28 結闘の儀、決勝戦…vs王子ゴルヌイ
四角く切り取られた天井からは、オレンジ色の空が覗いていた。
『さあっ、夕暮れ時を迎え、結闘の儀もついに決勝戦! 優勝予想で第一位だった、ダリス・バンディの王子……ゴルヌイ様がここまで勝ち上がってきました! その対戦相手は……優勝予想では再下位だった、タクミクン選手ですっ!』
天から降ってくるような実況。
『タクミクン選手は、今大会のダークホース! ゴルヌイ王子がサラブレットならば、まさに狂犬病にかかった暴れ馬です! 平地族で、犯罪者で、しかも両手が縛らているという……何もかもが今大会初めての存在! しかも見たこともない怪しげな技で、我々を驚かせてくれましたっ!』
天井の四角が近づいてくるにつれ、歓声のボリュームもあがっていく。
決勝のせいか、空気も今までにないほどに熱を帯びている。
『しかも休憩中のインタビューで、ダリスきっての人気リポーター、リンディのあられもない姿を全国中継してしまったのです! すでに闘技場のまわりには、中継を観たリンディのファンたちが詰めかけ、タクミクンを殺せコールをあげています!』
いや……マッサージしてやっただけなんだがな……。
『ああっ、いま両選手が、特設ステージに乗って姿を現しましたっ! いまや全国民の敵となってしまった、タクミクン選手! そして全国民の期待を一身に背負う、ゴルヌイ王子……! ふたりの闘士はまさに対称的……! 勝利を手にし、クーレ王女のハートを射止めるのは、いったいどちらなのかっ!?』
ガコン……と足元が揺れ、せり上がりが止まった。
ずっと顔をあげていた俺は、自然とVIP席が目に入る。
ウエディングドレスに身を包んだクーレ先生が、泣きはらした瞳で俺をじっと見下ろしていた。
さすがに花嫁を縛り上げるわけにはいかないのか、もう縄を解かれている。
クーレ先生は元々清らかなカンジの人だが、純白のドレスに包まれている姿は神々しくもある。
でも、そんな顔してちゃ……台無しだぜ、先生。
ちょうどバックスクリーンのほうも、クーレ先生の姿を映し出していた。
『クーレ王女はすでに、花嫁衣装に着替えております! 彼女をモノにし、今夜、あの純白の包装紙を解くのは……いったいどちらの新郎なのかっ!? ふたりとも、クーレ王女に負けない正装……タキシードに身を包んでおります!』
バックスクリーンが切り替わり、俺たちの姿を映し出す。
そこで俺は気づいた。
「なんだ、ありゃ……?」
俺はスクリーンから視線を移し、真正面を見る。
目の前には……冷蔵庫みたいな全身鎧に身を包んだ、ゴルヌイがいたんだ。
おいおい……なんでアイツだけ、鎧を着てんだよ……!?
俺だけじゃなく、観客たちも異変に気づいたようだ。
「おい……見ろよ、ゴルヌイ王子、何か変じゃねぇか?」
「変って、なにが?」
「タキシードにしちゃ、角ばってるっていうか、ごっついっていうか、着ぶくれしてるっていうか……」
「バカだなぁ、ゴルヌイ王子の筋肉のスゴさを知らねぇのかよ!」
「そうそう、あのくらいは角ばるし、着ぶくれするって!」
「そうかなぁ……質感も何か変じゃねぇか? 布っていうより、金属みたいだぞ?」
「バカだなぁ、よく見ろって! ゴルヌイ王子の筋肉はハガネみてぇだから、ああなるんだって!」
「それに、ちゃんとしたタキシードじゃねぇか、色をよく見てみろよ!」
「あっ、ほんどだ……ちゃんと蝶ネクタイもしてる……! ありゃ、タキシードだな……!」
俺は観客のアホさ加減に、頭を抱えそうになった。が、寸前でこらえる。
たしかに……ゴルヌイの着てる鎧は、タキシードみたいな塗装がされてるが……でも、どう見たって全身鎧だろ! 体型がレゴの人形みてぇに不自然じゃねぇか!
それとも何か? タキシード柄だったら、何着てもいいっていうルールなのか!?
『この結闘の儀の勝者は、王女を娶ると同時に……次期国王の権利も得られます! つまりこの戦いは、この国の将来を決める、聖戦……! 果たして勝者となるのは、正当なる後継者のゴルヌイ王子か……それとも馬の骨のタクミクンか……さあっ、間もなく、審判の時……! 決勝のゴングですっ!!』
……ゴォォォォーーーーーーーーーンッ!!!
この、わざとらしい鐘の音を聞くのも、これで最後か……。
なんて思っていると、
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
もはや鎧であることを隠そうともしない、ガシャンガシャンというけたたましい金属音とともに、ゴルヌイが突っ込んでくる。
そのまま俺の首を、乱暴にわし掴みにし……ニワトリでもシメるみたいに吊り上げてきやがった……!
