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俺の指圧がチートすぎる  作者: 佐藤謙羊
第3章 クラスメイトをxxxします!
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16 誓いのクレープ

 俺はひとしきりズッコケたあと、リリンド副会長が差し出す紙袋の中のモノを、ひとつ取り出した。


 薄皮が巻かれ、小さな花束のような見た目のクレープ……これはたしか『タクミ焼き』だったよな。

 ひと口食ってみると、コクのあるチーズの風味が広がった。


 ……うまい。

 生地は薄いのに外側はパリッとしてて香ばしく、それが層になっているのでミルクレープみたいにふっくらしている。


 チーズに生クリームが混ぜてあるのか、ほどよい甘じょっぱさ。

 あと引く美味しさで、つい夢中になってかぶりついちまう。


 うーん、さすがだ……リンドール学園イチの料理人、調理術部のヤツらが作っただけはある。


 あっという間に平らげた俺を、三人娘はごくりっ、と喉を鳴らしながら見つめていた。



「お……おいしそうですわ……!」



「はい。行列ができていた露店を選択しましたから……! 教えに背く以上、いちばんおいしそうな店にしようと考えたのです……!」



「さ……さすがリリンド副会長さん! 教えに背くときでも秀才ですぅ!」



「さすがといえば、この壺仮面さんの動じなさも、堂に入っておりますわ……!」



「はい……! 買い食いをしているというのに、罪の意識というものが微塵も感じられません……!」



「今大会中いちばん悪い子なのは、間違いなさそうですぅ!」



 俺はふたつ目の『タクミ焼き』に手をつけながら、言ってやった。



「お前ら食わねぇのか? リリンドが教えを破ってまで買ってきたモノなんだろ? 食わねぇなら、俺が全部食っちまうぞ?」



 すると、三人娘はお互いを見合わせあう。

 真っ先に紙袋に手を伸ばしたのは、予想通り会長だった。



「わ……わたくしも、お呼ばれいたしますわ……! リリンド副会長の勇気……無駄にはいたしません……!」



 続いたのは、レイアン書記。

 震える手で、『タクミ焼き』を手にしていた。



「わたしも、いただきますぅ!」



 そして最後にリリンド副会長が、紙袋からそっとクレープを取り出した。



「……クリエル会長、レイアン書記……本当によろしいのですか? これを食してしまった以上、本当に買い食いが成立してしまう……もう、後には戻れなくなってしまうのですよ……?」



「かまいませんわ! わたくしは決めたのです! こちらの壺仮面さんのように、眉ひとつ動かさず買い食いができるほどの、悪い子になると……!」



 力強く即答するクリエル。

 俺はマスクを被ってるから、眉は見えねぇだろ。



「はいっ、わたしもなりますぅ! こちらの壺仮面さんみたいに、朝ごはんでも、昼ごはんでも、オヤツでも、晩ごはんでもないのに、間食をしちゃう……悪い子になりますぅ!」



 舌足らずな声で続くレイアン。

 コイツらはもしかして、間食も禁じられてるのか……?


 三人娘は誓いの盃を交わすように、『タクミ焼き』を打ち合わせたあと……「せぇーの」と息をあわせ、がぶりとひと噛みした。



「……どうだ? 生まれて初めての買い食いの味は……?」



 尋ねると、三人は瞳孔の開ききった目で俺を見据える。



「「「……緊張で、味がわかりません……」」」



 純真の名に違わぬ、澄みきった湖面のような瞳。

 その端っこには、真珠のような涙の粒が浮かんでいた。



  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 俺は、極限状態にいるかのように興奮しきっていた三人娘が落ち着くまで待ったあと、改めて話をする。



「よし。俺がお前ら三人を、もっと悪い子にしてやる。ただしその前に、ひとつ条件がある」



 三人娘は俺の言葉に小首をかしげていたが、代表して会長が聞きかえしてきた。


「条件? それはなんですの?」



「まず、この塔の中では俺の言うことに従え」



「それはわたくしたちに、タクミ様を信仰するのを止めろとおっしゃっていますの?」



 面と向かって名前を出されたので、俺はなんだか頭がこんがらがりそうになった。



「……ああ。お前らが信じている『タクミ様』とやらも忘れろ、この塔にいる間はな。それと奉仕活動も一切禁止だ。この塔にいる間は、『タワークエスト』のポイントを稼ぐことだけを考えろ」



