17 横取り大作戦
「よぉし、じゃあそろそろ行くとするか!」
俺は忍者軍団を見送ったあと、デコボコプリーストたちに向かって言う。
しかし、砂かぶり席で繰り広げられた戦いが衝撃的だったのか、彼女らはしばらくポカンとしたままだった。
手を引いて立ち上がらせてやると、ようやく正気に戻る。
「行くって、どちらにですの?」
頭上に「?」マークを浮かべるくらいに不思議そうなクリエル会長。
まったく、コイツはニワトリかよ……記憶力なさすぎだろ……。
「ポイントを稼ぎに行くに決まってるだろ、俺たちゃ今『タワークエスト』をやってるんだぞ」
「そういえば、この塔にいる間はポイント稼ぎに専念するって、約束したばかりでしたね」
ぽん、と手を打つリリンド副会長。
三人の中では一番頭の良さそうなコイツでも、このレベルか……。
「でも、ポイントを稼ぐって、どうやればいいんですかぁ?」
祈るように組んだ腕を、大きな胸にめりこませているレイアン書記。
今日の晩御飯のメニューに悩んでいるかのように、実にノンキだ。
……うーん、コイツらときたら……。
優勝しなきゃ廃校になる瀬戸際にいるはずなのに、揃いも揃って緊張感ゼロだな……。
たぶん、生まれてこのかた争うことなどしたことがないんだろう。
みんなで手を取り合って、支え合って、仲良く生きていくことだけを教えられてきたような印象を受ける。
それも、悪いことじゃねぇが……いまのこの世界では食いモノにされるだけだ。
他のヤツを食いモノにできるようなれ、とまで言うつもりはねぇが……せめて食いモノにされないくらいにはなってほしい。
それに、冒険者ランクは俺より上のはずだから、戦闘能力もゼロじゃないはずなんだ。
これから一緒に行動する以上、自分の身は自分で守ることくらい、覚えてもらわねぇとなぁ……!
俺は熱血先生のように握りこぶしをかため、三人娘に説いた。
「いいか、よく聞け! 獲得できるポイントは上の階に行くほど高くなるから、まずはトップ集団のいる階まで移動するぞ! そこでヤツらが稼ぐはずのポイントを、横取りしてやるんだ!」
すると、三人娘は戦慄しながら顔を見合わせ合う。
「よ、横取り……!」
「ま、まさに悪い子のワードですぅ! 聞いているだけで、ドキドキしますぅ!」
「……具体的には、どういった行為をするのですか?」
「そうだな……まず各階のボスを、他の学校をさしおいて倒す。そして次の階への扉が開いたら、押しのけてでも一番乗りする。そうやってフロアボス撃破ボーナスと、フロアトップ到達ボーナスを狙うんだ」
三人娘は俺の説明を聞いているだけなのに、罪の意識にさいなまれているようだった。
「おい……言っとくがこれは、悪い子のする行為じゃないぞ? これは『タワークエスト』においてもオンルールなんだ。参加者なら、当たり前のようにやってる……だから、お前らもできるようになるんだ」
すると、晴天の霹靂のような表情になる三人娘。
「わ……わたくしたちは『横取り』というのは、『割り込み』以上に悪い行為だと、教わってきたのですわ……!」
「『割り込み』ですらしたことがないのに……それより悪い『横取り』なんて……できませぇん!」
「しかし……やるしかありません。我々は、壺仮面さんと約束したのですから。約束をやぶるのは、『横取り』以上に悪いことです……!」
「そうだ。リリンドは理解が早いな。お前らはもう、やるしかねぇんだ……わかったかっ!?」
「「「は……はいっ!」」」
喝を入れてやると、三人娘はシャキッと背筋を伸ばした。
その表情からは、もはや迷いは消えている。
よぉし、いいムードになってきた……!
