15 悪への道
同じ生徒会の少女から、助けを求められた生徒会長。
もはや逡巡は感じられなかった。子供を守る親のように、一も二もなく手をかざしている。
「……リーク・アイ・ラル! リーク・セイ・ラル……! 魔を打ち破るための聖なる光……我が右手に与えたまえ……!」
俺は彼女を肩車したまま、黙ってその声を聞いていた。
「魔殲滅法っ……! 白鷺の……嘴角ぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーっ……!!」
頭上に太陽が出現したかのような、目もくらむような光の洪水があたりを満たす。
……キィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ……!!
甲高い金属音とともに、空を裂くような青白い光線が放たれた。
ドラゴンブレスのような太さのレーザーは、軌道上にある鉄骨を豆腐のように切り裂いていく。
勢い衰えぬまま、レイアンのいる部屋に着弾した。
……ジュワアアアアアアッ……!!
鉄板の上のバターのように、床が溶けて大穴が空いていく。
すぐ隣にいたレイアンをいたぶっていた男どもは、殺虫剤をかけられたゴキブリのように這い逃げている。
「ひいいいいいいっ!?」
「うわああああっ!? なっ、なんだなんだなんだぁっ!?」
「ま……魔法だっ! それも、極大の……!」
「や……やべえっ!? ちょ、ちょっとでも触れたら溶けちまうぞっ……!」
「に……逃げろっ! 逃げろっ! 逃げろぉぉぉぉぉーーーっ!」
あぶり出されるように、部屋から逃げていくゴキブリども。
レイアンは太陽を直視するかのように目を細めながら、俺たちを見上げていた。
床を穿っていた光線は突如、暴走するかのようにぶれて、天井に向けられる。
薙ぎ払うような一閃が、塔の中を駆け抜けた。
熱線はあたりかまわず飛び交い、鉄骨を切り落とし、壁に大穴を開けていた。
その側にいたヤツらはたまったもんじゃない、街に怪獣が現れたかのように、悲鳴とともに逃げ惑いはじめる。
クリエルは大魔法の反動にこらえきれなくなって、俺の肩車から落ちそうになっていた。
バランスを取るためにワタワタと手を振り回すものだから、気がふれたヤツに刃物を渡したみたいになっている。
「ひゃあああああっ!?」
「おっ……!? おい、しっかりしろ、クリエルっ!」
俺は転落する寸前、クリエルを抱きとめた。
手のひらが俺の顔面に向けられていて、フラッシュライトを浴びたように目がくらんだ。
危うく頭がもってかれそうになったが、寸前でかわし、手首を取り上げる。
「……うおっ!? あ、危ねぇっ!? も、もういい! もういい、クリエル! もういいからコイツを止めろっ!」
「と……止まりませんの!? 止まりませんのぉぉぉぉぉっ!?!?」
クリエルは放出中の光線に負けないくらいの青白い顔で、アワアワと震えていた。
完全に、パニックになってやがる……!
