25 結闘の儀、準決勝…vs戦闘馬車チャリオット
準決勝の戦いに赴いた俺は、またしても開幕早々ピンチに陥っていた。
『おおーっとぉぉぉ!? タクミクン、準決勝の戦いが始まって早々、トラブルに見舞われました! タクミクンの乗るチャリオットのサイドボードが、壊れてしまいましたぁーっ!!』
準決勝は『戦闘馬車戦』。
戦闘馬車と呼ばれる戦闘用の馬車を駆って、対戦相手と騎乗戦を行うというものだ。
戦いは一対一ではなく、双方に襲いかかってくる兵士たちが混ざり、同じくチャリオットで走り回る。
ようは盛り上げ役ってヤツだ。
その敵だらけのバトルが開始して間もなく、なぜか俺が騎乗するチャリオットだけが壊れちまった。
サイドボード……馬が牽引している立ち乗りする場所が、コントみたいにバラバラになっちまったんだ。
馬はそのまま、俺を置き去りにして走り去ってしまった。
追いかける間もなく、そのまま騎兵どもに取り囲まれちまって……それがいまの俺の状況だ。
俺は、港で暴走族に絡まれた善良な市民みたいに、闘技場のど真ん中でポツンと立ち尽くしていた。
360度、全方位チャリオットだらけ。
やかましい蹄と車輪の音、そして砂埃を無遠慮にあげて走り回っている。
モヒカンと鋲のついた革ジャンが似合いそうな、ガラの悪そうな面々が俺の前を巡る。
どいつもこいつも、俺を睨みつけてやがる。
ああ……いったいどうすりゃいいんだ……コレ……?
完全に囲まれちまってるじゃねぇか……。
あっ、そういえば……混ざってる雑魚どもはなんで、俺の対戦相手を攻撃しねえんだ?
対戦相手とグルになってるみてぇに、俺だけを狙ってるじゃねぇか……!
まさか……前の戦いみてぇに、寝返っちまったってのか……!?
「ハーッハッハー! この騎馬隊長ラモリスの、華麗で優美なるキツネ借りをお見せしよう! 今日のキツネは、平地族の少年か! クーレ王女よ、この痩せ細ったキツネの命を、あなたに捧げようっ!」
対戦相手であるラモリスは、俺のまわりをグルグル回りながら、やけに芝居がかった声で叫んでいる。
どうでもいいことだが、あのラモリス……ダリスの男のなかでは優男というか、色男に分類されるタイプらしい。
対戦前の紹介のときに、実況が言っていた。
といっても……俺に言わせりゃ、他の高原族のヤツらとたいして変わりねぇんだけどな。
他のヤツらを健康なゴリラだとしたら……ヤツは病気のゴリラだ。そのくらいの違いしかねぇ。
毛皮みたいにモコモコした肩当て着けていて、例によって上半身は裸。
身体は心持ちだが、細マッチョな気がしないでもない。
そんなナリしてて、しきりにVIP席のクーレ先生に投げキッスしてるもんだから……変態ストーカーにしか見えねぇ。
俺がウエッと胸焼けを感じていると、メリーゴーラウンドに乗っているみてぇに高速回転してるラモリスと目が会った。
「狡猾なやり方で、我ら高原族の命を奪ってきたキツネよ……! だが、この私には通用せぬことを、思い知るがいい……! さあっ、いまこそ引導を渡してやるっ! ……皆の者、かかれいっ!!」
サイドボードの上でひとり演劇をしながら、俺に向かって手をバッとかざすラモリス。
俺、この闘技場ではクーレ先生に従って、誰も殺しちゃいねぇはずなんだけど……。
「ヒャアーッハァーッ!」
なんてことを考えていたら、背後から雄叫びがしたので、咄嗟にしゃがんでかわす。
釘バットみたいな棍棒が、俺の頭頂をかすめていき、馬車が通り過ぎていく。
……こういう時の雑魚って、なんで襲いかかるときに大声出すんだろうね?
おかげで避けやすくて助かるけど……。
でも、今回はチャリオットに乗ったヤツらが相手。
いままで経験したことのねぇ戦いだから、油断は禁物だ。
俺は奇襲を警戒しながら、すべてのものが遅く見える『バレットタイム』のツボを押す。
途端、高速巡航している馬車たちが……子供の三輪車以下の速度まで落ちる。
「ヒィーヤァーッハァーッ……!」
俺を轢こうと突っ込んでくるヤツ、サイドボードから身を乗り出し、俺の頭をホームランしようとするヤツ……。
狩りをするオオカミの群れのように、波状攻撃をしかけてくるチャリオット軍団。
俺を完全にキツネと見なしているようで、逃げ惑う動物を追い立てているかのようだった。
……まぁ、そう思い込むのはお前らの勝手だ。
俺がキツネというのも、百歩譲ってヨシとしよう。
だが、ひとつだけ勘違いしていることがある。
お前らは、俺を狩るオオカミなんかじゃねぇ……!
俺に狩られるウサギだってことだ……!
