01 相棒のパワーアップ
新連載、はじめました!
『チートゴーレムに引きこもった俺は、急に美少女たちから懐かれはじめました。キスしながら一緒に風呂やベッドに入るって聞かないんです!』
https://ncode.syosetu.com/n0930eq/
※本作のあとがきの下に、小説へのリンクがあります。
俺は、火串匠。落ちこぼれの学生だ。
今は修学旅行という名のひとり旅で、『天空族の塔』に来ている。
『天空族の塔』。
大空に住む、背中に翼が生えた種族である天空族に憧れ、とある王様が作らせたという巨大な塔だ。
何千年も前の塔だから、関わったやつらはもう誰も生きていないうえに、飼っていたモンスターが抜け出して徘徊しているせいで、長いこと頂上を見たヤツはいないらしい。
このあたりの領地を治める王様は、塔から這い出てくるモンスターに頭を悩ませ、一計を案じた。
塔の中にはすごいお宝があると喧伝して、腕に覚えのあるヤツを呼び集めたんだ。
そのおかげで世界中から冒険者が集まるようになり……塔はハタ迷惑な存在から、一攫千金を夢見るヤツらのメッカとなった。
今ではさらに人が人を呼んで、国いちばんの観光名所となっている。
学校の修学旅行の行き先としても、定番スポットになりつつあるんだ。
俺が通っている剣と魔法の学校、『リンドール学園』の修学旅行においてもメインイベントの場所となっている。
生徒たちはここで塔探索の実践を行い、より良い成績を残すために頑張るんだ。
もちろん俺も、全力で塔に臨むつもりでいたんだが……俺は学園では『Fランク』という最低の成績区分だったので、正規の修学旅行には連れて行ってもらえなかった。
しょうがないので自分でオリジナルの修学旅行を計画し、ひとり旅を決行。
いろいろあって三つの国の国王になっちまうというハプニングはあったものの……こうして最後の目的地にしていた、『天空族の塔』に無事到着した。
でも……塔にいるところを学園の先生方に見つかるとヤバかったりする。
旅行に出発する前、俺は正規の修学旅行のルートには近づかないよう、先生方から釘を刺されちまったんだ。
捕まると学園に強制送還されちまうので、俺は変装をすることにした。
えびす顔で笑う人面壺のアップリケがついた、フルフェイスのマスクを市場で買って、いまはそれを被っている。
これで誰にもバレることなく……『天空族の塔』を楽しむことができるだろう。
普段からマスクを被ってるだなんて、逆に目立つんじゃないかと思われそうだが、ここは剣と魔法が支配する世界。
ファンタジーRPGから出てきたような格好が当たり前なので、マスクくらいじゃ怪しまれることもないんだ。
ちなみに今の俺の格好は、笑う壺のマスク、長袖のワイシャツ、指切りグローブ、学生ズボン、スニーカー。あとはリュックサック。
目の前を行き交っている物々しい鎧の戦士や、金銀の刺繍がほどこされたローブの魔法使いに比べたら……だいぶ地味で、まさしく修学旅行で来た学生といった感じだ。
そんなおのぼりさんみたいな格好で、塔の前にある大通りを歩いていると……軒を連ねる武器や鎧の露天から、メチャクチャ声をかけられた。
「おい兄ちゃん、そんな軽装で塔に行く気かい!? それじゃ、死ににいくようなもんだ! ウチで装備を整えていきな!」
「修学旅行の生徒さんかい!? 塔の攻略は成績に影響するんだろ!? ウチの最強の武器がありゃ、ナンバーワン間違いなしだよ!」
「お兄さん、カッコいいね! その顔を台無しにしたくなけりゃ、ウチで兜を買っていったらどぉ!?」
呼び込みたちはひっきりなしにセールストークを展開してくるが、俺はそんなモノには興味はない。
俺の武器はこの指一本。
コイツさえあれば、どんな強敵が出てきたって負けやしねぇ……と思う。
呼び込みの声をひたすら無視しながら、塔に向かってずんずん歩いていると、
「おや、その手袋……ウチのヤツじゃないか。ちょっとこっちへおいでよ」
しわがれた声で呼びかけられる。
見ると……床の上に敷物を広げて革製品を売っている婆さんが、こいこいと手招きしていた。
「あっ……!? もしかして婆さんは、うちの学校……『リンドール学園』に行商に来てた婆さんか!?」
俺がマスクをめくって顔を見せると、婆さんは俺のことを完全に思い出したようだ。
「ああ……! アンタはあの時買ってくれた、落ちこぼれの生徒さんじゃないか!」
この婆さんは俺が『リンドール学園』に入学したばかりの頃、行商としてやって来たんだ。
今と同じように校庭のすみっこで敷物を広げて、革製品を売ってたんだが……ブランドモノしか興味のねぇ学校のヤツらは、誰も買おうとはしなかった。
でも俺は、ちょうどグローブが欲しいと思っていたのでひとつ買ったんだ。