俺は手首を掴んでいるとは逆のほうの手で、クリエルのみぞおちのあたりをトンと突いた。
膻中にあるツボ、『チル・アウト』……。
押してやると、心を落ち着かせることができるんだ。
このちびっ子は胸が平らなので、ツボの位置もわかりやすい。
ほじくるようにグリグリと刺激してやると……顔に血色が戻っていき、それにあわせて手のレーザーもおさまっていく。
「ふ……ふはぁ……な、なんだか、心地よいですわ……」
そのままぐったりしてしまうクリエル。
どうやら大魔法で魔力を放出してしまったせいで、疲れちまったらしい。
泣き疲れた赤ちゃんみたいになっているのを、再びお姫様抱っこで抱えなおしてやる。
目の前に広がっていたのは、大魔神が来て大暴れした後のような塔の惨状だった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それから俺たちはレイアン書記を助けた。
スペアに持っていたローブに着替えさせているうちに、騒ぎをききつけたリリンド副会長とも合流する。
ようやく揃った『イポモニ純真女学院』の生徒会メンバー。
そのデコボコ三人組と、俺は話をした。
「……俺に、悪い子になる方法を教えてほしいって?」
「そうなのですわ! でもわたくしはすでに、壺仮面さんの手によって、悪の道に引きずり込まれてしまったのですわ!」
憧れの野球選手に会った子供みたいに、キラキラと目を輝かせながら……俺を見上げるクリエル会長。
「モンスターではなく、人間相手に『白鷺の嘴角』を使ってしまいましたわ……! わたくしはもう手のつけられないほどの悪い子になってしまったのですわ……!」
「……ああ、さっきの光は、会長の『白鷺の嘴角』だったのですね」
やはりといったように頷くリリンド副会長。
「でも、おかげで助かりましたぁ! 本当にありがとうございます! クリエル会長!」
クリエルをギュッと抱き寄せ、感謝の頬ずりをはじめるレイアン書記。
「にゅにゅにゅ、にょぼにゃめんにゃんがおひえてくらひゃったのへす。あひするもにょをはにょるはめにゃら、へいほうをひろと……」
熱烈な頬ずりを受けているクリエルの言葉は、全体的にムニャムニャしていた。
俺は何を言っているのか全然聞き取れなかったが、リリンドが通訳してくれた。
「……『壺仮面さんが教えてくださったのです、愛する者を守るためなら、抵抗をしろと』……ですね」
どうやらこうやって頬ずりされながら話すのは、日常茶飯事のことらしい。
「うううっ……! わたしも愛してますぅ……! クリエル会長ぉ……!」
さらに激しさを増す頬ずり。
ふたりの少女の頬は、乾布摩擦のように真っ赤っ赤になっている。
それすらも日常の光景なのか、リリンドは気にする様子もなく前髪をかきあげていた。
「人間に対して、法力で攻撃をしてしまった……これはイポモニ純真女学院の『純真の教え』、第1922条に反することになります。当たらなかったとはいえ、これが明るみに出てしまったら……クリエル会長は進退を迫られることになります」
その一言に、時が止まったようにピタリと静止する……クリエル会長とレイアン書記。
いきなり何を言い出すんだ、コイツは……? 脅迫でもするつもりなのか……?
と思っていたら、リリンドは背負っていたリュックから何かを取り出していた。
「あの光を見た時、自分は……きっと会長が決断し、悪鬼羅刹への道を踏み出したのだと判断しました。でも、未遂だった……。しかし時、すでに遅く……自分は勇み足をしてしまったのです……。冥府魔道への道を、ひと足早く……!」
懺悔するように述べる、リリンドの手には……大きな紙袋があった。
中からは、ほこほことした白い湯気があがっている。
「あああーーーっ!?!?」と揃って絶叫する、クリエルとレイアン。
「り……リリンド副会長……!? ま、まさかまさかまさか……! まさかあなた……!?」
「リリンド副会長さんが、そんな、そんなことをするだなんて……!」
この世の終わりみたいな表情をするふたりに、俺はただならぬものを感じて口を挟んだ。
「お、おい……一体なにがどうしたってんだよ!? リリンドは何をやったんだ!? 俺にもわかるように説明しろ……!」
口にするのもはばかられるように、震え上がるレイアン。
場に走る戦慄にも、表情ひとつ変えないリリンド。
鬼気迫る表情で、キッ! と俺を見たのは……三人娘のリーダー、クリエルだった。
その子供じみた唇が動き、大人びた言葉が紡ぎ出される。
「……リリンド副会長は……『純真の教え』、第658条に背いてしまったのですわ……!」
その口調があまりにもシリアスだったので、俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。
「その、第658条ってのは、何なんだよ……!?」
クリエルは射抜くような、まっすぐな瞳を向けたまま……ついに俺に告白したんだ。
「それは……『買い食いをしてはならぬ』ですわ……!」
次回、少女たちの師となるタクミ…!
それと新作小説を掲載いたしました。
本作がお好きな方でしたら、同じく楽しんでいただけると思います。
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