02 ツンデレ美少女と連れション
「おしっこ……したくなっちゃった……」
子供みたいに尿意を訴え続けてくるシャラール。
さっきから『キス……したくなっちゃった……』みたいに言うんじゃねぇよ、ドキッとするじゃねぇか、と俺は思っていた。
普段だったら絶対そんな宣言をしないヤツなのだが、今は別だ。
なんたって、俺とヤツの手はいま、まる一日は絶対に剥がれないという接着剤でくっついてるんだからな……!
でもトイレくらい、くっつける前から想定しとけよ……!
人のことさんざんFランクだ何だってバカにしてるくせに……どうしようもない間抜けじゃねぇか……!
「……剥がし液とかないのか?」
俺の腕の中で、チワワみたいにプルプル震えているシャラールに尋ねると、
「そ……存在はしてるみたいだけど……使うことなんて今までなかったから、アタシは持ってない……」
消沈しきった返事がかえってきた。
「それじゃ、しょうがねぇなぁ……そのへんでするか?」
すると、キッと眉毛を吊り上げて、
「バッカじゃないの、犬じゃあるまいし!! アタシみたいな高貴な人間がそんなことできるわけないでしょ!!」
烈火の如く怒鳴られてしまった。
「うーん、じゃあ、急いで学園まで戻るか? たいして距離は変わらんから、街まで行くのでもいいが……。どっちにしろ、走っても2時間はかかるぞ」
「そんなに待てるわけ、ないっ……! も、もう……漏れ……ちゃうぅ……!」
切羽詰まった声を、なんとか絞り出すシャラール。
赤かった顔が真っ青になり、とうとう冬山にいるみたいにガクガク震えだした。
どうやら、かなりヤバいところまで来ているらしい。
……実を言うと、尿意を抑えるツボはあるんだ。
それを押してやれば、2時間くらいなら全然我慢できるようになるんだが……でも、押してやらない。
高飛車なコイツには、ちょうどいいお灸になると思ったからだ。
「……やれやれ、しょうがねぇなぁ」
俺は腰に回した手で、シャラールを小脇に抱えあげる。
そして道の外れにある茂みに分け入っていく。
「ちょ、ど、どこに連れてく気っ!? 離せっ! 離しなさいっ!!」
シャラールは身体をよじって暴れているが、尿意のせいか抵抗も弱い。
俺はあっさりと、絶世の美少女を人気のない所に連れ込むことができた。
「よし、ここまで来たら、誰も来ねぇだろ」
「な……なにするつもりよ……!? アタシにこんなことして、タダですむと……きゃうんっ!?」
俺は抗議もかまわず、お嬢様の身体をぐいと押してしゃがみこませる。
手がくっついているので、俺から後ろ手を極められているような格好で押さえつけられてしまうシャラール。
「後ろ向いててやっから、さっさとしろ。そんなに激しい尿意なんだったら、どのみち途中ですることになるんだから、下手な我慢はやめるんだな」
「い、嫌よそんなのっ!! 絶対イヤッ!! Fランクのアンタがいる前でなんて、死んだほうがマシよっ!!」
「……なんと言われようと、俺はこのまんまだぞ。それともこのまま漏らすか? そんな姿をFランクに見られるほうが、よっぽど屈辱的だろ。……まぁ、俺はどっちでもいいがな」
突き放すように言ってやって、ようやくシャラールは自分の置かれた状況を認識したようだ。
しばらくウーウー唸っていたが、ようやく観念したのか、
「うっ……ぐぅぅぅぅぅ~っ!! ぜ、絶対、絶対こっち向くんじゃないわよっ!? ちょっとでも見たら頭を撃ち抜くからね!!」
精一杯の捨て台詞とともに、身体をもぞもぞと動かしはじめる。
俺はとっさに顔をそらし、道のある方を向いた。
もし誰かが来るようなことがあったら、追っ払ってやるつもりでいたが……こんな山間の道はずれに、わざわざ来るヤツなど誰もいねぇ。
藪の向こうにある道から時折、蹄と荷車の音が通り過ぎていくだけだ。
「ん……」
不意に背後から、いきむような声が聞こえた。
そして、水が流れるような音が続く。それも、かなりの勢いのあるやつ。
いままでは無心だったんだが、その音で、俺は背後で起こっていることを急に意識してしまい……脈が乱れる思いだった。
だ……だめだ……! 考えちゃだめだ……!
学園でもトップクラスの美少女が、あられもない格好で、している姿なんて……!
俺は別に、そんな趣味ねぇだろ……!
でも、なんでこんなにドキドキしちまうんだ……!?
「ん……ぅ……早く……終わって……!」
水音に混ざって、祈るような声がする。
いつも強気のアイツからは想像もつかない、しおらしい声……!
