86 体験入学 基礎知識
ソフィアのクラス、Bクラスはまだ出来たての匂いのする校舎の教室へと移動した。マキワは常夏の国なので教室は空調で適正な温度管理が行われている。窓を開けたり、扇風機を回したりはしなくて済む様にここでも魔導具が使われていた。
これからのスケジュールは前半が基礎知識などの学科を中心に行い、最低限の知識が備わった後に実習を取り入れていく。-
後半は野外での模擬訓練となる。
クラスは5人一組の机の並びとなっており、4人が向い合わせでひと固まりと班長席が一人席で合わさる形だ。
各グループ班長を選ぶのだが、3組では相談することもなくカルロスが自分しかいないだろうと勝手に班長になっていた。
トーマス以外の他の3人も無駄に揉めたくないので不本意だったがカルロスに班長を任せた。
授業はソフィアがハンターの基礎に関するテキストを読むのと、その課題に対して何故なのか、どういう方法があるのかなどをグループで話し合うスタイルをとっている。
ハンターの歴史や今現在の活動状況、規模などを資料をもとに説明した。
『ハンターの活動をする上で危険な地域として決して足を踏み入れてはいけない箇所がいくつかあります。
一つは北の大陸の中心にある湖です。この湖には主と呼ばれる水竜が生息しています。湖に立ち入ればこの水竜に襲われてると言われています。湖を渡る事が出来れば各国への渡航がかなり楽になるのですが、残念ながら危険過ぎるので考えない方がいいでしょう。
二つ目が海です。この大陸の周辺には非常に流れの速い海流があります。船舶などはこの海流に飲み込まれてしまうため船を使っての航行は出来ません。この様な理由から北の大陸と南の大陸はそれぞれを往来できませんでしたが、もうすぐすればトンネルで大陸間を渡る事が出来るみたいです。
そして三つ目、これは何だと思います?』
『野盗の住処ですか?』
ソフィアの問い掛けにイスタスの豪商の娘テレサが答えた。
『そうですね。野盗の住処も大変危険ですね。ですが、残念ながら違います。
この大陸の西には魔の森という魔物の巣窟があります。そこへは決して立ち入ってはいけません。今で何百、何千もの人々が足を踏み入れて帰ってきませんでした』
『魔物なんて剣でぶった斬ってやればいいのさ。我家秘伝の宝刀なら他愛の無い事さ』
カルロスが得意げに宝刀の自慢話を始めた。
『ではカルロス、お前は魔物と対峙したことあるのだな?』
ガゼフ帝国将校の息子ヨシュアがカルロスに問い質した。
『残念ながら機会がなくてな。目の前に現れたら真っ二つにしてくれるものを』
『そういうのを大言壮語って言うんだな』
トーマスがボソッと呟いた。
『貴様!この俺様を侮辱する気か!』
どうやらカルロスのスイッチを入れてしまったらしい。
ソフィアはトーマスに向かって”何挑発してるんですか!”と目で合図を送っていた。
『簡単な話だ。言ったままの事を行動すればいい』
『ふん、お前の様な下等な奴が言う事自体身の程知らずというものだ』
やれやれとソフィアが間に入った。
『はいはい、ケンカしないの!誰が強いかなんてハンターに成れば嫌という程わかるわ。実力主義だから弱いと低いランクのままですしね。
皆さんはこのマキワが魔族に襲われた話は知っているでしょうか?
その際、魔族の軍勢は5万とも言われています。私達は実際に魔族と戦っていますが、決して侮れる相手ではないという事だけは事実です』
『5万もの数でですか?俄かに信じられません。私達の知らないところでそんな事が起こっていたなんて・・・』
テレサは今はじめて聞くその出来事に驚いた。
『はい、事実ですよ。私の家からも多くが出兵していましたから。恐らくマキワの殆どの武人はこの戦いに参加しています』
マキワの貴族の娘、カーラは自分達の出来事を事実だと伝えた。
『そうですね、丁度いい機会ですから魔物について少し話をしましょうか。今回の体験入学の教育範囲には入っていませんが、覚えておけば今後役に立つでしょう。
魔物とは通常の獣に魔力を帯びたものの事を指します。この中で人の意思を持っているものを魔族と呼んでいます。
魔族には様々な種類があります。
戦闘能力の低い順に、ゴブリン、コボルト、オーク、トロル、オーガ、ガーゴイル、デビル、デーモン、バンパイヤ等、その種類だけでも数百と言われています。
魔族は負の感情を基本としていて、聖(光)と逆の邪(闇)の属性を持っています。従って攻撃に有効なのは聖属性となります』
ソフィアの講義を皆、真剣に聞いていた。
魔族とは非現実的な存在としか思っていなかったが、先の戦闘で実際に戦った者の話はリアリティがあり、いつ自分達もその戦火の中戦うこととなるか判らない、そう思うとこの授業を愚かには出来ないと思ったからだ。




