックを食らって、立ってられるヤツが他にもいたとはな……!」
「……俺は別に1発もくらってないけど……過去にもいたのか?」
「『ブラッククロウ忍者高校』のヘッド、ウィーゼルだ……! ヤツとお前だけだ、俺の『プロトタイプ・メデューサキック』を食らって生きていたのは……!」
なんか聞いたことがあるような、無いようなヤツの名前が出てきた。
でもそんなことよりも、もっと気になる技の名前が出てきた。
「『プロトタイプ』……?」
俺がオウム返しすると同時に、
「キャアアアアアッ!?」
俺の足元に、ひとりの女がすがってきた。
さっきまで靴をなめさせられていた、首輪の女だ。
女は俺の脚をしっかりと抱きしめている。
てっきり助けを求めてやって来たのかと思ったが……狂気を宿しているようなその瞳に、すぐに違う目的だというのがわかった。
ハッ!? と顔をあげると、死神の鎌のように曲げた脚をくねらせる、ヤツの姿が……!
「……これが……俺の最終奥義……『真・メデューサキック』……! 女は冥土の土産だ……! 仲良く心中しな……! 壺野郎っ……!」
メデューサの蛇たちが、再び……俺と、見知らぬ女めがけて押し寄せてきた。
次回、真・メデューサキックに対して、タクミは…!?
それと新作小説を掲載いたしました。
本作がお好きな方でしたら、同じく楽しんでいただけると思います。
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