「それじゃ、さっさといくぞ! この塔のパンフレットを出せ! まずは先頭集団に追いつくために、3階への最短距離を探すんだ!」
俺は勢いに乗って、横取り作戦の最初の指示を出す。
しかし、
「パンフレットはありませんわ」
まるで当然のように、即答されてしまった。
「なに? なんでないんだよ? 昨日まで持ってただろ?」
「タクミ様に授かったパンフレットでしたら、キャンプの祭壇に奉納いたしましたわ」
「タクミ様の文字が書かれているものは、神が憑依するもの……いわゆる依代ですからね。持ち歩くだなんて、恐れ多い」
「奉納のときも、あまりのありがたさに……学校のみんなも気絶しちゃって、大変だったんですぅ!」
俺は、忘れかけていた頭痛が蘇ってくるのを感じていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
俺たちは、4階のボスがいる部屋の前に来ていた。
塔の入口までパンフレットを取りに行っている間に3階は踏破され、まごまごしているうちに4階までもが踏破されようとしていたが、ギリギリで何とか追いついたんだ。
ボスの部屋は二手に分かれていて、片方はポータルがある部屋、片方は上階への階段がある部屋だった。
しかし……どちらも巨大な鉄格子が立ちふさがっていて、中に入れないようになっている。
バーゲンの日に、開店前のデパートに詰めかける主婦みたいに、鉄格子の前に張り付く参加者たち。
この忌々しい柵が開くのはいつなんだろうと、閉じ込められた猛獣のようにウーウー唸っている。
その参加者たちがヒマつぶしに話していたのを聞いて知ったんだが、ここのボスはかなり変則的らしい。
まず、階段があるほうの鉄格子は、ボスを倒さないと開かないのは他の階と同じ。
しかし、ボスがいるほうの鉄格子は、いつ開くのかわからない。
他の階であれば指定の鍵があれば開けられたり、スイッチを押せば開けられるらしい。
だがこの階の鉄格子だけは、まったくのランダムとのこと。
倒された雑魚モンスターが一定数になったら開くとか、開けられた宝箱が4の倍数になったら開くとか、いろいろ噂があるらしい。
しかも変わっているのは鉄格子だけじゃなく、ボスも他とは違う。
ここのボスは『ポータル』という、転送装置みたいなのが床にあるんだが、それに乗って別の場所に転送されて戦うことになる。
『ポータル』の性質として、同時に乗った人間だけが同じボス部屋に転送され、後から乗った人間は別のボス部屋に転送されるらしい。
これは、どういうことかというと……数の力にものをいわせて、ボスを袋叩きにすることができないということだ。
ポータルはタタミ一畳ぶんくらいの大きさしかないので、あまり大勢乗れない。
しかも同時に乗らなきゃいけないので、ひとつのボスの部屋に行けるのはせいぜい5~6人といったところだろう。
それで俺は、なぜ参加者どもが鉄格子に張り付いているのかを理解した。
普段のボス戦なら、トドメを刺したヤツにポイントが入るから、そこまで慌てる必要はない。
しかし、ここでは最初にポータルに乗れるかどうかが勝負の分かれ目となる。
ボスが限られた人間しか行けない別空間にいる以上、他の参加者と協力することも、邪魔しあうこともできない……いわば、純粋なるボス戦。
となると、あとは時間との戦いとなる。
いちはやくポータルに乗ってボスにたどり着ければ、他の学校をさしおいてボスを撃破できる可能性が、それだけ高くなるんだ。
聞き耳を立てていた俺は、他に目ぼしい情報もなくなったので三人娘を呼び集めた。
「よし、ここでの作戦を伝授する。俺たちも他の学校にならって、二手に別れるぞ。俺とクリエルがボスを倒しに行く。リリンドとレイアンは上階がある鉄格子のほうに向かうんだ」
クリエルをボス討伐のパートナーに選んだのは、三人の中ではいちばん軽いので、抱えて逃げるのが楽だと思ったからだ。
あと、コイツは大魔法も使える。
たしか『白鷺の嘴角』だったっけ……塔を破壊するほどの火力があったから、ボス部屋に入ったと同時にブッ放せば、あっという間に決着がつけられるはず。
まぁ、ボス戦には俺もいるので、おそらく大事にはならないだろう。
なにかあるとしたら……階段組のほうだ。
俺はふたりに念を押すことにした。
「リリンド、レイアン。ボスを倒したら、上の階への鉄格子が開くから……お前らはなんとしても5階に一番乗りするんだ。他の学校のヤツらを押しのけて、何だったら突き落としてもかまわん。何がなんでも一番乗りするんだ。いいな?」
副会長と書記は、真剣な表情で頷き返す。
「了解しました。ではレイアン書記、こうしましょう。レイアン書記が身体の大きさを利用して、他の学校の方々をブロックするのです。そのスキに、自分が5階へのゴールテープを切る……この作戦でどうですか?」
「ううっ……わ、わかりましたぁ。うまくできるかわかりませんが……いっしょうけんめいがんばりますぅ……!」
おおっ……!? 自分たちで作戦を立ててるぞ……!?
もしかしてコイツら、急成長してきてるんじゃねぇか……!?
俺の胸の内に、熱いものがこみあげてくる。
まるで弟子たちの成長を目の当たりにした、師匠のように……。
……ガッ……シャンッ……!
しかし、浸っている場合じゃなかった。
ボスの部屋を遮っていた鉄格子が、ついにその重い腰をあげたからだ……!
次回、一番乗りをかけたレース!
それと新作小説を掲載いたしました。
本作がお好きな方でしたら、同じく楽しんでいただけると思います。
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