22 同盟と決闘
5階にあがってすぐのクエストカウンターは、大勢の参加者でごったがえしていた。
いままではどいつもこいつも、クエストカウンターには脇目もふらずにフロア探索に向かっていたはずなのに……どうやらこの階からは、クエストをやったほうがポイント稼ぎにはいいらしい。
クエスト受付をするカウンターは受付嬢が総出で対応していたのだが、そこから少し離れたところにある小さなカウンターには誰も並んでおらず、受付嬢も所在なさげにしていた。
ふと、紙束を抱えて人ごみから飛び出してきたヤツが、俺にぶつかってくる。
「邪魔よ! ……ってツボ夫じゃない、縁起でもない! こんなとこでボーッと突っ立ってんじゃないわよ! 底辺なら底辺らしく、すみっこで壁のシミでも数えてなさいよ!」
蛇みたいに舌をシャーと出しながら威嚇してきたのは、いまや英雄扱いのシャラールだった。
「……なぁ、シャラール、あの誰も並んでいないカウンターは何なんだ?」
「アンタそんなことも知らないの? だからいつまでたっても靴底に張り付いてるガムみたいな役立たずなのよ。いい、一度しか言わないからよく聞きなさい?」
嫌な前置きをして教えてくれたのは、『アライアンスカウンター』というものだった。
……『タワークエスト』では、5階から同盟が可能となる。
これは、他の学校どうしが同盟関係となり、同じランキングとして扱われるようになるらしい。
ただ同盟前に稼いでいたポイントは合算されるわけではなく、所持ポイントが高い学校のほうに統一される。
所持ポイントが低かったほうの学校が持っていたポイントは、そのまま捨てられてしまうらしい。
ようは、ふたつの学校がひとつになることにより、人員が増えるというメリットを受けられるだけのようだ。
この『タワークエスト』では人員が多いほうが有利な反面、役立たずから足を引っ張られるというデメリットもある。
最近はどの学校も、事前に万全な布陣を敷いて参加してきているので、同盟の仕組みは使わないらしい。
ルールを制定している『タワークエスト連盟』のほうでは、廃止も検討しているとのこと。
不人気カウンターの事情を理解した俺は、シャラールの胸元に興味を移した。
「……なるほど、ところでお前が大事そうに抱えてるその紙はなんだ?」
「ハァ、アタシはクエストカウンターから出てきたのよ? クエストが書いてある紙に決まってるでしょうが」
「……デュエル?」
胸のふくらみに押し出されるようにして、飛び出た紙片を読み上げる。
……『デュエル』。これも5階から可能となるシステムらしい。
下位の順位の学校が、上位の学校に決闘を申し込むことができるそうだ。
下位の学校が勝てば、上位の学校が所持しているポイントを全て奪うことができる。
ただし負ければその場で失格となり、向こう10年間の『タワークエスト』参加権を失う。
決闘を申し込まれた学校は断ることもできるのだが、下位の学校に勝った場合、所持しているポイントが3倍になるという大きなリターンが得られる。
下位の学校と結託すればインチキできるんじゃねぇのか? と俺は思ったが、10年間『タワークエスト』に参加できないのは冒険者を育成する学校としては致命的らしく、これも『同盟』同様誰も利用していないらしい。
ひとしきり説明を終えたシャラールは、不機嫌そうにツインテールをかきあげていた。
「ああ、なんか調子狂っちゃうわ。いつもだったらアンタみたいな底辺にものを尋ねられても、無視するのに……なんでこんなに懇切丁寧に教えちゃったのかしら……。とんでもない時間の無駄だったわ」
そう吐き捨てて去ろうとした肩を、俺はむんずと掴む。
「なによ、まだなにか用があるの? その汚い手を……」
「……シャラール……お前に、決闘を申し込むっ……!!」
俺がそう宣言した瞬間……大賑わいだったクエストカウンターはしんと静まり返った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
