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俺の指圧がチートすぎる  作者: 佐藤謙羊
第1章 テロリストが来たから本気出す!
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12 ハーレム王のキス

「まっ、マジぃ!? ミューティ、マジでヤバくない……!?」



「『口移し』は本当に好きなヤツ……結婚相手以外にはやっちゃダメなんだぜ……!?」



「あっ、もしかしてこの人、ミューティちゃんの許嫁だったの……? でなきゃ、大変なことになっちゃうよ……!?」



 俺と、ミューティと呼ばれた女の子の口づけに、まわりの海棲族(マリネリア)の友人たちは騒然となっていた。

 まるで禁忌を破ったかのように責められていたが、ミューティは吹っ切れたかのように堂々としていた。



「ううん、この人のことは全然知らない。でも、ボクは(ちぎり)を結んでもいいと思ってる。だって、身体を張ってボクたちの命を助けてくれようとしてるんだよ? こんなに身体が熱いのに、何も言わずに炎の上を歩いて……! だからボクは、元気をあげたかったんだ!」



 驚いて顔を見合わせる女の子たち。ひとりが俺の首筋に手を当てた。



「……ほんとだ……身体が熱い……! こんなに熱かったら、死んじゃうよ……!?」



「そうだ……そうだよな、あたしたちだったらとっくの昔に焼け死んじゃうようなところを、コイツは歩いてくれてるんだ……!」



「わっ、私も……私も元気あげる!」



 俺の右肩に腰掛けていた女の子が、俺の頭をガッと抱える。

 上を向かされると、すぐ目の前にその子の顔があった。


 ちゅっ……と、空からキスが降ってくる。

 イチゴみたいに甘酸っぱいものが、彼女から俺へと移された。


 そのまま受け取ると、冷たくて気持ちいいものが喉を通過し、胃に落ちていく。

 ぷはっ、と口を離した途端、



「……決めた! あたしもやるぜっ! キスでも……結婚でもなんでも……!」



 続けざまに、左肩の女の子が覆いかぶさってくる。

 ちゅっ、ちゅっ……と唇に吸い付いついてくる、情熱的なキスを受ける。


 ひと呼吸のたびに、「んっ、んっ」とくぐもった声を漏らし、マスカットのような爽やかな風味のする水が、俺の口を満たした。


 ふぅ、と口を離すと、後ろから抱きすくめられ、



「どうか、受け取ってください……! んんっ!」



 おんぶしていた女の子が乗り出してきて、不器用な体勢で唇を重ねてきた。

 彼女は髪をかきあげながら、小鳥がついばむような遠慮がちなキスをする。


 ほんのりとした、でもコクのある桃の風味が口を満たす。

 フレンチキスのせいか口の端から溢れだし、俺の首筋を濡らした。


 ……そこからはもう、堰を切ったようになる。


 女の子たちはかわるがわる、時には奪いあうようにして、俺の唇を求めた。

 俺はされるがままになっていて、与えられた水は、全部飲み干した。


 ひと口飲み下すたびに、俺は炎の上を一歩進んだ。

 彼女たちのくれるものが即効性のエネルギーのように、俺の足を動かす原動力となった。


 周囲のざわめきが、どんどん大きくなっていくのがわかる。

 あと少しで、魔法陣の外なんだろう。


 もはや敵も味方もないようで、皆が俺の一挙手一投足に対し息を呑み、溜息をついている。



「な……なんなんだ、アイツ!?」



「女の子とキスしながら、炎の上を歩いてるぞ!?」



「とんでもねぇ……とんでもねぇヤツだ……!」



「ああっ、俺たちのアイドル、ミューティちゃんが、キスしてる……!」



「ミューティちゃんだけじゃねぇ、クラスの一番かわいい女の子たちを、独り占めしてる……!」



「女の子たちがあんなに喜んで、キスするなんて……! ありえねぇ……ありえねぇよ……!」



「まるで……ハーレム王じゃねぇか……!」



「き……貴様あああっ……!! いったい、何者なんだっ!?!?」



 ひときわ大きく響いた怒声に、桃源郷にいた俺の意識は引き戻される。

 いつのまにか魔法陣を抜けていて、テロリストたちの円陣ごしにいるボスと相対していた。


 気がつくと、俺の脚は焼き茄子みてぇになっていて、もう一歩も動くことはできなかった。

 もうじき『アドレナリン・オーバードーズ』の効果も切れることだろう。


 そうなると、地獄が待っている。その前に、決着をつけなきゃならねぇ。


 導火線に火のついた状態だったが、俺はそんなことはおくびにも出さず、余裕を持ってボスに言ってやった。



「俺が誰かなんて……んむっ。どうでもいいだろう……んぷ。それよりも……んっ。助け出したんだから、んんっ……。これでみんなは……んっ。解放されるんだよな……んふぅ」