これは……ネック・ハンギング・ツリー……!?
『おおーっと、これは! ゴルヌイ王子の必殺技、真綿の絞首台……! これを受けた者は、まるで真綿で首を締められるかのように、じっくりと絞殺されていくのです!』
俺がまともに攻撃を受けるのは、この大会では初めてのこと。
観客共は、スタンディング・オベーションで盛り上がっている。
「やっ……やったぁぁぁぁぁぁっ! ゴルヌイ様の必殺技が、キマったぜぇっ……!」
「あの真綿の絞首台をタクミクンにかけるなんて、最高の決勝戦じゃねぇか……!」
「なあ、真綿の絞首台って、どんな技なんだ!?」
「なんだよお前、知らねぇのか? ああやって相手を首吊り状態にするんだよ! でも首吊りみたいにすぐには死なねぇ、じわじわとなぶり殺しにされるんだ!」
「やられたヤツは、三十分以上かけて、もがき苦しみながら死んでいく……! 足をバタつかせて暴れて、命乞いして、泣きわめいて……最後には、クソとションベンを漏らしながら、最高にみっともねぇ姿で、死んでいくんだぜ……!」
「そりゃ傑作だ! あのタクミクンが命乞いして、クソを漏らす様が、見れるのか……!」
「ああ! きっと見ている俺たちの鬱憤を晴らすために、やってくれたんだぜ! さすがはゴルヌイ王子だぜ!」
「やっぱり、この国の次期国王は、ゴルヌイ様しかいねぇ! 最高だぜっ、ゴルヌイ様っ……!」
観客たちはすでにゴルヌイの勝利を確信したのか、ゴルヌイコール一色だ。
「グフフ……! 聞こえるか、この声が……! 貴様を倒して俺様は英雄となり……貴様は国民全員を敵に回した大悪人として、死んでいくのだ……!」
フルフェイスのカブトの間から、ゴルヌイの声が聞こえた。
「ううっ……ぜんぶ……お前が仕組んだことだったんだな……!」
「フン、どうせこのまま死ぬんだ……教えてやってもいいだろう。たしかにすべての黒幕は、この俺様だ。ウェナーに命令して、夜這いの濡れ衣を着せ……貴様が負けるように、設備に仕掛けをし……決勝で貴様が動けなくなるよう、毒を盛った……。ぜんぶ……ぜんぶ俺様の指示だ」
「な……なぁ……」
「……ああん、なんだ?」
「たのむ……もうちょっと大きな声で喋ってくれ……歓声がうるさくて聞こえねぇよ……」
俺は、震える声で懇願する。
「しょうがねぇなぁ……! よく聞いとけよ! たしかにすべての黒幕は、この俺様だっ!」
「……え? もっと、もっと大きい声で、言ってくれ……俺は、これで最後なんだろう? だったらしっかりと、真実を知って、死んでいきたいんだ……! たのむ……!」
俺は、さらに力を込めて頼み込む。
「ああっ!! もう!! これでいいかっ!?」
「も……もうひと声……!」
「こ・れ・で・い・い・かっ!?!?!?」
「あ……そのくらい……そのくらいで頼む……で、何だって?」
ゴルヌイは、すぅーっと息を吸い込んだあと……ありったけの声で叫んだ。
『俺様だっ!!! ぜんぶ俺様の仕業だっ……!!! ウェナーに命令して、夜這いの濡れ衣を着せたのも!!! 大会中、貴様が負けるように仕組んだのも……!!! 決勝で貴様に毒を盛ったのも、ぜんぶぜんぶ、俺様の仕業だぁぁぁぁぁぁーーーっ!!! グワァーッハッハッハッハッハーッ!!! どうだ、絶望したかぁーーー!?!?!?』
しんと静まり返る、場内。
『あ……あれ? なんで俺様の声が……こんなに響いて聞こえるんだ……?』
鉄兜をキョロキョロさせて、あたりを見回すゴルヌイ。
『……コイツだよ』
続けざまに、俺の声が場内にこだまする。
ハッと俺のほうを見るゴルヌイ。
『そっ……それは……! 拡声棒……!?』
『そうだ。決勝前のインタビューで、ドサクサにまぎれてリンディからちょっと借りたんだ。ズボンのポケットにしのばせておいて……お前が俺の首絞めに夢中になってるスキに、取り出させてもらった』
『なっ……なにいっ!?』
拡声棒の精度はかなりのもので……ゴルヌイが息を呑む声すらも克明に広い、お茶の間に届けていた。
次回、決闘の儀、決着…!
それと新作小説を掲載いたしました。
本作がお好きな方でしたら、同じく楽しんでいただけると思います。
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