俺は『アライアンスカウンター』で、同盟の手続きを行っていた。
必要なのは、同盟が組む学校どうしのリーダーの署名。
俺は『命の泉学園』の下に自分の名前……じゃなくて『壺仮面』とサインする。
「ほら、次はお前の番だ」
俺はクリエルの身体を抱え上げ、カウンターに届くようにしてやった。
「ここに名前を書けばよいのですわね」
クリエルはペン立てから羽根ペンを取り、『イポモニ純真女学院』の下に自分の名前を書き入れた。
「ところでこれは何のサインですの?」
「……サインしたあとに聞くなよ。でもまぁ、気にするな。このタワークエストで優勝するために必要な布石みたいなもんだ」
俺は受付嬢に書類を返しながら、そう答える。
遠巻きのクエストカウンターは相変わらず盛況だった。
でも賑やかさというより、かなりのどよめきが含まれている。
「おい……聞いたか? 壺仮面がシャラールに『決闘』を申し込んだのを……!」
「もちろん! 何かと思ったぜ……! 『決闘』ってもう何十年もやられてなかったんだろ……!?」
「そんな誰もやってないのを、急に持ち出したりして……何考えてんだ、あの壺仮面ってヤツは……!?」
「何も考えてねぇんじゃねぇか? だって相手はずっとずっと格上なんだぞ。シャラールひとりだけでも相当な強さだってのに、相手はあの精鋭揃いの『リンドール学園』だろ?」
「それを壺仮面ひとりで相手にしようだなんて……どだい無理な話だよなぁ……」
「あっ、わかったぞ! それで今まさに同盟を組んで、人手を増やしてるんだろ!」
「増やす、ったって……いま組もうとしてるのは『イポモニ純真女学院』だろ? たった三人しかいないんだぞ……」
「それに底辺校どうし、組んだって何の意味もないだろうに……」
「もうあまりに勝てねぇからって、頭おかしくなっちまったんじゃねぇか?」
「いや、俺は違うと思うぜ。アイツらさっき、シャラールといっしょに『クリスタル・ガーディアン・クラブ』を倒しただろ? それで勘違いしちまったんだよ」
「あっ、それだぁ! ボスを倒したのはシャラールだってのに、一緒にいたから自分まで強いと思っちまったんだなぁ!」
「理由はそれで間違いなさそうだが……しっかし、余計なことをしてくれたもんだぜ……無能な働き者ほど厄介ってのは、マジだったんだな……」
「ああ、ヤバいぜ……! 『リンドール学園』の勝ちは確実だから……ただでさえトップのヤツらのポイントが、3倍になっちまう……! そうなったら、もう手がつけられねぇぞ……!」
「あ~あ、ちっくしょぉ……! 今年は『リンドール学園』にやられっぱなしで終わるのかよぉ……!」
俺はアライアンスカウンターの受付嬢から、未記入の同盟用紙の束を受け取った。
そして恨めしい視線を一身に浴びながら、クエストカウンターの前を通り過ぎる。
「ところで、これからわたくしたちはなにをすればいいんですの?」
後ろからぴょこぴょことクリエルがついてくる。
俺はしゃがみこんで、耳元にささやきかけた。
「よく聞け。これからお前はリリンドとレイアンを連れて、キャンプに戻るんだ。そして俺がこれから言うものを、手分けして作るんだ。金が足りなきゃ、コイツを使え」
俺は手首から自分の『タワーバンド』を外し、小さな手にしっかりと握らせる。
「……壺仮面さんは、これからどうなさいますの?」
「俺もお前らのキャンプに行くつもりなんだが……その前にちょっとヤボ用があるんだ。先に帰っててくれるか?」
「がってんですわ! じゃあ先に帰って、頼まれたモノをたっぷり作っておきますわ!」
クリエルは初めてのお使いを頼まれた子供のように、素直に頷いたあと……手を水平にして、ぱたぱたと駆けていった。
次回、タクミのヤボ用とは…!?
それと新作小説を掲載いたしました。
本作がお好きな方でしたら、同じく楽しんでいただけると思います。
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