 俺の言葉は、女の子たちにキスによって途切れ途切れとなる。

 その様があまりに大胆不敵に映ったのか、テロリストどもですら「すげえ……」と見とれる程だった。

 ボスは悔しそうに歯噛みをしている。



「ぬぐぐぐ……! 我が火炎魔法を踏みにじったうえに、その態度……!! 怒りましたぞぉ……! 我が怒髪天を衝く思いですぞぉ……!!」



 ボスはバッ、と両手をバンザイのように掲げると、



「火炎は耐えられたようだが、これはどうでしょうかなぁ……!?」



 右手と左手の間に、スタンガンのような青白い稲妻が走った。

 雷撃魔法かっ……!? 俺は女の子たちを降ろし、後ろにかばう。


 稲妻はどんどん太く、激しくなっていく。

 ボスは呪文の詠唱に夢中になっていたが、その背後から矢が襲いかかる。


 しめた、シャラールの援護射撃だ……! ナイス……! と思ったのだが、頭に刺さる直前で見えない壁によって弾き返されてしまった。



「「……なにっ……!?」」



 撃ったシャラールだけでなく、つい俺まで口に出してしまい……図らずともハモっちまった。



「フフフ……! そんな物理攻撃など、この大魔法使いには通用しませんぞぉ……!!」



 ボスは、後ろを見もせずに笑う。


 魔法使いの大敵といえば、詠唱の邪魔となる物理攻撃だ。

 さすがにボスだけあって、そのあたりの対策はしているらしい。


 俺が動揺しちまったせいで、テロリストたちは急に勢いを取り戻した。



「さ……さすがです、ボス!」



「最初から、あのガキのやることはお見通しだったんですね!?」



「ガキは火炎魔法には耐えられたかもしれねぇが、雷撃魔法は耐えられねぇハズだ!」



「あの生意気なガキを、黒焦げにしちゃってくだせぇ!」



「あれは、ボスお得意の『チェーン・ライトニング』だ! 人から人へと、伝播する稲妻……! あのガキだけじゃなくて、後ろにいるヤツらもみんな黒焦げになっちまうぞ!」



 俺の背後にいる女の子たちは、不安そうに俺の背中にすがっている。



「ね、ねぇ……逃げようよ!」



 ミューティが服の裾を、くいくいと引っ張ってきた。



「俺が逃げたら、後ろにいるヤツらが電撃を食らっちまう。だから、お前らだけ逃げろ」



 テロリストが説明していたように、本当に『チェーン・ライトニング』なのであれば、俺が逃げたらみんなやられちまう。

 それに、どのみち……今の俺は、一歩だって動けやしねぇんだ。


 しかし、ミューティはブンブンと首を左右に振った。



「そ、そんなこと、できるわけないじゃん!」



「……なんでできないんだよ?」



「だってキミはもう、ボクの特別な人なんだよ!? 名前も知らないけど、置いて逃げるだなんてできないよ!」



 ヒョーッ、と冷やかすような歓声がした。

 それがまた、ボスには気に入らなかったようだ。



「この大魔法を、無視するでないっ……!! この偉大なる雷を前にしてもなお、女人(にょにん)とイチャイチャするなど、気でも狂ったか……!! ……ならば、もろとも消し炭となれいっ!!!」



 ボスが両手を前にかざした瞬間、龍のように巨大な雷が放たれた。

 咆哮のような轟音とともに迫りくる。青白い極太レーザー……!


 俺は身構え、タイミングを見計らう。

 龍が俺に喰らいつこうと大口を開けた瞬間、右手で龍の頬をおもいっきりビンタしてやった。



 ゴアオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!?!?



 唸りとともに方向転換する雷龍。

 「なっ……!?」と絶句するボスの前で、身体をうねらせながら……部下たちに牙を剥く……!



「えっ……!?」「も、戻ってくるなんて……!?」「に……逃げ……!!」「ぎゃあああああああーっ!?!?」



 俺たちを全方位で囲んでいるテロリストたちに、電流のような筋が伝わっていく。

 悲鳴とともに、身体をブルブルと震わせるテロリストたち。

 完全に感電している者の反応だ。でも、鎖に縛られているみたいに動けずにいる。


 やがて身体が焼け焦げ、影に覆われるように全身が黒くなる。最後には炭となって、ボロボロと崩れ落ちた。

 火葬場のような嫌な匂いが、講堂じゅうに充満する。


 これが『チェーン・ライトニング』か……!

 目の当たりにした威力に、ちょっと背筋が寒くなる。


 そして、そんな恐ろしい魔法を弾き返してくれた、右手の相棒を見やった。


 青い魔法猫、『ディスペルシャ』のヒゲが織り込まれている右手袋。

 俺の左手は物理攻撃を受け止めることができるんだが、右手は魔法攻撃を受け止めたり、反射させたりすることができるんだ。



「ま、マジっ……!?」



「あんなすごい魔法を、跳ね返しちゃいました……!」



「それも、片手でやすやすと……!」



「こ、これ……夢じゃねぇよな……? イテテテテ!」



 背後の女の子たちは、キツネにつままれたようにしている。

 お互いの頬をつまんで、捻りあっていた。

次回、嫁ゲット!

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