14 決着のオールヌード
激しい稲光に包まれるシルエット。
眩しさのあまり、最初は直視できなかったが、ようやく目が慣れてきた。
そこには手を繋ぐ、黒ドレスの親子の姿が。
仲睦まじそうに見えるが、顔は邪神に取り憑かれたかのように凶悪そのもの。
その背後には……黄金に輝く、三つ首龍のオーラが立ちのぼっていた。
あれが……神獣憑依……!?
オーバーテクノロジーを手に入れたマッドサイエンティストのように、ペタリエは叫ぶ。
「コイツは、轟雷龍ドルディオン……! いまアタイの右手は、三つ首の右に……そしてロロリエの左手は、三つ首の左……そして繋いだ手は、三つ首の中央になっている!」
ペタリエが右手を掲げると、それに呼応して、黄金龍の右の首が吠えた。
……ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーンッ!!!
すべての臓物が揺さぶられるような、恐ろしい咆哮……!
ステージの鉄骨がビリビリと震え……俺の足元が、海の上のイカダのように大きく揺らいだ。
『キャァァァァァァァァァァァーーーッ!?!?』
恐れをなし、悲鳴をあげる観客。
仕掛けドミノの花火みたいに、中央から外側に向かってバタバタと倒れていく。
ステージ下の民衆たちの反応に、ペタリエは満足そうに頷く。
「ふむ……! これをやるのも、久しぶりだからねぇ……! ……ああっ……腕がなるよぉ……フンッ!!」
掲げた手をバッと広げると、龍の口から光線のようなブレスが放たれた。
遥か上空にある、ハイラウト王国城の尖塔が爆散し、広場に石つぶてが降り注ぐ。
どうやら攻城兵器ってのは、ダテじゃねぇ……すさまじい破壊力だ……!
ブレスの威力に、さらに満足そうに頷くペタリエ。
さて、と俺のほうを向いた。
「……ほう……! この神獣憑依の力を目の当たりにしても、立っていられるか……! それどころか、腹を空かせたオオカミみたいな眼をしているとは……! まさかこの龍が、ウサギかなにかに見えてるのかい……!? どうやら、身の程知らずの度胸だけはあるようだねぇ……!!」
嘲るような笑顔を浮かべながら、俺を見上げるペタリエとロリリエ。
視線は俺よりかなり下だが、態度はかなり上から目線だ。
でも……まとっている黄金のオーラは、彼女らをさらにゴージャスに飾り立てていて……悔しいことによく似合っている。
幼少時の叶姉妹がいたとしたら、こんなカンジかもしれない。
「さあ……平地族の少年……! スジリエの叔母であるアタイが、アンタの実力を確かめてやるよ……!! さあっ、かかってきなぁ!!」
かけ声とともに、一斉に俺に向かってもたげられる鎌首。
いよいよかと身構えようとしたが、
……ガシィィッッ!!
龍の首根っこが、背後から伸びてきた銀色の篭手によって掴まれた。
「……さ……させませんっ!」
声のした方を見ると……そこには手を繋ぐスジリエ、ツルリエの姿があった。
白銀のオーラをまとい、背後には鏡面のように磨きあげられた、美しい鎧を身にまとう龍が佇んでいる……!
「ほう……銀嶺龍アルゲントゥムを神獣憑依させたか……! ようやく、やる気になったようだな……!」
ペタリエ親子の興味は、ふたたびツルリエ親子のほうに戻ってしまった。
「姉さん……もう、許しませんっ!!」
「タクミ様のかわりに……わたくしたちが相手になりますっ!!」
怒りの形相もソックリの、ツルリエとスジリエ。
ペタリエは余裕たっぷりに応じる。
「フフ……本気か? 両国間の歴史において、神獣憑依した者どうしが戦ったことは、一度たりともない……!! 確実に、どちらかが死ぬことになる……!! それは長きにわたる姉妹国家の終焉を意味するのだぞ……!!」
「それは……わかっています……! ですから……神獣をおさめてください……!! わたくしはこんな形で、家族を失いたくない……!!」
祈るようなスジリエ。だがそれが、逆にペタリエの逆鱗に触れたようだ。
「……本音が出たなぁ!? いくら姉妹国家を謳っていても、自分たちのほうが上だという本音が……! 前々からずっと気に入らなかったんだよぉ!! せっかく全国民が見てんだ……本当はどっちが上か、ハッキリさせようじゃねぇかぁ!!」
ペタリエ親子は、ヘイトを完全にツルリエ親子に移しやがった。
いつの間にか話題も変わっちまってるし……。
対峙する黄金の龍と、白銀の龍。
それをすみっこで、やれやれと眺める俺。
「こうなった姉さんは、もう手がつけられない……! もう加減なしでいかなくては、こっちがやられてしまう……! 覚悟はいいですね!? スジリエ!!」
「はいっ、お母様!!」
あいているほうの手の指を絡み組み合わせ、振り上げるツルリエとスジリエ。
背後の龍は、スレッジハンマーを振り上げる。まるで隕石みたいに巨大で、ミラーボールみてぇにきらびやかな拳を。
「こっちも容赦しねぇぞぉ!! いくぜっ、ロロリエ!!」
「がってん! 母さま!!」
かたやペタリエとロロリエは、殴りかかるよう手をぐっと振りかぶる。
三つ首の龍たちの口に、稲妻のエネルギーがチャージされていく。
のっけから、お互い本気の一撃を叩き込むつもりだ。
さっきペタリエが軽くやっただけで、城の尖塔が消し飛んだんだ。
それなのに、二体まで増えた神獣が、同時に全力を出したりしたら……この岩山自体が消し飛んじまうんじゃねぇか……!?
