81 ドワーフの里
ひとまず魔族達が戻ってくることはないだろう。リュウは神楽元が放った屍術でゾンビ化したドワーフを時間凍結で動きを止めていたのを解き、聖魔法で浄化した。
通常であれば浄化と同時に灰と化すのであるが、ドワーフは心臓が停止していたが、他の細胞は生きていたため完全治癒が間に合う状態だった。倒れてはいるが意識を失っている状態だった。
リュウはエリン達に連絡を取り、魔族が去った事を伝えてこちらに向かう様に指示した。
索敵のスキャンで村人は教会の地下室に隠れていることは掴んでいるのでそちらに向かった。
『もう大丈夫だ。魔族達は去ったぞ』
リュウは大声で周辺に聞こえる様に言い放った。
教会の祭壇の床の下からゴソゴソと音がして床が開いた。祭壇の床の下には地下に通じる階段があった。
出てきたのは年配のドワーフだった。
『魔族は本当にいなくなったのか?』
『ああ、今日のところはもう戻って来るはないと思う』
『そうか、助かったのか・・・申し遅れた。わしはこの村の村長をしておる者じゃ。お主がこの村を救ってくれたのか?』
『俺が退散させた訳じゃない。結果そうなったんだが、奴らは鉄鉱石を手に入れて引き上げたみたいだ』
『いずれにしても助かったのは事実だ。感謝する』
村長はドワーフの中で一番の老齢なのだろう。見た目はガッシリした体格だが、白髪と顔のシワで結構な歳だと判る。
『実は村のはずれで一人のドワーフが倒れていたので手当をしてある。もうじき戻ってくる筈です』
そう伝えるのと同時に遠くからエリン達が歩いてくる姿が目に入った。
『親父!無事だったか!?』
『おお!イワンお前だったのか、村はずれで倒れていたというのは』
『ああ、この人達に命を救われたんだ。本当にありがとう。
俺はこの村長の息子でイワンといいます』
リュウが助けたのは村長の息子だった。村長は既に老齢なので恐らく今は息子が村をまとめているのだろう。重要な人物の命を救えてリュウは良かったと思った。
『俺が見つけた時には出血が酷くて既に虫の息だった。治療が間に合ってよかった。魔族が使った武器は人を殺す事に特化した特殊な武器なんだ。あれで生き延びれたのはドワーフの持つ強靭な肉体のお蔭だろうな』
村長は息子の状態を見ていなかったが、他の仲間のやられ具合を見ていたので相当な傷を負っていたことは理解していた。
しかもリュウがその傷を治癒できる偉大な力の持ち主だと言う事も判った。
ひとまず、当面の無事を確認した村長は地下に隠れていた村民に安全を伝え地上に上がる様に指示した。
『まだしばらく慌ただしくしております。よければ我家でお話をお聞かせ下さいませんか。この村を救ってくれたあなた方をお客人として迎えたいと思います』
村長はリュウ達に恩があり、それを形で返したい様だった。
『ありがとうございます。元々こちらにはお願いがあって立ち寄る予定でした。それではお宅にてお話をさせていただきます。
ですが、その前に先程の戦闘で負傷した人達が巻き添えにならない様に避難させています。その人達を元の場所に移動させます』
リュウは村長の家に案内される前に先程退避させていた負傷者を空間転移で元の場所に戻した。
驚く事に、生命反応の無かった者も心肺停止はしてはいるのだが、器官や細胞は生きており、完全治癒の回復対象となり全員を蘇生させる事が出来た。
治療の様子を見守っていた村長だが、避難所から元の場所に転移で連れ戻された時には心肺停止で完全に死んでいると思われていた仲間達がリュウの術で蘇生されるのを見て信じられなかった。
単なる回復魔法程度では到底出来ない高度な術なのは見て判った。
『おお!神よ!我らにお慈悲を与えて下さいましたこと感謝いたします』
リュウが使ったのは仙術で神術と言えるものだったので無理はない。だが、その術の恩恵に授かる者は正に幸運と呼べるものだった。
施術が無事終わり、負傷者は一旦診療所に預けて経過観察とすることにした。
その後リュウ達はドワーフの里の村長の家に案内された。
ドワーフの家は山の斜面に洞窟の様な穴を掘って住居としている。出入り口を木で装飾し壁やドアを付けているので一見すると普通の建物の様に見えるが実は洞穴という具合だ。
このドワーフの里は人口が5千人程度だ。
一つの山一帯が里となっている。
ドワーフと言えば鍛治職という程、ドワーフと鍛治は縁の深い物だが、鍛治をするには特殊な高炉と排煙の設備が必要なため居住地域から離れたところに建っていた。
魔族の襲来でパニックに落ち入っていた村民達もようやく落ち着きを取り戻した。