そしてソイツは今でも、俺の相棒として共に戦っている。
左手のグローブには物理攻撃を吸収する赤い鳥『アブソーバード』の羽根が編み込であり、右手のグローブには魔法攻撃を跳ね返す青い猫『ディスペルシャ』のヒゲが編み込んであるんだ。
婆さんは自分が売りつけたグローブを、俺がまだしてることに驚きの声をあげた。
「おやまあ……アンタまだそいつをしてるのかい? それは入門用の手袋だって言ったじゃないか。その手袋で止められる攻撃なんて、ゴブリンの錆びたナイフくらいだろうに」
「いや、そうでもないぜ。俺にとっちゃなんでも受け止めてくれる最強のグローブだ」
「まったく……そんなこと言ってるから、アンタはまだFランクなんだよ。もっといいのがあるから、新しいのを買っていきなって」
「たくましいな、婆さんは……でもこれよりいいやつになると、革が厚くなるだろ?」
「それの何が問題なんだい? より防御力があがるじゃないか」
「いや……革が厚くなるのは、マッサージの感覚が鈍るから嫌なんだよ」
「まっさあじ? なんだいそりゃ?」
「まあ、俺はこの極薄のグローブが気に入ってるんだ。買い換える気はねぇよ」
「なんだいなんだい……あ! だったらいいモノがあるよ! 『ストリングスパイダー』の糸が手に入ったから、安く縫い込んであげるよ。それに革も若返らせてあげるから、ちょっとお貸しよ」
「……そこまで言われちゃ、しょうがねぇな……ほらよ」
俺はグローブを外して、婆さんに渡してやる。
婆さんはグローブの糸をほどいて一枚の革に戻し、油みたいなのを塗りだした。
「そいつは何なんだ?」
「この革は生きてるから、こうやってキングフロッグの油を塗ってやると、栄養が行きわたって元気になるんだよ」
「おお、ホントだ、傷が消えていく……なんだか買ったときみたいにキレイになってくな」
「だろう? ウチが扱う革は、そんじょそこらの店で売ってる死んだ安革とは違うからね」
「なるほど、だからバカ高かったのか……買ったときはこの世界に来たばっかりだったから、世間知らずで……あとでボッたくられたと思っちまったぜ」
「なに言ってんだい。……でも、まぁ……この入門用の手袋を、ここまで使い倒したのはアンタが初めてだよ」
「そうなのか、でもまだまだ使うつもりだ。買い換えるつもりはねーよ」
「まったく……変わってるねぇ……」
婆さんは再びグローブの形に縫いなおし、手首のあたりに刺繍を入れはじめた。
鮮やかな手際だ。グローブの手首に、あっという間にイキイキした蜘蛛が描かれていく。
「はい、できたよ。はめてみな」
返されたグローブを、再び両手に装着する。
肌に吸い付くような感触で、ぴったりとフィットするグローブ。
まるで薄皮みたいに違和感がないので、マッサージでの触感も素手と変わらないんだ。
「で、この蜘蛛の刺繍はどんな意味があるんだ?」
「手を空にかざして、手首を曲げてみな」
言われたとおりに腕を掲げ、手を丸めるように内側に曲げてみると、
……バシュッ……!
手首の付け根のあたりから、蜘蛛の糸のような極細のワイヤーが飛び出す。
ワイヤーは上空にある木の枝に、クルクルと巻きついた。
「その状態で、手首を右に回すと糸を巻き取り、左に回すと糸が緩むよ。糸は頑丈だから、何十人ぶら下がっても切れやしないんだ」
「へぇ……! それがマジならすげぇな……!」
俺はためしに手首を右に回転させてみた。
すると……リールのようにワイヤーが巻き取られる。
枝がしなり、それでも外れないので俺の身体が浮きあがった。
このまま巻き取ったら、枝のそばまで身体が引っ張られちまいそうだが……。
「なあ婆さん、これはどうやったら外せるんだ?」
「親指を握り込んだまま、手首を回してみな」
言われたとおりにすると、ブツンとちぎれるような音とともにワイヤーは枝から外れた。
ワイヤーにぶら下がっていた俺は、再び地面に着地する。
「いいな、コレ……! これから行く塔で、役に立ちそうだ……!」
「気に入ってくれたかい? なら良かった、安くしとくよ。あと……グローブを使い続けるんだったら、キングフロッグの油も一緒にどうだい?」
「やれやれ……いろんなヤツとやりあってきて、俺も少しはマシになったと思ったんだが……婆さんにはかなわねぇなぁ」
商売上手の婆さんに、すっかりやられちまったようだ。
グローブの修理費と、改造費、そしてキングフロッグの油をあわせると……俺の小遣いはあっさり全部すっ飛んじまった。
次回、ステータスオープン!
それと新作小説を掲載いたしました。
本作がお好きな方でしたら、同じく楽しんでいただけると思います。
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