96 首謀者
ローラはソフィアと共に生徒達がパニックに陥らない様にそれぞれに役割を持たせて余計な事を考えさせ無い様に行動に徹する様に促した。
そしてトーマスの戦いを背後から見ていた。自分との剣術の巧みさもそうであったが、今行われている石化魔法の威力は軍に所属していた彼女でさえ見た事のない威力だった。
『やはり彼は特別みたいね。しかもここにいるのは偶然じゃない。伯爵はこうなる事を想定してたみたいね』
ローラはトーマスが伯爵なのだろうと確信していた。どうやって生徒に扮しているのかは判らないが、女のカンというやつかも知れない。
『ああ、私、伯爵とお手合わせさせてもらったんだわ。こんなことならもっと試合をしておくべきだったわ』
トーマスとのデモンストレーションは時間にして僅かなものだったがローラにはつい先程の出来事の様に鮮明に記憶に残っていた。
だが、ローラがトーマスの正体に気付いていることは言わない事にした。出しゃばった真似をして伯爵に嫌われたくなかったからだ。
ソフィアにはそれとなく聞いてみる事にした。その程度なら大丈夫だろう。
トーマスはスライムを全て石化させたのだが、まだその顔には安堵は見られなかった。
スライムの後方に魔族の一団が視界に見えていたからだ。
『これは驚きましたね。私の芸術作品がこんな簡単に倒されてしまうなんて。いやはやお見事です』
『お前は!神楽元!!』
『おや?私の名前をご存知だとはまたもや驚きです。この様な少年にまで知られているとは』
『お前の事はすでに情報共有で周知されている。だが、どうやってこの大陸に現れた?』
『そうでしたか。てっきり隊長さんの身内の方かと警戒してしまいましたよ。この大陸に来る方法?簡単なことです。私は魔族ではありませんからね。北の海岸の結界など無意味な事です。私さえこちらに来る事が出来れば召喚なんてたやすい事』
トーマスは突然現れた神楽元に驚いたが奴なら他愛のない事だとも理解していた。悪い予感が的中したのだ。
『それにしても私の傑作であるバイオスライムをこう簡単に退けてしまったのは計算外でしたよ。大したものです』
『なぜこの生徒達を狙うんだ?他にもターゲットがあるだろう』
『なぜときましたか。わかりませんか?私達にメリットがあるからですよ』
『北の大陸の騒乱だな。ここには各国の要人の子息がいる。何かあればマキワへの責任追及となり国同士の争いにまで発展すると』
『ご名答です。頭の回転の速い少年ですね。嫌いじゃないですよ。あなたの様な人は。こちらにスカウトしたいくらいです』
トーマスと神楽元が会話している間にソフィアとローラがトーマスのところへ駆け寄ってきた。
『この方は敵なのですね?』
『ああ、こいつが神楽元だ。かなり不味い相手だ。生徒を至急避難させる必要がある。ソフィア、ローラと一緒に頼む』
『私がおいそれとあなた方が逃げるのを見過ごすと思っているのですか?バイオスライムは言わば挨拶代わりですよ。
私の作品はまだ温存しています。せっかくなのでご披露いたしましょう』
神楽元はそう言うと召喚の魔法陣を展開した。前回会った時には判らなかったが、どうやら召喚魔法が使えるらしい。奴の能力というよりも手に持っているスティックが発動装置の様だ。
魔法陣から現れたのはゴブリンだった。だが普通のゴブリンではなかった。
『ゴブリン・・・なのか?』
『半分正解です。正しくはメカゴブリンです。通常のゴブリンだと単体の戦闘能力はしれていますが、物量で攻めるスタイルです。
このメカゴブリンは単体でも優れた戦闘能力を備えています。しかもゴブリンなので量産が容易い。大量戦力としてうってつけという訳です』
『次から次へと厄介なものを作りやがって』
『褒め言葉として受け取っておきましょう。造り甲斐があるというものです。
ところで、こうやって悠長に話をしていてよろしいのですか?あちらでは生徒さんが必死にメカゴブリンにあながっている様ですが?』
トーマスと神楽元が話をしている間にも魔法陣からメカゴブリンが召喚され続け、逃げる間もなく生徒達に襲い掛かったいた。
メカゴブリンとは通常のゴブリンに金属パーツを融合させた個体で、単に表面が金属で覆われているだけでなく、何らかしらの装置により筋力も増強されている。厄介なのは要所が金属となっているため、剣などの刃物が通らず弾かれてしまうので倒すことが困難となっている。
生徒は必死に応戦するも防戦一方となっていた。
『メカゴブリンの能力はこんなもので終わりではありませんよ』
神楽元が合図を送るとメカゴブリンの背中から筒状の物が現れた。
それはトーマスの本体であるリュウの良く知る武器だった。
『まずい!!!みんな!!ゴブリンに気を付けろ!!砲撃されるぞ!!!』
トーマスは咄嗟に大声で周囲に回避を呼びかけた。
メカゴブリンがバズーカを放とうとしていたのだ。
そこら中でバズーカが放たれる爆音と着弾の爆発音が響いた。
生徒達は必死に逃げ惑うがバズーカの爆風に吹き飛ばされる生徒も多かった。
今の生徒の戦力では助かるためにはただ逃げるしかなかった。