 俺は、人の信仰を踏みにじるヤツが大っ嫌いだ。

 だが今回ばかりはちょっとばかし例外だ。


 そうでもしないと、この『タワークエスト』での優勝は難しい。


 他の強豪校は、今も脇目もふらずにポイント稼ぎに奔走している。

 そんなヤツらを追い抜くためには、チンタラ奉仕活動なんてやってるヒマはねぇんだ。


 それに……信仰対象である俺自身が許可してんだから、教えに反することにはならねぇよな。


 三人娘は顔を寄せ合ってヒソヒソ話をしていたが、しばらくして向き直った。



「承知いたしましたわ。この塔にいる間だけは、壺仮面さんの教えに従いますわ。ただし、こちらからもお願いがありますの」



「……なんだ? 言ってみろ」



「壺仮面さんに従うのは、信仰からではない……わたしたちが身も心も捧げているのは、タクミ様だけであるということを忘れないでいただけませんこと?」



 真剣な表情で申し立てる会長。

 副会長と書記も目で訴えかけてきている。


 俺は、めんどくせぇなぁ……なんて思ってしまった。


 彼女らのクソ真面目っぷりに呆れたわけじゃない。

 俺がこのマスクを取って正体を明かしてやれば、こんな茶番じみたやりとりも必要なくなる。


 でも、そうはいかねぇんだよなぁ……。

 俺はヤケになりそうな気持ちをグッとこらえ、頷いた。



「わかった。お前らの唯一神は、タクミ様とやらだけってのは、肝に銘じておくよ」



 すると、三人娘は後光が差している人を見ているかのような、尊敬の眼差しを向けてくる。



「……決まりですわね! これでわたくしたちも、晴れて悪い子の仲間入りですわ!」



「気をつけよう、甘い言葉と暗い道……とは言いますが……。なぜでしょう、いまの私には、明るい道に見えてしょうがありません……!」



「はいっ! なんだかドキドキしますぅ!」



 手をとりあい、遠足の幼稚園児みたいにキャッキャとはしゃぎだす三人娘。


 ……まったく、単純なヤツらだなぁ……。

 まぁ、なんにしても、これでようやく一歩前進か……ずっと足踏みしっぱなしだったが、これでようやく前に進める……。


 俺は、他人事だっていうのに……なぜか安堵のようなものを感じていた。


 しかし、それも束の間……ふと身体が逆バンジーしているみたいに浮き上がっていることに気づいた。


 身体が何者かに持ち上げられ、空高く浮いていたんだ。

 床にあぐらをかいていたはずなのに、今や天井近く……梁を見下ろすほどの高さにいる。


 梁の鉄骨の上には、黒装束のヤツらがコウモリみたいに並び、俺を見上げていた。



「……出たあっ! ウィーゼル先輩の『イヅナ落とし』……!」



「獲物を羽交い締めにして、高く持ち上げ……頭から叩き落とす、人を人とも思わない残虐技……!」



「かけられたヤツは、頭蓋骨が砕け、首の骨も折れて、即死……! 良くて廃人になっちまうんだ……!」



「これで、あの壺仮面もオシマイだっ……!」



「『皆殺しのジョニー』を倒した壺仮面を、ウィーゼル先輩が亡き者にした……!」



「これで我ら『ブラッククロウ忍者高校』の名は、ワルの世界に轟くことになる……!」



「ついに我ら、忍者の時代がやってくるんだ……!」



 黒装束のヤツらは、口々に囃し立てる。

 そのおかげでどういう技なのか、だいたい理解できた。


 鉄骨のさらに下にいる三人娘は、いきなり俺が消えたのであたりをキョロキョロ見回している。


 背後から、鋭い囁き声がした。



「……壺仮面よ、そなたに恨みはない……! だが、我らが裏社会で名を馳せるためには、そなたの命が必要なのだ……! 悪いが、死んでもらおう……!」



 直後、天地が逆転する。

 スカイダイビングのような風鳴りとともに、俺とウィーゼル先輩は、固い石の床に叩きつけられた。


 ……グワッシャァァァァァァァァァッ……!!



「「ひぃやゃあぁあぁーーーーーーーーーーっ!?!?」」



 突如消えた俺が、逆さまになって降ってきたので心臓が止まりそうなくらいに仰天する会長と書記。


 副会長はいつもより目を見開いていたが、相変わらずのポーカーフェイスを貫いている。

 いつもは率先してしゃべっている会長と書記がアワアワしていたので、しょうがないといった様子で尋ねてきた。



「……壺仮面さん。いったいどちらに行っていたのですか?」



 俺は、むっくり起き上がりながら答える。



「ああ、ちょっと遊びに誘われてね。強引なヤツだったから、ちょっとだけ付き合ってやってたんだ」



 何事もなかったように首をコキコキしていると、「げええええええーーーーーっ!?!?」と驚きの声が降ってきた。



「お、おい……。ウィーゼル先輩の『イヅナ落とし』……間違いなくキマってたよな?」



「あ、ああ……! これ以上ないくらい、完全にキマってた……!」



「な、なのになんで、壺仮面の野郎、ピンピンしてるんだ……!?」



「そ、それどころじゃねぇ! ウィーゼル先輩がブッ倒れたまま、動いてねぇぞ……!?」



「な、なんだよそれっ!? それじゃまるで、ウィーゼル先輩のほうが技にかけられたみたいじゃねぇか……!」



 ヤジの声に、俺はウィーゼル先輩とやらの存在を思い出す。

 背後を見やると、あおむけの大の字になって、死にかけの虫みたいに震えている黒装束の男がいた。



「……ちょっと先に落ちてもらったんだが……ダメージが大きかったみたいだな」



 俺はしゃがみこんで、ウィーゼル先輩を起こす。

 頭部を首の皮一枚で繋いでいるかのように、先輩はうなだれている。


 その首筋を揉んでやった。



「そうだ、いいことを教えてやる。俺をやりたかったら、身体に触らないやり方にするんだな」



 ズレていた箇所を戻してやると、……グキッ! と鈍い音がした。

 先輩は飛び起きるように、三途の川から現世に戻ってくる。


 その背後にいる俺は、さっきとは逆の立場で囁きかけてやった。



「俺に触られたヤツは、たとえ神でもあの世いきだ。天国か地獄かすらも、俺が決める……! むさい閻魔のオッサンに会いたくなけりゃ、不用意に触らねぇこったな……!」



「ひっ……!? ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」



 イヅナというよりも、虎の咆哮を聞いたウサギのように逃げ出す先輩。

 慌てて後を追う後輩たち。


 その背中を見送りながら、俺は思い出していた。


 そういえば……俺がこの世界に転生したときに、最初に天国に送ってやった女神……。

 たしかイラーハって言ったっけか、元気にやってるかなぁ……。

次回、追い上げ開始!


それと新作小説を掲載いたしました。

本作がお好きな方でしたら、同じく楽しんでいただけると思います。

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★新作小説
ゲーマーおっさん、ゴーレムに引きこもる…でもソレ、実はスーパーロボットですよ!?
本作が好きな方でしたら楽しんでいただけると思いますので、是非読んでみてください!


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