心細いのか、繋がっている俺の手が、きゅっ、と握りしめられて……俺はギューンと突き上がってくる衝動を抑えるのに必死だった。
や……ヤベえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?
落ち着け、落ち着け俺……っ!!
こういうときは、他のことを考えるんだ……!
えーっと、素数を考えればいいんだっけ……!?
2・4・6・8・10……ってこれは偶数じゃねーか!
3.14159265……ってこれは円周率!!
心の中でひとりツッコミをしていると、
「……終わった」
背後から声がして、俺は心臓が口から飛び出しそうなほどビックリしてしまった。
「あぁっ!? ……あ、ああ……終わったか」
俺は後ろを向いたまま、押さえつけていた手をゆるめ、立ち上がらせてやる。
もう大丈夫かなと思って振り向くと、ドッ、と体当たりされた。
隠すかのように、俺の胸に顔を埋めるシャラール。
コイツは森林族で、特徴的な長い耳が横に飛び出してるから……顔を隠したところで、だいたい感情がわかる。
叱られた犬みたいにしおれた耳は、湯気が出そうなほど赤くなっている。
きっと、かなり不安で恥ずかしかったんだろう。
俺はポン、とシャラールの頭に手を置く。
「……手荒な真似して悪かったな。でもそうでもしないとお前、身体を壊しちまいそうだったから……」
「うわああああああああああああああーーーーーーーーんっ!!」
俺の慰めは、堰を切ったような号泣に遮られる。
「ばかっ! ばかっ! ばかっ! 死ぬほど恥ずかしかったんだからあっ!! ぐわあああぁぁぁぁぁぁーーーんっ!!」
シャラールは俺をぽかぽか殴りながら、泣き叫びはじめた。
「解決するならもっとスマートにやんなさいよっ!! ダメ男! クズ男! 役立たずっ!! ふんぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーんっ!!」
……コイツは、学園では強気で冷静なキャラで通っている。
でもなぜか、俺とふたりっきりでやりとりしてるときは、別人みたいに感情の起伏が激しい。
強気なのは同じなんだが、急にキレだしてとんでもないことをするし、かと思うと駄々っ子みたいに大声で泣き出したりするんだ。
「そんなだからアンタは万年Fランクなのよっ!! うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーんっ!!!」
こうなるともう、いくら言葉でなだめても収まらないので……俺は最終手段に出る。
掴んでいるシャラールの腰をぐっと引いて、俺の胸から引き剥がす。
壊れた蛇口みたいに涙と鼻水を垂れ流している顔、アゴからつたって豊かな胸にボタボタと垂れている。
俺は、汗と涙で透けはじめているブラウスに手を伸ばし、手早くボタンを外してく。
今日は水色のブラか、と気を取られそうになったけど、振り払って指を差し込む。
マシュマロに指を突き立てたような感覚とともに、俺のひとさし指は少女らしからぬ大きさの胸に沈んでいく。
「……ひうぅんっ!?」
おしゃぶりを咥えさせられた赤ん坊のように、ピタリと止む泣き声。
指圧師である俺の、本領発揮の瞬間。
『チル・アウト』……胸の間にある、膻中のツボ。そこを押すと、落ち着かせることができるんだ。
グリグリと指を押し込んで刺激してやると、ブラに包まれた胸がぷにゅぷにゅ揺れた。
「はうっ……ふ……うぅん……」
そして少しずつ、強張っていた身体がほぐれていくのがわかる。
くったりとのけぞり、俺の腕に身体を預けてくるシャラール。
「……あ……ふぁ……アンタ……なんで当たり前みたいに……あんっ……アタシの胸に指……入れてんのよ……」
毒づいてはいるが、俺の手を振りほどこうとはしない。
こうなるともう、なすがままだ。
「お前を落ち着かせるためにやってるんだよ」
「……あふぅ……アタシの胸、平気で触ってるクセに……んふっ……女の子慣れしてないなんて……はあっ……ウソなんじゃないの……? ……はっ!? はぁぁぁぁんっ……!」
シャラールの力の抜けきった背筋が再び緊張し、ゾクゾクと震えあがる。
しまった。ちょっと動揺しちまって、力加減を間違えちまった。
「な……何度も言ってるだろ、これは医療行為だって。女の子とかそういうのは、関係ねぇんだ」
俺は雑念を払うように、一心不乱に指をねじ込む。
再び肩の力が抜けたシャラールは顔を傾けて、濡れ光るまつ毛の瞳で俺の顔を見つめた。
「……別に……アタシはいい……よ、女の子として触られても……」
「ばっ……バカなこと言うな!」
俺の、医療行為を言い訳にした理性バリアがパリーンと割れる。
その瞬間、指ごしにシャラールの女の部分を感じとってしまい……俺は慌てて指を抜いた。
次回はいよいよ、街で大暴れします。




