14 会長の選択
鉄骨をカンカンと踏み鳴らしながら、梁の上を走る俺。
その腕には、生まれて間もない赤ちゃんみたいに澄んだ瞳で俺を見つめる、ちびっこ生徒会長がいた。
「壺仮面さん、わたくしを悪の道へとエスコートしていただけませんこと?」
「悪の道……だとぉ!?」
俺は鉄骨の下にひきしめきあっている、血気盛んな若者たちの様子を確認しながら答える。
地上ではガラの悪そうな野郎どもが、通勤ラッシュのように押し合いへし合いしながら、遅刻しそうな社畜のように俺たちを追いかけてきていた。
最初、俺たちを追っていたのは『ダリス・バンディ鉄鋼高校』のヤツら……図体がデカイ高原族どもだけだったのだが、騒ぎをききつけたのか他の学校のワルどももどんどん集まってきている。
しかも軍隊アリのように梁の上に登ってきて、先回りを始める始末だった。
俺はお姫様抱っこをしていた生徒会長を、おんぶするように背中に背負いなおす。
「この壺野郎っ……死ねやぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」
蛮刀を振りかざしてくるモヒカン野郎の一撃をかわしながら、腰の骨の出っ張りのあたりを軽く押す。
「あっ……えっ……あらら……?」
モヒカン野郎は腰を突き出しながら、フラダンスように真横に移動する。
そのまま足を踏み外し、鉄骨から脱落していった。
荒波のようにむさ苦しい人混みに、ざばんと着地。
「もらったぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」
モヒカン野郎の行く末を確認するヒマもなく、ドレッドヘアー野郎がハンマーを振りかざしてきた。
それが振り下ろされるより早く、先人と同じように鉄骨から落としてやる。
「んまぁ!? 人を高いところから落とすなんて……ケガをしてしまいますわ! それは、すっごく悪い子のすることですわ!」
背中から上品に咎められた。
小さなお手々で、俺を止めるみたいにギュッとしてくる生徒会長。
しかし、俺にとっては何の制止の効果もない。
「……なぁ、会長! 目の前にいるコイツらは、良い子か悪い子か!?」
3人目は敢えてすぐには落とさず、攻撃をかわしながら尋ねた。
「んーと、壺仮面さんに暴力を振るっておりますから、すっごく悪い子ですわ!」
「そうだ! だからこうしてやってもいいんだっ!」
俺は3人目の腰骨を突く。今度は軽くじゃなく、強く。
「ひいっ!? ぎゃあああーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
腰だけが別の意志を持っているかのように、身体をくの字に曲げながら場外にすっ飛んでいく3人目。
「いいか、よく覚えておけ! 良い子や悪い子に暴力を振るうのは悪いことだが……すっごく悪い子に暴力を振るうのは、時には良いことなんだよっ! 特にこうやって、自分の身が危険に晒されているときはなっ!」
「で、でも、すっごく悪い子とはいえ、暴力を振るうのは良くないことだと……根気良くお話をすれば、わかってもらえると……! わたくしたちは教えられてきたのですわ!」
俺は反論しようとしたが、それよりも早く4人目……褐色の高原族が立ちふさがって、チェーンのついた鉄球を振り下ろしてきたんだ。
……ゴォォォンッ!!
ボーリング球みたいな鉄のカタマリが、鉄骨に着弾した瞬間、鐘の音のような音があたりに鳴り響く。
人が話してるのに、うるせえったらありゃしねぇ。
「でも……ちょうどいい……ちょっとばかし、時間稼ぎを頼むぜっ!」
俺は褐色デカ男の背後に召喚したエレメンタルハンドで、すかさず首筋と、臀部のツボを突いた。
首の頚椎にあり、上半身の動きを操る『マリオネット』。
そして腰の腰椎にある、下半身の動きを操る『ダンシング』。
このふたつを同時に刺激してやれば、『マリオネット・ダンシング』……!
そいつは完全なる操り人形と化す……!