「死ぃねぇぇぇぇぇぇぇぇ……!」
スローモーな動きでヤリが飛んでくる。
俺は頭ひとつ分かわしながら、逸れたヤリをガッと掴んだ。
敵はヤリをしっかり掴んで離さない。だから俺は引っ張られる形になる。
その勢いを利用して、俺はヤリ持ち野郎のチャリオットに乗り込んだ。
「ちょっと借りるぜ!」
背後からツボを突いて、眠らせる。
よし、これでチャリオット、ゲットだぜ……! と思っていたら、
『あああっ!? タクミクンが奪ったチャリオットが……またしても四散してしまいましたっ! 馬だけが走り去っていきます! なんたる不運でしょうかっ!?』
え……ええ~っ。
偶然にしちゃ、できすぎだろ……。
俺は思い出していた。
ひとつ前の指揮官戦において、敵の攻撃と示し合わせたように扉が閉まったことを。
……もしかして遠隔操作で、チャリオットを使用不能にできんのか?
俺は試しにと、もう一台奪ってみたんだが……例によってすぐにパーツを撒き散らし、三度俺は置き去りにされてしまった。
「お、おい……タクミクンのチャリオットが、またバラバラになっちまったぞ……!?」
「三回連続って……なんてボロいチャリオットなんだ!」
「いやいやいや、ダリスのチャリオットは、高原族が乗るんだぞ!?」
「そうか、頑丈さは全種族イチ……! 平地族のタクミクンじゃ、百人乗っても大丈夫なハズだ……!」
「でも現に、三台も続けてブッ壊れてるじゃねぇか! いくらなんでも変だろ!」
さすがに観客たちも、おかしいと思い始めたようだ。
いいぞ、と俺は、観客の誰かが不正を告発してくれることを期待したのだが、
「……タクミクンは運が悪いんだなぁ、きっと日頃の行いがよっぽど悪いんだろうぜ!」
「なるほどぉ~! アイツの立ちふるまいを見てると、実に納得いくぜ!」
「タクミクン! オメーが乗れるチャリオットはねぇんだとよ!」
……脳まで筋肉になってるヤツらに、期待した俺がバカだった。
しょうがねぇ、こうなったらチャリオットなしで……やるしかねぇっ!
俺は大盤振る舞いとばかりに、『ストライダー』のツボも刺激する。
そして地を蹴った。
マズルフラッシュのような砂煙をあげつつ、銃口から放たれた弾丸のように走り出す。
『タクミクンが走り出し……あっ……ええっ!? 走行中のチャリオットに追いつきましたっ!? ひとり……またひとりと、ノックダウンしていきます! 前の戦いで見せた、軽く触れる攻撃だけで、兵士たちは崩れ落ちていきますっ!! それにしても速い……! 速い速い速いっ……!!』
そう……『ストライダー』のツボは、脚力向上。
ジャンプ力だけじゃなくて、走る速度もあがるんだ。
『たしか平地族は……世界最速で、100メートルを10秒を切る速さで走ります! 魔法を使えばもっと速いですが、タクミクンはその魔法を使っているとしか思えない速さですっ!! でも魔法反応はありませんっ!? まさかタクミクンは、独力であの速さなんでしょうかっ!?』
「なっ……なんだありゃあっ!?」
「走ってる馬に、楽々追いついてるぞっ!?」
「や……やべえよアイツ! 馬より速いなんて、絶対ヤバいヤツだって!」
「さ……最初は、ちょこまかしてるだけの、逃げ足だけが取り柄のヤツだと思ってたのに……!」
「指一本で、この国最強の男たちを倒したり、盾をはじき飛ばしたり……それどころか、やぐらまで倒しちまった……!」
「それだけじゃねぇぞ! 10メートルもジャンプしたうえに、走って馬に追いつくんだぞっ!?」
「そんなことができるだなんて、ただの平地族じゃ……いや、ただの人間じゃねぇって!」
「アイツは俺たちの半分くらいの身体しかねぇのに……み、見てみろよっ! 俺たちと同じ高原族を追い回して、一方的にヤッてやがる……!」
「な、なんだよ……アイツはキツネじゃなかったのかよっ!? オオカミに狩られるだけのキツネじゃなかったのかよっ!!
『タクミクン選手は、縦横無尽と呼ぶに相応しいほどに……闘技場を駆け回っています! 兵士たちは必死に抵抗して、武器を振り回しています! ……おおっと!? そこに体当たりしてくるチャリオット! 自爆もいとわぬ捨て身のコンビネーション! でも、当たりません! タクミクンは霧のように消え去り、チャリオット同士が衝突してしまいました!』
「だ……ダメだ……! 全然、相手になってねぇ……!」
「肉弾戦なら、全種族最強の俺たちなのに……まるで、子供扱い……!」
「いくら攻撃しても、ぜんぶ幽霊みたいによけやがる……! カスリ傷ですらも負わせられないだなんて……!」
「でもアッチは軽く触っただけで、俺たちの仲間は情けなくノビちまうんだぞ……!?」
「何をやっても、何人がかりでかかっても……アイツはびくともしねぇ! テーブルに並べられた料理を食うみてぇに、一方的に捕食するのみ……!」
「ま……まるで……牧場のなかに入り込んだ、チーターみてぇだ……!」
「違う……! 器が違いすぎる……!」
『チャリオットの兵士たちは、タクミクンの手によって瞬く間に倒されてしまいました! 残るはひとり……ラモリス様だけです! バックスクリーンにアップになっている、ラモリス様をごらんください! ……ひいっ! 来るなバケモノっ! と死に物狂いで逃げております! 戦い前にあった余裕は、微塵も残っていないようです! あ……! そっちは壁……!』
俺が死神にでも見えていたのか、ラモリスは前方不注意のまま闘技場の隅のほうに突っ込んでいく。
結局ヤツは、どうなったかというと……マンガみたいに大の字になって、壁に埋まってしまった。
次回、ちょっとひと休み。




