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武龍伝  作者: とみぃG
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92 戦いの後

模擬戦は赤軍の勝利だったが、赤軍の中で唯一勝利を喜べない者がいた。開幕と同時に敵陣に突進してまもなく返討ちに遭い特に戦果をあげることが出来なかったカルロスだ。


カルロスは勝利の余韻に浸っているチームの仲間達のところに駆け寄った。


『おい!お前達、何でリーダーの指示に従わない。お前達が来ていれば俺はやられずに済んだんだぞ!』


トーマスはヤレヤレと言った感じでカルロスの問いに応えようと思ったが、ヨシュアが先に返事を返した。


『カルロス、君は無謀過ぎる。作戦も何もあったもんじゃない』


『何を言う、あれも立派な作戦だ!一気に敵陣を切り崩すのは兵法にもある立派な戦術なのを知らないのか?』


どうやらカルロスは自分が正論だと譲らない気らしい。

今度はトーマスが答えた。


『確かに戦術にある戦い方だ。だが、あの戦術は兵の戦力が大幅に上回らなければ意味がないタダの自殺行為だ。


カルロス。君は死に急ぎたいのか?』


『そんは訳ないだろう!突然何を言う』


『これは模擬戦だが、実際の戦いを想定しているんだ。決してゲームなんかじゃない。

それを理解していたらあんな行動出来ない筈だ。命を粗末にしてるとしか思えないからな』


トーマスに指摘されて今まで気付いていなかったが、どこかでゲーム感覚でやっていたかも知れない。そう思うとヒートアップしていたのが急に冷めてきた。


『決断を迫られる時の行動力としてはカルロスの即行動はいい事だと思う。だが、一瞬の判断の誤りが部隊全員の命に関わるという事も事実だ。

だが、今回は初戦だ。次に活かせばいい。現実の戦いで死ねば次はないが今は違うからな。


それに決して俺達はカルロスに押し付けている訳じゃない。悩んだ時はみんなと相談して決めてもいいさ』


カルロスはトーマスの言葉に腹が立った。腹が立ったのは正論だったからだ。そして今までの自分の浅はかさに腹が立ったのだ。


『わかった。次から気を付ける・・・』


いつもの高慢なカルロスらしからぬ反応だった。だが、これで何かを掴んでくれたらいいとトーマスを演じるリュウは思った。


その後、昼食の時間となり食堂へと移動した。


アカデミーはローグ在住の生徒以外は他の国から来ているためほぼ全寮制となるため弁当持参者はいないので食堂で食事を採ることとなる。

最新建築の校舎には2つ食堂が用意されているが、今は生徒数が少ないため片方の食堂のみ使われている。


生徒は日替わりで用意されている料理の中から好きなものを選ぶ形式となっている。食事代も払う必要がなく、希望すればお替わりも出来るので育ち盛りの生徒にとっては有り難かった。


トーマスはいつもは一人で食事をしているのだが、今日はグループメンバーのカルロス以外が同席していた。


『今日の戦いはホントすごかったね。トーマス君は実戦の経験があるの?でなければあんなに的確に指示できないんじゃない?』


『それは俺も思った。状況判断と適切な行動は経験なくして出来るものではない』


カーラとヨシュアがトーマスの実力を認め、その能力は経験に基づくものと思ってトーマスに聞いた。


『そうだな。知っての通り、マキワは魔族との戦いを経験しているし、俺もその時に参戦してるからな。軍の所属ではなく、義勇軍としての参戦だったけど』


『やっぱりそうだったのね。でもそう聞くと私と同じくらいの年齢なのに大人に感じるわ。トーマスって苦労してるのね』


イスタスでは豪商の娘として何一つ苦労していなかったテレサだったのでトーマスが戦いに身を置いていたことが別世界の様に思われたのだが半面自分に無い物を持っていることに憧れに近い物を感じた。


『トーマス君はひょっとして魔法にも詳しかったりする?私はここに来てから魔法を本格的に使い出したのでまだ使いこなすというまでには至っていないのよね』


魔法を選択したカーラだが今まで生活魔法程度にしか使った事が無かったので戦闘に応用するのに手間取っていた。


『魔法は素質も影響するが、大半は練習に費やした時間と比例して上達するものだと思うぞ。カーラは皆がいない時にも一人で練習してるじゃないか。充分出来ているんじゃないかな。そんなに焦る必要はないさ』


『あら、カーラの事よく見てるのね。ちょっと妬けるかも』


テレサはからかい半分笑いながら茶化した。


『物事を観察することは大切だぞ?テレサも毎日弓の手入れをキチンと怠らずしてるだろ?ヨシュアも寝る前に素振りをしてるし、皆ちゃんと考えて行動してるじゃないか。日々の少しずつの積み重ねが後に大きなものとなって成果を出すものさ』


『素振りの事も知られていたのか。では聞くが、君から見てカルロスはどうなんだ?』


『一言で言うと不器用だな。カルロスも彼なりに考えていることは判るよ。でも相手に伝えるということが不得意なんだ。もう少しコミュニケーションがとれる様になればいい結果に結びつくんじゃないかな?勉強家で兵法書とかも愛読してるし』


トーマスはカルロスの言動には問題あるところも多々あるが、熱心で真面目な面もちゃんと見ていた。

彼は育った環境がある意味悪かっただけで努力家でもあった。


そして午後からも模擬戦が繰り広げられた。

このアカデミーでの訓練は期間こそ短いが生徒達にとっては非常に有意義な時間となり今後に役立つものとなった。


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