「あっ……えっ? か、身体が勝手に……!?」
図体に似合わない戸惑いの声とともに、俺たちに背を向ける褐色デカ男。
そのまま鉄球を振り回しながら、逆方向へと激走をはじめる。
「うわああっ!? な、なんでこっちに向かってくるんだよっ!?」
「お、落ちるっ!? 落ちるううぅぅぅーーーっ!?」
「テメェっ! 裏切りやがったなぁっ!」
「うわあああっ!? 身体が勝手に!? 身体が勝手に動くんだよぉぉぉーーーっ!?!?」
声は嫌がっていても、身体はノリノリ。
猛牛のように後続を蹴散らしながら、褐色デカ男は鉄骨の上をキレイにしてくれた。
これで、ようやく話をするだけの余裕ができた。
「……お前はアレを見ても、話し合いが通じると思ってんのか?」
俺は少し離れたところにある、部屋の片隅を指さす。
薄暗い部屋では、高原族の少女が男たちの手によって……よってたかって裸に剥かれているところだった。
「あっ……!? あれは、レイアン書記……!」
俺の背中から乗り出す生徒会長。
俺はよく見えるようにと、そのまま肩車をしてやった。
「こっ……こんなこと、いけませぇん! 悪い子のすることですぅ! やめて……やめてくださぁい!」
男たちの輪の中で、泣き叫ぶレイアン書記。
清らかの象徴であるクリーム色のローブは見るも無残に破かれ、ボロ布同然になっている。
取り囲んだ男たちは平地族か海棲族なのか、レイアン書記より背がずっと低い。
だが、レイアンは一切の抵抗をせず逃げ惑うばかりなので、男たちは調子に乗っていた。
逃げてきた少女のローブを掴んで、少しだけ引きちぎる。
悲鳴とともに反対側に逃げる少女、その先にも男が待ち構えていて、また引きちぎられる……。
男たちは少女をボールに見立て、パス回しをするようにして遊んでいた。
レイアンはさんざん走り回され、とうとう動けなくなる。
ペタンとへたり込み、顔を抑えて号泣をはじめた。
「うわああっ、うわあああああああんっ! やめて……もうやめてくださぁぁいっ! ひっく……ぐすっ! もういや……もういやですぅ!!」
俺は今すぐにでも助けに行きたい衝動にかられたが、ここは拳を握ってこらえた。
俺の頭上で、ワナワナと震えている会長に声をかける。
「どうだ……レイアンは声を枯らし、涙も枯らすほどに訴えているのに……まわりの男は 思い直しているように見えるか?」
「う……ううっ!」
「このままでは、レイアンはきっと奴らにズタボロにされる……。持ち物を奪われるだけならまだいい。裸に剥かれ、嬲られ続け……一生残る心の傷を負わされるんだ。だが、それをした男たちは、何の呵責もない……新しい女を見つけて、同じようにするだけだ。そしてそれを、一生続ける……!」
「で……では、いったい、どうすればいんですの!?」
「……抵抗するんだ! 黙ってやられるばっかりじゃないと、思い知らせてやるんだ! 女は無抵抗じゃない……自分を、そして愛するものを守るためなら、どんなことでもするんだと、わからせてやるんだ……!」
「あ、愛するものを、守るため……!?」
レイアンを取り囲む男たちは、いよいよメインディッシュだといわばんばかりに、ヨダレを垂らしながら包囲を狭くしていた。
あとわずかな時間で、レイアンの身体に魔の手が及ぶ。
そうなれば、あとは一瞬……ネズミに食い荒らされるように、レイアンは穢され尽くしてしまう……!
最後の時を前に、駄々っ子のようにイヤイヤをし、泣きじゃくる少女。
彼女が最後の最後にすがるものは、神か、それとも悪魔か……!?
「うわああああああーーーーんっ! いやっ! いやっ! いやあっ! 助けて! 助けてくださぁいっ!! 会長っ……!! クリエルかいちょぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!!」
真珠のような涙を振り乱し、声をかぎりに少女が求めたのは……姉のような、妹のような……同じ境遇を生きる、もうひとりの少女だった……!
次回、会長の決断は…!?
それと新作小説を掲載いたしました。
本作がお好きな方でしたら、同じく楽しんでいただけると思います。
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