俺の心配をよそに、ついに振りおろされる強大なる力。
塔が倒れるような地響きとともに叩きつけられる、アルゲントゥムの一撃……!!
放出されたダムの水のように押し寄せる、ドルディオンの極太レーザー……!!
これが、今生最後の光景になると、誰もが思っていたはずだ……!!
この国の誰もが……観衆だけでなく、天空真写で遠方から見ていた者たちですら、耳を塞ぎ、胎児のように丸まっていたはずだ……!!
しかし……王国最後の瞬間は、訪れなかった。
なぜなら俺が、姉妹ゲンカのど真ん中に入って、攻撃を遮断していたからだ。
俺は、左手でアルゲントゥムのパンチを、右手でドルディオンのブレスを受け止める。
片方が物理攻撃で、もう片方が魔法攻撃で助かった……と内心ホッとしながら。
ステージの上の光景に、誰もが釘付けになっていたが、誰もが言葉を失っていた。
観客はもちろんのこと、さっきまでイキっていた姉妹までも。
しょうがないので、俺が沈黙を破る。
「おいおい……勝手に始めんなよ……これは、俺の戴冠式じゃなかったのか?」
しかし理解が追いついていないのか、まるで時間を止めたように皆固まったままだ。
ひとりで喋って、誰も相手にしてくれないなんて……なんだかバカみてぇじゃねぇか。
俺は、やれやれ……と頭を掻きながら、テクテクとスジリエのほうに歩いていく。
スジリエとロロリエは何か言おうとしているのだが、言葉にならず、酸素が足りない魚みたいに口をパクパクさせている。
俺は立てた人さし指を、スジリエの肩口に当て……ウエディングドレスをなぞるように、ピッと斜め下に動かした。
「これでよし、っと」
すると背後から、震え声がした。
「……ば……ばかなっ!? ドルディオンのブレスと、アルゲントゥムの拳を……同時に……しかも……片手で軽々と受け止めるなんて……!?」
振り向くと、夜中の猫みたいに瞳孔が開きっぱなしのペタリエ親子の姿が。
さっきまでの邪悪な顔はどこへやら、面白いほどにうろたえている。
「か……母さま! これはきっと夢だよ! ほっぺをつねれば覚めるって!」
「そっ、そうだな……! いくぞ、せぇーの!」
「「いたたたたたたた!」」
お互いの頬を引っ張りあって、痛がりあっている。
こうして見ると、なんだか憎めねぇヤツらだな。
「ゆ……夢じゃ……ないよ……母さまっ!?」
「じゃあ、現実なんじゃねぇーか!」
「な……なら、アイツをやっつけなきゃ! 母さま!」
「そ、そうだ……! そうだったな! や……やれっ! ドルディオン!!」
急に我に返ったバカ親子は、黄金龍のブレスを俺に向かって乱射しはじめた。
警官隊に追い詰められた銀行強盗が、最後のあがきで闇雲に銃をブッ放してるみてぇだ。
「おっ……!? おいおい! 後ろに俺の嫁がいるってのに、撃ってくるんじゃねぇーよっ!!」
俺は地を蹴って、一気にバカ親子に詰め寄る。稲妻は手で払いのけ、空に返してやった。
そしてスジリエにしたように、人さし指で黒いドレスの肩口に触れる。
一拍おいてから、
……バンッ! バンッ!!
爆音とともに、黒いドレスが弾けた。
下着までふくめて全ての衣服が粉々になり、風に吹かれた花びらのように散っていく。
親子というより、幼い姉妹みたいな……ぺたん、つるんとした裸体が白日の元に晒される。
「な……なに……!?」
幼い姉妹は、また夢の中に引き戻されたような表情を浮かべている。
棒立ちになったまま、大事なところを隠そうともしない。
「……悪いな、親戚の叔母さん……秘奥義があるのは、アンタらだけじゃないんだ」
……『ディスクロース』。服を破壊するという、俺の秘奥義だ。
まぁ、秘奥義ってほどじゃねぇか……隠し技みたいなもんだな。
繊維にも、人体と同じように『ツボ』が存在している……そこを突いてやれば、力を入れずともバラバラにすることができるんだ。
服を破くだなんて、ただの暴漢魔でしかねぇから……使うこともねぇだろうと思ってたんだが、まさか役に立つ時がくるだなんてな。
バンッ! バンッ! ……バンッ!!
俺の背後で、追加の爆音がする。
スジリエのやつは、時間差にしておいたんだ。
破れた瞬間に、俺の上着を被せてやろうと思ってたんだが……間に合わなかったようだ。
でも……音が三つ?
不思議に思って振り向くと、そこには……剥きたてのゆで卵みたいな裸体を晒す、スジリエとツルリエがいた。
そしてついでのように裸に剥かれた、ピッツボーの姿もあった。
次回、たぶんスジリエ編が終わります。




